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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 一年生
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第38話 かくも素晴らしき世界

 




 嫌な話聞いちゃったよ……。 淑女の礼もそこそこに、執務室を下がらせてもらった。 はぁ……。 なんかぐるぐるする。



 憂鬱な気持ちになって、お部屋に戻ったら、ミャーが居た。 滅茶苦茶上機嫌。 艶々のお肌で、キラキラの瞳をしてた。 いたずらっ子の表情を浮かべて、笑っていたのよ。 その笑顔に、ホント癒された。 抱きしめてしまった。





「どうしたの? ソフィア。 なにが有ったの? 御屋形様に呼ばれてたのは知ってたけど……」


「うん……ちょっとね、世界の不条理について、不可逆的何かを感じて……」


「難しい言葉は使わないで! ちゃんと話して! ソフィアの友達でしょ、ミャーは!」


「……ゴメン……」





 なかなか、話せないよ……。 勅命が掛かるなんて、ホント想定外。 それも、頑張ったご褒美みたいに言われてるんだよ? あっちでね。 御父様も頭を抱えていたし……。 きっと御父様から学園長に話は行くね。 一組編入の話だってそうだ。 なんで、そんなゴリ押しバッカリ……。 頑張って勉強してただけじゃん。 かといって、退学すれば、いきなり囲い込まれて、それこそ、王宮に入れぐらい言われそうだし……。


 だんまりで居る私に、ミャーが手を取って、引きずった。





「そんなに考え込むんだったら、一緒に行こう。 ミャーに話しづらかったら、「闇の右手」に話してみなよ。 一人で抱え込むなんて、馬鹿だよ」





 引き摺った彼女は、一瞬で、黒装束に成ってた。 そんで、私を横抱きに抱えて、窓の枠に足を掛け、夜空に飛び出したのよ。 ほんと、戦闘能力と馬鹿力は、獣人族だね。 お姫様抱っこ状態の私は、そのまま体をミャーに預け、目を閉じたの。 深窓の令嬢が盗賊に攫われる? そんな感じね。


 友達だけどね。 彼女そのまま厩の適当な馬を引き出して、私ごと乗ったの。 風を切り疾走するお馬さん。 十二歳の女の子二人だったら、そんなに重さは感じないんでしょ。 ある程度走ったなぁって思ってたら、急に馬さんの疾走が止まった。





「着いた。 温泉だよ。 行こう!」





 馬から降りて、やっとお姫様抱っこ解消。 よくあのカッコで、お馬さんに乗ってたよね。 まぁ、ミャーらしいけどね。 ロッジには鍵が掛かってたけど、二人には開いてるのも同じ。 軽く開錠して、中にはいったのよ。 薄暗かったけど。 脱衣場で着ているもの全部脱いで、温泉に向かうの。




    月がね。    しんしんとした月の光がね。



         降り注いでた。




 ボンヤリと、遠くに街の灯が見えてたよ。 素敵なお風呂は、嫌な事を忘れさせてくれる。 ミャーが隣に居てくれてる。 それだけで。 ホントにそれだけで、私は心から癒された。




      ポチャン。


          チャプン。


 並んで湯船に浸かったよ。 私達の周りに綺麗な波紋が広がるの。 二つの波紋が広がって、拡散して、やがて表面が鏡の様に平らになって……。 月の姿を写し込むまで、静寂が辺りを包み込んでたんだ。 こんな、機会をミャーはくれた。 だから、私は心に在るわだかまりを、ミャーに伝える事が出来たんだ。




「あのね……。 ミャー……。 私、王宮に参内しなきゃいけなくなるらしいの」


「馬鹿王子達が何か言ったの?」


「クソ王妃が考えた事」


「そっか……。 何が起こるの?」


「馬鹿王子の婚約者候補に推薦された」


「はぁ……。 ソフィアが一番嫌がってた事じゃん」


「そうよ、関りあいに成りたくないって思ってたのに……。 勉強を……みんなで頑張っただけなのにね」


「ソフィアの頑張りが……認められたんだよ……。 でね、その、ソフィアの云ってた、「シナリオ」ってあるじゃない」


「うん……」


「その中に、そんな事有ったの?」





 彼女の言葉に、思わず唸った。 無いよ……。 「君と何時までも」の世界じゃぁ、婚約者候補なんてモノは出てこなかった。 学園の卒業時。 百年祭の舞踏会の時に、ダグラス殿下が生涯のパートナーを指名するのよ。 だから、対象者は全学年、全生徒。 まぁ、攻略対象者が例の6人プラス私だから、結局候補らしい候補は7人だけだったけどね。 


 でも、明確に婚約者候補とは公式には認められていないよ。 単なる学園のクラスメイトだったしね。 ……そっか、私が一組に居ないから、強制的に仲間に入れる為に介入して来たんだ……。 強制的って事だったら、なにかしら手があるよね……。 ただ、流されなければ……。





「……シナリオには、無かったよ。 そんな事。 きっと、私が「四組」に居るからだろうね」


「でしょうね。 じゃぁさ、「一組」に連れ込まれるってのは、話にあったの?」


「うん、有った。 でも、学園長とか、御父様が阻止してくれるって」


「それは、心強いね。 じゃぁさぁ、そっちに行っても、シナリオのソフィアがやりそうにも無い事をやってみればいいんじゃない? どうせ目立っちゃたんでしょ? なら……」


「シナリオのソフィアがやりそうも無い事……ねぇ……」


「ソフィア、言ってたじゃん。 王妃教育は、記憶の中で完璧に終わっているって。 んじゃさぁ、今の王妃殿下と比べても、遜色ないんじゃないの?」


「そう……かもね。 ディジェーレさんへ王妃教育を施した教育係の侍女さん達は、かなりの御高齢だったから……もう、居ないよね。 その後の方々は……。 ええっと……、 いたとしても次世代か、その次の代。 後宮の主導権を握ったのは、現王妃殿下。 今は、以前ほどの侍女さん達は、存在しえないって事か……」





 暗い笑いが、ミャーの口元に浮かぶのよ。 物語の中のソフィアなら、きっと、「今」に合せようとするね。 喉元に入って、観察して、弱点を探る。 ん?弱点を探んのは、私だって得意だよ? 一人じゃないしね。 確か教育の時は、自前の侍女も連れて行く事になる筈。 そんで、その侍女は、王宮に入ったら、王妃付きの侍女に成るから、そっちの教育もスンゴイ大変な筈……。


 ディジェーレさんにピッタリくっ付いてた侍女さん達、大変だった筈よね。 で、ディジェーレさんそんな方々の分も、一生懸命勉強してたって……ファンブックに載ってたよね。 つまり……。





「ソフィア、この夏、私に王妃の侍女に成る為の勉強を教えてよ」


「大変だよ?」


「いいよ、もう決まりそうなんだろ? 私は、何処までもソフィアについて行くよ。 だから、教えて」


「……うん……ミャーは優秀だから……きっとできるよ。 もう、大半の事は出来てるしね……。 そっかぁ、その手があるのか……」


「一人じゃ難しくても、二人だったら出来るよ。 情報の収集は任せて、判断はソフィアにして貰う。 色んな所に罠が有るんだろうし、だったら、二人して喰い破ろうよ。 それに……」


「それに?」


「庶民と言うか、娼婦の娘が、王宮に入れるんだよ? マジ半端ないよ。 多分おかあさんでさえ、そんな経験は無いよ。 うはっ! なんか、ヤル気出て来た!!」





 やっぱり、ミャーが居てくれて、よかった。 白馬の王子様みたいだね。 


 もしさ……。


 もしも、ミャーの綺麗な金銀の目の色(ヘテロクロミヤ)の中に、あの人の影があったら…… 惚れてたね。 きっと。 ユリユリしてたかもしんない。 でも、居ないのよね……。


 ちょっぴり、ちょっぴりだけど、残念な気もする。 ミャーは少しずつだけど、私と同じに大人になって来てるの。 獣人と人族の良い処取りでね。 その上、めっちゃ美形……。 執事教育も施してやろうかしらね。 だって、ミャーの暗殺者装束とか、男装、滅茶苦茶 凛々しくて、華麗で……。 まさに宝塚の世界よ!!




 はぁ……なんか、思い悩んでたのが、馬鹿らしくなった。 




 月の光が、湯気を通してユラユラ遊んでいるの。 ミャーと並んで座って、肩まで湯船に浸かって……。 苦しかった心の内を吐き出して……、楽になれた。 そうよね、あっちより、上をいけばいいだけじゃない。 それで、引く。 弱みを見せずに、正しく振舞い、付け込まれない様、揚げ足を取られない様に、オトナシク、静かに、気配を消す。 


 大丈夫、二人なら、問題ない。 


 背中合わせに居れば、死角も少なくなる。 だから……ミャー、何時も一緒に居てくれて、ありがとう。


 本当に有難う。


 私、うれしいよ。






 ――――――――――――――――――――






 その晩はホントに遅くまで、お風呂に居た。 コッソリかえって、寝たのが明け方。 起き出せたのが、お昼前。 色々と衝撃が大きかったんだろうって、御父様も、お家の人も、眠らせてくれたらしいの。 クラスメイトの皆さんは……、 そりゃ、朝からあっちこっちへウロウロしてるよ。 珍しいモノばかりだって、口々に言っていたし、何人かは連れだって、街に繰り出しても居た。 主に男の子だけどね。


 女の子たちは…、大層、温泉がお気に召したよう。 本宅の侍女さんに連れられて、温泉にゴーだって。 肌の調子も良くなったって。 普段眠りの浅い子も、昨晩は、もうぐっすりだったんだって。 元気いっぱいに、温泉に行ったってさ。



 ホストとしては……。 いいや、みんなが楽しんでくれたら。 夏休みだものね。 



 御父様にお願いして、ちょっと、ボールルームを開けて貰った。 小さいながらも、有るんだよ、本宅には。 ここで、パーティした事も昔は有ったらしいんだよ。 でも、今は、うっすら埃をかぶってるの。 何をしたかっていうとね、ミャーにダンスを教えてあげたのよ。 きちんとした奴。 デジェーレさんの記憶も一緒に。 


 なぜか、必須の教育項目なんだよ。 そりゃ、外国の人と、踊らなきゃなんないしね、王妃とも成れば。 だから、ステップは多岐に渡るの。 誰とでも合わせなければならないから。 そして、ダンスの最中に色んな話をされるから、自然と動けるくらい、沁みつかせなきゃならないんだって。 


 侍女教育には、必須じゃ無いんだけど、やっぱ、やらされるんだ。 教養としてね。 立ち居振る舞いが綺麗になるからって事らしいのよ。 だから、仕込んだ。 徹底的に。 やるからには、とことんね。 ミャーの顔色が蒼くなったよ。 わたし、スパルタだからね。


 そんな様子を、お屋敷の中に残っていた子達が、覗きに来てた。 彼女達も、ほら、色々とダンスは必要だから、一緒に勉強したいって。 それじゃぁって事で、アーノルドさんに、誰か教えてくれる人いないかどうか、聞いてみた。





「うちの愚息が居ます。 まぁ、それなりには仕込みましたから、大丈夫でしょう」





 って、言って下さったの。 アーノルドさんの息子さん。 マクシミリアンさん。 マックスって呼んで欲しいとの事。 御父様のアーノルドさんを小さくした感じの、柔らかな雰囲気の中、厳しいモノも持ち合わせている、将来有望な人ね。 キラキラ感は無いけど、イケメンさん。 ほら、女子連中がポーってしてる。 それ、お風呂でのぼせたんじゃないよね? 


 マックス、ダンス上手いの。 御家柄、芸術方面に長けているって御父様が仰っておいでだったのが、とても良く判った。





「マックス様は、本当にお上手ですね」


「ソフィアお嬢様……。 貴方は何処でそのステップを?」


「えっ、まぁ、色々と……」


「今は亡き東の王国の独特のステップですよそれ。 それに、よく、それだけのステップ覚えていらっしゃいますね。 いや、感服しました。 誰かに……そうだ、妹に音を付けて貰いましょう」





 げ、芸術一家だ……。 しばらくしたら、バイオリンを持った女性が入って来た。





「ソフィアお嬢様、メレンゲと申します。 兄上から伴奏をと言う事で参りました。 拙い手では御座いますが、どうぞよろしくお願い申し上げます」


「メレンゲ様、ソフィアとても嬉しいです。 どうぞよしなに。 それと……有り難うございます」





 かっわいい~~~~!!! 物凄く可愛い人だ!! ピンク系の質素な服が、これまた、似合って、柔らかい雰囲気を醸しているのよ。 で、その御手から出る音が、まぁ、綺麗で、素直で、ダンスしやすいのなんのって!!!!!! お友達も含めて、めちゃめちゃ練習したよ。 汗だくに成るまで。 マックスさんも、嫌がらずに付き合ってくれた。


 夕方便で、メレンゲ様も誘って、温泉に行ったのよ。 先に来てた子達は、伸びてるよ。 みんな一緒に入れた。 いろんなお喋りをしたの。 情報交換って奴さね。 たのしかった。 本当に、心の底から楽しかった。


 夕ご飯は、また豪勢な食事だった。 男の達が、街に行って色々とお話して来たんだって。 それで、地元の漁師さんのお手伝いまでして来たんだって。 凄い気さくだよね。 ほら、みんな男爵家の二男とか三男とか多かったから、何でもしないといけないって、そう叩きこまれてたからね。


 お礼を貰えるほど、色々して来たみたいね。





「もしさ……。 もし、任官する事が出来なかったら、この領に来ても良いか? どうせ、うちの家じゃ、俺に爵位なんてくれないから、ここで、皆さんと一緒に暮らしても問題無いからな。 ほら、読み書きも出来るし、そんなら、事務職でも出来るし。 おじさん達にも、俺達気に入られちゃったらしいんだ。 お手伝いしたら、色んなモノを貰えてね。 本日の夕食にして貰った」





 いや、凄い、バイタリティだね。 目を丸くして聞いてしまったよ。 





「でも……」


「あぁ、勿論何処にも任官できなくて、家で燻る事になった時の話だよ。 まずは、任官を目指すから」





 よかった。 まぁ、セーフティネットって訳だ。 なら、問題ない。 そうでしょ、御父様! 有能な方が、御領地にいらして下さるって、良い事よね。 ニコニコ御父様に笑顔を振りまいたよ。 ちょっと、困った顔されてたけど、まぁ、それもアリか って顔に出されてたよ。


 お夕食の後、各人がお部屋に戻られた時に、御父様に話し掛けられたんだ。





「ソフィア、覚悟を決めたのかい?」


「ええ、罠なら喰い破りますし、単に顔を見たいだけなら、気配を消します。 決して揚げ足を取られたり、言質を与える様な無様は晒さない様に致します。 ただし……」


「ただし? ……ミャーと一緒ならって事だね」


「ええ、まさしく。 それが唯一の条件であり、認められなければ、お断り申し上げます。 初回に御訪問致します時に」


「……根回しは、任せて置いて欲しい。 出来るだけ、回避するが、出来なければ、君の条件を押し付ける」


「はい、御父様。 何卒、宜しくお願い申し上げます」


「……この間の様に、オネダリしてくれたら、もっと力が出るんだけど?」





 ちょっと、引いた。 でも、その位ならと首に抱きつき、ちょっと、恥ずかしいけど、耳元で囁くように口にしたよ。







「ありがとう! 御父様、大好き!!」








感想、ブックマーク、評価、誠に有難うございます。

中の人の活力です。 本当に有難うございます!!



また、明晩、お逢いしましょう!!

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