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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 一年生
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第35話 学年末試験への準備

 



 篠突く雨。 激しくは無いのよ。 シトシトシトシト って、地味に滅入る季節の到来。 日本で云う梅雨時期なのね。 もう、毎日毎日、雨ばっかりなの。




 そんで、そんな月の名前が、【 穀雨月イヴァンタール 】 




 その月に有ったのが、「文化祭」なのよ。 でも、まぁ、一応、なんとか、無事に終わったよ。 それまでは何となくもっていた天気が、「文化祭」を境に雨ばっかりになるの。 【 穀雨月イヴァンタール 】も終わる頃、太陽が懐かしく思える日々が、続き倒しているの。



 でもさ、いいんだ、次の 【 葉採月ブレタール 】は、学校行事が何にも無い。 と云うのも、学年末総合試験が、有るからね。 初年度から、五年次までは、学年末試験だけど、六年次は任官試験も兼ねてるから、最上級生の方々は鬼気迫る様子なのよ。 今からよ? ほんと、下級貴族の子弟にとっては、それで未来が決まるから、必死よね。


 優秀な方は、六年次を待たず、任官試験を受けることも出来るの。 だから、早めに受けて、チャンスを二回、三回って広げる人もいる。 下級貴族の方々はほとんどがそうするんだけどね。 で、その任官試験を受ける最低年齢なんだけど……。 なんと、十二歳。 つまりは、一年生から受けられるって事。 


 理由は、……まぁ、王族用なんだけどね。 昔は、それこそ、文句ない天才が王族に沢山いたらしいの。 でも、今は、単なる箔付けだろうね。そんな噂聞いているんだ。 なんでも、王族用の試験問題と、下々の私達の試験問題じゃ、難易度が全く別物なんだと。





 掬いあげられるモノと、振るい落とされるモノの差だね。





 まぁ、どうでもいいけど、私達も、やるだけはやるって事だよ。  【 葉採月ブレタール 】 に入ってすぐ位に、 エミリーベル先生よりお話が、クラス全員に有ったの。





「この一年、皆さんはよく学ばれています。 自身の出来を確認する為、一度、各人の行きたい部署への任官試験を受ける事も出来ます。 わたくしは、あなた方の卒業後の進路も相談に乗っております。 全員とは言いませんが、少なくとも官吏を目指している方は、本年より任官試験を受ければ良いと、判断いたします。 不合格でもなんら罰則は有りません。 むしろ、その向上心をわたくしは、高く評価したいと、そう思っております」





 朗々と演説口調で、クラスメイトに語っているエミリーベル先生……。 ちょっと、怖いよ。 あんた、私達をどうしたいのよ! で、一応、クラスの皆に、任官試験受けるかどうか、希望を聞く為に、一人一人面接しだしたんだ。 あぁ、放課後に数人づつね。


 ヤル気がある男爵家、二男以下、お家の厄介者になりそうな人達は取り敢えず受ける事にしたみたい。 馬鹿め、それが、あの先生(くそ女)の策略だとも知らずになっ! 初級任官試験とはいえ、本来は六年次に受ける様な内容のもんだぞ? それを一年で? 詰め込まれっぞ! 死ぬほど勉強させられるに決まってる。 


 いい線行ったら、それ全部教師の評価に繋がるんだ。 ……先生(くそ女)が、それを知ってやってるかは別だけどね。 なにせ、” 善意 ” の塊だからねっ! 


 善意でもって、人を追い詰める……。 ほんと、厄介な人だよ……。



 で、私の面接の番になった。 なんでか、最後だったよ。





 ――――――――――――――――――――






「わたくし、任官試験は受けません」


「はい? ソフィアさんは、受ける必要がありませんよ?」





 面接に入って、先生に任官試験を受けるつもりはねぇって、告げたとたんに、開口一発、不思議な事言われた。 受験しないって言ったら、なんだかんだ文句言って来ると思ってたんだけどねぇ……。 それを、「受ける必要が無い」……って、どういうことだ?





「だって、貴女、《認証済 証人官》なんだもの。 今は、サリュート殿下の指示で秘匿され凍結されていますけど、エルガンルース王国に二人と居ないんですから、すでに任官等、登録済みです。 だから、任官試験は不必要なんです」


「えっ?」


「不必要なんですよ。 どんな高位の貴族様でも、……そうですね、たとえ王家の人だって、あなたの承認印が押印された、契約書は破棄できません。 大協約の元、貴女の指印は、強い強制力を持つことになるからです。 それに、《認証済 証人官》は、エルガンルース王国の階位では御座いませんよ。 この世界のことわりを知る、全ての国々共通の、契約の大精霊様から直接任じられる、「者」だからです。 もし、貴女がエルガンルース王国国籍を失い、王国を離脱するならば、他国が放って置く事は無いでしょう。 秘匿はしておりますが、あくまでも、サリュート殿下の希望です。 他国の証人官試験を実施する役所の人達には、すでに通達、登録済みです」


「すでに、囲い込まれた? そう言う事ですか?」


「わたくしも、まさか、貴方が「認証済 証人官」に成られるとは思っていませんでした。 長い年月を費やしても、「準証人官」 又は、「証人官補」くらいしか、認められないものですしね。 契約の大精霊様の御降臨があった事など、ここ百年記録に御座いませんから」


「……」





 ちょっとでもいいから、私の立場を良くしようとして、無理くりに捻じ込んだ結果の事か……。 ほんと、傍迷惑。 私の意向とか、意思とか、願いとか、全く無視してるんだもの……。 言葉を失ったよ。





「と、言う事で、ソフィアさんは一般の学力試験を受けて貰います。 これも、サリュート殿下の思し召しです。 目立たさない様に、国の高官共に知られぬようにとの事です」


「……はい、承りました」


「でも、試験は頑張ってね。 貴女よく勉強してるもの。 実力さえきちんと出せれば、上位に食い込めるわ。 いくら、下支えされても、届かない者は届かないですからね」





 先生の言いたい事は何となく判った。 そうさね、上位貴族の人には、なんだかんだと下駄履かせて、得点の水増しを図っているからね。 下位貴族にはそんな恩恵は無いから、実力だけで得点を重ねなきゃならんのさ。 それでも、上位を狙えるんだよって……ってね。 わたし、そんなに出来良くないよ? 


 前世の記憶があるから、カバーできているものも多いんだよ……。 


 まぁ、頑張るけどさ。 ちょっとした意地も在るしね。 取り敢えず、いい点取ってたら、見下される事も無いしね。 舞踏会や夜会、茶会に忙しい皆さんより、学習に十分な時間が取れるからねっ!


 トボトボ、面会室を出た。 なんか、凄く凹んだ。 すでに絡み取られてた。 ほんと、RPGの世界にようこそだぞ……。 あの殿下の事だ、きっと私を巻き込む。 何を狙ってるのか知らないけど、世界の意思が強く何かを強制しない人物だからね。




 あの人も、足掻いているのかなぁ……。




 少なくとも、エルガンルース王国が弱体化して、王家の求心力が落ちて、瓦解するのを防ごうとしている様に感じる。 ダグラス王子が、順調に恋愛脳に育ってるから、余計にそう感じるのかも……。 ほんと、気を付けないと。 



――――――――――――――――――――




 学園からタウンハウスに戻る乗合馬車の中で、ちょっと塞ぎ込んでた。





「お嬢様、如何致しました?」


「ええ、何でもないわ……」


「お部屋に戻ったら、何なりとお申し付け下さいませ」


「有難う……。 そうさせてもらうわ」





 乗合馬車で一緒の人には、何てことない会話だけど、これ、ミャーとの一種の合言葉。 私が凹んだり、ミャーが何かを掴んだりした時の常套句。 「お部屋に戻ったら」って云うのは、人払いをした私の御部屋に帰ったら、「何なりと」って云うのは、ミャーが友達モードに成るって事。


 ヤバい話なら聞くし、「闇の右手」の出番なら、準備をするよって、意思表示なんだ。


 顔を上げて、ミャーを見る。 彼女の金と銀の瞳(ヘテロクロミヤ)が、心配そうな光を浮かべてるの。 無理して、笑顔を作ってみる。 さらに、心配させちゃったみたいね。 もうすぐ……お家。 



 なんか、泣き出しそうになる直前だけど……、


 なんとか、意地はって頑張ってみる……。



 ミャー 胸かしてね。



 状況に追い詰められて……、



 胸が苦しいの……。





********************





 まぁ、面接が終わってから、私達の組は、阿鼻叫喚の連続。 膨大な教科書と過去問題。 特に文官を狙ってた人、ご愁傷様。 



      一番の問題が、「法律」 「領地経営」 の二つ。



 曲がりなりにも、エルガンルース王国は法治国家。 至高の法典も存在する。 任官試験を受ける為には、大協約関連の法も必須。 その量、膨大なんだよ。 同じ組で勉強するってんで、一般の学力試験を受ける人も、同じ教科書で授業が行われたのよ。




       酷いよね。




 でも、私の頭の中には、この学園を卒業間際までいた、ディジェーレさんの記憶があるし、その上彼女、王妃教育もしっかり勉強してたから、その辺の知識もバリバリなのよ。 すぅぅっと、頭に入って来た。 体系がそのまますんなりね。 


 私は苦労しなかったけど、クラスメイトの皆さんは、物凄い勉強量に成る訳よ……。 メンドクサイ法律用語とか、矛盾する記述とか、法律とかにね。 で、一緒に放課後残って、自習とか補講に付き合ってあげた。


 まぁ、私にとってもいい経験だよ。 「領地経営」なんかは、直ぐ実践に移せるしね。 だって、うちの領地、それでなくても弱小だし。 この国のシステム知ってるのと、知らないのでは、天と地の差に成るよ。


 同じ男爵家だけど、お嬢様方って、あんまりそう言う勉強してないみたい。 どちらかと言うと、社交とか、子育てとかを主にするらしいから…… まぁ、なんだ、大変なんだ。 


 日増しに増大する課題に、お嬢様たちが音を上げ始めてるんだ。 そんでさぁ…… なんか、楽しい事無いと、この状況に逃げ出す人出て来るんじゃないかなって思って、提案してみたの。





「学年末の試験が終わったら、夏季休暇です。 レーベンシュタイン家の領地に、ちょっとした癒しの空間が有ります。 もしよろしければ、夏季休暇を我が領地でお過ごししませんか? きっと、楽しいですよ?」





            露天風呂さ! 




 あれ、多分、アーノルドさんが仕切って、素敵空間を作り出してる筈。 報告書にもあったしね。 今度行くのがとっても楽しみなってるんだ。 だから、みんなを誘ってみた。 食いついたね。





「ど、どんなところですの?」


「ええ、我が領「フタイン」にある、癒しの空間ですわ。 まだ、余り知られて居ない場所ですの。 湖水がとても美しくて……」


「行きたいわ!」


「わたくしも!!」


「では、皆さまが来られるように、御父様にお願いしておきますね」


「「「 是非!! 」」」





 眼の下にクマを作ったお嬢様方……。 ほんと、娯楽に飢えてるからね。 さぁ、頑張ろうね。 もうちょっとだよ。



         学年末試験。



 高位貴族の奴等に、目にモノを見せつけてやろうね!!







           おー!!





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誠に有難うございます。 心が温かくなります。


今後とも、宜しくお願い申し上げます。



また、明晩、お逢いしましょう!!

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