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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 一年生
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第31話 魔術師の食生活

 




 寒さが和らいできたの。





 朝の空気もほどけて来た、そんな 献春月ヴィトモグ 日本で云う所の三月。 春の足音が聞こえて来てる。 木々の新芽も出始めた。 可憐な花を咲かせる樹々もある。 梅?みたいなモノかな。 桜があればいいんだけど、聞いた事無いしね。 



 虫さん達の活動も始まったよ。



 ムカデやら、何やらをお庭で目にするようになって来た。 だいたい、土が柔らかくなって来たよ。 なんで、知ってるのかって言うと、そりゃ……。



      御父様にぶん投げられて、地面に叩き付けられてるからだよ!!



 鍛錬は日増しに強化されて、ほんと、修行みたいになってきてるの。 もう、身体も大きくなってきてるしね。 御父様の手加減もほとんどなくなって来てるんじゃないかな? まぁ、これは、私からの要望でも有るのよ。 地力付けなきゃ、死んじゃうしね。


「君と何時までも」の世界線は、ほぼなくなったと考えてるの。 だって、主要登場人物に対して、誰にも誘惑仕掛けて無いし、そんな機会も無い。 あっても、しない。 お友達を装っていた、ダグラス第二王子の攻略対象者である、お嬢様方達とは、ほぼ没交渉。 そんな状況じゃ、「君と何時までも」のシナリオは、一切進行しないからね。


 安心しきっていたところに、降ってわいた、今回の「 100年祭 」絡みの話。 「世界の意思(シナリオ)」が、思うように動かない私を排除する為に仕掛けて来た? そんな気もしないでは無いのよ。 でも、なんか違うの。 どちらかと言うと、別のゲームのサブクエストみたいな感じ。 私の知らない「ゲーム」の話で、私の「役割ロール」は、目標達成前に、主人公を庇って死んじゃう、モブ。




        だよねぇ……。




 何方にしても、死んじゃいそうだし、それは、とっても嫌だし。 だから、御父様にお願いして、鍛えて貰ってるの。 最初は渋られた。 家の人達も、反対したよ。 もう、十分だからって。 でも、相手は「魔王様」よ? 生半可にしてたら、それこそ、一撃死。 リセット無いもん。 セーブ&ロードも無い。 死に帰りすら、無理。 だったら、鍛え上げるしかないじゃん。 


 コツコツ、レベル上げは大好きな作業だったからね。 出来なかった事が出来る。 必要な条件を満たして、新しい技を覚える。 魔法と技を高レベルまで伸ばす。 どれも、「ゲーム」のなかじゃ、やり込み要素だもんね。 




   私のプレイスタイルは常に、()()()()()()()()()()()()()。 戦力補助は最大限。 




 だからね。 ”あの人”にも、呆れられてたよ。 RPGじゃ、レベルカンストが、常道だったしね。 シューティング、苦手だったけど…… つまりは、この世界の「現実」では、「()()()」、「()()()」と思われている事でさえ、私は、「()()()」、「()()」だと信じてるもの。




 だから、鍛えられるときに、鍛えるの。




 ビューネルト王立学園の授業も一緒。 あっちは知識。 この世界の常識を学ぶのよ。 非常識は、常識が無いと出来ないからね。 因果律とか、原因と結果とか、色んな言い方あるけど、つまりは、世界の常識を知って、その隙間を突くのよ。 だって、私が生きているこの世界には、コンソールパネルとか、直接介入コマンドとか、MODファイルとか在りはしないんだもの。


 この世界に一度生まれたら、この世界のルールに従って、強くなるしかない。


 地道に、ちょっとづつ、ちょっとづつ。


 ある日、ミャーに尋ねられたの。






「ソフィアは……どこに向かってるの?」


「どこだろうね。 でも、遣らないで後悔するより、やって、やって、遣り切って、笑って死んじゃうほうが、私らしいもん」


「ソフィアぁ……。 ミャーの心は折れそうだよ」


「大丈夫よ、私が居るから。 ミャーは、なにも心配する事なんか、ないんだよ」


「……どちらが、護られているか、わかんないよ」


「背中合わせで良いんじゃない? 一方的に護られて、目の前で死なれたりしたら、私が壊れちゃうよ」


「……そうだね、ソフィアは、そう言う人だもんね。 戦うお姫様だもんね」


「なによ、それ……」






 それは、一時の安らぎである、お茶の時間。 お友達モードのミャー。 ミャーは優しい子。 何時だって私の事を気遣ってくれる。 でも、それに甘えるのは違うと思うの。 して貰って当たり前って云うのは、私の中には無い。 みんなで、幸せ掴もうよ。 大丈夫だよ、掴めるよ。 その為に最大限の努力をしてんだから。





 ――――――――――――――――――――





 魔法の授業の後、片付けをする為に、教室に残ってたの。 持ち回りのお掃除とかね。 私達の組では、そう言う風にしてるの。 だいたいみんな、男爵家の子弟だからね。 ある意味、とっても平等。 最下層貴族なんて、そんなものね。 これが、高位貴族さん達のクラスだと、弱い立場の人が、常に押し付けられているんだって。


 風の噂で聞いたよ。 というより、ニコニコ顔で、エミリーベル先生が仰ってた。 


 掃除して、器具片付けて、テーブル拭いて…… なんか、人の気配を感じた。 ん? 誰だ? 先生か?


 教室の入り口の扉の前に、何も言わずに佇んでいる。 ぶ、不気味だ。 そちらを伺うと、男子学生の制服が見える。 アッシュブラウンの髪。 下銀縁のメガネ。 酷薄そうで、それでいて、整ったイケメン。



 ……なんで、マーリンが居るんだ?



 お前と話すような事は無い。 なんだ、文句でもいいに来たか? ちょっと身構えて、扉の方を見たの。





「……邪魔したか?」


「……掃除と片付けですので、別に……。 何か御用がおありなのでしょうか? マーリン=アレクサス=アルファード子爵様。 ……エミリーベル先生ならば、教官室に……」


「いや、君に……レーベンシュタインに話があって来た」


「……はい」




 やっぱり、文句か…… 魔力逆流しさせて、ぶっ倒したからなぁ……  身構えながらも、話を聴く事にしようか。 まぁ、学園内だから、叫べば誰か来てくれるしね。 それにしても、頭の高いマーリンが、なんでこんなに下手にでてるんだ? 良く判んないね。





「……あの後…… 結局、起き上がれるまで、捨て置かれた。 いや、そんな事は気にしていない。 いつもの事だ。 ……「的」を見に行ったんだ、起き上がれるようになって直ぐにな」


「そうですか……」





 まぁ、そうだろうね。 宮廷魔術師は、なんやかんや、色々ヤバい物を扱ってるから、たとえ倒れていたとしても、そうおいそれと手を出す事は出来ないしね。 だから、何かするときは、ツーマンセルでって、お達しが出てる筈…… だれも聴いちゃいないけどね。 救護魔術師が呼ばれなかったのは、彼の人となりから。


 いつも、自分程優秀な者は居ないと、豪語してたから、たとえ倒れていても、直ぐに回復するだろうって、思われちゃったんろうね。 状況知ってる、おっさんと、先生は、完全放置でだったしね……。 ご愁傷様。


 で、なんだって? 「的」見たんだ。 綺麗に穴開いてただろ?




「……確かに、レーベンシュタインは、【ファイアーボール】を放った。 魔方陣が幾許か書き換えられていても、あれは、【ファイアーボール】の魔方陣に違いなかった。 丸く撃ち抜かれた、「的」 それを成した、技。 込められた筈の魔力。 僕が張った、防御結界魔法の強度。 【鑑定】 と、【走査】を使って、調べたんだ」





 ほう、マーリン、君は、上級特殊魔法の 【鑑定】 を、使えるのか。 それは凄いな。 対象の前に立っただけで、殆ど能力を丸裸に出来るって事だよね。 その対象が ”人” であってもね。





「出た結果を何度も見直した。 あの膨大な魔力はなんだ?」


「なんだと、申されましても……」


「私の知る者の中では、あれほどの魔力を保有するモノは知らない。 枯渇寸前まで出し切ったとも思えない。 ……レーベンシュタイン、君は何者なんだ?」


「いやですわ、わたくしは、そちらの方々の云われる様に、単なる出自の怪しい 「男爵家の娘」 ですわよ」 


「……如何にしてあれほどの魔力保有量を獲得された……? それが、聴きたい」





 なんだ? 魔力保有量? あぁ、鍛錬で増やした。 体力が増したら、自然に増えるもんね。 





「マーリン様に置かれましては、ご存知かと思います。 ” 人族 ”が魔力の保有量を増やそうとすれば、訓練によって、保有量を拡大する事が出来ますよね。 ちょっとづつ、毎日すれば、良いだけです。 押し広げられる保留量は、僅少では御座いますが、毎日続けさえすれば、保留量も増えていきますわ」





 マーリンが落胆したような顔をしている。





「わたくしが、訓練を始めましたのは、物心が付く前ですわよ? 生まれ落ちても、世話をして貰えるような環境では御座いませんでしたので、魔力を練り上げ、自分で周囲に有る物を飛ばして ” 遊んでいた ”そうですわ」





 幼児の伸びしろは、凄いんだぞ? あんな所で、五歳まで暮らしてたんだ、その位しか自分の自由に出来るモノは無かったからね。





「そ……そうか……」


「私は ” 人 ” ですわよ。 そして、貴方様の様な魔術をもって御国に仕えるような家系の者では御座いません。 ひとえに、他の方々よりも早く、時間を掛けて、すこしづつ、力を増してきましたまでです。 一足飛びに、力を得る様な、そんな方法は御座いますまい。 仮に……」


「仮に?」


「はい、仮に、そのような方法が、” ()()()() ”とすれば、わたくしより、マーリン様の御家に伝わると そう、愚考いたします」





 マーリンの奴、下唇を噛み締めやがった。 そうだよ、魔力容量を増大させようと思ったら、必要な事は、たった一つ、「弛まぬ努力」ってやつさ。 私の場合は……気を抜けば、死んじゃうんだよ? 状況がそうゆう事を求めて来るんだよ? その恐怖感、わかんないよね。 




       私は、恐怖したんだよ。




 だから、必死に力を付けているんだ。 どんな状況に成っても、跳ね返せる力を得るためにね! 私にはね【鑑定】の魔法とか、【走査】の魔法とか、 そんな上位魔法を使える様な、素質は無いんだよ。 単に魔力を持つ貴族が、”普通に” 使える魔法しか、使えないんだよ。


 だから、威力を増すか、イメージの力で如何にかするしか無いんだよ。



 エリート様とは、土台が違うんだよ!!



 フゥフゥフゥ…… ちょっと、興奮しちゃった。 甘っちょろい事抜かすな。 なんだ、こっちを捨てられた子犬みたいな顔して、見て来やがった。 ん? なんだ? 何が言いたいんだ?





「お、おれは……、 アルファード家にとって……、 要らぬ者かもしれないんだ。 生まれ落ちたその後、幾度も魔力検査を受けた……。 他の者と比べて、使える魔法、受けている加護は多い……。 幼少の時から、【鑑定】の魔法が使えたくらいに……。 しかし、絶望的に魔力容量が少ない。 少ないながらも、効率的に使う事によって、今までは如何にかして来た。 いや、なって来た。 その為の研究もおざなりにしては居なかった。 しかし……、 直ぐに魔力切れを起こす」





 なんだ、コイツ。 後天的に獲得できるのが魔力容量なのに? 訓練次第でどうにでもなる筈なんだけどねぇ……。





「……今まで、こっそり【鑑定】の魔法を使って、人を見て来た。 甘言を弄して、父上に取り入ろうとする輩は、俺を褒めそやし、父上の足を掬おうとする者は、俺の非才を責め立てるんだ。 でも、どっちも同じように、腹の底では、俺の魔力の少なさを嘲笑っている。 そして、苦々しく、父上、弟たちが、俺を見る」





 なんだ、反抗期のガキか。 なまじ【鑑定】の能力があるから、他人の評価が、手に取る様に判っちまうんだ。 魔法障壁たてとこ。 私の事 【鑑定】されない様に……気を付けよう! 護符に常時展開させとこうか……。 授業で習ったし、良いモノ作れそうだ。 ついでに自由課題の提出物にしちゃお! そんな事を考えながら、冷ややかに、マーリンを見てるの。


 口に出るのは、一般論。 だって、それしか、かける「言葉」無いでしょ?





「いったい、誰にお仕えする心算なのでしょうか、アルファード子爵様は。 その事さえ、ご理解されて居たら、その様に深く悩まれる事も無かったでしょうに……。 貴方様は他の方の御評価を、気にし過ぎでは御座いませんか? ……単純な魔力容量増加の方法は、身体を鍛え、魔力を使う事。 成長と共に増大する自然増加に負荷をかけて、更に大きくする。 魔術師を目指す者ならば、誰でもしますよ?  しないんですか?」


「……アルファードの家の者は……誰も……」


「才能だけの者は、底が浅くなります。 バランスの取れた食事をし、頑健な体を作る。 ただそれだけ。 魔法の鍛錬は存分にされて居られているのでしょうから、あとは、お身体の成長と共に、増大する筈なのですが……。 そう言えば、アルファード子爵は武術の授業には出てられませんね」





 痛い所を突いちゃった? ガリガリ、モヤシ的な体形だものね。 肌だって、十二歳とは思えない位荒れてるし……。 まともなモノ食べてないだろ。 偏った食事と運動不足。 魔力容量が増えないのは、多分そのせいだよ。 研究に没頭して、基本的な事忘れてるんだ。





「いや、しかし!」


「先ずはその辺りを、見直されては如何かしら? わたくしなど、アルファード子爵から比べれば、才能という点で云えば、比較に成らないでしょうに」





 突き放してやったよ。 これ以上関わんな! 関わるんだったら……。 誰か……いたなぁ……そう言えば。 こいつの食生活を嘆いていたのが、「君と何時までも」の中で……。 そうだよ、コイツの婚約者だ。


 フリュニエ=リリー=フォールション伯爵令嬢 王国、王家に食医として仕えている家系の人。 御当主、フォールション伯爵様は、王宮、それも王家の厨房の一切を任されている人。 食をもって、王国に仕えるって……まぁ、管理栄養士みたいな感じだよね。 爵位もそこそこ、見目麗しく、お菓子作りが大好きな、女の子だったよね……。


 そんで、マーリンの幼少の時からの婚約者……。 余りに酷いマーリンの食生活に、泣き崩れているらしいじゃん。 持ってった御菓子、ぶちまけられたって、「君と何時までも」のログにあったなぁ……。 ちょっと、その辺の認識、正して置くか。 私に頼るくらいなら、フェリュニエ頼れって……。





「アルファード子爵様…… 現状を変えたければ、まずは相談される方を間違っております」


「な、なに!」


「魔力の保留量を増大させたいのならば、まずは食生活から、見直しませんと。 貴方様の御婚約者であらせられる、 フリュニエ=リリー=フォールション伯爵令嬢様にご相談為されませ。 食医の家系の方です。 間違いなく貴方様の問題点をお教え下さりますでしょう。 それと、身体の健やかなる成長を守る為、武術の授業にお出になされませ。 レクサス子爵様が、きっと協力して下さるはずです。 同じ、ダグラス第二王子に侍る者として」


「……さ、さすれば……」


「卒業までに、六年間御座います。 鍛錬は毎日ですわ。 日々の努力は、きっと貴方様を裏切りません。 わたくしが答えられるのは……この位しか……」





 手に持った雑巾、どうしてくれる。 早く、運動場に行かなきゃ、私の訓練が出来んじゃないか!! 扉の真ん中で考え込むな!! そこをどけ。 いや、強制的に私は通ればいいんだよね。 





「それでは、ごきげんよう!」





 元気よく、そう挨拶をかまして、奴の横を猫みたいに、すり抜けて教室を退出した。 はぁ……疲れる奴だ。 奴の承認欲求を突いたんだっけ、「物語の中のソフィア」は。 ” 私は判っております、貴方様は素晴らしい御方です。 誰よりも崇高で、類稀な魔術師なんですから ” って、煽って、煽って、天狗の鼻、伸ばし切って、依存させたんだよね。 


 依存させ切って、愛情と勘違いしたやつの口から告白を受けた時、たった一言、” そんな方だとは、思いませんでした ” って、ポキッと折ったんだよね。 暴発するまで、二、三日。 お~怖い、怖い。 そんな事、絶対にしません!




      奴には、


     悔しいけど、


     トンデモナイ


   魔法の素質が有るんだ。


  誰にも真似コピーのできない。


   本当に素晴らしい素質なんだ。 





        判れよ、


      伸ばすも、殺すも、


    自分次第なんだって事をな!







      アルファード子爵。貴方も、この国の、



        剣となり盾と成らなければいけないのよ。









ブックマーク、感想、評価誠に有難うございます。

とても、嬉しく、有難いです。


それでは、また明晩、お逢いしましょう!!

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