第39話 夏の研鑽 立ち向かう勇気
【 授雲月 】一杯は、クラスのみんなが、レーベンシュタイン領に留まって、遊んだ、遊んだ。 元気な盛りの十二歳。 普段は憂鬱な自分の状況をこの時ばかりは忘れるぞって、そんな感じで、思いっきり遊んだ。
男子たちは、アーノルドさんに引率されて、狩りに行ったりね。 我が領の優秀な衛士さんが、ちょっとした魔物狩りも体験させてくれたらしいの。 なんでも、定期的に魔物の沸く地点があって、放り投げて置くと、あちこちに被害で出るんだって。
まぁ、魔物って言っても、そんなに強い奴じゃ無いんだ。 魔獣って云う種別に括られる、野生の狼みたいな奴だよ。 名前は、【デルウルフ】 デスじゃないよ、デルだよ! 結構鋭い牙と、毒を持つ個体が含まれる、十頭前後が湧くの。 ただまぁ、あんまり賢くも無いし、強いわけでも無いから、討伐は無理なくできるのよ。
ただね、街の人だけでは、ちょっと荷が勝過ぎるから、衛士さんが出張るんだけど、 【 授雲月 】 末の定期討伐に、我らが四組の男の子たちも参加する事になったのよ。 騎士、衛士志望の子も居たしね。 それじゃぁ、実戦してみようかって事になったのよ。
街の人達が、体の小さいクラスメイトの事心配してくれた。 でもさ、学校でね、そうれはもう、必死に勉強してる訳じゃない、身体は動くのよ。 そんで、任官試験を受けようかって思う位に、剣技やら、魔法の攻撃の型は出来上がってる。 初実戦で、ちょっと緊張してたけど、うちの領の衛士さん達が着てる、軽装備を貸し出してみたら、めっちゃ喜んでた。
安全かつ、大胆に、討伐は終了。 怪我した子も居たけど、まぁ重篤な状態じゃないし、ポーション一発で治ったよ。 その後は、温泉で大騒ぎしてた。 初戦が完勝って、気持ちイイよね。 大人の人も感心してたよ。 出来が良いって。 これから、力を付けていけば、かなりイイ線行くんじゃないかって。 衛兵長さんなんかも言ってた。
「いや、実に素晴らしい。 その気が有るのなら、是非、レーベンシュタイン領の衛兵隊に就職してほしいな。 鍛えがいが在りそうなのが、ゴロゴロしてる」
って、最大限の賛辞をくれたわ。 ほんと、今年の四組は大当たりの年みたいね。 御父様がぼそりと呟いてたの、聴いちゃったよ。
「若者が、一心に研鑽に勤める…… 全ての貴族がそうならば、エルガンルース王国は、どれ程素晴らしい国に成るか……。 彼等の行く末が、楽しみでもあり、不安でもあるな……」
そうよね、そうなのよ。 こんなに頑張ってるのに、任官出来なかったら、凹むもんね。 でもさ、なにも、エルガンルース王国の官吏に成るだけが未来じゃないよ。 うちみたいな、弱小でも男爵家。 立派に領地を持ってるし、そこに住まう人達に為に何かできる事有るよ。 みんなも同じ男爵家の子弟だもの。 何かしら感じるモノがあったんじゃない?
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それに対し、女子! あんた達、怠けすぎ!! 日がな一日、温泉三昧。 ダンスの練習って言いながら、ダンスフロアで、お喋り三昧。 なんで、私とミャーのレッスン見ながら、マックスさんの動きみてボーっとしてんの? あんた達も動きなさいよ!!
「えぇ? でも、わたくし、ダンスはソフィア様の様に上手では御座いませんから」
「れ、練習されては?」
「優雅に踊られる、ソフィア様の御姿を見ているだけで、十分で御座いますわ」
おい、お前ら!!! ……ま、 まぁ、あれだけ頑張ったんだからね。 この旅行は、ご褒美でもあるしね…… ただね、ちょっと毛色が変わってるドロテアも、ニコニコしならが居るんだよ。 ある日、小休止してる私の側に、彼女が来て、耳打ちしてきた……
「ソフィア様」
「何でしょうか、ドロテア様」
「……無茶な事、命じられてますね」
「えっ?」
「その為のダンスの練習なのでしょ?」
「えっ、えっ?」
「兄から便りが届きました。 差し支えなければ、わたくし達、兄妹の事も、当てにしてほしいですわ」
「耳がお早いですね……」
「テラノ男爵家は、宮廷に差し込まれたエルガンズの手ですわよ。 昔から仲間達に情報を渡すのは、私達の家命。 ソフィア様のお父様と、わたくしのお父様は同窓のよしみで、大層、仲がお宜しいようですね」
御父様か……。 情報を流して、それとなく あちら側を、牽制しよう って判断されたのか……。 いや、それにしても……。
「ドロテア様、この事は……」
「勿論、判っております。 当事者にしか伝えませんし、知っているという事も、表には出ません。 そういう御家柄ですので、ご心配なく」
「……協力してもらえるのかしら?」
「父の話から、ソフィア様は「避けたい」と……。 そう思われて居られる由。 間違いなくて?」
「ええ、そうですわ」
「ならば、大丈夫です。 私達の星を、そう易々と渡してなるものですか」
なにやら、黒い笑みが、可愛いお顔一杯に広がっているよ……。 ちょっと、ほんとに、大丈夫? 何気に怖いんですけれども!! そんな小声の御話し合いの後、彼女達は、ボールルームや、御茶会もどきで、色々と協力してくれた。 現在の宮廷の状態とか、人間関係とかを詳細に教えてくれたのよ。
彼女達のお姉様とか、叔母様とか、現役の宮廷侍女様が沢山係累にいらっしゃったよ。 地位は高く無いけど、王宮のいたるところに居られるから、その情報網たるや……。 噂話を色々と総合すると、まぁなんだ、赤裸々な宮廷事情って奴が垣間見れるのよ。
ある意味、変な諜報組織より凄腕よ? エルガンルース王国の防諜ってどうなってるのかしら? そっちの方が心配になって来たわ。
慌ただしく、でも、楽しかった。
ホントに、楽しかった。
クラスメイト達が、駅馬車にのって、王都エルガムに向かう。 窓から上半身出して大きく手を振ってくれてる。 見送りは、本宅の皆さん総出でしたよ。 私も最前列で大きく手を振ってた。
ホントに有難う!! また来てね! それじゃぁ、また、王都で!!
新学年で逢いましょうね!!
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【 炎天月 】 中は、領地に滞在するの。 王都に帰っても良い事なさそうだもんね。 社交シーズン真っ只中だから、あっちこっちで夜会やら、御茶会、舞踏会が開かれているって聞こえて来るもの。 王都に戻ったドロテアからも、なんでか、定期的に面白情報が手紙で寄せられてくるわ。
クラスのお嬢様方、なんか、団結してらしてね、いろんなお話を、ドロテア様にして来るらしいの。 それって、機密情報じゃない?ってなモノまで、入ってるのよ? そんで、そんな重要度、機密度の高い事柄は、【秘匿文字】で書かれていたりするのよ。 受取人当人しか読めない様に、魔法が掛けられたお手紙……。 おい、宮廷魔術師クラスの魔術師が付いてるのか!
だって、【秘匿文字】の魔法なんか、上級魔法なんだよ。 使える人、結構少ないんだよ。 それを、宮廷関係者に知れないように、使って来るって事。 ドロテア、あんたっ家っていったい何者なのよ?
味方にしたら心強いけど、敵には回したくないよね。 ホント、絶対に回したくない。
でね、その御手紙の内容なんだけど、物凄く重要な事だったの。 王妃様の御部屋付の雑務を担当している侍女さんからの情報なんだけど、今回の婚約者候補選定を引っ張ったのが、やっぱりアンネテーナ妃殿下だったの。 ほら、ダグラス王子に、私の事散々聞いて来てたって、サリュート殿下が言ってたでしょ。 あんなもんじゃ無かった。
本気で傍に置きたいと思ってらっしゃると、その侍女さんからの話で判った。 どうも、私が、ディジェーレさんの外見にそっくりって所に、関心が向いていてね、そんで、ママを放逐しちゃった事、めちゃめちゃ悔やんでらっしゃるのよ。
事有る度に、「もし、ディジェーレ様がいらっしゃったら……」 って、言い続けてたらしいのよ。 辛い王妃教育、王太子妃殿下になってからの、風当たり。 低下しちゃった、王家への求心力回復に、なんとかしようと、躍起になって、から廻って……。
前国王陛下が崩御されて、王太子から国王陛下に至高の階を昇られた、アーバレスト国王陛下の横に立ち、外交案件でも色々やらかし……。 かなり、肩身の狭い想いをずっとされて居るらしいのよ。 そこに、ディジェーレさんの外見そのままの私が、登場。
あの子、あの子、って煩い位に聞き回っているんだって。 学生で無かったら、王宮に召し上げちゃうんじゃない?って、ドロテアからの手紙にも書いてあった……。 よかった、御父様に学園、辞めたいって言わなくて……。 ヤバかったよ。
そんで、色々と調整中なんだと。 まさか私一人を、婚約者候補にする訳には行かないから、他の人の選定に時間が掛かっているんだって。 それに、私の御相手は、ダグラス第二王子なんだよ。 サリュート第一王子には、そんな事されないのにね。
つまりは、側室の子供って事で、放置されて居るっていうのが、大方の見方。 でもね、手紙の内容は違ったよ。 サリュート殿下にも、同じように婚約者候補を立てようとされたらしいんだけど、殿下自身が、固辞されたんだとか。 理由がぶっ飛んでた。
「学園卒業後、魔人王の元に条約更新を申し入れに行かなくてはならない身。 万が一失敗すれば、王国の安寧が破られます。 そのような大任を前に、自身の側に立つ人を決める事は出来かねます」
だって……。 どこまで、本気か判らないけど……。 あの人なら、そう言うね。 潔癖そうだもの。 それに、色々と考えてらっしゃる事は、間違いない。 「証人官」試験の時、そっと私に打ち明けられた、病床のサリュート殿下の頭に問いかけられた言葉。 ” 死せる命を役立ててみないか? 王国の未来を掴み取り、この先、100年の安寧の為” にって奴。 あれで、殿下は覚醒されちゃったって事よね。
それを、実行しようとしている、サリュート殿下。 殿下の肩に、エルガンルース王国の今後の100年が掛かっているって理解しても……、 間違いないよね。
それにしても、王家やら、宮廷は魔人族との条約を、どの位真剣に考えているのかな……。 そっちの方が心配になって来てるんだよ。 あっちこっちで頻発している、魔物の異常行動……。 それに対して、騎士団も、警備兵も、国軍も、全くと言っていい程、動いてないの。 あちらから手が出てないから、様子見してるって感じ。
万が一、サリュート殿下が間に合わなかったらって……そうは、考えて無いらしいの。 と云うより、” 魔人族なんぞ、恐れるに足りない ” って、そういう風潮が有るのよ。 南の帝国が、エルガンルース王国より先に、条約期間が切れて、更新しなかった。 あの帝国は、” 人族優生 ”思想が凄くて、それを主導している至高教会の力がやたら強い。
そんで、民の安寧が護られて居るのかって言うと、至高教会が、古代秘術を使って異世界召喚した 「聖女」と「勇者」が、護ってくれるから、大丈夫だと……。 南の帝国はそんな戯言を真に受け、極めて他力本願な姿勢を貫いてるんだ。
でもさぁ、ちょっと疑問があるんだ……。 異世界召喚って、そんなに簡単には出来ないんだよ。 大協約も在るし、一つの国だけが、集中して召喚魔方陣展開する事は禁じられている筈なんだよ。
だったら、何処から? って、思うじゃん。 そしたら、その辺の情報も入って来た。
「過去の勇者、聖女の子孫」に残る、因子というか、残滓というか、それを魔法で ”かさ上げ ” して、悪く言えば、「聖女(仮)」 と、「勇者(仮)」を作り上げたんだって……。 癒しの魔法が使えればいいとか、証である、勇者の剣が少しでも反応すればいいとか、その位の能力しかない人が、今、「聖女」と、「勇者」を名乗ってるんだって。
で、そんな彼らを保証をするのが、帝国至高教会の教主様と枢機卿様達。 一応、「古代秘術」を使って、魂を召喚したって建前なんだって……。 もうね、馬鹿としか言いようが無いわ。 そんな事が他国にまで漏れてんのよ、南の帝国もかなりガタ来てんじゃ無いの?
それでもさ、あっちの魔人族がどうやらオトナシクしてるらしいから、帝国至高教会の人達が、増々図に乗ってね。 「人族は至高の存在である」 なんて、ボケた事を宣言しちゃってんのよ。 ほら、ニ、三年前にあった、南部諸侯領域の魔物暴走、どうも、アレのトリガーだったみたいよ、あっちの国の条約破棄が……。
エルガンルース王国は、「勇者」の召喚に失敗してるでしょ? だから、南の帝国の情勢がとても気になってるんだって。 条約破棄しても、問題無いじゃないかって、話まで出て来てるのよ。 その先頭に建ってるのが、マジェスタ大公閣下なんだと……。 あの人、自分がエライって思われる事になら、何だって巻き込むからね……。
なんだか、きな臭い宮廷事情を、お手紙で読んで……、 一層、心を強くしたよ。
” 生き残ってやる ” ってね。
残りの夏休みは、ミャーと一緒に、ディジェーレさんの記憶である、王妃教育をしてた。 策謀渦巻く宮廷に出入りするんだったら、「武器」は絶対に必要だから。
ミャーとお互い、高め合ってその武器に磨きをかけるのよ。
夏休みに入る前に、お話が聞けて良かったかもしれない。
なにも、知らずに、いきなりだったら、此処まで用意出来なかったかも。
なんだか、慌ただしいけれど……。
「世界の意思」が、修正掛けようとしてるようだけれど……。
この世界に生きる私は、
何が何でも生き残って、
あの人に
逢うんだ!
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嬉しくて、踊ってます。
また明晩、お逢いしましょう!!




