表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 二年生
43/171

第43話 【 処女宮 】での、出来事 その3

 



 大変高貴な御方からの、突然のお声掛け……。



 あ、あのね、先触れって、本当に必要なモノなのよ。 特に物凄く高貴な方はね。 だって、それなりの準備とか、所作って有るんだからね。 私ったら、ばね仕掛けの人形みたいに飛び上がってさ、恥ずかしいったらありゃしない。


 で、その場では誰もしていなかった、王妃殿下への、女性貴族としての《臣下の礼》を取ったのよ。 王室典範の儀礼則にしっかり記載されてる奴ね。 淑女の礼(カテーシー)とは違ってね、片膝立ちになって、左手でスカートを広げるの、 右手は胸の前、抑える様に、つんもりと添える感じで。 うなじが見えるくらいに頭を下げて、視線は王妃殿下の足先二握りくらいの所へ。





「 アンネテーナ=エルガン王妃殿下に置かれましては、ご機嫌麗しゅう存じます。 本日は、恐れ多くも賢くも、【処女宮《ヴァルゴ宮》】へのお招きを戴くだけでなく、小臣の娘への御心遣い、誠に感謝の念に堪えません。 臣ソフィア、此処に忠誠を誓い、御前に侍ります」





 ふうっ……。 なんとか体裁は、整えたよ……。 だ、大丈夫だよね……? 失礼は無いよね……? 御手打ちとか、嫌だよ……。 





「臣ソフィア。 かんばせを上げよ。 直答を許す」





 ほう、きちんと、女王陛下してんじゃん。 ずいぶんと、勉強されてたみたいね。 まぁ、させられるか…… 儀礼則の通りの御答えを頂きましたよ。 目線を上げ、王妃殿下を見る。 ふうぅ、胸元に格差感じるね。 スンゴイボリューム…… 体勢はそのままに、笑顔の仮面を張り付けて、さて、戦が始まるね。





「誠に勿体なき御言葉を賜り、臣ソフィア、感謝いたします」





 じっと見詰められているのが判る。 さっきの砕けた口調と違って、まさに王妃殿下の威厳を纏っていらっしゃるのよ。 何を仰るのかが、予想付かないけど、ホントにじっくりと観察されているね。 勿論私から、御言葉を掛ける訳には行かないしね……


 唐突に、妃殿下からの威厳が霧散した。 堅く結ばれていた表情が、急にホンワカとしたモノに変わり、優しい視線を下さったのよ。





「ソフィア……。 本日、儀礼則は必要ありません。 直に貴女とお話がしたい。 そう、貴女自身とね。 わたくしの口調も、王妃アンネテーナ=エルガンの物ではなくてよ。 うううん…… そうね、ギボシー子爵令嬢だった時の言葉遣いだと思っていいわ。 貴女を見ていると、あの楽しかった時の事を思い出してしまうの。 でも、貴女はソフィアであって、決して、ディジェーレ様では無い事ぐらい、判っております。 座って……。 少しお話がしたいの」





 ほえ? 




 なんか……思ってた展開と違う……。 もっと、こう、何と言うか、上から目線で‥‥色々押し付けられる感じの……。 これじゃぁ、なんかいい人みたいじゃん! 戦場の雰囲気じゃないよ……。 


 促されるまま、お席に着いたの。 近習の人がアンネテーナ妃殿下用の椅子も用意されたのよ……。 ち、近い、近い!





「あら、まだ何もお食べになって無いの?」





 そう、妃殿下が口にされると、近習の方が、妃殿下の耳元に口を寄せて、囁かれた。 うっすらと聞こえるの。





「ソフィアお嬢様は、お気づきに成られたようです。 大精霊神様に、 ” 許し ” 乞われて居られました」


「まぁ、そうなの。 才媛との噂は本当なのね。 ソフィア、お茶は如何?」





 キランって、アンネテーナ妃殿下眼が、光ったよ。 出たよ、女性貴族の会話だよ…… このお申し出に私のこれからが、掛ってるのよ…… 要するに誰に与するの?っての問い掛け。 もしくは、どの国が気になるのか?っての問い掛けか…… この場合の選択はこのどちらの問い掛けかを、明らかにする必要が有るのよ。





「王妃殿下、大変珍しいお菓子で御座いますね。 今まで存じ上げなかったモノばかりですので、選べませんでしたの、()()()()()()を頂ければ宜しいのでしょうか?」


「そうね、どれも、素晴らしいモノですわよ……。一つを除いてね」





 決まりだ。 王妃殿下は何かを伝えようとしている。 それが何かは、判らないけど、状況をこのテーブルセッティングから読み取れなかったら、お話はして頂けないって事ね。 ” 一つを除いて ”の言葉が証拠。 その一つってのは、砂糖漬けのお花の事。 つまりは、南の帝国《 カンダーク帝国 》に関してのお話だと推測できるね。 



 であるならば、お茶の銘柄は一つ。





「飲み物は、サダンプロンを頂きたいと思います」





 王妃殿下、頷かれた。 正解って事ね。 やっぱり【スポイルされた聖女】がビューネルト王立学園にやって来るって事で良いのね……。





「焼き菓子も、如何?」





 ほら、もう次だ……。 こういった場合、銀盆にある数種類のナプキンを使って取るから、その透かし文様から、誰に与しているのかを特定できるんだよ……。 





「有難うございます……」





 当然、四大公爵家とはお近づきに成りたくないから、無地のナプキンを手に取るの。 にこやかにお茶してるみたいで、こうやって、誰について居るのかを探る訳よね。 それに、意思表示ってのもある。 高位貴族さん達の御茶会って、こういった所作で会話する事が多すぎるのよ……。 呑気にオチオチ、楽しんでられないよね。





「……そう、サリュートも、眼を掛ける訳よね。 良く判った。 ゴメンね、試すような事ばかりして。 でも、どうしても聞いて欲しかった事があるの」


「勿体のう御座います……。 お話を、お伺いさせて頂きます」


「いいのよ。 判ってる。 貴女が強く警戒心を持ってるのは、当たり前の事です。 それに、ダグラスの婚約者候補にしてしまった事も、謝りたいのよ。 ブロイ=ホップ=レーベンシュタインは、本当に鉄壁ね。……こうでもしないと、本当に逢えないと思ったから。 でも、やっとこうやって、大事な「お話」ができるわ。 ここでのお話は、あちらのお嬢さん方には、少々難しいかもしれないから、聞こえても問題ないわね。 そう、たとえ聞こえていても理解できないでしょう。 これから、お話する事は、エルガンルースの民草の未来に関わる事……。 大丈夫ね?」


「……はい。 心します」





 近習の人がお茶を持ってらした。 テーブルに置かれたカップを前に、手前の焼き菓子を手に取る。 でも、食べない。 そんな様子に、王妃殿下は目を細めて見てらしたの。 





「……貴女を最初に見た時は、息が止まるかと思ったの。 大切な方だった。 本来ならば、この席に居る筈の方だったの。 心を強く打たれたの。 その後の事もね……、 最初は、天罰が形になってやって来たと思ったの。 わたくし達が貶め、市井に追いやった、高貴な御方が姿を変えて復讐に見えられた……。 そう、思ってしまったの。 ” なんとかしなくては ” と思い、ブロイに貴女を学園に入学させてもらうようにお願いした。 監視下に置きたかった。 明け透けに言うとね……そういう事だったの。 でも、その夜……、 天啓を受けたの……」


「天啓……ですか」


「ええ、そうよ。 夢とは違う、ハッキリした声。 魂が揺さぶられるようなそんな声だったの。 その声は云ったわ。 ” もし、お前がエルガンスール王国の生きとし生ける者の幸せを願うならば、行動せよ! ” って…… 続けて云われたの ” 運命に抗え、流されると王国は破滅する。  あの者はディジェーレに非ず。 王国の命運を握る者。 サリュートは抗い始めた。 アンネテーナお前はどうする ”  意味が解らなかった。 でも、その声はとても深くて……、 そして、超越していたと思ったの。 それまでは……ホントに周囲に流されるままに生きていた。 だから……心を打ったのかも知れない……」


「そ、そうなんですか…… その事が、わたくしに関係が有るのでしょうか?」


「ええ、とても。 その声は、貴女が「 鍵 」だとそう仰ったの。 さらに、”まずは疎遠にしていた、サリュートと話をせよ。 お前が天罰と感じた者の話を……。 ” とね」


「サリュート殿下は、王妃殿下とは……その……」


「ええ、言い難いのは判るわ。 噂の通り・・・・でした。 国王陛下の戯れの証拠ですものね……。 正直に言うと、憎んでいたのかもしれませんわ。 ……ダグラスが生まれていなかったら、何かしていたかもしれないくらい……。 でも天啓が聞こえてからは、そのような感情が霧散したの……。 おかしいでしょ? 自分でも良く判らないの。 でも、本当よ」





 だからか、アンネテーナ妃殿下が妙に、私に興味を示されてて、あの筋肉馬鹿(マクレガー様)が ”妄執” って言う程、私と逢いたがっていたのは……  「君と何時までも」の中じゃ、アンネテーナ妃殿下はそんなに出てこなかった。 というより、殆ど、ストーリーに絡んでこなかった。 ちょびっとだけ、最後に出演した感じ? そうか…… その天啓とやらは、「君と何時までも」のシナリオの中で、影の薄い二人に、状況を変えさせようとしてるって事だね。 



「君と何時までも」のエンディングの後の世界は……、 




             絶対に荒れる。 




 側近が居ないダグラス殿下。 求心力の落ちた王家。 四大大公家の内、マジェスタ大公家の没落による社会不安。 エルガンルース王国の宮廷内部の不協和音に政情不安……。 そして、外患である、魔人族との不和……。 さらに、周囲の国々との疑心暗鬼。 



    王国の屋台骨、グラつきまくりだよね。



 行き着く先は、戦争か暴動か……。 ゲームの中じゃ、あんまり詳しく紹介されてなかった、「百年祭」の事もあるしね……。 あの数々のエンディングの中に、魔人族との相互不可侵条約が延長されたとは、一言も言及されていない。 勇者召喚に失敗してるのは、サリュート殿下が誕生していた事からも判るんだ。 確証は無いけれど、多分、条約は期限切れで、延長されなかったって事だよね……。


 そうなる未来だったら、それはもう、王国に平穏なんて訪れないよね……。



      普通にシナリオ通りに進むんだったらね……。 



 でも、私は、ソフィア=レーベンシュタイン。 決して、ソフィア=エレクトア=マジェスタ公爵令嬢 では無いんだから。 そういう意味では、現在は大きくシナリオから外れている筈なんだよね……。





「サリュートと話をしました。 分かり合えないかと思っていましたが……、 天啓の話をすると、何故か、あの子も素直になりました……。 わだかまりは有ります。 無くなりはしないと思います。 しかし、この国を想う心は、わたくしも、サリュートも同じでした……。 で、有るならば……、 協力していきたいと……」





 成程ね……。 サリュート殿下も、天啓を受けられた。 同じような内容、王国の危機を告げ、軌道修正が可能だと思わせる言葉の数々を……。 そして、たぶん誰にも理解されないだろう事をね‥‥。 天敵同士みたいなお二人が、繋がったんだ……。 そして、何故か、お二人とも、私が 「 鍵 」に成ると、思っていらっしゃるみたいね……。





         滅茶苦茶、迷惑だよ!





 なんで、人を巻き込むんだ……。 己が才能でどうとでも、なるんじゃないのか? 私は、私で生き残る方策を、つかみ取るのに必死だっていうのに……。 はぁ……。




         言っても無駄かぁ……。




 なんか、とっても高次な存在に、「世界の意思(シナリオ)」の打倒を命じられているみたいになって来たよ……。 ほんと、RPGの世界にようこそだよ……。 




 天啓だってさ……。 



 聖女だってっさ……。 



 次は魔人王の討伐とかか? 



 わたしゃ、勇者かなんかなのか?



 なんか、別のシナリオが混じってない? というより、ホント、混沌として来たよ……。 ゲームの知識が、なんかほとんど役に立たなくなって来たよ。 フラグへし折っただけじゃ、どうにもならんのかなぁ……。 強制力が、変に働いて居るのかなぁ……。 困ったなぁ……


 あっ、でも、まだ、アンネテーナ妃陛下から、このテーブルセッティングの真意とか聞いてないよ。 どうしよう……。





 ――――――――――――――――――――





 何やら急に騒がしくなったよ。 あぁ、王子様お二人のお出ましか……。 私の横ににギッチリと王妃殿下が詰めてらっしゃるけど、もう、お嬢様方ったら……。 王子様に夢中ね。 こっちの事なんかお構いなし……儀礼則なんか、どっかに消し飛んでる……。 あいつら、あとで、絶対に泣きを見る事になるな。 王妃陛下の冷たい視線、欠片も気付いても理解してもいないみたいだしねぇ……。




 ダグラス王子は、キラッキラのオーラを纏って、そのお嬢様方に囲まれたよ。




 まんざらじゃない顔してるね。 ご自身がオモテになるの、よくご存じだしね。 更に言えば、その見目麗しい御姿の効用もよくご存じだ。 あっという間の出来事だよ。 にこやかに談笑されている輪の外に、銀箔の仮面を付けてらっしゃるサリュート殿下も居るのにね……。 そっちは無視かよ……。 


 綺麗なお花畑の様なドレスの群れの外側から、視線を周囲に向けられたサリュート殿下は、私達に気が付いたの。 つかつかと近寄ってこられた。 当然、私は立ち上がり、アンネテーナ妃殿下に捧げたのと同じ、女性貴族としての《臣下の礼》を取ったのよ。 王室典範の儀礼則にしっかり記載されてる奴ね。





「サリュート殿下に置かれましてはご機嫌麗しゅう御座います」


「うん、ソフィアか。 それに御義母様も。 王妃殿下、座って宜しゅうございますか?」


「勿論です。 あちらは、あちらでするでしょうから、調度良い機会です。 御坐りなさい」


「有り難き幸せ。 ソフィアも座れ。 御義母様も普段通りでお願いしたいのですが」





 うわぁ……。 キラキラ感は無いけど、なんか迫力あるよね……。 近習の方がもう一脚、椅子を持ってこられた。 ザックリとラフに座られたサリュート殿下。 近習の方に言った。





「私にも、茶を。 サダンプロンで」





 やっぱり、それが焦点か……。





「御義母様、何処までお話に成られました?」


「まだ、幾許も話してはいないわ。 天啓についてだけ」


「そうですか。 判りました。 で、ソフィアは何処まで判ってくれていましたか?」


「ほぼ全て。 このしつらええについて、質問したのは、サリュート、貴方の云った通り、ソフィアだけでしたよ。 大精霊神様の許し乞うて下さったようです」


「うむ……ならば、話は早い。 前提は飛ばす。 王国の危機に関してだ。 そして、ソフィア、君がどれ程の位置に居るかを理解してもらいたい。 アンネテーナ妃殿下も御承知になっている。 しかし、これから話す事は、非常に危うい話になる。 心してくれ」





 わたしは、黙って頷くほか、無かったよ。 完璧に嵌められた。 流石に王族は、抜かりないね……。 はぁ……。 サリュート殿下の真剣な声に、心が縮んで行くよ……。 男爵令嬢風情に、何を期待しているんだ……。 お家に帰りたいよ。




    ミャーに助けを求める事さえできない今……、



      どうにか、自力でやるしかない。



          出来るかな?




         でも やらないと、




           本気で






         ヤバい気がする。







アンネテーナ妃殿下は意外と策士でした。 サリュート殿下とお話を始めたのが、二年前くらいでしょうか? 時間が無いと理解したアンネテーナ妃殿下が、形振り構わず、ソフィアと逢いたがっていたのが真相の様ですね。 


さて、王族の思惑は何なのでしょうか?


次回も続くよ、御茶会は!


それでは、また明晩、お逢いしましょう!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ