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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 二年生
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第45話 見詰める先に

 





 遠い目をしながら、お部屋に帰って来た。 なんだか、無茶苦茶疲れたよ。


 ミャーがホットミルクを作ってくれた。 蜂蜜入りの美味しい奴。 当然、カップは二つ。 小さなテーブルに向かい合って座ったよ。 この部屋の中じゃ、お嬢様と侍女じゃなく、対等なお友達二人だもんね。


 ミャーの顔見てたら、少し、落ち着いた……。





 ――――――――――――――――――――





 夏休みが終わって、王都エルガムのタウンハウスに帰ってからこっち、バタバタが続いている。 【愛逢月(エインゴット)】の初日は、王立学園の入学式 & 新年度の初日。 二年生になっても、担当の先生は変わらず、エミリーベル先生のまま。 


 私が、ダグラス殿下の婚約者候補に選定された事は、何故かみんな知っていたのよ。 ザワザワもあった。 なんか、突っかかって来る人も居たけれどね。 それでも、鬼教師エミリーベル先生の、にこやかな鬼の笑顔の容赦のない授業と、課題と、研究は、私達四組から変な余力を剥ぎ取ってくれたよ。


 もう、初日から、息も絶え絶えさっ!


 月の終わりの安息日に有った、婚約者候補同士の顔合わせ。 【処女宮《ヴァルゴ宮》】での出来事は、私の精神ににトドメのダメージ(クリティカルヒット)を喰らわせて下さいましたよ。


 あの日、お家に帰って、ミャーと遅くまで今後の事を話し合ったの。 これから起こる事は、どうも、私が知っている事とは、かけ離れた事ばかりに成るかも知れないってね。 ミャーも薄々気が付いていたみたい。 あり得ない状況が、色々と判ったらしいの。


 例えばさ、王宮群のなかで、【処女宮《ヴァルゴ宮》】だけが妙に警戒が厳重なのとか、噂と正反対のアンネテーナ妃殿下と、サリュート殿下の交流。 微妙に浮いているダグラス殿下の立ち位置とか、色々ね。 その上、ミャーは【処女宮《ヴァルゴ宮》】の侍従さん、侍女さん達に囲まれて、絶賛されて居たって。 必死に一人に成ろうとしたけど、何処までも彼等は付いて来たってね。


 侍従長さんが言ってたって。 ” 顔合わせ ”ってのは、表向きで、実際は見極めの場だったらしいの。 だって、【処女宮《ヴァルゴ宮》】にだって年間予算とか、配備人員数とかって問題が有るのよ。 それなのに、ど素人を迎え入れて、色々と教育するなんて事は、かなりの費用と時間と労力が必要。




     じゃぁ、どうするか。




 答えは簡単。 ” ある程度の素質をもっていて、実家で勉強を熟して居る者を迎え入れれば良い。 ” だよね。 要はさ、技能系の派遣社員の適性検査みたいなもんだよ。 何処まで仕上がってるのか、即戦力とまでは行かなくても、使えそうかどうか……。 その見極めだったんだって。


 わたしは、ディジェーレさんの記憶があるから、それを照らし合わせるだけで良かったんだ。 それで、悪い事しちゃった。 【処女宮(ヴァルゴ宮)】の皆さんの評価基準が、私に合わされてしまったんだよ。 王室典範の儀礼則を知って、理解している人ってのがね。


 咄嗟に王室典範の断片……つうか写しがレーベンシュタイン男爵家にあったって事にしようって嘘思いついてたけど……。 実際に有ったよ。 うちに! ほら、うち、盾の男爵家って異名がある、エルガンズの末裔でしょ? 男爵家を興す時に、時の国王陛下であらせられる、ウリューネ=エルガン初代国王陛下より下賜されてたんだって……。




    ほう、へー、ふーん……。




 瓢箪から駒が出たんだ……。 まぁ、なんとか整合性取れたね。 そこは、良かったよ。 他家の人達はって言うと……。 婚約者候補に選定されていたお嬢様方の実家には有るそうね。 高位貴族様の御家だからね。 そうそう散逸するような事も無いしね……。 でも、読んで無かったみたいよ? 最初から王室典範の儀礼則は無視されていたらしいの。 というよりも、知らなかった……、みたいね。


 そりゃ、頭抱えるよ……。 でも、敢えてその場での指摘は無かったらしいの。 後でお灸据えるってさ。






 ――――――――――――――――――――






 手に持ったホットミルクを見ながら、ミャーが困惑気味で呟いたのよ。





「ソフィア…… 敵陣に入るのに、相手の事調べないって、馬鹿なの?」


「うん、多分そう。 アイツらは、全滅させられるから、いいじゃん。 そんなの気にしてらんないよ?」


「ソフィア、ミャーは一つ賢くなった気がするんだ」


「何?」


「腐ってる果物でも、まだ大丈夫な所があったりもする。 そんで、腐りかけのそこは、とても美味しい。 んで、種は十分に熟成されて居たりもする。 あとは、きちんと芽が出る様に、いい場所に埋める事が必要だって」


「……ミャーは詩人だね。 そうだよね、しっかり芽が出て、大木にする為に、【処女宮《ヴァルゴ宮》】が有るのかも知れないね。 若木の苗床みたいにね……」


「ソフィアは……その木の栄養になるの?」


「どちらかというと、苗床を整える方かな? 栄養に成る気は無いよ」


「そっか、そうだよね。 だって、ソフィアには逢わないといけない人が居るもんね」


「そうだよ。 だから、私は誰の物にもならない。 彼に逢うまで、私は、私自身の物なの…… 」





 深夜の自室。 ミャーと二人で誓い合ったよ。 そうさ、私は誰の物にもならない。 逢いたいのはあの人。 そして、私の全部を捧げられるのもあの人だけだから……。



     覚悟を決めた。 



 喰い破ってやるよ。 どんな思惑にも負けない自分を作り上げてやる!!






 ――――――――――――――――――――






 新入生の歓迎舞踏会がある、 【 紅染月(ルートリック)】。 去年は制服で参加。 強制参加だからね。 今年は遠慮しとく。 良くも悪くも目立ちすぎた。 欠席のお返事を、事務局に差し出して置いた。 理由? それは、簡単。





「課題が……、 終わりませんの……。 卑しい身のわたくしは、懸命に努力しないと、エルガンルース王国では、役立たずになってしまいます……どうぞ、御容赦くださいませ」





 青い顔して、そう言っといたの。 係官の人、頷いてた。 察するに、アレは、学園長先生の息がかかってるよね。 それに、高々男爵家の娘が出る出ないで大騒ぎになる訳ないつうの!






        と、思ってたのに。




 なったよ。 ほら、婚約者候補ってみんなが知ってるからねぇ……。 一等最初に来たのが、ドロテアを含む、四組の皆さん。褒めそやしてくれた。





「「「「 流石は、ソフィア!! 」」」」 





 ってね。 なんでも、あの空気感の中に居ること自体が嫌だったみたいね。 わたしだって嫌だったもの、この人達だって嫌だったんだろうなとは、思うよ。 





「学年主席の貴女が、勉強で無理だって言うのに、私達が出られるわけ無いじゃない。 いい口実が出来たわ! どうせ、四組じゃぁ、結婚のお相手探す事もままならないし、どのみち、実家が如何にかする筈だし、相手が居なくたって、手に職を持つ方が何十倍も有意義だものね!」





 弾ける様な笑顔で、口々にそんな事を言ってくれたよ。 もっと上位の人達には、社交の場はいわば本業の様な場所だけれど、我らが四組のクラスメイト達には、違った戦場が有るんだもんね。 それに、政略結婚の相手にしても、そんな上位の方々と組むより、横の繋がりを持った方が現実的だしね。 


 このクラスの中にも、チラホラそう言ったカップルも出来つつあるんだ。 爛れた関係性じゃ無くて、お互いを認め合って、高みを目指すみたいな……そんな関係。 見ていて微笑ましく思うよ。 おばちゃん、そんな人達が大好きなんだよ。 何者かに成ろうとする努力は、いずれどんな形にしても、実を結ぶ。 望みのままに行かない事が当たり前な、クラスメイト達には、挫折って言葉は無いんだよ。 



    まぁ、クラスの座右の命が、「不撓不屈」だからね。



 で、今度はちょっと厄介な奴が来た。 脳筋馬鹿(マクレガー子爵)が、休み時、眼の前に飛び込んできやがった。





「レーベンシュタイン! 歓迎舞踏会に出ないって本当か?」


「はい、出ません。 と、云うより、そのお話、何処から?」


「どこだっていいんだ! いま、一組の奴等が騒いている。 所詮は男爵令嬢、怖気づいてたんだとかなんとか、言っている。 いいのか?!」


「ええ、実際、怖気づいているのには、間違いありませんから」


「なに?!」


「馬鹿相手にするのは嫌なんですよ。 この際ハッキリ申し上げますが、【処女宮(ヴァルゴ宮)】でのあの方々の振舞には、アンネテーナ妃陛下をはじめ、侍従、側近、侍女の皆様方があきれ返って居られました。 もっと言うなら、変な礼法が罷り通る、学園の舞踏会には出席せずとも良いとのお言葉も頂いております。 ご確認ください」


「……そ、そうか……。 真実は……そこか」


「えっ? ええ、まぁ」


「しかし、学園での悪評は立つな」


「わたくしは、同じクラスの皆さまが知っていて下さればよいと思っておりまする故」





 私の前で腕を組み、なにやら頷いている、脳筋馬鹿(マクレガー子爵)。 追撃喰らわして置くか……。





「レクサス子爵様に置かれましては、 フローラ=フラン=バルゲル伯爵令嬢にも、お伝え願えれば有難いと存じます。 貴方様が此方においでに成ったのも、フローラ様の思し召しでございましょ?」


「……良く判ったな」


「失礼では御座いますが、レクサス子爵様に置かれましては、其処まで気が回るとは思えませんので。 騎士としての腕前は大層精進されたと伺っておりますが、事、そういった機微に関しては……」


「あぁ、フローラにも言われている……って、何なんだ、お前ら!」


「フフフフ、真っ直ぐなレクサス子爵様でいらしてくださいね。 とても、貴方らしい」


「ば、馬鹿やろう! 心配して損した!!!!」  





 吐き捨てる様に、でも、笑って教室を出て行かれた。 フゥ~~~。 馬鹿の相手はしんどいよ。 不敬スレスレだったよね。 まぁ、あいつは直情型だからね。 フローラ様の御苦労が眼に浮かぶよ……。 でも、私の方はいいからね。 知ってやってるから。


 今度、フローラ様にお話しなきゃね……。 彼女の手も借りなきゃならないかも知れないからね……。






 ――――――――――――――――――――






 運動場で、体術の鍛錬を終えて、さぁ帰ろうかなって時に、校舎の影の夕日の差すベンチに、一人の令嬢が呆然と座っているのが見えたの。 なんか、魂が抜けたみたいな感じなのよ。 顔は見知っていた。 隣を歩いていたミャーに、聞いてみたのよ。





「ミャー、あのご令嬢って……」


「お嬢様。 あぁ、あの方。 はい、存じております。 御名前は、ソーニア=エレクトア=マジェスタ公爵令嬢様に御座います」


「……ソーニア様……ですか。 なんだか、お疲れの御様子ね」


「お話掛けされますか?」


「……やめておくわ。 ああやって、一人に成りたい事、有るでしょうから…… そっとしておきましょう」


「はい、お嬢様」






 疲れてんな……。 彼女、ボンヤリと運動場を見てたよ。 なんか、心ここに非ずって感じだよ。 彼女の視線の見詰める先に有るのは、立てかけられた、一本の長剣。 訓練用の奴だけどね。 




 きっと、思い出して居るんだろうね、



 彼女が御実家に居た頃を。



 そうさ、彼女は元ソーニア=マルグレッド=コローナ伯爵令嬢。 武門のお家の、戦姫様。 「君と何時までの」の中じゃ、武闘派の先頭。 ソフィア相手に大立ち回りをするルートさえあった人よ。 それが、今じゃ立場が逆転。 あの、マジェスタ大公家のお嬢様に成っちゃたんだよ。 養女としてね。



 エルグリッド卿が使う手駒として、抜殻の様に成ってるね。



 彼女も居たよ、【処女宮(ヴァルゴ宮)】の招待客の中にね。 なんか、色んな人に取り囲まれてた。 一応、彼女、身分の上からは、婚約者候補筆頭なんだもんね。 ダグラス殿下もそれはご存知の筈だもんね。 ……重荷なのかな……? 彼女らしくないモノね……。 元気一杯の、長剣振り回すような彼女がねぇ……。




 今は、助けてあげられそうにないから、


 遠くから見て置くだけにするね。


 でも…… その内……


 いや、何でも無い。


 それどころじゃないもんね。





 頑張んなきゃ!!







色々と、キーパーソンが出演中。


また、明晩お逢いしましょう!!

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