表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 一年生
26/171

第26話 糾える縄の如し

 




【雪祭り】を盛大に楽しんだ翌日……



 なんか物凄くきつい目をした、下位貴族の寮組の女生徒に呼び止められたの。 物凄く横柄な口調で、一緒に来いって、言われたわ。 ほんと、” 嫌々来たんです、自分の意思じゃ有りません ” って、顔に書いてあったよ。 まぁね、別に気にする必要も無いし、 「 嫌さっ! 」 って言ったって、どのみち退路を断たれて、連れて行かれるんだろうから、ここは、大人しくついて行ったよ。



 で、行先は談話室(サロン)な訳よ。



 そこは、高位貴族の皆さんが、お茶したり社交したりしてる場所。 主に噂話の発信源。 誰かが思い浮かべた事が、事実に成る場所。 そんで、もっと厄介なのが、女性の高位貴族の皆様が、大体主催されていて、権勢争いの主戦場に成ってる場所なのよ。




 行きたくねぇ……。




 相手のお貴族様の御実家の爵位が高ければ高い程、デカいお部屋が用意されるのよ。 はぁ、これも、この学院の無駄な所だと思うんだけど、どうも、お貴族様には必須の施設みたいなんだよね。 悪巧みをするなら、もっと目立たない場所で、もっと少人数で、給仕も、侍従も、侍女も、従者も 控えてない処でやりなよ。 



 情報駄々洩れになるよ?



 悪巧みって、それを知る人が少なければ少ない程、成功するのよ? 知ってた? で、何処の「談話室(サロン)」に連れて行かれるのかと、戦々恐々としてたら、割とこじんまりした部屋に連れ込まれたの。 




「こちらで、お待ちしてください」




 感情の籠らない、礼もへったくれも無い指示を出され、サロンの真ん中に、取り残される様に、置いて行かれた。 暫く、ボーって、周りを見てた。


 お部屋の調度品は一級品よ? 深紅のビロード張りの椅子とか、猫足のついてるテーブルとかね。


 壁に掛かっている画だって、どっかの巨匠の描いたモノだろうね。 号数がデカいんだ。 畳二畳分もあるような、どっかの御城のが、これ見よがしに飾ってあるのよ。 この部屋主の居城かねぇ……。 さらに、大量のお花。 花瓶とか、小型室内花壇とかに、これでもかっ! ってくらい、咲き乱れてるのよ。  




 高級花ばっかりだね。




 下町じゃ、とんと見ない花々バッカリ。 【氷雪月(アイセスシュニ)】だったら、温室でしか咲かないよね……。 まったくいくら掛けてんだ。 そんなに「お金」有るんだったら、くれよ! こちとら、なけなしの小遣いまで、領地の整備に使ってんだぞ? 


 ボンヤリ周りを見ながら、そんな事考えてたら、ちょっと聞き覚えのある声がしたんだ。




「ソフィア様! さぁ、此方に!」




 なんかめっちゃ、機嫌のいい声だね。 誰だっけ? あぁ、この人か。 



      フローラ=フラン=バルゲル 伯爵令嬢。



 ピンクブロンドの豪奢な髪、アーモンド形の目、高い鼻、ピンクに染まる頬、ぽってりと肉感的な口元。 すんごい、可愛い系の、素晴らしいスタイルの持ち主だしね。 ど天然だけど。 なんか、極端に振りきれる人なんだよ。


 そう、こないだ、正式にマクレガー=エイダス=レクサス子爵と、婚約した人。 そうかい、順調かい? よかったね。 思いの丈が叶って。




「バルゲル伯爵令嬢様に置かれましては、ご機嫌麗しゅう御座います。ソフィア=レーベンシュタイン、お呼びにより参じました」


「そんな……! 堅苦しい挨拶なんて必要ありませんわ! ソフィア様!」




 そうなんだよ、マクレガーの奴に、怒鳴りつけて、大事な物は何があっても死守しろよって、言っちゃったら、なんか懐かれた。 あんだけ目の敵にしてたのにね。 今じゃ、校舎で遠目に見る度に、ちっさく手を振って来たりされてるんだ。 なんでも、彼女の中では、彼女の恋の成就を手助けをしたらしいのよ。 この、()()() がね!




「わざわざお越し頂いたのには、訳が御座いまして……。 どうぞ、此方等に。 もうすぐ見えられますから」




 なんか、ハッキリしないね。 言われるがまま、物凄い高級な椅子に座らされたよ。 もうフッカフカ! お尻にジャストフィット。 深くも無く浅くも無く、絶妙なサポート感。 間違いなく一級品の椅子だね。 こんな椅子、お父様だって使ってないよ。 というより、レーベンシュタイン家にはおいてないね!



 なんか、ポヨンポヨンしたくなった。 しないけど……



 しばらくしたら、なにやら、お部屋の外が騒がしい。 キャーキャー言う、嬌声が薄っすら聞こえるんだよ。 あぁ……そう言う事か。 何となく判った。 そう言えば、「約束」したね。 もう一回手合わせをするって。 


 お部屋の扉が、バーンって感じで開いて、キラキラのエフェクト付きで、奴が入って来た。 そうだよ、



  マクレガー=エイダス=レクサス子爵。



 その人だよ。 ほんと、無駄にキラキラしとるね。 流石は、ダグラス第二王子の取巻きだけの事はあるね。 ちょっと着崩した制服が、ワイルド感を演出して、やんちゃ坊主の雰囲気を醸し出しているんだ。 あぁ、それでも、以前の「俺様オーラ」は、鳴りを潜めているけどね。




「フローラ! 遅くなって申し訳ない! やっと、了承してもらえた!」




 そう言って、もう一人男の人を連れて来たんだ。 黒髪に、銀箔の仮面。 はぁ……また、厄介な人を……、 


 サリュート第一王子だよ。


 なんで、そうなるんだ? 頭をよぎる、前世の私の記憶に有る言葉。




「人間万事塞翁が馬」って、言葉、覚えてた。

「禍福は糾える縄の如し」って言葉も、思い出した。




 せっかく、距離が置けたと思ってた、『 君と何時までも 』の主要登場人物達と、またもや接近しちゃってるよ……。 もう、溜息しか出ない。 でもさぁ、相手は王族だしねぇ……。 礼は尽くさないと、後々面倒なんだよ。


 椅子から立ち上がり、目一杯に淑女の礼(カテーシー)を決めておく。 もう、雲の上以上の身分差がある御方だから、視線も上げない。 バッチリ床を見詰めるのよ。 あぁ、綺麗な絨毯ね……。 此処に敷き詰められているだけで、街道にどれだけの街灯が付けられるかと思うと……、 なんか、私の汚ったねぇ靴で踏みつけている事にすら、罪悪感を覚えるよ……。




「顔を上げてくれ。 今日は、立ち合いに呼ばれただけだ。 それに、まだ、何も決まって無いんだろ?」




 優し気な声がした。 あぁ……なんか、気を遣わせちゃってるよね。 ゆっくりとカテーシを解く。 そんで、ゆっくりと視線を上げる。


   いるね。


      うん、目の前に居るよね。


          黒髪、銀箔の仮面の 「高貴な」 御方が。




「サリュート殿下に置かれましては、ご機嫌麗しゅうございます。 ソフィア=レーベンシュタイン、御前に侍ります」


「うん。 許す。 このままではなんだ、座ろうか」




 殿下の着座を待ち、みんなで座る。 うわぁ…… なんか、物凄く場違いが気がするね。 同じデザインの制服なんだけどさぁ…… 使ってる服地とか、高級仕立服オーダーメイドとか、反則でしょ。 こちとら、大きくなることを見越して、ぶかぶかの既製品なんだぞ! まったくつり合いが取れんじゃないか!


 あぁ……そうか。 さっき呼びに来た人の蔑んだ視線…… あれ、そう言う事か。 まぁ、そうだよね。 身に合わない制服着た、最下層貴族を伯爵令嬢のサロンの案内するなんて、嫌だっただろうね。 すまんね。 


 あぁ……帰りたい。





「レーベンシュタイン嬢、俺……いや、私もかなり使えるようになった。 騎士団の先輩方も、お許しを下さった。 どうだろうか、一手、御手合わせを! 立合い人を、恐れ多いことながら、サリュート殿下にお願いした。 サリュート殿下は、中等部に有りながら、騎士団にも所属されている大変すごいお方だ。 王族でもある。 これ以上素晴らしい、立会人は居ないと思うのだが……」




 はぁ、コイツ…… かなり興奮しとるね。 リベンジの機会だしねぇ。 



「武術大会」での雪辱を晴らすのと、公に手合わせしたって事を宣伝する心算だね。 それにしても、王族引っ張り出すとはね……。




「非才な身に過分なことです。 判りました。 お受けいたします。 それで、詳細は?」


「子細は、此処に纏めた。 殿下にもお渡ししてある」




 そう言って、私に一枚の羊皮紙を渡して来た。 高けぇ紙使いやがるなぁ……。 流石は公爵家の嫡男って所だね。 ふむふむ……。





    ^^^^^^^^^^^^^^




 試合は、次の安息日。 場所は、王国騎士団の練兵場。 立会人はサリュート殿下。 ギャラリーは……一応無い事になってるけど、多分練兵中の騎士団の面々が居られるかもしれないと。 


 武器は得意の得物……。 出来れば、「武術大会」の時と同じもので。 装備や防具は、いつも使っているモノ。 正しくは、「武術大会」の時のモノ。 時間無制限。 勝敗はどちらかが、” まいった ” と、言うか、サリュート殿下が止めるまで。


 救護は、「聖」属性持ちの、サリュート殿下自ら行う。 へぇ、そうだったんだ。 殿下、「癒しの力」っ使えるんだ。 凄いね。 流石は王族だよ。 と、言うより、その力って、殿下のお母様から受け継いだのかしら? まぁ、居ると居ないじゃ、手加減の度合いが違うからね。 


 ん? と言う事は、この馬鹿(マクレガー)、手加減無しで突っ込んで来るつもりなんだ……。 で、私を叩きのめしたいと。 




           うん、とっても嫌。 




 まだ、有るのかよ…… 攻撃系の魔法の使用は禁止。 自分に掛ける、支援系の魔法は使用可。 これも、「武術大会」同じね。 つまりは、私にとっても不利ってわけね。 だってそうでしょ、こんなか弱い女の子に、同い年だとしても、男の子が全力で掛かりますって、宣言してんだもん。 



 そんで、私は、魔術師特性がこの頃いい感じに伸びてるんだよ……。



 手足縛って、ボクシングするようなもんだよね。 一方的にボコられる、そんな未来しか見えないよ……。 




 くそっ!




 いっその事、暗器持ち出してやろうか? ズタボロにする事くらいはできるんだよ? でも、それしちゃったら、もう、どうにもならなくなるだろうしね…… オトナシク、ぶちかまされておくか!





「了承しました。 では、次の安息日に。 ご用件は、これで?」


「あぁ、俺……いや、私からはこれだけだ。 了承してくれて、ありがとう」


「お気になさらず……。 精一杯、務めさせていただきます。 では、わたくしは……」





 そう言って、立ち上がろうとすると、フローラ様が、止めて来た。 このまま、ここで、御茶会の真似事するんだとさ。 サリュート殿下がお運びに成られたから、その歓迎の意味も込めてとさ。 はぁ……だから、嫌だったんだ。 


 ほら、周囲の目がキッツいよ。 なら、皆さんもご一緒したらいいんじゃね?




「フローラ様、此方に居られる皆様も、当然ご一緒ですわよね?」


「えっ、……ええぇ。 そ、そうね。 皆様も、御一緒に、御茶会致しましょう。 サリュート殿下の歓迎ですものね」




 ほい、一気にレベルが上がったよ。 これで、私は壁の花に決定。 よしよし、紛れられるよね。 さぁ、皆さん、頑張って。 ニヨニヨしながら、壁際で見てますよ!


 おなかがドボドボになって、サロンの部屋を出れたのが、それから二刻後のことだったよ。




 ――――――――――――――――――――




 サロンの扉を抜けると、そこに、ミャーが居た。 待っててくれたんだ。 ありがとう。 ついでに、さっき渡された詳細規定の乗ってる、羊皮紙をミャ―に渡しておいた。




「こ、これでは、お嬢様が一方的に不利です」


「存分に ” 叩きのめされて ” おきます」


「……ソフィアぁ……」


「今後、こういった事の無いように……ね」




 ミャーの両の目の目じりが下がる。 心配してくれてんだ。 耳が見えてたら、ペタッて寝てるね。 さて、何時もより遅くなった。 食堂の掲示板と、出入り口の掲示板確認してから、帰ろう。 中便が出る時刻に近いから、ちょうどいいんじゃない?



 先に食堂の方に向かった。



 取り立てて、重要な事は無かった。 各種通達と、連絡事項。 警備の巡回が多くなりますとか、来週の献立とか、一部馬車組の生徒が、登校困難で一日休みに成った事とか。 他の組にも一日の休暇を与えるとか。


 まぁ、種々雑多な連絡事項だね、




「こう細かいと……ちょっと、監視されているみたい」


「仕方ないですね。 学園と言う特殊空間の為でしょうか? 羽目を外されている方が多いのでしょう。 校外において、羽目を外されてた方は、存じ上げております」


「ゴメンなさい。 後始末まで、させちゃってたよね」


「……【氷の聖女】派ですわよ、わたくしは……」




 なんでも、雪像と氷像の人気投票が実施されてね。 街の人達が気軽に買えるくらいの掛け金でね。 人集めのイベントみたいになってたよ。 勝敗は、金額の多い方が勝なんだって。 まぁ、街の人達が喜んでくれたからいいんだけど!




「来年の【雪祭り】の時も、どうぞ宜しくお願い申し上げますとの、ご伝言も、承りました。 今回の掛け金も、終了後に、街の教会に、寄付するそうです」


「私の……」




 怖~い目のミャーに、説教されそうになったよ。 口に出し掛けた言葉を飲み込むのに、ちょっと苦労したよ。御家に帰ったら、鍛錬着と、例のイミテーションの調子を確認をして、当日に備える事にしたんだ。 これで、ミャーとも打ち合わせられたから、よっぽどの事が無ければ、滅茶苦茶に成る事は無い筈。


 さぁ、帰ろうと、おもって、靴を履き代えに、靴箱に手を伸ばしたら、なんか、紙ぽいモノが指に当たった。 引き出してみて、二度目のビックリ。



 エミリーベル先生からのお誘いだった。



 茶とか、食事のお誘いじゃねぇよ!



 魔術の研究部門がある 【 天蝎宮(スコルピオン宮) 】への、お誘いだった。 



      つまりは、宮廷魔術師への、勧誘なんだ。






            ならんよ。







       そんな者(宮廷魔術師)になったら、




        あの人に逢えなくなる。




        エミリーベル先生って……、

 



       何処までも、傍迷惑な人だなぁ……。






感想、ブックマーク、評価、誠に有難うございます!!

とても嬉しいです。明日への糧です!!



それでは、また明晩、お逢いしましょう!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ