第36話 学年末末試験そして……
【授雲月】 学年末試験がある月。
もう大変な想いをしたよ。 試験期間は、7月である、【授雲月】 の第二週。 まぁね、任官試験を受ける人も一杯いたからね。 わたしは別口の、学年末試験なんだけどね。 やっぱ、先生、難しい方に合せて、授業をしやがるんだ。 まぁね、勉強する所は被ってるからね。 でもさぁ、基本となる所と、任官試験に出る所なんか、次元が違うんだよ。
頑張って、ついて行ったけどね。
辛かったのが、《法律》の授業。 こんがらがったよ。 ただでさえ、言葉が難しいのに、ダブルスタンダード噛まして来やがって、ほんとめんどくさかった。 要は、高位貴族、低位貴族、庶民って、三階層に分けて考えなくちゃならんかったのよ。
例えば……三階層の人達が、同じ罪を犯したとする。
高位貴族は、無罪。 低位貴族は罰金、そして、庶民に至っては死刑とか流罪とか……。 もうね、やってらんない。 さらにね、罰則の偏重が酷いの。 金貨一枚で、首が飛ぶって云うのは、庶民の話ね。 それにさ、階層間の犯罪に関しては、それはもう酷いモノよ。
日本の 「 江戸時代 」 じゃ無いんだよ。
「 無礼討ち 」みたいなものが多いんだよ。 いくら、貴族側が悪くても、しわ寄せは庶民側。 ほんと、腐り切ってるね。 なんか、胸が苦しくなったよ。
せめて、みんな同じ量刑ならねぇ……。
クラスメイトにも、この話は切実だから、真剣に勉強してたよ。 法治国家って言う割に、そう言う面では、封建的なんだ。 だから、庶民の方々は、貴族に関わらない様に、息を潜めて暮らしているんだよ。 他の国は如何なのかな……。
先生は苦笑いしてたよ。
どっちの意味でだろうね……。
なんとか、社会の仕組みを理解して、自分の中で擦り合わせして、無理矢理飲み込んだよ。 こんな、クソみたいな、法律運用するって、この国の法務官達って……、 クソか、聖人かのどちらかだろうね。 まぁ、高位貴族さん達が多いから、御察しだけどね。
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試験はさ、大講堂で同時に行われたよ。 一般の学年末試験だけどね。 そう、私が受けた方は。 一組の皆さん、二組の皆さん、三組の皆さん、そして、四組のちょびっと。
うちら四組の大勢は、任官試験を受けに行ったから……。
小馬鹿にされて帰ってくるかなぁ……。 でも、上昇志向はみんな在るしね。 何が何でも、卒業までに職に有り付かないと、それこそ、庶民並みに落ちちゃうんだもの……。 家格の問題が有るから、それより酷いかもね。 下位貴族の二男以下は、ホントに悲惨よ。 女子達だって、同じだからね。 嫁に行って安泰なんて、夢でしか無いモノ……。
四組はほんと、そう言う意味で、切実なんだよ。
だから、頑張った。 みんなも、私も頑張ったよ。 寝る間を惜しんで詰め込んで、頑張ったよ。 試験が明けた日なんか、私も含めてみんな、ゾンビみたいになってたよ。 疲れ切って、口を開けば条文やら公式やら呟く…… 眼の下にクマ作って、ユラユラ歩くさまなんか、ほんと、薄ら寒いモノを感じるくらいだった。
でも、終わった。 やっと終わった。
やっほい!!
試験終了から、三日間はお休み。 みんな、お家に帰って、惰眠を貪るの。 男女問わずね。 私もまた、同じ。 ミャーに引き摺られる様に、タウンハウスに帰って、沐浴して、ベッドにゴー! 夢すら見ない、深い眠りに、家の人達が心配してくれた程ね。
今年の四組は、一味違うって、学園でも噂に成ってたみたいよ。
お休みの間に、御父様にお願いしたの。 クラスメイトの希望者募って、御領地の温泉に行きたいって。 御父様、笑ってお許しくださったわ。
「よく頑張っていたからね。 いいよ、アーノルドに連絡しておく。 ついでに特別便の駅馬車をお願いしよう」
「有難うございます。 皆様、楽しみにしておられましたから」
「だろうね。 最初に、君に相談された後、他家の人達にも話を貰った。 《本当にお邪魔してもよろしいのですか》ってね。 君の学友は、お家の方にもお話していたようだね。 よほど辛かったんだね。 知っているよ。 でも、今、頑張っておけば、いずれ、それは自分達の力になる。 なるよ必ずね。 だから、ちょっとした、ご褒美だ」
「御父様……」
「あっちは、どうとでもなる。 食べ物だって、問題無いよ。 寝る所は……まぁ、高級宿とはいかないが、相応には用意できると思うよ。 たとえ、君がいる組の全員が来たとしてもね」
「ありがとう! 御父様、大好き!!」
子供らしく、抱きついてお礼を言ったの。 御父様の普段とは違う、フニャってした笑顔が見えた。 なんか、可愛いね。 ミャーもニッコニコで見てたよ。 その日から、御領地へ帰る準備を始めたんだ!
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結果発表!!!
まぁ、廊下に順位が張り出されるだけなんだけどね。 何故か答案は返却されないのよ。 不正の匂いがプンプンするね。 でもいいんだ、出来るだけやったから。
各教科の順位と、総合の順位が張り出されて居るんだ。 上位百位までなんだけどね。 だって、それ以下の人の順位が張り出されたら、トンデモナイいじめが発生しそうだしね。 上位百位だったら、多少やっかみが発生するくらいだし…… 妥当かな。
あぁ、あんまり酷い成績だと、個別に先生に呼び出しを受けるそうよ。
四組の大勢いる、任官試験受験者は、みんな先生との面談有るんだけどね。 色々とアドバイス貰うみたいね。 結果発表が張り出されている間、任官試験組は先生と面談してたみたい。 悲喜交々な表情だったからね。
それでも、十分いい感じの手応え合ったみたいなのよ。 当然任官できるような人は居なかったけれど、それでも、何処が足りなかったか、各人が確認できたらしい。 お友達と一緒に廊下に張り出されている結果を見に行く時に、任官試験組が朗らかに笑ってたよ。
「レーベンシュタイン嬢! 何時も、補習に付き合ってくれてありがとう! おかげで、いい線まで行けた」
「それは、ご自身の努力の結果ですわ、ルーク様。 どうだったのですか?」
「あぁ、もう少しだった。 このまま学習していけば、来年には合格を貰えるかもしれないと。 返却しては貰えなかったが、答案を見せて貰えた。 自分でも驚いているが、本当にあと少しだった」
「それは、ようございました。 未来を掴めそうですか?」
「あぁ、そうだね。 頑張るよ」
にこやかに微笑んでいるルーク。 そうだね、頑張れば、潜り込めるよね。 自分の為に、エルガンルース王国の為にもね。 願わくば、横暴な官吏に成らないで欲しいな……。 頑張ろうね。
でね、廊下に張り出してある順位表を見に行ったのよ。 上位はきっと一組の皆さんだから、いいとして、百位から、見て行くの。 まぁ、総合順位が全てだからね。 それに集中して……、 お友達たちの名前があったのは、五十位前後。 四組の普通の試験としては頑張ってるよね。 なんせ、下駄なんか履かせてもらえないし。 実力よ実力。
それで、五十位前後って、凄いんだからね。 みんな、キャーキャー言ってるよ。 良かったね。
でも、私の名前無いよ……。
順位表には、ご丁寧に、得点まで記載されて居るから、どの位の正答率かも判るっちゃぁ判る。 そんなに間違えたかなぁ……。 キャーキャー言ってる、お嬢さん達を残して、もうちょっと上位を覗いてみるの……。
無いなぁ……。
やっぱ、百位以下なのかなぁ……。 まぁ、二十位以上って事は無いだろうからなぁ……。 あそこから先は、一組の皆さんのご用達の場所だし……。 そっか……。 百一位って事でいいかっ!
キャーキャー言っている、お嬢様達の元に戻ろうとしたら、声が掛かった。
「レーベンシュタイン! おまえ、凄いな!!」
ん?誰だ? あぁ、マーリンか。 で、何が凄いんだ? キョトンとした顔で、マーリンの顔を見ちゃったよ……。 いったい、何の事だ?
「見て無いのか、こっちへ来い!」
いきなり、手を引っ張られた。 おいおい、淑女の手を、軽々しく触るなよ!! まったく!! それでね、連れて来られたのが、別世界なんだ。 なんで、一組の皆さんが居るのよ。 キラキラオーラが眩しいよ。 ダグラス王子もいらっしゃったから、慌ててカテーシーを決めて置く。 ほら、挨拶は大事だからね。
「お前、体術とか、魔術だけじゃなくて、頭も良かったんだな……」
今度は誰だ? キラキラの中に居たよ、脳筋悪ガキが……。
「なんでしょうか、皆さま揃って……。 アルファード子爵様、それに、レクサス子爵様も! 何の事でしょうか?」
「アレを見ろよ!」
促された先には、総合順位の上位二十位圏内の大文字。 なんでか知らんが、私の名前が有るんだ。 一番上に……。 何だコレ? 正答率98.5% って……。 どういう事だ? めっちゃ渋い顔をした、ダグラス王子が、私に向かって言い放ったよ。
「次は負けぬ」
「えっ?」
「次は、負けぬからなっ!!」
プイって向こう向いて、足早に去って行かれた。 キラキラオーラが怒りのオーラに見えてたよ……。
「ダグラス王子、最初の挫折ってか?」
「言い過ぎだぞ、マクレガー。 ……まぁ、言いたい事は判るがね。 しかし、レーベンシュタイン、凄いな。 男爵家だと優遇処置も無いだろうに」
「ええ……まぁ……」
「もっと喜べよ! 一位だぜ、一位!」
い、いやさぁ、なんで、こうなった? 頑張ったよ、確かに頑張った。 でも、これは……。 「君と何時までも」の中のソフィアも、頭良かったけど、流石にダグラス王子を抜くってことは無かったよ……。 これ、目の敵にされるフラグかねぇ……。 どうしよう!
「おい、エルヴィンが凄い目で睨んでるぞ」
「あぁ、アイツもか……。 プライド高いからな」
「って、お前はいいのかよ」
「俺は魔術師だ。 他は気にしていない。 魔術の単位は、なんとかレーベンシュタインの上だったからなっ」
「と言う事は、一位か! かぁ~~~~ すげぇな。 俺は体術、剣技は、レーベンシュタインを抜いたが、騎士団で鍛えられてるから、当たり前っちゃぁ当たり前だけど、それでも、レーベンシュタインは、俺に次いで二位だ。 まぁ、最初の「武術大会」で、アレだったしな!」
言いたい放題だな、コイツら。 いたたまれれないよ。 さっさと、どっかに行きたいよ。 放して呉れよ……。 で、なんで、フローラ=フラン=バルゲル 伯爵令嬢、フリュニエ=リリー=フォールション 伯爵令嬢、キャメリア=デイジナ=フィランギ 侯爵令嬢 が揃って、寄って来るんだ!!!
「凄いですわね、ソフィア様。 どのくらいお勉強すれば、こんな素晴らしい成績が納めらるのでしょう?」
「い、いえ、はぁ……まぁ……」
「お話、伺いたいわ。 サロンに御一緒して頂けませんか?」
「え、いや、その、わたくしなど……」
「いいでしょ、わたくしも「お話」伺いたいの。 父から、ソフィア様の事をチラと伺っておりましてよ?」
おい、宮廷魔術師のおっさん!! なに言いやがった!!! サリュート殿下に《首》飛ばされるぞ!! おい、マーリン、なんでニヤニヤしてやがる!! お前に取っちゃ、私は憎っくき敵だろうが!!
おい、やめろ!
おい!!
連れて行くな!!!!
拉致監禁で訴えてやる~~~~!!!
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連れ込まれたサロンで、質問攻めに有ったよ。 何故か途中で、エルヴィンも乱入してきやがった。 そんで、試験問題の中で厄介な奴についての、議論おっぱじめやがった。 もう、拝聴するしかねぇ……。 小さくなって、気配を必死に消そうとしてるんだけど、マーリンの奴が、いい感じに振ってきやがる。
くそっ!
クソッ、クソッ!!
お前らとは、お近づきに成りたくなかったんだよ!! 一生懸命、こいつらをよいしょして、お嬢様方をよいしょして、近づかない様に、置物になって……。
馬鹿らしい!!
本当に馬鹿らしい!!!
高位貴族さん達に囲まれて、キラキラオーラを存分に浴びせかけられたんだ。 消耗したよ。 そんで、サロンの中に居る他の人達にも、なんか近寄って来て……。 あのね、ほんと、此処に私の居処なんて無いのよ。 お願いだから、教室に帰して。
美味しいんだろうけど、味なんか判んないお茶で、お腹膨らまして、ぐったりし始めた頃、やっと解放された。 ほんと、私、場違いなんだよ。 恐縮して、縮こまって、色んなモノを躱して、やっとの事で、教室に戻れた。
机に突っ伏して、ハァハァ言ってたら、お友達に囲まれた。
「「「「「 ソフィア様!!! 凄いですわ!! 一位!!!!!! 」」」」」
お前らもか! でも、ここは私のホーム。 顔に笑顔が戻ったよ。 みんなで頑張ったもんね! 補習、補講、膨大な課題、色んな辛い事、一緒に乗り越えたんだもんね!
「皆様と、一緒に、勉強できたからですわ! ソフィア、本当に嬉しく思います!! ……あの、皆さま、例の件、御父様に承諾を戴けました。 如何でしょうか?」
「御領地の保養所の件? 勿論! 行きますわ!!! 是非!!!」
「「「 是非!!! 」」」
ほんと、前のめりに食いついて来た。 判ったよ、良いよ、みんな、頑張ったもんね。
御父様からのご褒美なんだ。
みんなで、一緒に行こう!!
御領地の温泉!!!
初夏の温泉も、
乙なもんだよ!!!
楽しみだね。
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嬉しいです。 読んで下さった方、感謝です!!
それでは、また明晩、お逢いしましょう!!




