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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 一年生
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第24話 魔術師の意思

 




 【精霊月(ガイスト)】 晦日。 祈りを捧げた、精霊様達が、天界から帰還されるのを、お迎えする、【 精霊帰祭 】




 この【お祭り】は、バカ騒ぎしないの。 各精霊様を祭る教会とか、祠とかを綺麗に掃除して、時間のある人とか、大きなお願いをした人たちが、祈り捧げるのよ。 真摯な祈りに心地良く、御帰還されたら、依代となる像とか、祠がボンヤリと光を宿すのよ。


 最初見た時は、ホントにびっくりしたけど、魔法が存在する世界なんだから、これもアリかと納得した。 精霊様の御威光って、ある意味この世界に漂う魔力そのものだからね。 信心深くもなるよね。 盛大に送り出して、真摯に敬虔にお迎えする。




 この世界のことわりなんだよ。




 当然の事ながら、恋人たちはこのお祭りを一緒に過ごす。 将来を誓いあうって言う 「望み」 がある場合、同じ精霊様に祈りを捧げる。 家族も一緒にだと、更に加護は増す。 だからね、よく婚姻を結ぶ、両家の人達が一堂に集まる事になるのよ。


 でね、マクレガー様と、フローラ様、御一緒したらしいの。 両家の親族の人達と一緒に、王都の光の精霊様の大聖堂でね。 もう、それはそれは、幸せそうだったらしいのよ。 これミャーの情報。 両家の人達もニッコニコだったんだって。 婚約の白紙化は撤回され、将来を誓い合う二人にもう隙は無かったってね。




「良かったね、ほんとに。 これで、変な話マクレガー様は、かなり安定されるよ」


「最後まで、自分で良いのかって、仰っておいででした」


「彼しかいないでしょ、フローラ様には」


「確かに。 幼少の頃より気心が知れ、マクレガー様の内も外も熟知したうえで、心を寄せされて居られたのですからね。 お嬢様に直接文句を言いに乗り込んでこられるくらいに」


「バルゲル伯爵もさぞや戸惑われた事でしょう」


「勿論で御座います。 上位貴族の令息が、いきなりの婚約の白紙化を望まれて、その理由がご自身には、フローラ様が勿体ないから…… って。 かなりの混乱は御座いましたが、表沙汰に成る前に元に戻りましたから……、伯爵家も胸を撫でおろしておいででしょう」




 王立学園の中庭で、仲睦まじげに歩くお二人の姿を遠目に眺めつつ、ミャーと二人してそんな事をくっ喋ってたんだよ。 私は御父様と、ミャーと、御家の人達でタウンハウス(お屋敷)のお庭にある祠で祈りを捧げさせてもらったよ。 実に平和的で、心温まる一時だった。






 ――――――――――――――――――――






 雪がチラつき、朝晩に霜が降り、霜柱があちこちにできる、そんな季節が通り過ぎて行ったのよ。 固く着込んだ学院のケープ。 転ばない様に、踏みしめる歩み。 【氷雪月(アイセスシュニ)】の日々は、寒さと共に過ぎて行くの。


 乗合馬車の中でも吐く息は白くなるのよ。 ほんと、人肌が恋しくなるね。 いや、熱燗かな? 魔法の授業も大分高度に成って来た。 御家で習っていなきゃ、大変だったろうね。 いや、実際大変だよ。 実技なんかもあるし。 その上、先生が()()エミリーベル=クリストファー=アデクラント先生だしね。


 要求が高いのよ。 魔力レベル知られてるし、魔力操作もね。 一度に数個の魔方陣を描き出して、起動魔方陣を連結させろとか、全く別系列の魔法を同時発動させてバランスを取れとか……、 攻撃系、防護系、補助系、治療系……。 まったく何を考えているんだってくらいに、詰め込まれたよ。




 教科書に載ってない魔方陣をバンバン使われるし。




 同じクラスの人達、宮廷魔術師を目指してた子も居たけど、心へし折られててタヨ……。 アンナニ勉強しなきゃいけないのかって……。 ついて行くだけで、ものっそい大変な魔法の授業。 他のクラスもそうなんだって、みんな思い込んでたよ。 


 出来なくっても良いから、出来るだけの事をする事ってのが、私が所属した魔法の授業の合言葉みたいになったよ。 いずれ出来る様に成るかも知れないしね。 努力を怠るような子は、たとえ心をへし折られても、居なかった。





「エミリーベル先生、厳しいよね。 出来ない事も、出来る様になるから、努力しろって」


「まぁ、その生きている例が、先生自身だしね……。 もう、疲れたよ……」





 クラスの友人達が、眼の下にクマを作りながら、自嘲的に笑って言い合ってるの。 そうね、エミリーベル先生は、親友の失踪から人が変わったみたいに、魔術の勉強に力を注いで、宮廷魔術師に成っちゃった人だもんね。 それまでは、人よりは多少多く魔力を持った、普通の貴族の御令嬢だったんだよね。 努力が開花して、類まれなバランスの取れた魔術師に成っちゃんたんだもの……。





「自分に出来て、他の人に出来ない何てことない筈」





 ってさ。 そう云うのよ、エミリーベル先生。 その上、私がなんだかんだ言いながらも、ついて行っちゃっているものだから、他の生徒さん達もその気になってね。 下位貴族バッカリ集められたこのクラスは、王立学院の魔術のクラスの中でも、相当いい線いってるみたいなのよ。




氷雪月(アイセスシュニ)】の寒い日々は、魔法の授業の実技に焦点が合ってたの。




 ここで、落第とか言われたら、二年生に成れないしね。 クラスのみんなと頑張ってたの。 難解な理論をちょっとでも判りやすくするために、教室の壁にでっかい紙で作った、魔術大綱一覧。 各魔術を体系的に、発動条件順に並べて、魔力を使わずに魔方陣を描いて載せてるの。


 これで、自分が何をしなきゃならないかとか、目指さないといけないものとかが、視覚的に理解できているのよ。 自分達で作ったのよ? 専門に勉強した訳じゃ無いけど、エミリーベル先生の授業から割り出して、書き込んでいったの。


 今日も今日とて、本日の授業内容を、羽ペンとインクで、その魔術大綱一覧に書き加えて行くの。 どの体系と、どの体系が親和性が強いかとか、反発するかとかね。


 感覚的にどの位魔力を消費するのかとかね。


 精度はどのくらいまで高められるのかとかもね。


 一冊の本が書けそうなくらいよ。





「レーベンシュタイン嬢。 よく理解されてますね」


「エミリーベル先生!」


「よく理解しているわ。 本当よ。 ……あなたは、その魔法の力を何に利用するつもりかしら?」





 ちょっと、黒いオーラを纏わりつけた、エミリーベル先生が、私をうっすらと笑いながら問い質して来た。 ほら、エミリーベル先生、学校の先生って言うだけでなく、宮廷魔術師としても任官されて居るでしょ? 私が、危険な思想の持主だったら、芽の内に摘んでおくと、そう考えられても不思議じゃない。


 でも、私、別段王国と敵対してる訳じゃ無いしね……。 市井や、村々の困っている人達の手助けやら、救いを求めているのであれば、条件付きだけど、出来るだけ彼等の事を護りたいものね。


 つまりは、領地の人達。 収穫も、流通も、それなりにしか無い、レーベンシュタイン領。 生活基盤は脆弱で、なにか重大事件があれば、即、経済的に困窮するのは目に見えてるもの。




「エミリーベル先生。 わたくしは、我がレーベンシュタイン領の人々に安寧をもたらしたいだけですわ。 お教え頂いた各種の大型魔方陣は、それを可能にします。 本当に感謝しておりますのよ」


「そう……ならば、良いのだけど……」




 周囲を見回し、教室に私しかいな事を確認するエミリーベル先生。 なにか言いたそうにしていたのだけど、かなり言い難い内容みたいね。 口の中で、モゴモゴ言葉に成らない音を出してるのよ。




「先生?」


「……あ、あのね、これは…、 個人的な好奇心……いえ、疑念でしょうか……。 貴女に聞きたい事が有るのです」


「はい、何なりと」


「ソフィア=レーベンシュタイン。 貴女、本当にご自身の母親についての事、御存じ無いの?」


「ええ、全く。 周囲の大人達から、私がまだ物心付く以前に亡くなったとだけ。 名前も教えていただけませんでしたわ」




 ええ、そうよ! 嘘、吐いてますよ。 サラッとね。 表情も変えず、動揺もせずにね。 ママがディジェーレさんなんて、知られようものなら、それこそ一大事よ。 






――――――――――――――――――――――






 先生と、ママとの接点は、ママが断罪され、市井に落とされる前から有るのよ。 引っ込み思案で、人見知りの激しかった、エミリーベル先生。 そんな先生に手を差し伸べて、楽しい学園生活を一緒におくっていたのが、ディジェーレ=エレクトア = マジェスタ公爵令嬢。


 あの、『瑠璃色の幸せ』の断罪シーンの中で、唯一ディジェーレさんとを庇ったのが彼女。 余りにも苛烈に否定し、あちら側の証拠とやらも粉砕しようとした人。 アーレバースト=エルガン国王陛下…… 彼( 当時は第一王子様でした ) は、アデクラント伯爵令嬢 のあまりにも盲目的な、ディジェーレに対しての忠誠に苛立ちを覚え、何故か劣等感すらを抱いたらしい。 




 陛下……小っさい。 それは、小さな男のする事ですよ!




 不当な断罪に、苛烈に突っかかり、反論を試みる、ママの親友ともいえる、アデクラント伯爵令嬢。 彼女が、眼を怒りで一杯にして、不敬罪に問われる事も恐れずに反論した容赦のない言葉に、少し自信が揺らいだかもしれない。 


 そんな自分に、自分達の行っている事に異議を差しはさむ伯爵令嬢へ怒りを覚えられたらしいの。 でもその時、殿下の瞳に映り、御心に留まったのは、最愛の人「アンネテーナ様」の悲し気な瞳。 アデクラント伯爵令嬢の、反論でさえ、ディジェーレ公爵令嬢が、言わせているのだと錯覚したのね。




 でね、暴走が始まったと。




 穏やかに注意して、間違いを認めさせた後、ママと結んでいた婚約を白紙化する事で、罰をお与えに成ろうとされてたみたいなんだけど、そこに怒りが加わり、更なる罰をお与えに成ったのよ。




     「貴族籍の剥奪」 




 その様子を伺っていた、当時のエルグリッド=ノーマン=マジェスタ子爵は、千歳一隅のチャンスとばかり、妹であるディジェーレを街に放り出した。 《「貴族籍の剥奪」と云うのは、市井に落とせって解釈しました》って、シレッて言いやがったらしい。 全部の事を、アーレバースト=エルガン殿下と、アンネテーナ=ボキシー子爵令嬢、そして、エルグリッド卿以外の、アーバレスト殿下の未来の重鎮達に押し付けたってことね。


 一瞬で、自分以外の次世代の貴族社会の中での評価を地の底まで引き摺り落としたんだもの。 チャンスを狙ってたとしか思えないわ。 常日頃から、自分の妹すら駒としか見ていなかったって事ね。 それが、マジェスタ公爵家なのよ。 情と言う情を徹底的に排除している家系なのよね。 ただ、ただ、生き残りと、上昇志向、権力欲の塊みたいな家よ。 


 そして、ボロ雑巾みたいに、利用するだけして、ポイ捨てされたのが、ママなのよ。


 娼館の一室で私を産み落としたママ。


 その時は、無念とか恨みとか無かったよ。 ただ、ただ、自分が生まれて生きて来た証である私の幸せを祈って下さったわ。 


 でも、そんな事は知らない、エミリーベル=クリストファー=アデクラント伯爵令嬢は、自分の正論、反論のせいで、ママが「貴族籍の剥奪」をされて、市井に落とされ、行方が分からなくなったと、おもってしまったの。 幸い、彼女の言動は、全てママのせいにされたから、罰則はなかった。 でも彼女の中に暗い影を深々と刻み込んでしまったらしいのよ。




  ” 自分の善意が、最悪の状況を生み出してしまった。 ”




 後悔が、エミリーベル先生の心の中を黒く染め上げちゃったんだね。 彼女は力を得るために、努力に努力を重ね、ついには宮廷魔術師に成るまでに成長したのよ。 出自もしっかりした伯爵家。 研鑽を重ねて付けた魔法の力。 その彼女の人となりと、努力は、宮廷魔術師達の脅威でもあったの。 だから、研究職から距離を取らせるために、ビューネルト王立学院の教師として、任命されたらしいのよ……。



      この国の上層部らしいやり方ね。



 そんなエミリーベル先生。 失意の中、出逢ってしまったのが、ソフィア=レーベンシュタイン…… ディジェーレ=エレクトア=マジェスタ公爵令嬢と同じ、銀髪、紅眼の彼女そっくりの少女。 生まれ変わりか、それとも彼女の子供だと、確信に至ったって事ね。 だから、執拗に、執拗に、私に出自を聞いてくるのよ。



          ほんと、迷惑ね。



 もし、私がこの記憶を持っていなかったら、軽い洗脳に掛かかるか、ママの娘って事を伝えちゃうかもね。 そして、それを大々的に喧伝するのよ…… ()()()と思ってね。 そして、また、善意の結果、私は「世界の意思(シナリオ)」に巻き込まれ、最後はデッドエンド。



         シャレになりません。



 私は、この人から、技術と知識を貰うだけにするの。 だって、私達の先生なのだからね。 




「ソフィア=レーベンシュタイン。 貴方の姿は、私の一番大切なお友達にそっくりなの。 この国では滅多に居ない貴女の姿。 だから……」


「先生、わたくしの出自は判りません。 孤児なのです。 これ以上の御詮索を頂きましても、わたくしには、なんとも申し上げられません。 ご容赦ください」




 にこやかに笑って、誤魔化した。 というより、逃げた。 いや、ほんとに迷惑だから。




 でもなぁ…… この人、魔術師の中では穏然たるちからが有るんだよ。




      なんか、狙ってるのかな……。




         嫌だな……。









感想、ブックマーク、評価、大変大変ありがとうございます。

頑張っています! 楽しんで頂ければ、幸いです。



それでは、また明晩、お逢いしましょう!!

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