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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 一年生
32/171

第32話 園遊会の物言わぬ、華

 



恵風月(ゼーディン)】 



 もう風に冷たさは感じない。 麗かな春の陽光が降り注ぐ中、ビューネルト王立学院へ向かう乗合馬車の面々は、重苦しい雰囲気に包まれて座っているの。



   《 王家主催 春の大園遊会 》



 その理由がこれ。


 例年通り、御父様に通達があったのよ。 王都在住の全ての貴族に出席を求めているこの園遊会。 もとは信賞必罰を旨に、国王陛下自ら、前年にあった、諸々の事柄に対し、褒賞を与えたり、罰を言い渡したりする場だったんだ。


 今は形骸化してね。


 普段、余り付き合いのない、貴族を一堂に集めて、顔を見て回るって、そう言う感じになってんの。 そこで、困るってるのが、我等下級貴族の面々。 元より、高位貴族の皆さんとなんか、面識も繋がりも無いし、御呼ばれするのは、仲間内の男爵家同士。 まぁ少しは、子爵家の人も居るけど、その方々だって、男爵家に近い子爵家だから、高位の方々との交流なんてほとんど持ってない。


 だから、まぁ、下級貴族は纏まって挨拶をするって感じでね。 大人の方々のみに招待状をもらうのよ。 私達のような子弟は、御家で待ってる日な筈……。 


 でも、違った。 今年の春の大園遊会は、配偶者、子供も連れて来るようにと、通達があったのよ。


 きっと、アンネテーナ妃殿下の思し召しね。 ホントに何考えてんだか……。 王宮の内に入るのに、どんだけ手間がかかると思ってんのかしら? それを、家族全員で来いって……。 人数だけでいっても、去年の十倍超えるよ? それに、王宮に招待されるって事は、正装にて伺候するのが原則。 


 乗合馬車組の皆さん、次男、三男の方も多いし、女性だって二女以下の方々だって沢山いらっしゃる。 下級貴族の家では、長男長女以外には、お金を掛けられないの。 家督を継ぐ者と、他家に嫁す者と、そのスペアって感じね。 だから、()()の家族を招待されたって、その準備にどれだけの時間とお金が掛かるか判らない。


 子沢山だった、ルークの所なんて、顔色が変わっているもの。





「嫁に行った……姉さん達の、お古のドレスが、全部無くなったよ。 妹がしょげてる」






 そう言うルーク。 お古でも、ドレスはドレス。 だから、ドレスを新調の出来ない逼迫した下級貴族さん達に回すの。 大きなドレスを小さくするとバランスが崩れるから、大きくなるまで待ってたみたいね。 そりゃしょげるわ……。


 んっん もう!!


 何考えてんだ!!乗合馬車の中が暗い雰囲気に成ってるのは、そう言う事。 みなさん、色んな事情を抱えているんだもの。 去年のと同じだと思って、用意も何もしてないって。 突然思いついたみたいに、こんな事されたら、私達下級貴族の御家は溜まったもんじゃないわ。


 ……こりゃ、喧嘩売られたのも一緒ね。 


 なんとかしなきゃ……。





「ルーク様、妹様のドレスですが、わたくしのモノ(お古)で良ければ、お回しいたしますわ」


「なに? いいのか?」


「ええ、ミャー、準備お願い」


「承りまして御座います」


「それに、わたくしは、今回の園遊会には、学生の正装である、《ビューネルト王立学園》の制服で出席致しますわ。 ええ、正式な、正装で有りますから」





 ニヤリと笑う。 ハッとして、視線を上げる乗合馬車組の皆さん。 そうよね、たしか、こんな事以前にもあったよね。 相手が無理通すんだから、こっちだって無茶するよ。 でも、今回は、多分私だけ。 その方が良いじゃん。





「レーベンシュタイン、いいのか?」


「ええ、どうせ、悪目立ちしているのですから、今更……。 こんな事考えた人に、すこし意趣返しも在ります。 皆様にはおかれましては、同調せず、御家の事をまずお考えいただければ」





 無言の一時。 皆様、考えてらっしゃるね。 王家よりの正式な招待だから、欠席の理由はつけられないしね。 上位貴族の嫌な視線は私に集中するよ。 そう言う事だよ。


 にこやかに微笑んでいると、その事に思いついたのか、何人かの人が頭を下げて来た。 阿保らしい揶揄やら何やらは、全部引き受けるよ。 それで、あなた達にまがつは、降りかからない。





「レーベンシュタイン、気に成らないのか?」


「別に……。 そうですね、気にもしません。 相応の礼節さえ守れば、問題もないかと」


「……君は、強いな」


「お褒めの言葉として、頂きます」





 相変わらず、重い空気だけど、それでも、少しは気が楽になったみたいね。 お嬢様方は、下向いて唇噛んでるけど。 そうね、一切の公式行事、制服で通すのもいいかもね。 だって、「正装」なんだよ。





 ――――――――――――――――――――





「本当に、学園の制服で出席するんだね」


「ええ、ちょっとした意趣返しも有りますから」


「……「正装」には、違いないがね……やはりソフィアは、変わっているよ」


「お褒めとして、受け取らせていただきます」





 揺れる、男爵家の紋章入りの馬車の中で、御父様とご一緒に、王宮に向かう最中、そんな話になったんだ。 ミャーはお淑やかに、メイド服着込んでだんまりを貫き通しているのよ。 面白そうな光を、彼女の双眸に浮かべながらね。 ぶかぶかでも、この制服は、気に入っているんだ! それに、ちゃんと、学園の総則に《 学生の正装とする 》って書いてあるしね。



 たとえ、王宮に招かれたって、そこは変わらないもの。



 ゴトゴト走って、南の営門を抜けて、王宮に入るの。 営門の衛士さん達が、いい笑顔で挨拶してくれた。 もう、顔見知りだもんね。 御父様が眼を丸くして驚いていたよ。 営門を抜けて、暫く走って園遊会の会場である、広大な庭の指定されている、馬車だまりに止まる。


 ここから会場までは、歩く事になるし、ミャーもついて来れない。 馬車を守ってもらって、御父様と二人して、色付き始めた芝生の上を歩いて行くの。 風は暖かだし、良く晴れてるし。 なにも、言う事は無いね。 


 下級貴族用の受付までたっぷり歩いて、御父様と一緒に署名するの。 これで、王宮に来たって証明になるのよ。 さて、御役目は終わった。 後は…… 陛下と妃殿下を遠くで見てるだけ。 





「人が多いな…… 家族を連れて来るようにとの事だったが、このような事に成るとは、思われなかったんだろう」





 そう呟いている、御父様。


 たしかに、人が多い。 去年の園遊会知っている人なら、当然の感想よね。 だって、出席者だけでも、十倍は軽く超えているもの。 そして、その誰もが、「正装」をしているの。 煌びやかなドレス姿のお嬢様が、これでもかってくらいいるわよ? 去年までの「情報交換の場」としても、成立していない気がする。


 御父様も戸惑ってらっしゃるね。 みんな家族連れで、ヤバい話は無理。 というか、周りも戸惑ってらっしゃるしね。 無難なお天気の話と、息子、娘のお話。 はては、簡易集団お見合い会場と化した、下級貴族の待機場所。 


 人混みは凄いし、やっぱり、着飾って来るお嬢様、御婦人方もいらっしゃって……。


 それは、それは、凄い匂いです!!!


 おい、香水頭から被ってんじゃねぇのか? 眼に来るぞ、それ。 ほら、周りの人も引いてる……。 そんで、そんなのに限って、物凄く噂好き。 ペチャクチャ、それは、それは、お話に成られるのよ。 周囲の空気も読まずにね。


 で、その方、同じ男爵家なんだけど、隣にいる御令嬢の顔を見て、思い当たった。 この人、寮組の人だ。 だって、一度も乗合馬車の中で見た事無いもの。 マシンガントークされて居るのは、多分お母様でしょうね。 ”自慢の娘よ~~” ってのが、合いの手に入っているよ。


 そんで、その方、私の顔を知らないらしく、本人の前で私の噂話を始めちゃったのよ。 ほら、例の……私に関するトンデモナイ噂話。 声高らかに、そのお話をされるのよ。 私は御父様の影に隠れてたんだけど、周りの人達はやっぱり見るのよね。


 で、当の私。 ダブついた制服を着て、突っ立ってた。 まぁ、表情は硬いわな。 嫌味やら、中傷されてんだからね。 何人かの顔見知りのお嬢さんたちが、心配そうに私を見てた。 そう、見てるだけ。 良いんだよ、今近寄らない方が。 だって、近寄ったら、その子達まで、奇異の目に晒される。


 御父様と二人ボッチで、立つ事になったのよ。


 御父様の瞳は、氷点下以下に下がってるね。 冷気さえ漏らしてそうだよ。 御父様のお友達の男爵様達も、一様にヤバイ状態に気が付いたのか、しきりにその御婦人の言葉を遮ろうとしてらっしゃるの。 それを、チヤホヤされて居ると勘違いされちゃった、その御婦人、事もあろうに、御父様の事まで侮辱を始めたの。


 知らなかったんだよ。


 御父様が 元諜報、防諜担当の部署のモノだってね。 それも、実務部隊(暗殺部隊)の指揮官だったってね。 単なる、貧乏男爵だと思っていたみたいね。 





「ソフィアは、毎日こんな事を言われて居るのか?」





 そっと、私の耳に届くようにおっしゃられるの。 本当の事を言うと、何が起こるか判んないから、ニッコリ微笑んでおいた。 難しい顔をしている御父様。 その時、ファンファーレが鳴り、国王陛下のお出ましを知らせて来たの。


 ほっとした。


 これで、あのご夫人も黙る筈……  国王陛下一家が通る道が形作られ、前の方にその御婦人が突進していったよ。 御父様と私は、人垣の後ろの方に。 ここで、国王陛下へご挨拶したら、きょうの予定は全て終了。




         出来るだけ目立たずに、オトナシク……。




 国王陛下一行様が、通り過ぎられた。 臣下の礼を捧げ何も言わず、人垣の後ろから見送った。 人垣の前の方で、キャーキャー声がしているね。 きっと、ダグラス第二王子か、サリュート第一王子が愛想でも振りまいたんだろ……。


 そんな喧騒が過ぎ去り、お日様も高くなった。 これで終了。 誰にも見咎められない内に、早々に退出されてもらおうか。 御父様と二人して、受付の有ったところ迄……下がったのよ。


 なんか、盛り上がっているね。 関係ないけど。 デビューしていない、女子達を陛下、妃殿下の前に立たせて、覚えて貰おうって、なんか涙ぐましい努力をしてる子爵家の方々らしいね。 たぶん、そうだ、あの方向は。 





「これでは、警備も大変だな。 ソフィア、帰るか」


「はい、御父様。 ミャーも待っております。 どうでしょう、街で何か甘いモノでも?」


「いいな、それは。 帰りがけに、少し寄っていくか」





 私の提案に、一も二も無く乗ってくださいったわ。 御父様にしても、かなり嫌な想いをされたんだものね。 受付を通り抜け、馬車の待っている場所まで、ゆっくりと歩くの。 芝生が気持ちいいわね。 御父様も何も言わず、一緒に歩いて下さるの。 麗かな春の日。 広大な王宮の中庭でね。 


 風が心地いいの。 





「なにか、拍子抜け致しましたわ」


「……妃殿下が、なにかやらかすと?」


「ええ。 でも、何事も無く良かったです」


「問題は無かろうな。 ご要望には全てお応えした。 ご招待状にも、これ以上の事は、記載されて居ないからな」


「御意に」





 馬車に戻ると、ミャーが待っていてくれた。 今日は、影働きは無し。 本当に馬車で待っていてもらったのよ。 





「お帰りなさいませ。 如何でしたか?」


「只今。 恙なく」


「それは、ようございました。 では、此方へ」





 馬車の扉を開けてくれた。 御父様と、ミャーと、私。 馬車に乗り込んで、さっさと、王宮を後にしたのよ。 お腹すいちゃったしね。 御父様行きつけのお店にご招待してもらったよ。 ちょっと高級なお店。 個室もあって、とっても美味しいスイーツ頂いちゃったよ。


 全体的に見て、良い一日だったと思うよ。 平日だし、次の日は安息日だし。 学校もお休みだし。 園遊会に続く、舞踏会とか夜会とかパーティなんかにご招待も無いから、時間取られる事も無かったしね。 かえったら、湯浴みして寝よう。


 ここんところ、色々在り過ぎて、疲れてたんだもの。


 美味しいスイーツ有難うございました。





     御父様と一緒だと、




     ホントに心強いね。




     護られている感が、




      半端ないよ。







     有難う御座いました。




      愛してますわよ




       御父様。







ブックマーク、評価、感想、有難うございます。

中の人、とっても、喜んでおります。



それでは、また明晩、お逢いしましょう!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 公認会計士資格保持者というのは流石に盛り過ぎだと思いますが。
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