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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 一年生
33/171

第33話 査問会

 




 どうしてこうなった?





 私、悪い事一つもしてないよ。 単に、模擬店で莫大な利益を上げただけだよ。


 それだって、着服した訳じゃ無いよ。 全部、学院に納めて、今後私達の組が使う消耗品を贖ってもらうって事にしたんだよ。 だから、何が悪いのよ!!!





「レーベンシュタイン。 他のクラスから、君のクラスの模擬店が、不正を働いたと告発があった。 その真偽を問いたい」





 冷徹な目をした、キンキラのオーラを纏った、一人の男子生徒が、私を睨むのよ。 勿論、反論する為に、色んな資料と、お願いして交渉を担当してたクラスメイトも後ろに控えている。 資料は莫大な量だよ。 だけど、そんな事、この目の前に居る男子生徒には、どうでもいい事らしい。





「ご不信が有るのであれば、全てお答えいたします。 まず、不正と云うのが、どういった事なのかを、ご指摘いただければ幸いです」





 対峙している私は、落ち着いて相手の目を見返しているの。 前世でさ、何でか知らんけど、税務調査に来た、国税局の税務官なんか、これより酷い酷薄な表情しとったからな。 何が何でも分捕ってやるって表情。 全部叩き返したよ。「 解釈の違いです 」 「 税法上は問題ありません 」 「 判例では、無罪になっております 」 なんでか、公認会計士資格を持ってる私が、なんか矢面に立ってたよ……。


 それに、比べれば、軽い、軽い!!





「学院で供せられた資金の不正使用の疑惑、及び、学院への納付金額が多すぎる事への疑義…… 他のクラスの寄付金と比し、多すぎる故に、何故こうなったかの説明を求めたい」





 はぁ……。 馬鹿じゃ無いの? 納付金額が多すぎるって……? 真剣に商売しただけだよ……。




 事の起こりは、【穀雨月(イヴァンタール)】 に行われた、ビューネルト王立学園の、「文化祭」 学園外の人が、学園の生活に唯一触れられる機会でもあるのよ。 一部模擬店は、一般開放もされてて、そこで買い物もできるの。 私達のクラスが、そこで、「ポーション屋」を開いたのよ。




      そう、お金儲けをする為にね。






 ――――――――――――――――――――






 クラスでさ、「文化祭」に何をするのかって、紛糾したの。 ほら、私が居る組って低位の貴族の巣でしょ、だから、回って来る予算だって、極僅かなのよ。


 王族、高位貴族が居る一組なんか、豊富な予算を背景に、プチ舞踏会を開催して、参加者に寄付を募るって言ってた。 ほんとに、ガッツリ、予算分捕ってったよ。 まぁ、王族も居るから、有りっちゃぁ有りなんだけどさ、他のクラスにしてみればたまったもんじゃないわよ。 


 その他の組も、なんか「芸術!」って事で、歌ったり、踊ったり……。 そんで、被服費とかに予算を分捕って行くの。 結局、残り滓しか、私達の組には来ないの。 ほんと、ビックリするぐらい少ないのよ。




     毎年そうなんだって。




 兄様、姉様がいらっしゃる、クラスメイトが、自嘲気味にそう教えて下さったの。 先生もあきらめ気味。 でね、毎年、華やかな他のクラスを横目に、会場の端っこで、ちっさくなってんだって。 売るものも無いし、予算だって極僅かだし。 最終的には、配布された予算をそのまま、返納して終わり。 


 で、他のクラスに蔑まれて、冷ややかに見られて……。 それにさ、こないだあった、園遊会。 あれも、相当、痛手になってるのよ。 無理して出席したから、他家の方々、もう家計は青色吐息。 なんかしようにも、先立つモノが全く無いのよ。 


 レーベンシュタイン家だってそうよ。


 でもね……。 やられっ放しって、どうかと思うの。 下位貴族には、下位貴族なりの矜持も有るのよ。 それに、学園で使う教材の費用だって、馬鹿に成らない。 みんな貧乏貴族なんだから、切詰めて切詰めて、それでも足りない、必要経費。 使い回しの教科書、型遅れの実験器具、上げればキリがない。 


 ここらで一発当てて、なんとか、この状況をどうにかしないと、授業にも差し障るのよ。


 ほら、私達の先生、無駄に高レベルの授業してるからね。 使う器具とか消耗品とか、バカ高だし。 実験だって、クラス全員で一回切りとかあるもの。 せめて、使う消耗品くらい……はい、最下層貴族には回ってきません。 一組だと、ポイポイ使い捨てられる、まだ、残存魔力が残っている魔石なんかでもいいんで、回してくださいよ……。


 こちとら、低品質のちょびっとしか魔力を貯めてない魔石を絞り出して使ってるんですから!!


 てな感じで、考えました。 この貰った少ない予算で、ドカンと一発儲ける方法を。





「あの……皆様……皆様で作った、ポーションを売りに出すというのは、如何でしょうか? 幸い、学園外の人達も、「文化祭」の日には来られます。 体力回復薬、魔力回復薬などは、街の冒険者様達の必需品。 更に言えば、昨今の頻発する魔物達出現に、街では薬品類の値が高騰していると、側聞いたします。 学生の作った薬品でも、幾許か値引きしても販売できると思いますが?」


「いや…… それにしても元手が少なすぎる。 原料となる、薬草を購入するとしても、それ程の量にはならない」


「はい、単に薬草類を購入するだけならば、少なすぎます。 ……冒険者ギルドに、依頼を掛けます」


「はい?」





 クラスメイトさん達が、なんか驚いているね。 簡単な事だよ。 まず、この少ない予算で、冒険者ギルドに依頼を掛ける。 薬草類何でもいいから、もって来て欲しいって。 予算は、最初の一回だけ。 後は、もって来てもらった薬草をポーションに錬金して、それを支払いに充てるの。 高騰してるから、品質のそれ程高くないモノでも、良い値段で買ってくれるよ? それを回すの。 依頼の報酬と、引き渡すモノから、10回も回せば、かなりの量の薬草が手元に残るって。


 説明したら、みんな、急に乗り気になってきたから、「頑張ってみましょうよ」って、言ってみたの。





「レーベンシュタイン嬢が、珍しく意見を述べてくれた。 いつも、静かに黙っているのにな。 よし、わかった。 やってみよう」





 ルーク、ドミニク、ドロテア 有難う。 で、私は、ミャーに言って各ギルドに繋ぎを付けて貰ったの。 ほら、挨拶は大事でしょ? 商売しますよって、商工ギルドに。 ポーション作るから買ってねって、冒険者ギルドに。 邪魔しないでねって、暗殺者ギルドと、盗賊ギルドに。 それぞれお願いしたのよ。


 薬草類の入手経路を整えた後、エミリーベル先生の指導の元、ポーション作りにとりかかったの。 魔法クラスのクラスメイトさん達は、みんな、銅級の錬金士の資格を持ってるのよ。 これ、先生の押し付け。 ただ、この時ばかりは感謝した。 だって、売れるポーションを作るのには、どの級でもいいから、錬金士の資格を持って無いといけないからね。


 嬉しい誤算もあったの。


 馬鹿二号。 手伝ってくれたの。 マーリン=アレクサス=アルファード子爵がね。 あの人、一組なんだけど、手が空いたからって、来てくれた。 何でも……。





「レーベンシュタイン嬢の忠告のお陰で、徐々にだが、魔力容量が増大してきた。 フリュニエも、マクレガーも、喜んで協力してくれている。 なにか、お礼がしたい。 話は聞いている。 もし、私で良かったら、ポーション錬金の手伝いをさせてくれないか? あぁ、私は、金級錬金士だから。 それに【鑑定】も使える。 ギルドに売るんなら、私が【鑑定】を使って、等級を決められるが、どうだろうか」





 渡りに船だ!! 当然、二つ返事でその ” お礼 ” とやらを、受ける事にしたよ。 錬金すると、普段使わない方法の魔力も使うし、鍛錬になるからとも、言ってたね。 で、確保してある薬草類を見て貰った。 マーリン、よく勉強してるよ。 一目見ただけで、どの薬草が、どんなポーションに向いているのか、おしえてくれた。 馬鹿二号って、心の中で呼んでてゴメン!


 で、奴が作るポーション、高品質なんだよ。 クラスメイトが土魔法で作った容器に、次々とその高品質回復薬を詰め込んでくれてさ、おまけに【鑑定】して、証明書まで、発行してくれた。 めっちゃありがたいよ。 それを冒険者ギルドに持ち込んだら、持ってくる薬草類が、爆発的に増えたんだよ。




 噂は、噂を呼んでね、商工ギルドも一枚噛みたいって言って来た。




 私達が作るポーション。 低品質、中品質、高品質の三種類が出来たの。 その値付けをお願いした。 まぁ、量も出来る事とか、学生が錬金したって事で、市場価格の五分の二くらいが妥当だろうって。 もう一つ、ポーション錬金の副産物として、残り滓の廃棄物が沢山出来るの。 その処理をお願いした。 ロハで渡す事になったのよ。


 でね、この残り滓、結構 「高栄養価」で、畜産業者に高値で売れるらしいの。 ただ、出る量が少ないから、溜めてる間にダメになっちゃう事も有るんだって。 だから、大量に出るんなら、引き取ってもいいって、お話があったのよ。 これに乗ったの。 私達が処理先を探すよりも、商工ギルドを通じた方が、手っ取り早く処理できるもの。 商工ギルドは、ロハで手に入れた物を高値で売れる。 WIN-WIN ってこと。 


 それにね、商売してると、何かしら既得権益者と衝突があるじゃない。 其処を上手く捌いてくれるって云うのも、嬉しい提案だった。 下手に大々的にすると、それこそ、潰されるからね。 嫌だよ、膨大な在庫を抱えて、途方に暮れるのは。


 魔法の授業の時間とか、放課後とか使ってさ、滅茶苦茶量産したの。 使って良いって言われてる倉庫を、丸ごと一つ分、作ったポーションで埋めたわ。 低品質、中品質、高品質、かなりの量の回復薬がストック出来た。


 おまけにね、クラスメイトの錬金スキルが爆上がり。 最初は低品質が多かったんだけど、「文化祭」直前に成る頃には、みんな中品質から、高品質のポーションを作れるようになったよ。 エミリーベル先生が、ちょこっと手を回してくれて、私達の錬金士のレベルが、銅級から、銀級に変更に成ってた。





       これで、就職口にも困らないよ!!





「文化祭」の日。 噂になってたんだろうね。 冒険者の皆さんが、こぞって買いに来てくれた。 安く回復ポーションが買えるって、沢山来てくれたの。 冒険者ギルトのギルド長が、宣伝してくれたみたい。 理由が有るのよ。 この頃、魔物の出現が頻発してて、E級冒険者みたいな、駆け出しの人達にまで、討伐に駆り出されるんだって。 それが、時々大物にぶち当たるんだ。 で、酷い怪我をしちゃったりね。 


 ギルド長が将来有望だなぁ~って思ってた人が、ガッツリ怪我して、初期回復できなくて、泣く泣く冒険者辞めてしまう事案が、多く成って来てて……危機感があったそうなの。 でも、普段、出回っている回復ポーションが品薄になって、値段が高騰して、駆け出しの人達の手に入り辛くなってたんだって。


 そこで、冒険者ギルドのギルド長が、宣伝してくれたって事。





      いや~~~、売れた、売れた!!





 バカ売れだよ。 倉庫一杯にあった、回復ポーション、三日間の「文化祭」の間に全部売れた。 最後の方は、残ってた薬草で作りながら売ったよ。 「文化祭」の後夜祭の有った時間、我らが組の魔術の授業を受けられる生徒は、私も含めて、みんな魔力切れ起こして、ひっくり返ってたよ……。


 マーリンにも、お礼言わなくちゃね。


 で、売上金。 すんごい金額になった。 最初に貰ってた金額なんか、スズメの涙程だったんだよ。 それが、金貨ざっくざく。 帳簿に付けて、収支決算出して、記録して、全部学園に寄付したの。 全部よ、全部。 その時にお願いしたの。 このお金は、私達のクラスの消耗品費用に使ってくださいって。


 快く承諾くださったの。





 ――――――――――――――――――――





 ここまでは良かった。 で、面白く無いのが、他のクラスの皆さん。 貴族様からの寄付金、思ったように集まらなかったらしいのよ。 昨今の事情が事情でね。 お財布の紐が固かったらしいの。 そんな中、私達のクラスが、馬鹿みたいに大儲けして、それを全額寄付しちゃったモノだからね。


 で、現在に至ると。


 目の前の男子生徒。 逢いたくなかった、三人目の人。




    エルヴィン=ヨーゼフ=エルグラント子爵。




 こいつも、「君と何時までも」で、物語の中のソフィアに篭絡される奴。 コイツの御父様は、「瑠璃色の幸せ」でのアーバレスト国王陛下の取巻きの一人。ディジェーレママを断罪した者の一人、そう、現財務長官の アレスター=パウル=エルグランド公爵。 こまけぇ奴だったよ。 ありゃ、絶対にA型だな。


 エルヴィンも御多分に漏れず、カスの英才教育を受けた、頭のいい馬鹿。


 貴族間のバランスとか、モノの見方とかは、知ってるけど、本質は判んない奴でね。 だから、今日も、こうやって、私の目の前に居るのよ。 高位貴族さん達の意向を受けてだと思うよ。 


 だから、言ったのよ。





「正当な商取引で、頂いたお金です。 また、学園から頂いた初期費用も、御返し申し上げております。 帳簿類は、全て此方に御座います。 これを精査の上、まだ、ご不信な点が御座いましたら、何なりとご質問下さいませ。 お待ちします」





 じっと、見詰める先に、奴の ” くそ生意気な女だな ” って目があった。 そんなモノで、動じるわけが無い。 低位貴族にとっては、死活問題なんだ。 全てを認めさせてやる!




        さぁ、来い。

 



         こちとら




     日本の税務調査を耐え抜いた、




      公認会計士資格保持者だぞ。





        負ける訳がねぇ!!





       やって、やろうじゃん!!







ブックマーク、評価、感想 誠に有難うございます。

中の人、とても励みになります。

嬉しいです。


どうぞ、宜しくお願いします。



それでは、また明晩、お逢いしましょう!!

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