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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 一年生
21/171

第21話 【鏡祭り】の日に

 



 鏡祭月 晦日。  つまりは、【鏡祭り】の当日ね。 朝早く、お日様が出る前に起き出して、準備をしたの。 ミャーに手伝ってらって、準備したのよ。 お化粧も、彼女の手によるもの。 拝みたくなるような、美少女が鏡の中に出現したわ。


 流石は、お姐さん達の御用達ね。 女性を素敵に見せる手腕は、超一流なんだから!


 彼女が御者になって、王宮へ向かう。 まだ暗いの。 なんで、こんなに早く行くかって言うと、アリバイ作りの為。 多分、アンネテーナ妃殿下の事だから、極秘に事を進めたいはず。 そうしたら、本当に信頼できる侍従さん達以外に、お話しないよね。


 つまりは、通常の手順を大幅に外れた、行動なんだよ。


 だったらさ、それを逆手に取るのが吉じゃない? で、万が一の事を考えて、朝早くに出向いたの。 だって、今日は、王家主催の【鏡祭り】当日。 当然、警備は厳重を極めている筈なのよ。 そうでなくちゃいけないからね。


 其処に、妃殿下の招待状だけを持った、男爵令嬢が、”こんちわー、呼ばれたから来ました~ ” なんて、尋ねて行っても、きっと、相手にされないわ。 最外郭の営門ですら通り抜けられないと、思うのよ。 夜明け前の薄暗い街を一頭立ての馬車が行く……。 もう、戦いは始まっているよ。


 お祭りの準備で、夜通し頑張っている人達も居るしね。 王宮周辺は、魔法灯火が、これでもかって焚かれていた。 で、業者さんの馬車に紛れて、最外郭営門に到着。 馬車は此処まで。 ミャーに手を引かれて、馬車を降りるの。 衛士さんにゆっくりと近づく。 なんか、向こうも困惑してるね。 私もよ。




「ご機嫌麗しゅう御座います。 ソフィア=レーベンシュタインに御座います。 本日、アンネテーナ妃殿下の御呼出しで【処女宮(ヴァルゴ宮)】に、呼び出されました。 此方が招待状で御座います。 どうぞ、よしなに」


「あ…あぁ。 ご招待のお嬢様ですね。 ソフィア=レーベンシュタイン様……暫く、此方に」




 そう言って通されて行ったのは、衛兵詰所。 まぁ、そうなるわね。 行先は……衛兵隊長さんの部屋。 一応、貴族の娘だし、ミャーに綺麗にして貰ってるから、そこそこの対応してもらえた。 衛兵隊長さんの前に立って、お待ち申し上げたの。


 衛兵隊長さん、なんかのリストをバサバサめくっているんだけど、どうも、そのリストに名前が無いらしいの。 で、もう一度、招待状を見て……。




「ソフィア=レーベンシュタイン嬢、貴女の御名前が、招待客リストに有りません。 さらに、この招待状が、本物かどうか、わたくしには判断が付きません。 内郭府のしかるべき場所において、確認させていただきたい」




 羽切文句だけど、こういった職業人に、私は好感をもってるの。 彼等の職務は、危険の排除。 良く判らない人を王宮内に入れない事。 さらに、私の身分は男爵令嬢。 普通は、もっと高位の方が引き連れて来るような娘よ。 それが、単身で従者も付けず、来たんだもの、怪しむわよね。 けど、その招待状には、私一人で来るようにって、書いてあるし。 封蝋は王家の紋章だし。 


 衛兵隊長さん、困惑しかなかったよ。


 素直に頷いて、待つことにしたの。




「貴方様の御言葉、とてもよく理解できます。 御立場上、本日の警備には特段の注意を払われている。 判ります。 御造作かけて申し訳ございません。 ……どちらで、お待ち申し上げればよいでしょうか?」


「なに、そう時間は掛らないでしょう。 多分、数刻内には。 レーベンシュタイン嬢、貴女もこうなるとお考えで、こんな早朝に来られたのでしょう」


「ええ、まさしく。 では、こちらでお待ち申し上げます」


「むさくるしい所ですが、直ぐに問い合わせを致します。 何かの都合で、リストから漏れたのかもしれませんしな」


「はい、左様で御座いますね」


「おい、イーガル! これを持って……」




 衛兵隊長さん、近くに居た衛兵さんに、書類を持たせ、問い合わせに向かわせた。 忙しそうな、ざわめきが聞こえる。 飛び交う怒声、走り回る長靴の音。 お祭りの日だものね。 一人の衛兵さんが、隊長さんの部屋に飛び込んで来て、何かしら耳打ちしてる。 


 これ、なんか、トラブルが起こった感じ。




「レーベンシュタイン嬢、済まないが、わたしも色々とな」


「ええ、存じております。 どうぞ、お仕事されてください。 お気遣い誠に有難うございます」




 丁寧に礼を尽くした。 衛兵隊長さん、頷いて駆け出して行ったよ。 ポツンだよ。 座っていいって言われなかったし、座れるような椅子も無いし……。 まぁね、 ” おかあさん ” のお仕置きで、一日中、お店の出迎えした事もあったから、ただ、ぼーって突っ立てるのも、結構得意。


 この際だから、この営門の中を探ってみよう!


 ほら、私のドレスって、特別製だって言ってたでしょ。 それを使うの。 筒袖の内側に、ちょっとした細工があって、その中に、魔法糸が仕込まれてるのよ。 この糸、魔力を走らせると、うにょうにょ動いて、周囲の「音」とか「映像」とかを拾ってくれる。 でもって、めっちゃ細い上に、使う魔力も僅少。 気付かれ辛いのよ。 


 盗賊ギルドの人達とか、暗殺ギルドの人達なんかが良く使ってるわ。 相応の対応策が無いと、侵入を拒めないからね。 で、私はその魔法糸の操作、得意なのよ。 自分で考えた動きなんかも組み込んだ魔法を駆使できるしね。


 さて…… 調べますか。





 ――――――――――――――――――――





 腕を下ろして、身体の前に添えた感じで、瞑目してずっと立ってた。 頭の中に、この営門と衛兵詰所の見取り図が完成してた。 衛兵さん達の動きも観察できた。 なかなかよく訓練されてんじゃん。 何人か忍び込もうとした人をとっ捕まえて、牢屋にぶち込んでたし、喧嘩なんかも抑えてた。



     貴族への対応もバッチリ。 



 まぁ、通常の手順てなものが、きちんと確立してるからね。 その手順に則って、仕事をこなしてる訳だよ。 だって此処、最外郭の営門だもんね。 重要なのは、内郭と最内郭だからね。 私が、行きたいって言ったのが、その最内郭に建ってる 【処女宮(ヴァルゴ宮)】なんだよね。 


 もう、お日様もかなり高い所まで上がってるね。 まだ、最外郭を抜けられないって事は、私の目論見は完全に達成されたって事。 思わず笑みが零れたよ。 なんか、開け放たれた扉の向こう側で、声がしてた。 魔法糸からも、音声が届いてる。 


 なになに、なに、お話してんの?




「あのお嬢ちゃん、何時までいるんだろ」


「知らんよ。 内郭府に問い合わせしてるらしいんだけど、まだ、返事が無いんだそうだ。」


「ずっと、立ち続けてるぞ……。 微動だにせずに。 怒りだすんじゃねぇか?」


「それよりも、俺は、あんな綺麗な人形みたいな女の子、見た事ねぇ……。 でも……倒れんじゃねぇか?」


「隊長が戻って来るまで、立ち続けてるか、賭けるか?」


「のった! 昼飯でどうだ?」


「エールも付けろよ!」


「俺も!」 「俺も!」




 なんだよ、それ。 まぁ、ずっと立ちんぼだけどね。 でも、こんなん屁でも無いけどね。 もちろん娼館での 「お仕置き」 も、有ったんだけど、それよりも、御父様との楽しい鍛錬が役に立ったよ。 だって、レーベンシュタインの「お仕事」の一つに、身を潜めて「待つ」ってのもあるんだ。 情報を取る為に、闇に潜んで、ただひたすら待つってやつ。 


 その為の訓練で、壁に手をついて、片足で丸一日とか立ってるとかね。 その間中、ずっと【聞き耳】の魔法を展開し続け無きゃなんないとか。 もう、スパルタよ! おかげで、ただ立っているだけなんて、チョロイチョロイ!! 


 あぁ、御父様の訓練が厳しいのは、ミャーの事が有ったから。 私が、ミャーの主人になるって事で、お屋敷の皆さんに周知しちゃったんだ。 御父様がね。 ミャーは暗殺者ギルドで訓練を受けたじゃない。 レーベンシュタイン男爵家の家訓でね、「使う者は、使われる者より有能でなくてはならない」 ってのがあるの。


 お父様、実践しちゃったわけ。 ギルドでする訓練よりも、厳しい訓練を、()()()()()()、私に授けて下さった。 だから、ミャーに出来る事は、私にも出来るのよ。 もちろん、「お仕事」方面でもね。 その土台の上に、御父様の剣技やら、闘技やらを上乗せ。




 ほんと、死ぬかと思ったくらいよ。




 でも、力になった。 まだまだ甘いけど、それでも力になったよ。 必死に食らいついて、身に着けたもん。 だからかな、御家の人達に、「鬼姫(オーガレス)」嬢様なんて、陰で云われてるの。 疲れすぎで、剣呑な光を瞳に宿して、幽鬼の様に、ふらふら歩く私。 それでも、御父様について行ったもの。


 その時の事を思い出して、ちょっと笑ってしまった。  頭の中に出来上がった、この営門と詰所の詳細な見取り図から、更に言えば、隠し扉とか、隠し通路とかを駆使して、最適な逃走経路とか、待ち伏せできるような場所とか、考えていたよ。




 もう、職業病だね。 




 そんな中、ちょっと気になる一室を見つけた。


 教会みたいな場所。 あぁ、祈祷所ね。 精霊様に祈りを捧げる為の部屋。 此処の衛士さん達も、時間見繕って、鏡祭りの御祈りを精霊様に捧げるんだ。 いいね! いい心掛けだよ。 このまま、時間が過ぎて、王宮に入れなかったら、ミャーも呼んで、私もあそこで一緒に、お祈りさせて貰おう。 


 遠くに鐘の音が聞こえた。 


 お昼だ。 


 つまりは…… 御茶会に間に合わなかったってこった!


 やっほい! 目論見通り。 いや、それ以上だね。



 () () () () () () じゃ 無いもん!!!!



 ガヤガヤした、音がしてた。 お昼だし、衛兵の衛士さん達も、お昼食べに戻ってくるよね。 当然だね。 そんな人達の中に、衛兵隊長さんも居た。 朝早くから、呼び出されて、やっと帰ってこれたって顔してた。


 そんで、私が、微動だにせずに突っ立ってるもんだから、物凄く慌てて駈け込んで来たよ。




「レーベンシュタイン嬢!!! 何をされて居るのですか!!!」


「はい、お待ち申し上げておりますが、なにか?」


「い、いや。 未だに、なんの連絡も無いのですか!」


「はい、ずっと、お待ち申し上げておりますが、なにも……」


「し、しかし、時間は!」


「ええ、もう間に合いませんわ。 この最外郭の外側から、最奥の【処女宮(ヴァルゴ宮)】まで、どの位の距離があるか判りませんし、()()()()()、ご確認が取れておりませんもの」




 私の言葉に、絶句してた。 とにかく、私をどうにかしないとと思われたんだろうね、内郭のしかるべき場所に問い合わせを再度されてた。




「ずっと、立っていらしたのですか?」


「ええ、この場でお待ちするように、仰って頂いておりましたし。 着座の御許可も頂いておりませんから」


「す、済まない!!! おい、椅子を!!」




 なんか、大慌てね。 別に気にしてないわ。 だって、貴族って言っても、一番下っ端の男爵家の令嬢だよ? 気にしてたら、生きて行けないよ。 にこやかに笑いながら、衛兵隊長さんに応えたのよ。




「お気に為さらないでくださいね。 私は、訪問者なのですから。 それも、()()()()()()()()()。 あの、隊長様、一つお願いが」


「何でしょうか」


「このままいけば、多分では有りますが、わたくしは王宮には入れません。 せっかくの【鏡祭り】なのに、精霊様にお祈りを捧げる事が出来なくなります。 もしよろしければ、此方でお祈りを捧げてたく、存じます。 どこか、そういった場所は御座いますか? それに、外で待たせている侍女も居りますの。 できれば、一緒にお祈りを捧げたいのですが……。 ダメでしょうか?




 上目遣いで、あざとくお願い。 どう? 効く?  お姐さん直伝の、強力な手管。 ” あんたなら、絶対効くよ。 大きくなったら、『傾城』って呼ばれるくらいになるよ、保証する!” ってね。  で、衛兵隊長さん、落ちた。 あんぐり口を開けて、コクコク頷てたよ。 





 ――――――――――――――――――――





  結局、


    やっぱり、


       案の定。




 連絡は来なかった。 時間は過ぎ去り、【鏡祭り】本番が始まる時刻。


 あの後、食堂に連れていってもらって、お茶してた。 ニコニコ笑いながら、衛兵の皆さん達とお喋りしながらね。 時間が過ぎ去るの待っていたの。 衛兵隊長さん、めっちゃ気にしてくれて、ミャーも連れて来てくれた。 ミャー、私が衛兵さん達に囲まれてるの見て、一瞬、「闇の右手」の顔が出かけてたよ。




「ミャー! ここの人達、楽しい方々よ! いろんなお話が聴けて、ソフィア楽しいわ!」




 牽制の意味で、敢えて大声で言ってみた。 きちんと理解してくれた。 私の後ろに立って、耳元にそっと言葉を紡いて来た。





「お嬢様……心配しました。 どうなる事かと」


「想定通りよ。 狙った通り。 もう、こんな無茶しないわ、多分」


「お嬢様……」


「さぁ、例年通り、二人で【お祈り】しましょ!! 衛兵隊長さんが、ココの施設を使わせてくださるって!」


「はい、お嬢様」





 詰所の、小さな祈祷所。 そこで、一心に祈るの。 今年の豊穣の感謝と、来年の加護を。 そして、個人的なささやかな ” お願い ” 




 ”あの人と逢わせて下さい”




 って。


 祈祷所の中は、衛士さん達で一杯になった。 よっしゃ、良い事してあげる。 祈りながら、【大慈母神 アレーガス様】の、御降臨を乞うたの。 私の周りに祈りの紋章が浮かび上がる。 魔力で描き出した、魔方陣。 駆動式も、起動式も組み込まれた奴。 魔方陣完成と同時に発動するのよ。


 魔法の発動と同時に、光の柱が私を中心に、天高く吹き上がる。 光の粒が、降り注ぐ。 やっぱり来てくれた。 流石はママの守護神。 ママの全てを受け継いだんだもの、出来る筈って思ってた。 衛士さん達、そして、衛兵隊長さん、呆けた顔してるね。 見た事無かったんだ、精霊大神の具現。 




        大地と天空を繋ぐ光の柱。 


      みんなの祈りは、必ず届けられるよ。


 私が祈り続ける姿をみて、皆さん、真摯に頭を下げられたわ。 



         祈りが届くといいわね。



           だって、今日は、



            【鏡祭り】



            なんだもの。





      ********************






 日付が変わる頃、御家に向かったの。 衛士さん達、みんなでお見送りしてくれた。


 気にしなくても良いよ。 わたし、あなた達の事、利用してたんだもの。


 とっても、素敵な、【鏡祭り】 ありがとうね。




 御家に帰ったら、ビーズさんが、青い顔してた。





「お嬢様!! どちらに居られたのですか!!」


「はい? あぁ、わたくし、王宮に入れませんでしたの。 南の衛兵詰所にずっと居りましたわ。 どうも、招待されたお客様のリストに、入っていなかったらしく……」


「な、何ですと!!!!!  耳!、口!、御屋形様に御注進だ!! 早く!!」




     ビーンズさん、相当慌てられてるね。 

  




     ……御父様、王宮に呼び出されたんだ……。





        ごめん、尻拭い宜しく!!






ブックマーク、評価、誠に有難うございます。

がんばって、綴っていきます。


また、明晩、お逢いしましょう!!

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