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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 二年生
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第41話 【 処女宮 】での、出来事 その1

 



 孤児院に居た時に、御伽噺の絵本を良く眺めていた。 娼館での仕事のこととか、これからの事とか、考えんのが面倒になって、童心に帰ったつもりで、ちょくちょく眺めてた。 なんでか、隣にはいつもミャーがいたね。 二人して、薄暗い部屋の、小汚いベッドに寝そべりながら、絵本を眺めてた。


 精神年齢なら、アラサーな私が、御伽噺を眺めるのよ。 シュールよね。 自分でもおかしくて、良く笑いながら眺めてた記憶があるの。 不思議そうにミャーが見てたな……そう言えば……。


 その御伽噺は、おかしな話じゃ無いんだよ。 以前の世界では、「シンデレラ」によく似た話。 ただね、日本と違って、リアル王宮のあるこの世界だから、なんか、めちゃ親近感の沸く話だったよ。


 その中で、出て来るのが、小さい女の子の憧れの的。 巨大で華麗な宮殿。 中に入れるのは、王族関係者のみ。 御伽噺では、主人公が王子様に見初められて、美麗な宮殿の門から、宮殿内に入る所で、めでたし、めでたしだった。





「これ、この宮殿の中に入ったら、いきなり食い殺されたりしないのかなぁ……。 ほら、王族ってなんか人喰って生きてそうだし……」


「ソフィアの感性って、おかしいよ? 何でそうなるの? 幸せに暮らしましたでいいじゃん。 王妃様に成ったら、贅沢し放題なんだし。 叩かれる事も、ご飯抜かれる事も無いよ? みんなに、チヤホヤされて、大好きな王子様に大事にされてさぁ~~」


「だってぇ~~ ミャー おかしいと思わない? 一目で好きになりました。 街中を探しました。 落とし物の魔法の靴に合う女性が、その人です。 だから、結婚しましょう……。 一目ぼれして、一曲かそこらダンスを踊って、それで、結婚しましょう? 王族が、平民に? おかしいでしょ」


「だ~か~ら~、これは御伽噺なの! 現実持ち込んじゃいけないの!」


「えぇぇぇ~? だって、この王子様、あからさまに怪しいじゃん。 お店でね、一目で気に入りました、身受けしますって、一夜も共にしないで云う馬鹿、見た事有る? ないでしょ?」


「……ソフィア……。 有るかもしんない」


「えっ? お店で?」


「違う……。 ここで」


「……それ、もっとヤバい奴だよ」


「だね……。 じゃぁ……この王子も……ヤバい奴だったの?!」


「でしょ? 体目当てにしても……。 いくら綺麗だったからって、魔法の靴を履かせた時、ボロ着てたんだよ? そのまま宮殿に。 ” この人、僕のお嫁さん~~ ” って、行っちゃう人だよ? そんで、入り口の扉が開くんだよ? もう、ヤバい想像しか思い浮かばないよ~~」





 ニヤニヤ笑いながら、そんな事言い合ってたなぁ~~。 遠い目をしながらそう考えていたのには、訳があったのよ。 今日は安息日なのに、なぜか、私とミャーは王宮に来てるの。 それも、レーベンシュタイン男爵家の印章付きの馬車に乗ってね。 




呼出しが有ったんだ。 ” 「婚約者候補」の、お知らせした人は、今日王宮 【 処女宮(ヴァルゴ宮) 】に侍女を連れてこい。 ” ってね。



 パッカポッコ歩を進めるお馬さんの足音だけが、耳に届いているの。 隣に居るミャーも、若干緊張気味ね。 ふと、彼女の綺麗な《金銀の目(ヘテロクロミヤ)》と眼が合うの。 私が何を思い出して居たか、想像がついたようね。





「お嬢様、【 処女宮(ヴァルゴ宮) 】の建物が、()()()()()の最後に出て来た宮殿に似ていると…… そう、お想いなんですね」


「ええ…… 遠目に見ても、あの豪華な宮殿は、その様に見えますね。 王族の後宮なのですから、豪華には違いありません。 そして、引き込まれてしまった私達は、ある意味、御伽噺の主人公と同じ立場に居る様な物ですものね」


「婚約者候補として、【 処女宮(ヴァルゴ宮) 】に出仕せよ……ですか……。 流石にお召し物は、ドレスでは有りますが?」


「他家の皆さまと比べれば、天と地程、差が出るでしょう。 そのように装いましたし」


「ええ、御当主様も案じて居られましたね。 ” そのドレスで本当に良いのか ”と。 お嬢様は、質素すぎます」


「ミャーなら判ると思うけれど、わたくしは、装うのが苦手なのです。 色々と付ければつける程、縛られているようで……。 このドレスでさえ、わたくしは重荷に感じてしまう位なのですよ」


「……昔からそうでした……。 ソフィア様は、身を守る事で、いつも精一杯なのですものね。 装う事も、飾る事も最低限で……」


「ええ、そうね……。 立場の変化くらいでは、変わりようも御座いませんし、変わるつもり御座いませんわ」


「……お嬢様らしい、御言葉です」





 馬車は、やがて【 処女宮(ヴァルゴ宮) 】のド真ん前に辿り着き、止まった。 扉が衛士さんによって開かれて、ついに、この宮殿に入る事になったよ……。初めましてだ! ゲームの中でも、この中の描写は無かったから、どうなっているのか、ちょっと興味も有るけどね。 まさか、ハリボテで、中は荒野だったりして……。 それは、無いか……。


 エスコートは無い。 当然だ。 馬車を、ミャーと降りると、ちょっと高齢の侍従さんが待ってらした。 私を見て、ハッとされて居たけれど、直ぐにその表情を押し隠したのが判る。 この侍従さんの年齢くらいだったら、もしかしたら、ディジェーレさんの事見た事有るかも知れないなぁ。 ママは、王妃教育の為に度々この【 処女宮(ヴァルゴ宮) 】に出入りしてたんだもの……。





「本日はお招きに預かりまして、誠に有難うございます。 ブロイ=ホップ=レーベンシュタイン男爵が(養女)、ソフィア=レーベンシュタインと、申します。どうぞよしなに。 コレはわたくしの専属侍女、ミャー=ブヨ=ドロワマーノ 以後、お見知り置きを」


「ご丁寧な、御挨拶、痛み入ります、ソフィアお嬢様。 わたくしは、ミネーネ=バルカン この【 処女宮(ヴァルゴ宮) 】の侍従長を勤めております。 他家の皆さまもお越しになって居られますので、どうぞこちらに」


「はい、宜しくお願い申し上げます」





 ガッツリと、カテーシーを決めて置くよ。 挨拶の交換が終わって、いよいよ、【 処女宮(ヴァルゴ宮) 】という名の戦場に入る事になった。 はぁ! よし、気合入れ直したぞ!!






 ――――――――――――――――――――






 いや、物凄いモノ見せて貰った。 レーベンシュタイン男爵家だけの人生だったら、まず間違いなく御目に掛かれない様なモノが、ずら~~~~~~って並んでた。 足元のフカフカの絨毯から、壁に掛かる巨大な絵画、飾られている花、そして花器。 並べられ、磨き抜かれた金ぴかの甲冑、そして、掲げられている巨大なエルガンルース王国の国旗、旗指物。 





            圧巻の一言だったよ。




 豪華なシャンデリアが何基も、魔法灯火の光を放ち、部屋の中にも関わらず、昼間よりも明るいんだ。 豪華って云うよりも、贅沢って言う方が良いかも。 そんな中にいたら、嫌でも自分のみすぼらしい身形が目立つよ……。 ほんと、場違い……。 それでもさ、胸張って、真っ直ぐに前を向いて、ミネーネ侍従長の後に続くの。 一挙手一投足が、数多の目で見詰められている様な気もする。


 いわゆる、品定め。 悪く言えば、荒さがし。 見てろよっ! こちとら、ディジェーレさんの記憶仕込みだ。 夏休み中、ミャーと特訓したんだ。 そうは簡単にボロは出さねぇぞ!! 豪華な回廊を進み。待合で有ろう一室の扉の前に到着したんだ。 


 重厚な扉だったよ。 ディジェーレさんの記憶では、ココってたしか、教育の行われれた部屋だったような気がする。 そうだね、ちゃんと扉の上に、花文字で「貴賓勉強室」って彫り込んだ額がかかってるもんね。





「レーベンシュタイン男爵家令嬢、ソフィア=レーベンシュタイン様。 御到着に成られました」





 ミネーネさんの渋い声が響く。 扉が両側に開くの。 その先のお部屋……。 勉強室って有ったよね、たしか……。 うちの応接室の何倍も大きな、何十倍も豪華なお部屋だった。 もう、目もくらむような、高額調度品の数々……。 帰っていい? ほんと、無茶振りも良い所だよ……。 


 それでも、まぁ、ミネーネ侍従長さんに連れられて、中に入って行ったのよ。 いましたよ、他家の婚約者候補の方々が。 私を見て、フンって鼻を鳴らす人、興味深そうに見る人、空気みたいに無視する人、等々。 いつもの高位貴族様の反応だからね、コレ。 


 まぁ、ロクでもない噂話が飛び交ってるから、そうなんだろうけどさぁ……。 帰りたい……。


 私は、壁際に有る一番下座の椅子に腰を下ろしたの。 ピンと背筋を伸ばして、余計な事は喋らない。 ミャーは、私の少し後ろに立ってるの。 慎ましやかにね。 そう、侍女の位置だよ。 で、此方も何も言わず、沈黙を守っている。


 さぁ、鬼が出るか、蛇が出るか……。 気を張って頑張ってみますよっと。


 部屋のあちこちから、ヒソヒソが耳に届くの。 あからさまじゃないけど、聞こえる様に。 私がどう反応するか、面白そうに……。 まぁ、想定内。 反応は、無表情で石像に成る事。 だって、そのヒソヒソが、例の噂話なんだよ。 どうしろって云うのさ。





「卑賎で卑しい出自の方なんだって」

「権力欲が強いそうよ」

「目的の為に手段を択ばないそうよ」

「卑劣な性格をしているらしいわ、怖いわねぇ」

「銀色の髪と、赤い目の、”忌み子”の特徴を色濃く持ってらっしゃるって本当ね」

「油断出来ないわ、どうやって学年一位の座を得たんでしょうね」

「そりゃ、悪辣な、レーベンシュタインの養女、だものね」 





 もうね、どっから突っ込んでいいのか判らんよ。 唯々、緊張して、澄まして、至高の存在がお出ましになるのを待ってるの。 ヒソヒソやってる方々は、今日の呼出しに応えられた方々の侍女として、”特別に許された、中高位貴族の御令嬢様達。 ほら、こないだ、私に婚約者候補を辞退しろっていった方々みたいな人達よ。


 それが結構な人数居る。 たしか、呼ばれてたの五、六家の御令嬢だっから、一家につき、七、八人くらい侍らかしているんじゃないの? 必要なの? 馬鹿なの? そんだけの人、侍女教育するの? 人手足りるの? つうか、予算大丈夫なの? 莫大な費用が掛かるよ?


 それにさぁ、侍女教育って、泣く子も黙る、王宮の侍女長さんが、ビシバシ指導するって話だよ? 門閥とか別に気にしない人だった筈だし、侍女長さん自身、大公家の人だから、遠慮会釈なしにやりよるよ? そんな情報取って無いの? 普通のお家の侍女長さんでさえ、泣くようなそんな教育受けるんだよ? 





 知らないって……罪だと思う。


 知らせないって……鬼だと思う。





 ああやって、お喋り三昧してるけど、この部屋にさえ、【 処女宮(ヴァルゴ宮) 】の侍女さんが居るのに、もう品定め始まってるって、思ってないのかなぁ……。 それに、私と同じように、この部屋に入室されているのなら、アレは無いよ……。


 なんで、王家の茶器を持ち出して、勝手に御茶会みたいに飲んでるの? それ、許可無しだよ? マジでいいの? そんなんで。 視線をそうとは判らない様に、周囲に走らせてみると、やっぱり、【 処女宮(ヴァルゴ宮) 】の侍女さん達が、それとは判らない様にだけど、厳しい視線を彼女達に送っているの。


 ほらね……やっぱり、見てた。 あれ、点数付けてるよ。 そんで、ふるいに掛けるんだよ、きっと。 ミャーは静かに立っているのよ。 そう、ここの侍女さん達と同じようにね。 その内、壁と同化するんじゃね? って程、気配も消してる。 ……《隠形》の技能、教えたからねぇ……。 私は外見で目立っちゃってるけど、その分、ミャーの印象は限りなく薄くなるね。


 じりじりと時間は過ぎていくけど、なんか遅くね? まだ、なんか、仕掛けて来そうな気がするよ。 お嬢様方は、お喋りに夢中になってて、あんまり気にしてないみたいだけどね。 それにさぁ、時間が経って、慣れて来たんだろうけどね、なんであんた達、椅子を持ち寄って、本格的に御茶会みたいにしてるのよ……。


 高位貴族だからって、そこまでは許されてないでしょ? ほら、ココの侍女さん達が、あからさまに嫌悪の表情を浮かべてるよ……。 こっちを向いている人達は少ないね。 私達がボッチだから? いや、なんだか、強い視線を感じるなぁ……。 視線の方に、ちょっと年配の侍女さんがいたよ。 少しだけ顔に笑みを載せて、ちょっとだけ、頭を下げて置いた。 




 ” 何見てんだよ! ” の、ご挨拶ね。 不躾な視線を感じた時にする、一つのサインみたいなモノなんだ。




 その年配の侍女さん、なんか、ハッとして…… 丁寧にお辞儀された。 


 これ、ゴメンナサイの合図。 


 軽く目を瞑り、ハッキリとはしない様に気を付けて首を横に振るの。 




 ” いいのよ、判って下されば ” のサインなんだ。




 目を丸くしてた。 なんか、近くの侍女さんに耳打ちしてた。 別にいいけどね。 こっちは珍獣扱いされたんだ、この位はいいよね。 それに、このサインだって、ディジェーレさんの記憶からの引用だもんね。 ほんと、知識は武器だよ。





  突然、



        バタン!





 って、入って来た扉が開いた。 ミャーが音もなく、私と扉の間に滑り込んだ。 私は音のした方を首だけで見た。 扉が開いただけだったけどね。 ……なんだ、これ……? 試験みたいだね。 



     ミャーの行動は、侍女としては満点。 



 私の護衛の為に、身をもって盾になった。 わたしの方は……、 王妃教育上ならば満点。 何時いかなる時も、たとえ白刃を突きつけられても、表情は変えず凛としている事。 精神的優位を絶対に崩さない事。 守りは護衛に任せる事。 護られる人が、勝手に動くと、護衛官が動けなくなるからね。 退避路が確保され、指示が示された場合、状況を見て退却するか、その場に留まるかを判断する。




     その教育に従ったまでだよ。




 もし、ココが【 処女宮(ヴァルゴ宮) 】じゃなくて、我が家だったら、真っ先に扉の近くに行って、退路の確保と、襲撃者の確認、更に可能ならば、襲撃者の捕獲、もしくは、排除に動いていたね。 その為の訓練は十分に積んでいるつもり。 


 いまも、手がピクって動いちゃったモノ。 


 ミャーの背中が見えたから、教育モードに戻ったけどね。


 ……お嬢様方……。 ダメだ、あれ。 バタバタしてる上に、侍女として連れて来てた人が、我先に逃げようとしてるし……。 持ってたカップ、落っことしてた人もいるね……。





「ビックリしましたわ!」

「何ですの、一体!!」

「どういう事なんですか? ご説明は!!」

「あぁ……。 ドレスを汚してしまいました! どうしましょう!」

「怖かったですわ!!」





 零点。 そりゃ、愛らしいお顔をされて居て、普通以上に淑女教育されて居るかもしれないけど、王妃になろうって人なら、もうちょっと、落ち着こうよ。 それに、侍女に成ろうってんなら、主人を守れよ……。 ほら、侍女さん達、表情が氷点下以下に成ってるじゃない……。




 入口の扉は、また、何事もなく閉じられたね。



 想定としては……、 襲撃とか……、 緊急報とか……。 



 そうか、人影が侵入してないから、緊急報の方か……。 なにか有ったらしいから、魔法で指定されていて、人が居る部屋の扉が、緊急開放されたんだ……。 そうか。 近くの侍女さんに、視線だけでコンタクトを取り、右手をちょっとだけ上下させたの。


 侍女さんが、首を振り、そんで、お辞儀した。


 これってね、退出した方が良いのか、避難指示が来たのかって合図。 で、侍女さんがしたのは、誤報ですの合図。 成程ね。 試されたってことか。 何処まで、私達が知ってるかって……、 侍女さん、なんか、めっちゃ嬉し気な笑みを浮かべてるよ……。 なんでだ?





        あれ?



      あれれ?



    も、もしかして…… わたし……



  やらかした?




 い、いや、そうでもないよね。



 これ……どっかの文献に載ってたよね……



 たしかに有ったよね……。




           王室典範にさ……。




 ちゃんと、読んどいたよ。




 う、裏付けは有ったよ……。


 ただ……、


 その文献。



 閲覧者が限定的なんだよね……。



 断片がうちに有ったって事にしとこう……。






 そうしよう……。






      お嬢様方とは、別な意味の恐怖で……、



      背中に冷汗が流れ落ちちゃったよ……。










誤字脱字、本当に申し訳ございません!!!

まだまだ、手慣れていなくて、読み返しが不十分ですよね。


修正いたします。


御報告を戴いて、嬉しいです。 精進いたしますので、今後とも何卒、宜しくお願い申し上げます。



それでは、また明晩、お逢いしましょう!!!

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