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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 一年生
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第27話 巻き込まれる日々




 


 安息日は、お父様と御一緒に、色んな事をしているのよ、通常は。




 御領地からの報告書読んだり、新規の事業の計画を練ったり、御領地の人達からの嘆願書を精査したり、その対策を話し合ったりね。 結構、頑張ってるのよ? ” 御領地の人達の為に何かしたい ”って、昔、言ったでしょ?


 あれ、御父様が了承してくれて、ご自身の「お仕事」を、私に見せてくれているの。 子供の考える事じゃ無いなんて、一言も言わないのよ。 領地の民の安寧を背負うって、本当に大変なことなの。 それを、皮膚感覚で教えて頂いているのよ。


 午後は、一杯になった頭を休める為に、御父様自ら、鍛錬の相手をして下さるの。 剣技で有ったり、暗器で有ったり、投擲武器だったり、魔法だったりね。 なんかね、御父様の知っている全てを、私に教え込もうとしてらっしゃる感じがするのよ。 




 女の子にする事じゃ無いよね。 




 レーベンシュタイン男爵家当主の子供は、今の所、私しかいない。 だから、継嗣への教育を私に施しているのかも……。 私には、” 家を継ぐ必要はない ” って、仰ってはいるけれどもね。



――――――



 今日の安息日は、特別な《約束》を、してしまったら。 


 王国騎士団の練兵場に向かわなきゃならなくなったの。 あの「試合の詳細」が、記載された羊皮紙を貰ったその日に、御父様に御報告申し上げたのよ。 マクレガー子爵に、変な約束しちゃったから、それを果たしに行きますってね。 


 渋い顔の御父様。 御懸念は私が何処までヤルのかだろうね。 大丈夫ですわよ。 ただ、()()()、ぶっ飛ばされれに行くだけですわ。 下手すると、本気で付き纏われちゃうかもしれないし、そうなったら、御婚約者さんから、どんな目で見られるか判ったもんじゃないもの。




 ここは、一つ、オトナシク、ぶっ飛ばされに行きます。




 にこやかに微笑みながら、そんな意味の事を伝えたの。 御父様珍しく真顔で私を見ながら、呟かれた。





「もし、君が望むなら、こんな国、捨てたっていいんだ。 辺境侯爵様にお頼みすれば、国境を越える事さえ、無理じゃないよ」


「ダメですよ、御父様。 御領地の皆さまが、悲しまれます。 難しい御領地ですが、初代様より、連綿と続く代々の御当主様が愛されたモノを、御父様が投げ捨てては、いけませんわ。 それも、わたくしの為になどと……。 嫌です。 縁あって、わたくしもレーベンシュタインの家名を名乗っているのです。 ……足掻きます。 あの優しい人達の安寧の為に」


「君のその気概を全ての貴族が持ち得るならば、エルガンルース王国は、千年の栄華を得るのにな……。 君の気高い志は、まさに君の母である、ディジェーレ=エレクトア=マジェスタ公爵令嬢と瓜二つだよ」





 それは、買被り。 私は、あの人に逢うまでは絶対に死にたくないから、自分の足元を固めてるだけなのよ。 もし、あの人と出逢って、あの人が何処かに行こうって言ったら、間違いなくついて行くもん。 





           でもね……。 





 この頃、不安に思うのよ。 もし……万が一……あの人がこの世界に居なかったらって……。


 だったら、私を慈しんで下さった皆様に、精一杯の感謝を捧げて、出来る事をしなくてはと、思ったのよ。 そうしないと、私が嫌だからね。 ちっぽけなプライドだけど、貴族と呼ばれる立場に成ったんなら、その義務は果たさないといけないわよね。 



   「高貴さは義務を強制ノブレス・オブリージュする」



 って、ことね。 法典や、法律、規則で決まっている訳でも、罰則があるわけでも無い。 私達、《貴族》と呼ばれる者の《誇り》の問題なのよ。 御父様の真剣な眼差しを、「まとも」に受けたのは、揺るがない心を示す為。 私は御父様に、真っ直ぐな視線で見詰め返したの。





「わかったよ。 もう、言わない。 存分に君の「矜持プライド」を示して来なさい」


「はい、御父様」





 お許しを頂いた私は、ミャーに明日の準備をお願いしたの。





 ――――――――――――――――――――





 王国騎士団の練兵場は、王宮のすぐそばにあるのよ。 学園じゃない処がまだましかもね。 あっちでやらかしたら、学園中の噂になるし、なにより、万が一私が、マクレガー(純情脳筋)をぶっ飛ばしちゃったら、それこそ目も当てられないからね。 奴なりの保険ってところかな? 


 一応、ドレスで行ったのよ。 ほら、これでも、貴族の令嬢だからね。 王国騎士団の練兵場って云わば、公の場所。 其処に汚ったねぇ恰好で行ったら、レーベンシュタイン男爵家の体面にも関わるしね。 まぁ、ドレスって言っても、お歴々の方々からすれば、普段着以下のモノだろうけどさっ!


 屯所の受付に行って来意を伝えたのよ。 興味深そうな目をした、衛士さんが、来訪予定者をチェックして、きちんと名前が乗ってるのを確認してから、中に入れてくれた。 ふんふん、この辺は、マクレガー子爵は、きちんと手順を踏んでるね。 




 どっかの阿呆な王妃様とは違って、規則をご存知だよ。 




 護衛侍女のミャーと一緒に、練兵場の一角に有る、兵舎に向かったの。 其処に来いって書いてあったし、何より、そこしかまともな建物なかったしね。 武骨な練石とゴツイ材木を組み合わせた様なガッシリとした建物だよ。 ザ・兵舎 って感じだね。 よく、中世モノのRPGなんかに出て来る、柔そうな、豪華なものと違って、実用一点張りの建物だった。



 なんか、共感持てるね。



 エルガンルース王国の兵が強兵って言われてる由縁かもね。


 指定のお部屋について、着替えるの。 ミャーに手伝ってもらって、「武術大会」の時と全く同じにね。 装備はちゃんと用意してあった。 ほんと、奴、こんな所はちゃんとしてるね。 その気遣い、フローラ様にも使ってるか? 脳筋の思考回路は、ホント謎だよ。 


 準備を終えて、静かに部屋で待っていると、扉がノックされた。




「サリュートだ。 入るぞ」


「はい、お待ち申し上げておりました」




 扉が開き、黒髪、銀箔の仮面のサリュート殿下が入って来た。 ガッツリ、カテーシーを決めて置く。 小汚い格好だけど、一応、淑女だしね。 サリュート殿下は苦笑いされていたよ。 近衛騎士の装備に身を包んで居られた。


 まぁ、カッコいいね。 純白のマントとか、白地に金のモールの付いた胸当てとか、どんだけ王子様なの?  所作も綺麗だしね。 隙すら無い。 ミャーも頭を下げながら、さりげなく観察してる。 近衛騎士にすでに叙せられているってのは、あながち、その身分だけって事じゃ無いってことか。




「準備は……出来ているね。 それにしても、あの条件で良く了承したね」


「武術大会と同じに……と言う事でしょうか?」


「マクレガー……あいつらしいな。 どれだけ、レーベンシュタインに不利かと言う事も、眼中に無い。 ……暗器を使ってもいいぞ」


「……お戯れを……」





 くそ、コイツ、私の事知ってやがる。 やっぱ、王族だ。 情報は事前に収集してやがったのか……。 と、言う事は……。





「【銀髪紅眼(シルヴェレッド)鬼姫(オーガレス)】は、出てこないと言う事か」


「……はて、なんのことで御座いましょうか? わたくしには、判りかねます」





 何処まで……知ってやがるんだ。 そっちの筋に、なにか伝手があるのか? 王族だから当たり前か? 王子だぞ……剣呑なこと。 サリュート殿下の生い立ちとか、状況とかを考えて見ると……当たり前かもしれないか。 ちょっと、暴れまわるの、自重しよう…… 




「ん、そろそろ時間か。 いくか」


「はい、お供いたします」


「ついて参れ」




 事も無く、サリュート殿下は、それまでの会話をサラッと流され、私を練兵場の一角に連れ出した。 あぁ……あの、魔法円かぁ…… 本当に何もかも、「武術大会」と同じにするんだ……。 同条件で、あの時の再現をして、克服するんだ……。 いいけどさぁ、なんで、フローラ様まで居るんだ? そんで、なんで、ニッコリ笑って、手を振っているんだ?


 アノ時と同じ装備で、同じ得物を持った、マクレガー子爵が魔法円の中に突っ立ってこっちを見てた。 闘志が満ち溢れとるな。 紅いオーラが見えるよ。 やる気満々だね。 でもさぁ……、 ちょっと気になる事あるんだ。




    あの脳筋からは、殺気が出て無いんだよ……。




 おっかしいよね、御家で御父様と鍛錬する時には、殺気の塊、叩き付けられてるんだよ? 気を抜けばその殺気に押し潰されそうになるくらいに……。 ミャーと組手する時にだってそうだ。 なのに……。





「よく来た! 早速始めよう!」





 能天気な奴だな……。 いいよ、判った。 開始線に着く。 サリュート殿下は審判の位置に行った。 お互い黙礼をして、試合開始だ!!




 ―――――




 剣戟は、数合繰り返される。 今度は、マクレガーの剣筋も揺れてない。 ピシッっと決まった、綺麗な剣筋。 当然、相当の力もある。 なにせ、ガタイがデカいからね。 それをククリで、” いなし ” ” 躱し ” 隙があれば、反撃する。


 まぁ、綺麗な試合だと思うよ。 剣技を競い合うのには、持って来い。 でもさぁ……なんか、「ぬるい」 のよ。 だって、殺気が無いんだよ。 そんなんじゃ、斬れないんだよ。 まるで、ダンスを踊ってるみたい。 奴も、私も、かなり頑張って、体力付けてるから、早々息も上がらない。 


 でも、私は女の子だから、ジリ貧に成るのは、目に見えて判る。 だから、ちょっと自分で目標を設定してみた。


 マクレガーの装備でね、生身に近い箇所が全部で六か所あるんだ。 肘の内側、膝の裏側、両側の首筋。 其処に、ククリの刃を当てる事。 もし、本物のククリなら、確実に斬り飛ばすか、致命傷を与える斬撃。 




       出来るかなぁ……? 




 奴が騎士剣を振り切った、その隙に、一気に間合いを詰めて、ククリを振るう。


    首…… OK!


 引いて、飛んで、間合いを開ける。 奴が引いた私を追撃。 大きく振りかぶって、一撃。 ギリギリで身をかわして、サイドに回り込む。 目の前に両手。 ククリが滑る様に、奴の肘を撫でる。


    両肘…… OK!!


 そのまま、後ろに飛びのき、距離を取る。 重心を廻して、水平に騎士剣の一閃。 後ろに下がるのではなく、前にダッシュ。 大きくジャンプして、奴の剣の軌道をかわして、奴の頭を越える。 片手で、奴の頭をトンって、さわってね。 着地寸前に、残心で伸び切った奴の膝裏にククリを滑らせた。


    両膝裏…… OK!!!


 よし、私の訓練は終了! 奴はそのまま回って、さらに、蹴りを放って来た。 両手で十字ブロック……。 でもね、やっぱり、体格差はいかんともしがたいの。 重いけりが、ブロックの中心に当たって、吹き飛ばされた。




 あはははは! 




 衝撃を和らげるのに、蹴りの向きに飛んだんだけど、ちょっとばかり遅かったみたいね。 無様な事に、ゴロゴロ転がりながら、魔法円の端っこまでぶっ飛ばされた。 追撃に入ったマクレガーだったけど、倒れたまんま、起き上がらない私を見て、慌ててた。





「勝負あり! 勝者、マクレガー!」





 サリュート殿下の声が、練兵場に響いた。 ほっとしたよ。 バレてないね。 





「だ、大丈夫か! レーベンシュタイン!!」


「…はい… 御見苦しい所を、お見せしました。 よく鍛錬為されました。 凄いですわ!」





 取り合えず、そう言っておいた。 まぁ、こんだけ出来たら、少々の事では死なないよね。 うん、ほんとに、良く鍛錬したよ。 体幹もブレてなかったし、力任せに剣を振る事も無い。 きちんと急所を狙ってくるし、いいよ。 ほんとに良くなった。 


 互いに握手をして、黙礼をし、試合は終了した。 満足げなマクレガーを、ちらりと見たの。 ホントに勝ったつもりでいるから、ちょっと笑っちゃったね。 





()()()()()()のは、黙っててやるから、ちょっと付き合え。 エミリーベル宮廷魔術師に、レーベンシュタインを【天蝎宮(スコルピオン宮)】へ、お連れする様に、仰せつかっている」





 銀箔の仮面の下から、トンデモナイ事を仰るサリュート殿下の姿が私のすぐ横にあったの……。 そっと、耳打ちして来る、優し気で、容赦のない言葉に、震えたよ。





「奴は、判って無い。 もし、レーベンシュタインの剣が真剣だったら、最低でも三度、血を噴出して死んでいる。 それにお前、最後の蹴り、()()()受けただろ」





 あぁ……この人、本物だ。 全部、見切られてた。 眼を丸く大きく開いて、サリュート殿下を見ちゃったよ。 なんなんだよ……ほんとにもう!!





「さて、マクレガー=エイダス=レクサス子爵。 貴殿は、良く戦った。 まだまだ、強くなれるな! この試合の結果に満足することなく、これからも精進する事を望むぞ!」


「ははっ! 仰せのままに! この剣は、エルガンルース王国の為に!」


「エルガンルース王国の為に!」





 滅茶苦茶、機嫌よさそうに、フローラ様の手を取って、練兵場を後にされるマクレガー様。 そうかい、頑張れよ! なんか、「畜生!!」 って感じだね。 狙った通りに成ったけどさっ!  それにしても、サリュート殿下……。 この人、油断なんねぇなぁ……。





「さて、我等も行くか。 レーベンシュタイン」


「はい……。 どうしてもですか?」


「あぁ、どうしてもだ。 もし拒否すれば、明日とは言わず、今夜にもマクレガーが、レーベンシュタインの家に押し掛けるぞ?」


「……御意……」


「そう、嫌がるな。 名誉な事なんだぞ? 普通は」


「でも……気が進みません」


「だろうな。 付き合ってやれ。 アレは、一生懸命なだけなんだ。 君と、ディジェーレ様を混同している節があるが、それでも、君の事を気に掛けて居るんだ。 それにな、君の魔力は王国にとっても魅力的な物だからな」





 ほんと、何処まで知ってるんだ? この御仁は! 


 練兵場の次は、【天蝎宮(スコルピオン宮)】の魔術師達のところかよ……。



 サリュート殿下に見えない様に、そっと溜息をついたんだ。 そうでもしないと……、 私の「心」が、持たないよ。




          ほんと、ついてない。




 マクレガー()のお願いなんて、聞くんじゃ無かったよ……。





 断れなかったけどね……。



 兵舎で、ミャーに手伝ってもらって、ドレスに戻したの。 テンション、ダダ下がり。 完全にぶー垂れてた。 ミャーもどう言っていいのか判らなかったみたいね。 黙っていてくれた。 眼だけは、ご愁傷様って感じで、見てたけどね。 これも、身から出た錆かぁ……。




     ドナドナされる、子牛に成った気分のまま、




        私は次の戦場にむかったの。



              そう、



           【天蝎宮(スコルピオン宮)】へね。


             








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では、また明晩、お逢いしましょう!!

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