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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 二年生
40/171

第40話 新学年の憂鬱な始まり

 



 さぁ、戻って来たよ。 王都エルガムにね。 まっさらな気持ちで、いっちょ頑張りますかって思ってたら、いきなり来た。




 ” 第二王子ダグラス殿下の婚約者候補 ”




 って、お達し。


 御父様が頭抱えてらしたわ。 学園の方にも、私を一組に編入するよう、依頼が来てたらしいけど、それは、学園長とか、色々な人が邪魔して、無くなったの。 頑張られてみたいよ。 夜な夜な、学園長先生が、御父様に逢いに、うちまで来てらしたもの……。


 で、登校初日、乗合馬車の停留所に行ったら、クラスメイトのお嬢様方がわんさか寄ってらした。 口々に仰るのよ、私がダグラス殿下の婚約者候補に挙がった事を。 おい、情報どっから漏れてんだ? 





「流石は、学年一位ですわ!」


「王宮の眼も節穴じゃ御座いませんでしたね」


「四組からは、ソフィア様一人なのよ! 凄いわ」


「ほら、やっぱり、王宮でのご教育とか、有るのかしら?」





 フゥ……。 この時点で、お腹一杯です、ハイ。 にこやかに微笑みを浮かべながら、このくそ迷惑な申し出をどうやっつけるか、考えていたよ。 ミャーが背後から、突っついてくるの。





「お嬢様、今は静観致しましょう。 どうなるか、判りません。 下手に騒ぎ立てても、不利にしかなりません」


「ええ、正式に決まった訳でもありませんから……ね」





 学園に着くと、それはもう、色んな視線が絡んで来て、うぎゃ~~~~って叫びたくなったのよ。 そりゃね、王族との婚約者候補ともなれば、注目を集めるよ。 その上、数多有る男爵家からただ一人、私だけが選ばれちゃったんだもんね……。



     もう、何が何だか分かんないよ。



 うちに来た、お達しは、未だ、” どうでしょうか ”くらいな文面だったけど、そもそも、その御達しが来たのが、ごく少数のお家だけ。 それも、伯爵家とか、侯爵家なんだから、もう、決まった同然とばかりに噂が、走るのよ。


 で、漏らしたのが、伯爵家とか、侯爵家の人達で、その取り巻きというか、分家の人達も、我がお嬢様こそ、その地位にふさわしいって、ワンワン吠えてるんだ。 で、宮中にもその伝手があって、お達しが我が家にも届いた事が、バレてたんだよ。



      もう学園中が大騒ぎになってるのよ。



 当の本人は、どうやってやり過ごそうかなぁ……なんて、考えてるのにね。 教室に居るとね、よそのクラスから、色んな人が見に来ているのよ。 銀髪、紅眼でしょ、私。 めっちゃ目立つのよ。 そんで、ヒソヒソ、ムフムフ、色んな囁き声が飛び交ってるの。


 なんかもう、落ち着かないよ。


 でも、まぁ、学園なんだから、授業は授業。 ふわふわ浮ついた雰囲気を一発で占めたのが、我らが鬼教師エミリーベル先生。 あの女、初日からぶっ飛ばしやがった。 膨大な課題と、メンドクサイ講義、いきなり全速力で走らされたような気がした。


 四組は、あっという間に落ち着いたよ。 もう、自分の事で精一杯になった。 にこやかに教鞭をとる悪魔が教壇に居座っている限り、私達は安泰だ。 もう、他の事には目が向かないよ。 頭一杯に、色んな事詰め込んで、ようやっと放課後に成ったんだ。 此処まで詰め込まれるのって……。 そうさね、資格試験時くらいか……。 まぁ、いい意味で程よく疲れたよ。 


 今日は、運動場で体動かすのよそうって思って、乗合馬車の停留所に向かっていたら、両側の肘をガッシリ掴まれた。




       誰!!




 そう思う間もなく、躊躇なく、校舎の影に連れ込まれた。 あぁ……ミャーに情報収集頼んで、今いないんだった……。 ちょっと、油断してた……。 でもまぁ、こいつ等くらいなら、簡単に捻れるし……いいかっ……。


 校舎の影に待っていたのは、どっかの御令嬢。 目を三角にして、私に向かって唾飛ばしながら、なんか酷い罵り声を上げていた。 支離滅裂なその罵声の、荒い言葉を抜くと、言わんとする事は、辛うじて理解できた。




      ” 婚約者候補、辞退しろ! ”




 これだけ。


 主筋に当たる方の方が相応しいから、必ず辞退しろってっさ。 簡単に出来たらスルって……。  





「はい、判りました。 お話が正式に参りました時に、御辞退申し上げます。 ()()()が許せばですが……」 





 そう云うしかないよね。 私は極めて穏便にそう言ったの。 まだ、グズグズ言い募りやがる。 もうすぐ、早便の乗合馬車出ちゃうじゃん!! クラスメイトは今日は補習だから一緒に居ないんだよ! お家に帰って、ミャーの報告も聴きたいんだよ。 早く解放してよ……。





「おい、お前達! 何をしている!!」





 でた…… 厄介な奴に見つかった……





「マクレガー様!! い、いえ、ちょっとお話をしていただけですわ!」


「取り囲んでか? 小突いている奴もいたようだが?」


「そんな事御座いませんわ! ねぇ、ソフィア様!!」





 なんでか、その、どっかの御令嬢さん、必死で私に同意を求めて来るんだ…… 目を泳がせて、必死でね。 なんか笑っちゃうよね。 上司に「いじめ」を見つけられた、大卒一般職のネェちゃん思い出したよ……。 小首を傾げながら、「ハテ?」 って感じで、そいつを見てあげた。


 盛大に脂汗流して、モゴモゴ言ってるね。 自業自得だ。 困りやがられ!





「あぁ、君達は、去年の「武術大会」を忘れたのか? 取り囲んでいるのを、ただの男爵令嬢と思っているのか? レーベンシュタイン嬢の忍耐が切れたら、君達がどうなるか、判っているのか? 君達の御実家も一緒に、吹き飛びたいのか?」





 オイオイ、そこまではしないよ。 すり抜けるだけにして置くよ……。 ほら、この子達だって、主筋の人を一番に考えているだけなんだし……。 麗しの主従関係だね。 はぁ……。 これだから、この王国の貴族って奴は……。





「レーベンシュタイン嬢、此方に……ここでは何だ、念のために養護室に向かう。 毛筋ほども、傷つけられて居れば、それなりの報告をせねばならんしな」





 手を取られ、お嬢様の集団から連れ出された。 一応、礼は言っておくべきかな? どうだろう?





「レクサス子爵様、有難うございました」


「礼には及ばん。 それよりも、胡乱な言葉を君の口から聞いた。 本心か?」


「……ええ、まぁ。 男爵家の娘が、王族の婚約者候補に成る方が、無理が有ると思います。 妃殿下も一度会えば、それでご満足されるかと……」


「判っていなかったか……」


「えっ?」





 マクレガーの奴は、何か情報持ってんのか? よっしゃ、聴かせて貰おうか。 っと、その前に、手を放してもらおう! こんな所、フローラ様に見つかったら、またどんな誤解を生むか判らんしな! あの人、マクレガーにゾッコンなんだし……。 な、放してくれ!





「手を引かないでください。 公爵家の御子息とあろう方が、不用心に過ぎます。 万が一、バルゲル伯爵令嬢様に見られては、どの様な御不興を買うかと思うと……」


「その、フローラが助けてやってくれと、俺に言って来たんだ。 誤解のしようが無い。 ……まぁ、そうだな淑女を助け出すには、少し無様だった。 許されよ」





 やっとこ、手を放してくれた。 で、なんで、フローラ様がマクレガーに私を助け出せって言ってんだ? クルクルと当たりを見渡して……二階の窓の側に、フローラ様が小さく手を振っていたのを見つけた。 


 ……たまたまだよね。


 そちらにも、淑女の礼を贈っておくよ。 はぁ、笑いながら、頭下げてたよ……。





「判ったか? レーベンシュタインは今、学園中、注目の的だ……。 養護室に行くぞ」


「はぁ……。 まぁ、お供いたしますが……。 何故?」


「ちょっと、気に成った事があったからな。 話は、あちらでする。 此処には何処に耳があるかもわからんからな」





 だよね……。 わたしは、オトナシクついて行ったよ。 こいつの持ってる情報と、” 気になる事 ” って奴も聴きたいしね。 あぁ……フローラ様も来るんか? どうも……その様だね……。 なんか、気が重いよ。






 ――――――――――――――――――――






 養護室の中に、高位貴族様対応の部屋が有るんだ。 まぁ、サボり部屋だね。 体調不良を理由に、やって来て、中で密談やら、お昼寝やら……。 ほんと、高位貴族様って、やりたい放題だね! で、まぁ、そんな部屋だから、外から聞こえない様に、色んな魔法が掛けられているんだと。 まぁ、噂では、高位貴族男女がホニャララ……する事もあるらしい……。



     学生だぞ? 



 いいのか? それで!!  まぁ、密談には持って来いの場所なんだがね……。 私達が養護室に入ると、フローラ様がすでに着いていた。 うん、気配り満点だ!! 決して、男女二人きりにしないって所が最高!! そんで、養護係の魔術師の先生に、特別室の使用許可を取ってたのよ。 


 先生、私の顔を見て、なんか納得されて、直ぐ開錠の魔法で扉を開けてくれた。


 初めて入ったけど、豪華ね。 いや、まぁ、なんだ。 レーベンシュタイン男爵家では、絶対に手の出ない調度類が置かれててね。 椅子もフワフワ。 ベッドだって、デカいのよ……。 あんな所に一回寝たら、多分一気に寝落ちするね。 ホント豪華仕様だ。


 さり気に、椅子を勧められて、有難く座る。 


 フローラ様も、もう一脚の椅子にお座りに成られて……。 おい、マクレガー! なんでベッドに寝っ転がるんだ!! 話が有るんだろ?! それに、靴を脱げ!靴を!! 真っ白なシーツが汚れんじゃないか!!





「マクレガー様…… それは、如何なものかと……」


「いや、まぁ……悪い。 俺、何かを纏まって考える時って、いっつも、コレだから、ちょっと許せ」


「えぇぇ…… 」





 フローラ様、引いてるよ……。 まぁいいや、それで何だろう……。





「それで、レクサス子爵様は、……わたくしが、判っていないと、仰られましたが?」


「あぁ、レーベンシュタインは、アンネテーナ妃殿下が一度会ったら、それでご満足すると、思っているな」


「えぇ……。  アンネテーナ妃殿下とは、一度、父上様に連れられて、【 金牛宮(トーラス宮) 】にお伺いいたしました時、お逢いしましたが、まだ、直接お声がけ頂いた事は御座いません。 去年一度、身分の低い男爵家の娘を、【 処女宮(ヴァルゴ宮) 】にお呼びに成ろうとされました。 わたくしの外見が、とある方によく似ている為……と、側聞しております。 よって、一度、お逢いし、お話すれば、それでご満足いただけるかと……」


「あのな、あの方のレーベンシュタインへの思い込みは、そんなモンじゃ済まないな……。 おれも、ダグラス殿下に付き従って、王宮に出入りする事が有るんだが……。 妃殿下とダグラス殿下がお逢いされると、必ず、レーベンシュタインの話になる……。 ダグラス殿下がどんなに話を変えようと、必ず元に戻る。 何というか……、 妄執? そうだな、そんな感じだ。 俺には、何故かは判らないが……妃殿下は、レーベンシュタインを手元に置きたがっている様にしか見えないんだ」





 うわぁぁぁ……! 特大級の厄介事だぁ~~~ エルガンルース王国の女性トップに目を付けられてるって訳だ……。 そんなに、デジェーレさん……ママに負い目が有るんだ……。 





       だ~か~ら~。





 私はディジェーレさんじゃ無いんだ。 外見が似てるだけなんだ!! 銀髪、紅眼ってだけなんだよ!! それに、私の出自は、孤児! 親は知らない事になってるんだよ!! サリュート殿下は黙っててなきゃ、私の協力は得られないってご理解されている筈だし、他に知ってるのは、ミャーと、御父様と、娼館の” おかあさん ” だけなんだよ!! 



       女性の勘か? 



 まったく、どうしようもないね。 一発お断りを狙ってたんだけどね……。 こりゃ、長期戦になりそうだよ。





「でも、何故、其処まで、ソフィア様にご執心何でしょうか? ちょっと、理解しかねます」


「あぁ、後宮でもその疑問は、幾度も出た。 どうも、御成婚前に有った騒動に関係するらしいが……。 関係者は皆口を噤むんだ……。 親父殿も含めてな。 ……気になっていた事は、その事でもあるんだ」


「マクレガー様? ” 何 ” で、御座いましょうか?」


「お母様が口を滑らした…… ” ディジェーレ様 ” ってな。 俺がコテンパンにやられた 「武術大会」に、お母様も見えられていて……、 その時に、レーベンシュタインを見て、そう仰ったんだ……。 でな、ちょっと調べた。 出て来るわ出て来るわ、そりゃ凄い話が……」


「 ”ディジェーレ=エレクトア=マジェスタ公爵令嬢 ” のお話ならば、わたくしも存じております。 マジェスタ大公家の者達は必死に隠しておりますが、社交界では有名なお話で御座いますね」


「悲劇の御令嬢に、レーベンシュタインが瓜二つという事なんだよ……。 あれのお陰で、妃殿下は子爵家から、王家に輿入れ出来たと思われてるし……。 その後も色々と比べられてるからなぁ……。 国王陛下もなにやら気に為されているらしいし……。 確証は無いがね」





 こんな所まで、その話が出回っているのか……。 いよいよ、気を付けなくちゃね。 何とも言えない顔してたと思うよ? だって、親世代のなんやらかんやらは、私にとっては、無関係だもの。 それに、今は男爵家の娘。 どんな横紙破りしても、無理っちゃあ、無理すぎの話。 





「今回のお話は……やはり、お受け致しかねます。 恐れ多くも妃殿下に置かれましては、わたくしごときにご興味をひかれましても、如何ともし難く……。 きちんと、お断り申し上げなければならないと思います」


「はてさて、 ……許してくれるかな?」





 不穏な言葉が、マクレガーの口から漏れたのよ……。









ブックマーク、感想、評価 有難うございます!

頑張っていきます!



また明晩、お逢いしましょう!!

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