第46話 美味しいお菓子は如何?
新入生歓迎舞踏会は、パスできた。 四組以外のクラスの人達が、色々と噂をしてくれてた。 まぁ、雑音っちゃぁ雑音なんだけど、ちょっと頭にくるような事も、噂になってるよ。
曰く、男爵家の娘の癖に、御父様が手を回して、無理矢理、婚約者候補にねじ込んでもらった。
曰く、【処女宮】で色々とやらかして、アンネテーナ妃陛下と、サリュート殿下に説教喰らった。
曰く、身の程を知って、” 公 ” の場である、舞踏会には出席出来なくなった。
曰く、その内、泣いて婚約者候補辞退する。
ってね。 いや、辞退はしたんだよ、あの場でね。 握り潰されたけどもね。 御父様に御二方の考えを、お伝えしたら、思案気になって、そして、諦めた感じで頷かれたよ……。 どうも、御父様も説得されちゃってたみたいで、” 逃げられなくなった ” って、仰ってた。 あの御父様がよ? あの方達、マジ用意周到に準備してたんだ……ドンダケ準備したんだ?
お説教喰らったのは、まぁ、間違いないけど、内容は、覚悟を決めてくれって事だったし……。 違う目線で見たら、噂には成るわな……。 結論は違うけどね。 もう、眼中に御座いませんって感じで、まるっと無視してくれてますよ、上位貴族さん達とその取り巻きさん達。 あぁ、少数の方々は別ね。 その中でも、この方が……ねぇ……。
「ソフィア様! お時間御座いませんか? サロンでお茶致しましょうよ」
って、何かと誘って来るのよ、フローラ=フラン=バルゲル伯爵令嬢様がね。 いやさ、貴方は伯爵令嬢だよ? 男爵令嬢の私にそんな友達みたいに気安く声かけんのは……どうかと思うよ? 男爵家って下位貴族そのものなんだよね。 本来だったら、高位貴族の伯爵家以上の方々とは、お話だって出来ないんだよ……。 こんなに簡単にはね……。
なんで、この人は、そこん所、無視して寄って来るかなぁ……。 何が彼女の気になっている部分なのかなぁ。 目立たない様にしてるんだけどなぁ……。
「フローラ様、ご機嫌麗しく……」
「忙しかった? でも、息抜きも必要よ? さぁ、いらっしゃいな」
「は、はぁ……。 お供いたします」
強引だな、もう! まぁ、魔法の授業でちょっと疲れてたから、いいか。 甘いモノ欲しかったしね。 クラスメイトから、” ご愁傷様~~~ ” の視線が贈られてくる。 あぁ! 私の安住の地から、拉致られる~~。 今日は、ドミニクが、ララフォード男爵家の秘蔵のレシピで作られた、パウンドケーキをもって来てるって言ってのに~~~。
” 残しといてよ!! ”
” あ~ ハイハイ、そっちの御茶会頑張って! 残せれば、残しとく! ”
視線で、ドロテアと交信したよ……。 あいつら、ぜってい全部喰うな……。 アレ、本当に美味しいんだもの。 ち、畜生!! わたしゃ、これから、針の筵に座りに行くだ!! ちっとは、労わりやがれ!!
にこやかに手を振って、クラスメイト達は連れだって去って行ったよ……。
「ソフィア様は、人気者なのですね」
「同窓のお嬢様方には、良くして貰っております。 感謝ですわ」
「貴女が頑張ってらっしゃるから。 いいわね、四組は……」
「???」
「こちらの組は、いつもギスギスしてるから、羨ましいわ」
「えっ? ギスギス?」
「そうよ、知らなかったの? 礼儀を知らない子達がね……。 門閥家の方々だって……。 わたくしなど、此方の方では、片隅追いやられているわ……。 同じような方々もいらっしゃるだけども……」
なんでか、ちょっと、来るものがあるね。 なんだ、この感じ? 強いて言うなら、いじめられっ子からの相談受けてる? そんな感じ……。 何が起こっているんだ? 波乱を含んだ彼女の言葉に、鳥肌が立ったよ……。 また、要らん事に巻き込まれそうなのか、私?
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彼女のサロン……。 人、少なっ! 取り巻きの人達、何処いっちゃんだ? で、居るのは……、 あぁ、このメンツ……。 そういう事か……。
そこに居たのはね、
ダグラス殿下の筆頭婚約者候補であらせられる
ソーニア=エレクトア=マジェスタ 公爵令嬢
エルヴィン=ヨーゼフ=エルグラント子爵の婚約者
アマリリス=ローザ=カトラス 侯爵令嬢
マクレガー=エイダス=レクサス子爵の婚約者
フローラ=フラン=バルゲル 伯爵令嬢
マーリン=アレクサス=アルファード子爵の婚約者
フリュニエ=リリー=フォールション 伯爵令嬢
宮廷魔術師 古代魔術科筆頭 ミデルナル=ラーク=フィランギ侯爵の御令嬢
キャメリア=デイジナ=フィランギ 侯爵令嬢
もう一人。 記憶の中で名前が浮かび上がる、柔らかな笑みを湛えている令嬢。
クラベジーナ=ナスシズ=ファルクス 伯爵令嬢
この六人だけだったよ。 そうさ、この人達に共通点……。 「君と何時までも」のダグラス王子の攻略対象者達ね。 うわぁぁぁ……。 どんだけ、厄介な人達に目を付けられてんだ、私。 フローラ様と、フェルニエ様、キャメリア様には、それとなく繋がりは有ったけど、あとの三人に面識は無いよ、この世界ではね。 知ってるのは、ゲーム画面の中での話さ。
「君と何時までも」の中でのソフィアが、悪意から、色々と掻き混ぜて、偽情報とか、罠を張り巡らせて、相互不信を植え付けていった人たちだもの…… ダグラス王子を中心とするハーレム形成で、「ソフィア」の企みがバレるんだけどね。 いや、凄いメンツを集められたもんだ……。
特に、クラベジーナさん。
この人、たしか、めちゃめちゃ内気で、ダグラス王子でプレイした時、出会いのフラグが判んなくて、サイトで攻略ルート探ったくらいなんだよ……。 深窓の令嬢ってそんな箱入り娘さんの設定だよね、表向きは……。
でも、ファルクス伯爵家ってね、王宮内では、穏然とした力をお持ちなのよ。 優れた侍女たちを輩出する家系で、傍系の方々も、多数王宮侍女を拝命されているわ。 その情報網たるや、御父様も一目を置かれているの。 だから、出来るだけ敵対しない様にと、お話頂いている。
お友達になれれば、宮廷工作がやり易くなるともね……。 って、嫌だね! これ以上、ややこしい人達との交流を深めようとは思わないよ……。 って、いっても、この状況じゃねぇ……。 溜息しか出ねぇ……。
「ソフィア=レーベンシュタインは、何を考えているの? 婚約者候補は、こちらの、ソーニア=エレクトア=マジェスタ公爵令嬢様だけで在らせられるべきなのに! なぜ、貴女は、ご辞退なさいませんの? その上、高位の者達の集う場所に、よくも顔を出せたものね!」
うはっ! 開口一発目に、それ云うんだ…… 言ったのは、アマリリス=ローザ=カトラス侯爵令嬢様。 お近づきに成りたくない人なんだよね。 自意識がとても高く、高位貴族のプライドが天元突破しちゃってる方だもんね。
「お初に、御目に掛かります。 卑賎なる身を、お呼び頂き誠に有難く、御礼申し上げます」
ガッツリ、カテーシーを決めといた。 そんで、しっかりとご挨拶しといた。 そう、” 失礼の無いように ” ね。 出鼻を挫かれた、アマリリス様は鼻白み、それを見ていたキャメリア様が苦笑していた。
「……あ、挨拶なんてどうでも、宜しくてよ! どういう立場に貴女が居るのかが……」
「御名前を頂戴してもよろしいでしょうか? 余りの事に戸惑っております。 もし、わたくしが、この場に居る事が御不快ならば、早々に立ち去ります。 ……それに、婚約者候補の件に関しましては、王家の方々に、恐れ多い事で有るが故、ご辞退申し上げたいと、そうお伝え申し上げました。 ですが……、わたくしの意思では、どうにもなりませんので……。 それにつきましては、王宮の内情にお詳しい、クラベジーナ=ナスシズ=ファルクス伯爵令嬢様は、ご存知かと?」
非礼は彼方にある。 私一人、立ったままで居る、彼女達のサロン。 完全敵地と判断したよ。 なにかと絡んで来てたフローラ様も含めてね。 目を半目にして、暗い色の光を紅い目に浮かべ、少々顔を傾げると、発光しそうな銀髪が揺れる。 紅い瞳には、剣呑な光が宿っている筈ね。 やるんなら、やるぞって、そういう視線だよ。
可憐で美しいお顔のクラベジーナ様の優し気な目がスッっと細められた。 御不快に思われたかな? 別に気にしてないけどね。 でも、それも一瞬。 そんな彼女は、また優し気な表情に戻り、愛らしい口元から、細い声が紡ぎ出された。
「話は聞き及んでおります。 ソフィア様。 王家……というより、アンネテーナ妃陛下の勅命が下っております故、貴女の御辞退の御意思は受け付けられないと……。 【処女宮】の総意……とも、側聞いたしております。 あっ、ゴメンナサイ。 わたくし、ファルクス伯爵が第二息女、クラベジーナ=ナスシズ=ファルクスに御座います。 どうぞ、よしなに」
「ご丁寧なごあいさつ、痛み入ります。ファルクス様。 わたくしが、婚約者候補として選ばれた理由もご存知で御座いましょうね」
「エルガンルース王国の安寧の為……、 ですわよね」
おっと、知ってたか。 事情を知らん人達が、眼を白黒させているよ……。 特に、アマリリス様と、ソーニア様。 どんな思惑があるか知らんけど、ここで私をつるし上げようとしても、無駄だからね。 事は、ダグラス殿下との婚約って話じゃねぇんだ。 ” 未来の重臣達の行動に目を光らせよ ” なんだよ。
《 カンダーク帝国 》 から、思想侵略を受けそうなんだよ! 《人族》の高位貴族さん達には、耳障りの良い、彼等にとっては、到来してほしい未来を引っ提げてね!
先兵である、「作られし聖女様」が、学園に留学するっての! その思想侵略から、未来の重臣達を護れって言われたんだよ!! ダグラス王子? どうでもいいんだ。 あの方は王族。 知らんかったでは、すまされない立場の人なんだよ! だから、私はあの人には近寄らない。 あえて、距離を取って、「作られし聖女様」の標的になってもらう。
いい事?そんな重要な任務を、承諾なしに与えられたんだよ!! 私は!!! 段々とイライラが募って来る。 高位者が口を開かないから、余計にね。 じゃぁ、帰るよ。 話なんか、無いんでしょ? 単なる息抜きだ? ふざけんじゃないよ!!
「わたくしが、殿下に選ばれるような事にはならないでしょう。 ご安心くださいませ。 王家の方々の思惑は、そこには有りません。 たんなる、下位貴族の者達への配慮かもしれませんわ。 お話が ”その事 ” であれば、わたくしの立場は、ご理解いただけましたでしょうか? ……で、有りますならば、退出許可を頂きたく存じます」
口を引き結び、手を胸に当て、左手でスカートを摘み上げ、深々と頭を下げる。
うん、完璧!
こんな所、居る必要は無いよね。 ほら、サッサと言えよ!
” 許す ” ってさっ!
たった一言なんだよ。 駒には、駒の役割と、矜持があるんだ。 そっちの都合なんか知らんよ!! この場の高位の者が言わねばならないんだから、オイ、アマリリス! お前が言い出した事なんだろ、とっとと言え!!
「い、いえ……。 あ、あの……。 そ、そんな……」
何をブルってやがるんだ? あ”? 単にマウンティングしたかっただけか? 微動だにしない私に、困惑してんだろうね。
「……許します。 お行きなさい」
憂いを含んだ声が聞こえる。 この声は……弱々しくなってるけど、ソーニア様の声だね。 この場で一番高位の人からの許可だ、有難く頂戴するよ。
「御許可頂けましたので、これにて御前を辞さて頂きます。 ご機嫌麗しゅう」
左をスカートから放し、滑る様に後ろに下がる。 大体十歩くらい。 十分に離れてから、頭を上げ、踵を返し、んじゃぁな!!
アバヨ!!
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彼女達のサロンを辞して、廊下をとっとこ歩いて、食堂に向かうの。 あぁ、何時もの第二食堂よ。 あいつら、まだ、居る筈。 一便の乗合馬車の時間には、まだなっていない。 そっと、入り口から覗くと居たよ。
さざめきの様な声が聞こえて来る。
ミャーも、きっとこの中の何処かに居る筈だよね。 この頃 《隠形》の技能の腕をメキメキ上げててね、私でさえ、見失う事あるんだものね……。 凄いわ。
” ソフィア様…… いじめられてないかしら? ”
” 気丈な方だから……、 一方的にやられる事は無いでしょうけれど……。”
” 反撃したら、そのあと、大変よ? お家の格を笠に着て、やりたい放題ですわよ。”
” 三組で、空気の読めない子、いましたよね。 そう言えば……。”
” …… 王都エルガムに出て来たばかりと云う、辺境の子爵家のお嬢様だったわよね。”
” ええ、辺境でのお振舞いを、此方でもされて……、 伯爵令嬢様の御怒りをかって……。”
” ……いつの間にか、御姿が見えなくなりましたわよね……。”
” 高位の方々にとっては、些細な事ですが、私達にとっては……。”
” ソフィア様が、心配だわ……。 なにか、危険な香りがしますもの。”
” ええ、そうですわね。 私達の「希望の星」が潰される事の無いようにしませんとね。”
” ご自身は、余り気に為されているご様子が無いのが…… 余計に心配になりますわ。”
””” そうよね……。 ”””
いい友達を持ったもんだ。 「君と何時までも」のソフィアは、腫物を扱うような、そんな扱いだったんだよ。 友達らしい友達も居なかったしね……。
ホンワカした……。 嬉しかった……。
でもさぁ……。 君たちの目の前には、パウンドケーキもう無いんじゃないのかな? 全部、食べちゃったのか? 時間が掛かると思って? こんなに早く帰って来ると思ってなかった? そんじゃ、心からの感謝と、大好きな貴方達に、この言葉を贈りながら、乱入するわ!
「私のパウンドケーキ、何処????」
「「「「「ヒィィィィ」」」」」
ソフィアには、優しい仲間が大勢いる様子。
気の置けない、友人と、楽しい時を過ごせれば、酷い状況だって何のその。
それでは、また明晩、お逢いしましょう!!
PS クリスマスです! クリスマス!!! サンタさんの巡回路には、入っていない我が家です!!




