第17話 初年度の「武術大会」での事
走っているの。 放課後、最終便の乗合馬車が出るまで。
黙々と、自分の体をイジメ続けるの。 当然、身体強化魔法は使わない。 私自身の地力をつける為に、走り続けているの。 ミャーも一緒よ。 彼女も「お仕事」で、なにか思う所あったらしいの。
「お嬢様、私も鍛錬のご相伴に預かります。 もう、あんな思い、したくないですから」
そう言う彼女の目は真剣だった。 だから、一緒に走った。 地力を養うと、全部の能力が向上するの。 体力も、魔力総量も、技能も……全部ね。 だから、限界まで、それこそ倒れるくらい、自分の体を苛め抜くの。 そうすると、魔法や技能を行使する時、何倍にも強化されて帰って来るの。 体感できるのよ。 これって。 走り始める前と後じゃ、ほんと、効きが違うもの。
そんな私達を、高位貴族の人達は笑っていた。
付け焼き刃だとか、何をしたって無駄だとか。
元の魔力総量や、技能が高ければ、ほんの少しの上昇だって、普通の人一人分の能力値くらいにはなって来るのよ。
そういうことを知らない連中の、誹謗中傷は、耳に入るけど、脳裏には残らない。 雑音と同じだ。 体幹を整え、無心に走るの。 身体が私の云うままに動くように、一挙手一投足全て意味を込めて。 無心に走るの。 夕焼けが真っ赤に染め上げる、運動場の周回。 息は白く、肌は刺すような風にさらされる。 やめてしまえば、それまで。 苦しいし、本音を言えば、やめたい。
でも、やめない。
辞めたいなんて気が起きる時は、高位貴族の蔑んだ目を思い出す事にしてる。 奴等は努力なしで結果だけを受け取る事に慣れている。 だから、人の努力を笑う事が出来るんだ。 まぁ、別な努力はしてるんだろうけどね。 わたしは、そんな無駄な努力はしない。 必要なのは、生き残る為の力。 だから、無心に走るの。
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「ソフィア様、大丈夫ですか? お疲れの様ですが」
「問題、御座いませんわ、ドロテア様」
「先程から、机にもたれ掛かって……。 座っているのも辛そうですわよ?」
「まぁ…… 無様な姿を! 申し訳ございません」
お昼時、食堂で倒れそうに成ってた。 ドロテアが心配そうに私を見ている。 身体は疲れ切ってる。 でも、必要な手順だもの。 食事にも気を使っているの。 高たんぱく、高炭水化物。 体を作る為の食事よね。 かなり、筋肉がついて来た。 でも、しんどいよ。
「むちゃな、運動されておられるんでしょ? 先生方が、心配されて居られましたわ」
「……でも、武術大会で無様は晒せませんもの。 レーベンシュタインの娘ですから」
「……わたくしも……心配しておりますのよ?」
「……あと、少しで、武術大会です。 それまでは……出来る限り……」
「頑固者!」
いやいや、なんで?
「貴女の矜持は判ります。 でも、やり過ぎです。 このままでは、お体を壊してしまいます。 それでは、武術大会もなにもありませんわ! もう!! ……それに……」
何だろう、彼女が口にしようとしている事。 なにかあるよね。 なんだろう? 心配そうに私を見詰める瞳。 今している努力が、無駄に成りはしないか、そして、その事に私の心が折れてしまわないか、そんな意味の視線を投げかけてきたた。 すべて、ひっくるめて、心配しているって事ね。
なにかを決心したように、ドロテアが口を開いたわ。
「ソフィア様の初戦の相手が決まりましたの」
「えっ? くじ引きでは?」
「生徒会が、勝手に決めました。 均等に割り振るとかいって!!」
なんでか、物凄く怒っているね。 それで、それ以上に悲しんでいる。 なにか、途轍もない迷惑事が降りかかりそうね。 で、誰なんだ? 初戦の相手って。
「ソフィア様の初戦の相手は、あのマクレガー=エイダス=レクサス子爵ですわ!!」
うわっ! また、トンデモナイ人当てて来たよ……。 彼女の心配……、 ある意味、とっても正解だよ。
マクレガー=エイダス=レクサス子爵。
コイツ、『君と何時までも』で、二年時に物語の中のソフィアに、嵌められて、廃嫡されちゃう、天然脳筋。 自暴自棄になって、暴れ回ったあげくに、騎士団の偉いさん直々に、刀の錆にされちゃったっていう人。
赤毛で、深い緑色の瞳をもった、めっちゃカッコいい人なんだけどね。 性格がねぇ……。 粗暴、考え無し、更に悪い事に、剣の腕が立つ、レクサス公爵家の長男坊。 いろいろと甘やかされて、剣筋の良さから、次代の騎士団長なんて呼ばれてて……。 勿論、マクレガーもその気、マンマン。
と云うのも、マクレガーのお父さん、国防担当の セントリオ=ゴーメス=レクサス公爵なんだよ。 でも、マクレガーに国防長官なんて、頭を使う役職なんか勤まんないし…… だから、御二男のエメリオ様ってのが、その任に当たる事になってた筈。
つまりは、マクレガーって、やんちゃ坊主で空気読めない上に俺様気質が強いのよ。 才能も有って、身体も大きいから、十二歳にして騎士見習いと同等って言うじゃない……。 さらに、めっちゃ尊大なのよ。 いつも、上から目線でね。
ほんと、関わりたくねぇ人物の筆頭だよ。
物語の中のソフィアは、そんなマクレガーが密かに抱いている「弟君」エメリオ様への劣等感をうまく刺激して、認識させて、偽りの癒しを与え、依存させる。 で、コイツ、チョロイのよ、色恋沙汰にはね。 そのくせ、強がって、お嬢様たちには絶対に弱い所みせない様に、かなり攻撃的で、周囲から煙たがられているって訳ね。
メンドクせ~~~~奴!
この世界には、君を甘やかしてくれる学友は居ないのだよ。 早く目を覚ませ! で、「世界の意思」は、私に奴を甘やかさせるために、こんな事仕組みやがったんだ。 くそっ!
絶対にやらねぇ。 叩きのめしてやる!
紅い目に剣呑な光が浮かんだみたい。 ミャーが後ろから、声を掛けて来た。
「お嬢様、そろそろ……」
「えっ、ええ……そうね。 ドロテア様、御忠告有難うございます。 よく考えて見ます。 ご心配をおかけして…… ありがとう」
「ソフィア様、決して無理なさらないで! 相手は、あの暴れん坊です。 どのような試合なるやら、判りません。 あの方は、男性でも女性でも、一旦、始まってしまえば、容赦しませんから」
「ええ、その様ですわね。 肝に銘じます。 ただ、逃げられませんから、出来るだけの事をしたいと、かように存じます」
ほんと、半分泣きそうな目で私を見てるのよ、ドロテア。 大丈夫、こっちは実戦経験者だよ。 遅れをとるつもりはねぇよ。 その場を後にして、運動場に向かう道すがら、ミャーに注意された。
「お嬢様、気を付けてください。 お嬢様の ” 異名 ” は、この学院では誰もご存知では御座いません」
「うん、判ってる。 ……のしちゃっていい?」
「それは…… 御心のままにとしか……」
「ありがと、ただで、負けてやる訳には行かないしね。 鼻っ柱ブチ折って、奴の目を覚まさせないと、マジェスタ公爵閣下の良いようにされちゃうからね」
「……御意に」
その日も、陽が沈むまで、ミャーと運動場を走り続けたの。
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「武術大会」前日まで、走り続けた。 一週間ほどだったけど、体感できる程、地力は上がったよ。 魔力の通りも良いしね。 大会前日の説明会。 無制限部門って事で、なんの武器を使用するかの申請をしなくちゃならなかった。 一般的には、騎士剣、長剣、大剣、大槍なんかだった。
でも、私、ちっちゃいのよ。 そんなデカい武器持ったって、使いこなせるわけ無いし、使うつもりも無かった。 レーベンシュタインの御家から、模造ククリを持って来た。 分類的には、短剣。 まぁ、無制限部門の中では、最小の武器よね。
その上、出場者がね…… コレだもの。
「レーベンシュタイン嬢……。 初戦は、貴様が俺の相手か! 一撃くらい、持ってくれよな!! まったくなんで、殿下はこんな組み合わせを……」
やっぱり、殿下か……。 きっと、アンネテーナ妃殿下が何か言ったね。 そんで、私の事を探って……。 で、くそ生意気な奴だと認識されたと。 ほら、大勢の前で、サリュート第一王子殿下に叱責されちゃったしね。 それで、私に、お灸をすえて、自分の威厳やら何やらを示したいのね……。 ちっせぇ~~! 小物の発想だね。 で、相手の力量とか背景とか見抜けない。 ……この国……大丈夫か?
十二歳とは言え、王族だぞ?
「マクレガー様、どうぞよしなに。 卑賎なる身、誠心誠意を持ちまして、対峙いたします」
「ふん、まぁ、頑張れや! お嬢ちゃん」
コレだよ…… その鼻っ柱、へし折らせてもらうよ。 マクレガー様の、獲物は、騎士剣。 間合いは確認できた。 体は大きいけど、其処まで体術は得意そうじゃない。 歩き方で判るよ。 普通に歩いた時の体重移動……おかしいもの。 きっと、どっか故障してる。 庇って歩いてる感じがする。 体幹も微妙にズレてる。 剣筋も狂う筈だね。
そんな、弱点をさらけ出して歩いているとも知らずに、周りを威嚇しながら、その部屋を出て行ったよ。 ほんと、馬鹿。 まぁ、明日に成れば、全部わかる事だしね。
その日は、運動場にはいかず、タウンハウスに帰ったよ。 ミャーは、次の便で帰るから、先に帰ってくれって。 情報収集だろうね。 任せたよ。 さぁ……帰ろうか。
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良く晴れた日だね。 絶好の武術大会日和だよね。 青空に高く浮かぶ、うろこ雲。 柔らかい日差しが、うすら寒い空気を少し温めているね。 身体を動かすには、持って来いだよ。 武術大会出場者は、学院指定の稽古着を着用する事になってるの。
私のは……学院の貸し出し品。 まぁ、ぼろいよ。 下に着てるのは、特別製だけどね。 御家から持ってきた魔力が良く通る奴。 これは、誰も知らない。 野暮ったい稽古着を着て、模造ククリを手に、呼び出しを待っていたの。 ミャーが心配そうに私を見てた。
「お嬢様…… 大丈夫ですか?」
「ええ、なんで?」
「やり過ぎない?」
「今日は、体力強化以外の魔法は使わないからね。……やり過ぎは無いと思うよ」
「あの……例の菱玉は?」
「使わない。 今日はククリ一本で行くつもりよ」
「力で押されない?」
「どうだろう? 自分の事だけど、何処まで強化できるか、判んないから」
「……気を付けてね。 怪我しちゃダメだからね」
「気を付ける」
静かに待ってたの。 その間に、周りの人達が次々と呼び出されていくのよ。 高位貴族の人なんかは、御家で稽古着も作ってもらってるらしく、すんごい綺麗なのよ。 えっ、それ、稽古着? ってなものも有るのよ。 まぁ、令嬢様達は、懐剣の使い方を見るってな感じだから、フリフリの稽古着でも問題ないからね。
控室を出て行くそんな令嬢達の嘲笑を、私は「もろ」に浴びていたのよ。 まぁ、貸し出しの学園の小汚い稽古着だし、サイズすらあって無いしね。 武器にしても、模造武器とはいえ「皆様」のモノは、めっちゃくちゃ精巧に出来てんのよ。 ホンモノと同じ素材で、刃だけが潰してある奴。 豪華なだけで使えない、偽物。
私のククリは…… まぁ、なんだ、見た目は適当な感じ。 でも、これ、ちょっと特殊な模造品なんだ。 重さとバランスが忠実に再現されて居てね。 敢えて、魔力が流れにくい素材でそっちの訓練も一緒に出来る様になってるの。 外見なんかよりも、もっと大事な事をしっかり掴んで作り込んである。 私の大事な物。
それを膝に載せて、静かに待ってたのよ。
「ソフィア様、先に行ってきます。 私は、一回戦敗退が決まっている様なモノですから、観客席から、応援致しますね」
「ドロテア様……。 ドロテア様、見守っていてくださいね」
「勿論よ。 ソフィア様、無理だと思ったら、早々にね…… 誰も咎めませんわよ」
流し目で、最後の組である、「無制限部門」に出場する生徒達を見たドロテア。 あぁ……まぁ、そうだよね。 ほとんど、男子生徒だし、「上級生」も、「下級生」ごちゃ混ぜだし、騎士装束だし……。 この「武術大会」に何かを賭けている感じ。 もう、ギラギラ感満載。 で、やっぱり、この部門は、それなりに注目されているのよね。
エルガンルース王国の王国騎士団のトップの人達とか観覧に見えられているし…… 最終戦なんか、国王陛下の御臨席なんかも予定されているのよ……。 どんだけ~~~! だから、皆さん、漲っているのよ。 少しでも多く、アピールする為に、ギラギラしてるのよ。
ドロテアが、心配そうに私を見てから、試合に向かった。 これで、この控室には、「無制限部門」の出場者だけになったよ……。 そんな中で、やっぱり、奴は尊大な態度だった。 自分より強い者など居ないって、確信している様な顔つきで、周りを舐め切った目で見渡していたんだ。
そうそう、この組み合わせを作った張本人である、ダグラス王子は、長剣部門に出場して、順調に勝ち進んでいたよ。 そっちの会場から、ワーワー、歓声が上がっていたからね。 だいたい判るし、掲示板にリアルタイムで、試合結果が浮き出してきてるもの。
ほー、 へー、 ふーん。
なんだかんだ言っても、やっぱり英才教育されてんだよね。 エルガン王家の名に恥じない様にね。そうやって時間を潰していたの。 で、一回戦が始まったのよ。 私の出番ね。 いくつもの試合会場が設営されている運動場に、呼び出しが掛かるの。 私と、マクレガー=エイダス=レクサス子爵。
さて、行くか!
運動場の、中央試合会場。 観客席からよく見える場所。 其処に呼び出されたの。 芝で覆われた運動場に、丸い結界が幾つも敷かれ、会場になっているの。 その中でなら、何をどうしても問題無いようにしてあるって。 魔法使う人も居るでしょ? 誤射とか、外れとか出るし、身体強化してるから、周りにも被害がでるものね。
それで、その会場脇の椅子に座るの。 私の前の試合の人が、頑張ってるの。 ガッチンガッチン、剣を交えてた。 二人とも必死ね。 でもさぁ……、 それじゃぁ、人は死なないよ。 剣、軽いもの。 剣筋、乱れてるもの。 体幹、ぐにゃぐにゃだもの……。 出来の悪いチャンバラって所かしら? 何を習って来たのかしらね。 見栄えの良い、大技を繰り出して、残身忘れちゃって、二撃目が無いとか……。 それ、なんて示現流?
” ちぇすとー ” って、聞こえてきそう。
だったら、なんで、長剣とか、騎士剣なのよ……? 斬馬刀みたいな、長物使えばいいのに……。 無理か……。 あれだけ体幹が、ふら付いていたら、長物は扱えないよね。 ふぅ……。 もう、何て言ったら良いか。 ほら、騎士団の方々も苦笑してるよ。
グダグダの試合が終わった。
勝者も敗者も疲労困憊だね。 次の試合に出場する、勝者の人、大丈夫かな? あんなに疲労してどうすんのさ。 疲労回復のポーションがぶ飲みするのか? 体に悪いぞ? 私の事じゃ無いから、ほっとくけどね。
「次! ソフィア=レーベンシュタイン! 試合場へ!」
「はい」
さて、お呼びがかかった。 引き締めて行こう!! 反対側では、マクレガーが呼び出されているよ。 円形の魔方陣の真ん中に進む。 蔑んだ目付きのマクレガー。 私、小汚い訓練着だからね。 そんで、片手に持っているのは、これまた、しょぼい外見のククリ。 短剣と、小太刀の中間くらいの大きさなのよ。 だから、間合い的には、近接戦闘しか出来ない。
開始線について、互いに礼
奴は、それも無視。 手に持つ騎士剣を掲げる。
「始め!!」
先生の声が、試合開始を告げる。 奴は、私が魔法を使うかと、ちょっと睨み合ってた。 そんな隙を逃さず、身体強化魔法を自分自身に掛ける。 勿論、スピード上昇系と、耐衝撃系。 やつは、氷の楔 あたりが飛んでくると思ってたらしいの。 で、何にも起こらないから、組みやすしと思ったみたいね。
無造作に、斬り込んで来た。
はははは、 遅っせぇ! 剣筋が読み切れる。 軌道が判るし、さらにその軌道が揺らいでるのも判る。 眼、良くなってたね、私。 読み切った剣筋を、紙一重で交わし、相手の突撃に合わせて踏み込む。 これで、私の間合い。
接近戦の間合いになった。 もし、経験豊かな冒険者だったら、咄嗟に転がるね。 でも奴、力任せに二撃目の騎士剣の軌道を変えて来やがった。
予測の範囲内だったよ。
人間の体ってさ、特に腕とか手首の動きってさ、物理法則が有るんだよ。 絶対に曲がらない方向とか、曲がっても、力が抜け落ちる方向とか、生理学的に痺れてしまう向きとか。 勉強したんだよ、そういった事も。 ギルドの「お仕事」の中には、” 眠る様に、《さようなら》させてください ” ってなモノも、有るんだよ。
万が一そういう「お仕事」が、ミャーに振られたら困ると思って、一緒に勉強したんだよ。 あの子、勉強あんまり好きじゃ無いし、私と一緒だったら、頑張れるって言っていたから。
だから、私の知識は、ミャーと同等。 さらに実戦向きに、ミャーと訓練を繰り返した……。 そして、今、彼女の異名は、「闇の右手」 そんな、異名が貰えるくらい、ソレに精通しているんだよ。
だから……。
ククリを、振り下ろされる騎士剣の軌道に合わせ、弾き飛ばせる角度に保つ。 そのまま、身体は突進中。 すべて、ゆっくりとした動きに見える。 振り下ろされた騎士剣は、予想通りの力しか乗っていなかった。
振り下ろされ、私が角度を決めて空間に置いたククリによって角度が変わった騎士剣は、人間の手首が本来曲がらない方向に力の向きを変えるしかなかったの。
奴の手から、騎士剣が離れるのが見えた。 それを見届けると、私はククリから手を放した。
どんなに握力があっても、力が入らない角度って有るんだよ。 その角度方向に力の向きを変えたんだ。 振り下ろされる慣性で、剣のスピードは落とせない。
奴の騎士剣は、明後日の方向に向かって、すっ飛んでった。
その間に私は、奴の懐に潜り込んでいる。 身長差も、体重差もかなり有るんだけど、そこは、強化魔法がカバーしてくれる。 両足を踏みしめて、奴のふらついている体幹の、結節点に向かって、掌底を伸ばし……、
一気に叩きこんだの。 渾身の一撃をね。
鳩尾のすぐ下。 手を伸ばして、両の手の掌を合わせて、突き出したのよ。 綺麗に決まった。 私の掌底の一撃を、強化した筋力で、伸び上がる様に奴に叩きつけた結果……。
吹き飛びやがった!
おもしれ~くらい、見事にね。 で、落下して来る、ククリを片手で掴み取って、追撃を噛ます。 奴がぶっ飛んでいくより早く、落下地点に到達して、右足を軸に、左足でもう一度鳩尾に回し蹴り!
コレも、綺麗に決まった。 落下せずに、更に、ぶっ飛ぶ。
もう一回追撃と言うか、トドメ!
ポンポン跳ねながら、試合場の端っこまで滑って行った、意識朦朧としている奴に追いついて、喉元にククリの切っ先を突きつきける。 ちょっと押せば、いくら模擬刀とはいえ、喉が破れ、最悪は死に至る。
「ま、待て! しょ、勝者、ソフィア=レーベンシュタイン!! そ、それまで!!」
先生の焦った声がした。 ……勝っちゃった。 というより、弱くね? コイツ、優勝候補だったんでしょ? 100年に一度の逸材とか……。 まじ、大丈夫か? この王国……。 開始線に戻って、ククリを鞘に納めた。
奴は……、 救護班がどっかに連れてった。 辺りがシンと静まっていた。 一礼して、控室に戻ろうとしたときに、ちらって、騎士団の偉い人達の方を見たら、なんでか、全員が私を真顔の怖い顔で見ていた……。
や、やらかしたか!
まぁ……いいじゃん。 良いって事で。 まったく疲れもせず、一回戦突破しちゃったよ……。
――――――――――――――――――――
控室で、ミャーに怒られた。 手加減しろってね。 いや、、まぁ、その……。 体が勝手に動いたんだよ。 ホントだよ。 死線を一緒に越えて来たミャーなら判るよね。 ほら、純粋な殺気とか、攻撃とか受けるとさ、一気に本能って言うか、身の安全を守る為に、動いちゃうんだよ。 自動的に。 それで、こないだの事もあるし、絶対確実って所まで……。 最後の最後まで気を抜かないって事で……。
ダメかな?
シュンとして座って、ミャーの叱責を受けてたんだよ。 だって、ホントにやり過ぎたって、自分でも思うもの。 追撃一回で終わっておけばよかったよ……。 えっ、違うの? 追撃するなって? えっ、そう言う事なの? はぁぁぁ……。 また、眼を付けられるね、これは。
次、どうしよう……
「棄権してください。 無理をして、身体を痛めたと、そう報告しておきます」
「はい……。 ゴメン、宜しく」
「相手は大貴族の令息なんですよ? 面子、丸潰れになったんです。 マクレガー様……、 いえ、レクサス公爵家からの報復があるやもしれません。 かなりの無理をしたと、そう言う事に」
ミャーの懸念、誠にごもっとも。 ミャーに報告はお願いして、先生にもその旨伝えて貰って、その日はタウンハウスに、早々にかえったの。 そう、「武術大会」が終わる前にね。 そんで、二、三日お休みする事になった。
御家の人達が、色んな所で情報を集めて、様子を伺うためにね…… はぁ……やらかした。
「ソフィア…… 君の何事にも全力で取り組む姿勢は素晴らしいと思う。 しかしな……」
「お父様、ゴメンなさい。 わたくしの短慮でした。 ……レクサス公爵閣下は何と?」
「……。 ” よくぞ、息子の鼻っ柱を折ってくれた ” とな、礼を言われた。 裏を取っている。 含むものがあるのか無いのか……。 あの小僧、彼方の家でも持て余し気味だったらしいが……。 気を付けるんだぞ」
「はい……。 すみません」
いや~~、ほんと、ゴメンなさい。 私の学年初年度の「武術大会」は、これで終わり。 ちょっと、これからゴタゴタが続くかもしれないけど、それは、自業自得だもの。 頑張って、躱していくよ。
それにしても、あいつ……。
私に負けて、プライドへし折られて、これからどうすんだろ。
自分に足りないものを自覚出来ればいいのだけど……。
剣筋はホントに良かったよ。
油断してたら、転がってたの、
私の方だったもの。
ガンバレよ!
私みたいに。
自分の未来を掴み取るのは、
自分の力でしか出来ないんだもの。
ブックマーク、評価、誠に有難うございます。
とても、ヤル気 溢れだしております。
今後とも、何卒、宜しくお願いします。
さて、自転車漕ぎ始めました。 更新頑張ります。
また、明晩、お逢いしましょう!!




