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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 一年生
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第28話 サリュート殿下と、宮廷魔術師の思惑

 





天蝎宮(スコルピオン宮)



 宮廷魔術師達の巣。 とんでもない所に連れ込まれた。 王宮の南門から入る。 ほら、例の最外郭の営門よ。 衛士さん達とは、もう顔見知りになっちゃってたの。 そりゃ、丸一日居たんだもの。 夜には【お茶】まで御一緒したし、色んなお話も聴けたよ。 




 良い人達だった。




 きちんと仕事をこなして、南の営門を真摯に守る人達。


 プロフェッショナルな感じが、いいよね。 でも、今日は顔が強張ってるのよ。 馬車から顔を覗かさせるだけで、営門を通過できるくらいにね。 そりゃ、ソリュート第一王子が居るんだもの。 そんで、殿下が云うのよ。





「私の賓客だ。 【天蝎宮(スコルピオン宮)】へ向かう。 よいな」





 ってね。 これで、いいんだ。 流石は王族だね。 もはや顔パス状態。 これ以上の横紙破りはねぇけどな! 本来なら、通行許可もらって、滞在証明もらって、保証人とかの身元証明差し出して、えらいこと待たされてから、渋々通されるような場所だよ? それが、一言で即通過。 


 サリュート殿下、事前に通達すら出して無かったみたい。 咎める様に王子を見れば、





「レーベンシュタインがどうなるか判らんかった。 万が一、(マクレガー)に、叩きのめされていたら、君の屋敷に送らねばならんしな」


「……わたくし次第という訳だった……。 と、言いう事で御座いますね」


「そう……なるな」


「大変不遜にして、失礼な事では御座いますが……、 解せません。 なに故に、()()()()なのでございましょうか」


「エミリーベル宮廷魔術師より、君に関する報告書が届いていた。 他からもな。 異常とも思える、魔力量。 魔法に対する異質な想像力。 闇の精霊様よりの加護。 ()()レーベンシュタイン男爵がご自身で鍛えられた。 そして、【銀髪紅眼(シルヴェレッド)鬼姫(オーガレス)】の二つ名。 さらには、配下に、【闇の右手】。 これだけの人物が、僅か十二歳の令嬢と誰が思うのか?」


「理由に成っては、おりませんが……」


「理由はな、【 100年祭 】だ。 未だ、次期の契約は成っていない。 その為か、王国のあちこちで、魔物達の出現頻度が上がっている」


「……【 100年祭 】」





 忘れてた。 そう言えば、君と何時までものラストは、この【 100年祭 】の記念舞踏会会場だったよね。 卒業記念も兼ねて…… でも、あと六年だよ? この時期になっても、まだ、交渉出来てないって……。 あぁ、そうか、サリュート殿下の御母堂のユミさんを召喚したのって……その為だったんだよね。 勇者を召喚するつもりが、ユミさん召喚しちゃって、送還し損ねて、再召喚出来なくなったってアレ……。




「契約を継続する為に、誰かが魔王の所まで行かねばならい。 その白羽の矢が立ったのが私だ」





           えっ!?





「驚くことは無い。 わたしは、この国に取って必要不可欠な王族ではない上に、居ては困る御仁も多い。 だからなのだ。 私とてむざむざ殺されたくは無い。 しかし、行くとなれば、相応の準備も必要になる。 試練は、学園を卒業した直後から始まる。 それまでに、手駒を出来るだけ増やさねばならん。 故に、才ある物を、身分の上下を問わず、見極めているのだ」


「つ…つまりは、わたくしが?」


「王国、100年の安寧の為に力を貸して欲しい。 レーベンシュタインが力は、今日も見せて貰った。 エミリーベル宮廷魔術師の推薦もある」





 あのくそアマ~~~~~~ 自分の好意が届かないと知ると、人を死地に追い込む気か!!!! 碌でもねぇ考えしてやがるなぁ!! くそ!!





「怒るな。 アレはアレで、君の行く末を心配している」


「サリュート殿下の偉業に同行し、わたくしの立場を強くする? ……生き残れればの話ですわね」


「……酷い話だとは、理解している。 聞いてくれないか、わたしはね……幼少の時に毒を盛られた。 あの苦しみの中で天啓を受けたのだよ」 





 街の喧騒を離れ、王宮の静謐が私達の間を埋めていたの。 馬車の馬さんの、足音だけがリズミカルにきこえていた。 サリュート殿下は、ゆっくりと、噛み締める様にお話をされたの。 ゆっくりとね。





「死の苦しみの中で、声がしたんだ。 このまま死ぬも、生き残って失意の内に殺されるも、どちらでも良くなり、早くその苦しみから逃れたかった。 その時、白い闇の中から、ハッキリとした声がしたんだ。 ”死せる命を役立ててみないか? 王国の未来を掴み取り、この先、100年の安寧の為。 良き片羽の為にも。” とね。 人は……いずれ死ぬ。 投げやりにそう考え、応えずにいた。 そんな私に、声は更に続けた。 ”意思の力と、努力で、お前は何処までも強くなれる。 癒しの大精霊神【スビーサ】が加護を持つお前は、女性ならば【聖女】の称号を持つに至る存在。 この世界に召喚されし、お前の母からの ” 贈り物 ” 掴み取ってみないか、お前自身の未来を” とな。 何かは判らないが、その ” 希望 ” とも取れる言葉に、自然と頷いていた」





 転生者……って訳じゃ無いよね。 この口振りからすると。 誰かにそそのかされたのか? 何も言えず、銀箔の仮面を見詰めるの。 この方も、生まれて来た証を欲しがっていらっしゃるのかしら?





「目が覚めた後……苦しみの中……決意した。 この国を守るとね。 この国に生きとし生ける者達すべての安寧を守る義務があったのだと。  「高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュ」だとね。 そこから、わたしは変わった。 いや、生きる目標を見つけた。 だから、この役目を受けた。 喜んでね」





 静かに語る、ソリュート殿下。 ミャーが怖がる筈だ。 この人、滅私奉公するんだ。 この国に生きるすべての人の為に……  



      ま、巻き込まんでくれ!



 王族というか、この国の高位貴族の中では、最良の統治者に成る素質は有るよ……。でもさぁ……なんで、わたしが、その手助けをしなきゃならんのだ? 一介の男爵令嬢に、重すぎるモノを覆いかぶせようとして来るなんてね……。 どうかしちゃったの?





「レーベンシュタイン。 済まない、君の出自は調べさせてもらった」





       ”!!!!!”





「知っているのは、私と、調べ上げた私の手の者だけだ。 公表する気も無い。 陛下にも、妃殿下にもな。 いいか、知っているのは、私だけだ」





 つ、つまりは……わたしが、ディジェーレ様の娘だって知られているって事? だよね……。





「もう一つ、あの方がお願いされたのは、レーベンシュタイン男爵一人だけだった」





        ” !!!!!! ”





「君は、望まれて生まれた。 愛されて生まれて来た。 いいね。 たとえ、お二人の間に、交流が無くとも、()()()()()違った形の愛情を君に注ぎ込まれたんだ」





 そ、そっかぁ……。 御父様は、本当のお父様だったんだね……。 しかし、どっから、その情報を手に入れたんだ? 私ですら知らんかったよ……。





「【天蝎宮(スコルピオン宮)】で、何が行われるかは、行ってみないと判らない。 私ですら、詳細は聞いていない。 全ては、エミリーベル宮廷魔術師が手配している。 彼女もまた、この国を憂いている者の一人だ」





 グルだったんだ……。 でも、エミリーベル先生は私の出自を知らない……。 殿下……、 秘密は守ってくれているんだ……。 ご自身の為でもあるのか……。 逃げられないな。





「判りました。 ” 否 ” を唱えても、もう、絡み取られていると云う訳ですね。 卑賎な我が身をそれ程までに、評価されているのであれば……、 従いましょう」


「出来る限りの、生き残る手立ては打つ。 君の役割が何になろうとね」


「ご配慮、有難く……」






 くそっ! やっぱり、絡み取られてる。 でも……これって、「世界の意思(シナリオ)」と、関係ないよね。 全然世界線が被んないよ。 こんな伏線とか、サイドストーリーとか、ファンブックにも乗って無かったし…… 『君と何時までも』の中じゃ、この人、ホントにモブ中のモブ。 名前すらうっすらとしか出てこない人だったもんね……。 最後もかなりぼやけてたし……。


世界の意思(シナリオ)」が、状況を操っている以外の人は、自分の意思をもって、この世界に生きているって、そう言う事なのね。 ……処刑エンドは、避けられそうになったんだけど、変なアドベンチャーゲームに足突っ込んだ感じがする……。 ギャルゲーの世界から、RPGの世界にようこそだ! くそっ!!


 下手こきゃ、一発死亡。 復活の呪文は、何処にも存在しない。


 何だかなぁ……。




   ” あの人に逢うために…… ” 




 此処までも血みどろの道を歩く事になるんだ……。 一筋の光明は、サリュート殿下が、チート中のチートだって事だけ。 ん? 私は、モブ? 目標寸前で死んじゃうキャラ? やめてよ……。 その前に離脱しなきゃ!






 ――――――――――――――――――――






 深く、そんな事を考えていても、沈黙が支配する馬車は進み、やがて目的地に到着する。


天蝎宮(スコルピオン宮)


 巨大ともいえる、宮殿。 魔術師共の巣。 中は宮廷魔術師がわんさか居るんだ。 新しい魔法を開発したり、古代魔法を研究したりね。 知識の館、象牙の塔。 この中に魔術師として出仕する事は、この国の人達の憧れ。 




 私にとっては、悪夢の根源。




 こんな所に所属でもしたら、それこそ、何処にも行けなくなるんだ。 ホントに縛り付けられる。 此処に入るんなら、目と耳と口をしっかり閉じて置かないと!!


 馬車が止まり、サリュート殿下が優雅に手を差し出してくれた。 はぁ……気が重い。 馬車を降り、デカい宮殿の入り口に、予想通り居たよ……。 先生がね。 めっちゃいい顔で、笑ってたよ。 此のくそアマが!!






「ようこそ、象牙の塔に。 お待ち申し上げておりました」


「ん、連れて来た。 エミリーベル宮廷魔術師。 なにか、考えが有るのだろ」


「ええ、まぁ。 その前に、まずはこちらに。 ソフィアさんに、あわせたい方が居るの」






 ホントに手を引きそうな勢いだった。 かなりの急ぎ足で、宮殿に連れ込まれた。 大理石の白い床。 高い天井。 あちこちに魔法灯火が掲げられ、屋内とは思えないくらい明るいの。 磨きこまれた床は、顔が映るくらいよ! ズンズン先に進む先生。 開けた場所を目指しているみたいね。


 途中、幾人かの宮廷魔術師さん達が、興味なさげにこっちを見ていた。 どうでもいいけど、だだっ広いね。





「誰かが、何か間違いを起こしても大丈夫な様に、十分な広さをとっているから…… ほら、もうすぐ。 あそこの扉を抜けたところ」





 なんか、先生、学園に居る時よりも、めっちゃ生き生きしてるね。 声すら弾んで聞こえるよ……。 指差された扉を抜けると、そこは、中庭みたいな場所だった。 所在無げに、壮年の魔術師が立っていたよ。 そっちの向かって、先生はまたズンズン向かうの。





「筆頭! ソフィア=レーベンシュタイン、到着いたしました!」





 壮年の魔術師が、顔を上げ、私達をゆっくりと見て来た。 値踏みする目だね。 大根買う奥さんの目だ。 一緒に来ているのが、サリュート殿下だって気が付いたんだろうね、最敬礼でお迎えされた。





「これは、これは、サリュート殿下。 【天蝎宮(スコルピオン宮)】へ、ようこそ。 そして、そちらのお嬢さんが、エミリーベル宮廷魔術師が言っていた、ソフィア=レーベンシュタイン嬢か。 宮廷魔術師、古代魔法研究科、筆頭宮廷魔術師のミデルナル=ラーク=フィランギと申す」





 ん? フィランギ? そんで、宮廷魔術師? 名前がミデルナル? なんか、聞き覚えが…… おうそうだ!! この人、『君と何時までも』に出て来た! 確か……。 そうだ、思い出した! 攻略キャラの一人、キャメリア=デイジナ=フィランギ 侯爵令嬢のお父様! フィランギ侯爵!! ゲームの中で、ソフィアを追い詰めた、大人の一人だ!! 時空魔法で、「物語の中のソフィア」が、【魅惑】の魔法をつかって、取り巻き共を嵌めるのを曝け出した人だ!!


 うわぁぁぁ! この人、筆頭宮廷魔術師だったんだ!! そんな事何処にも書いてなかったよ!! 知らんかった。 そっか、時空魔法は、古代魔法の一つだからかぁ……。 それにしても、大物だったんだねぇ……。 おっと、挨拶、挨拶。 挨拶は大事。





「恐れ入ります。 わたくし、レーベンシュタイン男爵家の養女、ソフィア=レーベンシュタインと申します、何卒よしなに」





 がっつり、カテーシー決めて置くよ。 優雅に、ゆっくりとね。 息上がりそうだったけど、踏ん張ったよ。 ミデルナルのおっさん、なんか、目を細めて値踏みするように、見て来た。 胡散臭い? だろうね。 僅か十二歳の女の子が、それも、最低層の男爵家の娘が、筆頭宮廷魔術師様にお会いする機会なんか、絶対に無いからね。




 このくそアマが、引き合わせない限りね!




「話は、エミリーベル宮廷魔術師から聴いているが……半信半疑なのだ。 少し、君の力を見せて貰えないか?」





 おっさん、変な事言い始めやがった。 それに、先生、一体何を言ってくれちゃってんの? ほんと、信じられない。 だまって、静かに暮らさせてくれよ!! ほんとに、サリュート殿下とか、エミリーベル先生とか、私にとって、邪魔者でしかないねっ!







 あぁ、御家のベッドが恋しいよ……。








感想、有難うございます!! ブックマーク、評価を付けてくださったかた!

ホントにホントに有難うございました!!


それでは、また明晩、お逢いしましょう!!

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