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第167話 「百年祭」 その4

 




 ゆっくりと歩みを進める、ガルフ王兄殿下。 まだ、【認識阻害】が切れていない為、だれにも気が付かれずに、玉座の近くまで進まれたの。 私達もその後に続き歩みを進めるの。




 あぁ、ドロテアは巻き込みたくないから、離れて貰った。 ” よく、これからの出来事を観察しておきたい ” って、そう言ってたから、きっとこの会場のどこかに居る事だけは確かだけどね。



 玉座にふんぞり返って、ダグラス王子のトンデモ行動を、満足げに見ている、アーレバースト=エルガン国王陛下の玉座の直ぐ傍に立った、ガルフ王兄殿下。 ふと私達の方を振り返ると、不敵な笑みを髭面に浮かび上がらせたんだ。


 息を吸い込み、良く通る声で、玉座に座っているアーレバースト陛下に向って罵声を浴びせかけたんだよ。 





「アーレバースト。 お前はいつまでたっても、幼いままだな。 耳に心地よい言葉しか聞かない。 愚弟とは、お前の事だ。 今じゃ、歴代最低のエルガンルース国王だな」


「誰だ! 余を愚弄するものは!! 不敬であるぞ!!!」


「馬鹿こけ、お前こそ不敬だ。 先王、ミクラード陛下のご遺言を忘れたか? ” ガルフが戻るまでは、一時お前に王権を譲渡するが、仮王と呼称する ” と、云われなかったか? 馬鹿め、お前の権能は制限されている事を忘れたか」


「なっ! なにを!!」


「先王は、俺が生きている事を知っていた。 暗殺者の襲撃に紛れ、一時、市井に入り馬鹿共の動向を探れと、命じられたんだよ。 お前が手を出して、孕ませた ” ユミ側妃 ” の王子である、サリュートを一目見た時から、その事を考えてらしたんだ。 あれだけ、用心深い先王ミクラード陛下であっても、ルース系の貴族達の専横を止める事は出来なかったからな」


「お、お前が、ガルフ兄上だと言うのか?」


「どこに目を付けている。 愚弟よ、俺が着ているもんに、見覚えがねえのか? 腰に下げている宝剣は、誰から誰に下賜されたモノか、忘れたのか? お前が仮王として即位する時に、コレが無いと騒いだのは、もう忘却の彼方なのか? うつけにも、程があるな」





 やっと、目の前の出来事に、理解が追いついたのか、アーレバースト陛下がガタガタ震えだしたんだ。





「判ったようだな。 お前は、国事行為の内、条約締結、他国との連携、その他、外事関連の約束事は結べない事に成っているんだ。 仮王即位時に、精霊誓約させられたよな。 条文、誓約文は、文章官の御文庫にきちんと納められていた。 見たいか?」





 意地悪く、滔々と述べるガルフ王兄殿下。 





「お前が、きちんとその役割を熟し、十分な国王としての資質を見せるならば、俺の名において、全ての制限を解く事も出来た。 貴族達を御し、民草を愛し、治世に邁進するならばな。 俺としても、その方が都合が良かったんだが……。 残念だよ、何年も待ったが、その兆しすらない。 挙句に国を売る様な真似をしやがって……」





 トーンを落とした、ガルフ王兄殿下の声が広間に響く。 声色に凄惨ともいえる感情がのるんだ。 あれ、正面で受けている、アーレバースト陛下は、そうとう威圧されてんだろうなぁ……。





「―――事ここに至っては、貴様に王権の一部と言えども渡して置く事は出来ぬな。 精霊誓約の元、貴様に分与されていた王権を剥奪し、俺が、玉座に座る。 全ての権能と、王権を引き継いだ。 只今を以て、ガルフ=エルガンが、エルガンルース王国の国王となる。 愚弟よ、どけっ!」





 蹴り飛ばすような勢いで、ガルフ王兄殿下が、アーレバースト陛下を玉座から放り出したんだ。 言葉に成らない陛下は、玉座の傍らに座り込んでおられたんだ。


 そんな御二人を呆気に取られて見ている、周囲の貴族を睥睨し、すぐさま次の「 宣下 」をされたんだ。 矢継ぎ早にね。 スピードが何よりも重要だって思われてるね。 混乱に乗じて、全てを終わらせるおつもり……なんだろうね。





「正「証人官」、俺が玉座に座る事に異存は無いか、大精霊に問うてみてくれ」





 ガルフ王兄殿下が、私を呼び出したんだ。 通常の ” 正規の手続き ” としては、前国王陛下より、王太子、ないしは、国王に相応しいモノに、国権と権能とを 「引き渡し」、それを精霊様に御報告申し上げるの。 精霊様がお許しに成られたら、何らかの精霊様の顕現がある事になるのよね。 




      ガルフ王兄殿下……。 賭けに出たんだ。



 アーレバースト国王陛下より国権と譲渡されていた一部権能を奪い取ったあと、私に精霊様へお伺いを立てさせようとしている。 もし、精霊様がなんの顕現もされなかったから……。 どうするおつもりなんだろう……。 ちょっと、心配だよね。 でも、そう言われたら、仕方ないよ。 きちんと ”言上” 申し上げるわ。





「はい、ガルフ王兄殿下……。 いえ、ガルフ=エルガン、エルガンルース王国、国王陛下様。 精霊様にお諮りいたします。 ――――始めます」





 ゆっくりと息を吸い、「神代言葉」で、” 言上げ ” を、始めるの。





 《そは磐座に神留坐す、精霊神が八百万柱の命以て、禊祓給ふ時に 生坐せる 祓戸の大精霊神等。諸々禍事罪穢を 祓へ給ひ 清め給ふと 申す事の由を、天津精霊神 地津精霊神 八百万精霊神等と共に 聞こし食せと 畏み畏みも奏上いたします。そは、奏上にて、ガルフ=エルガンが、世界の理、御国の使命を果たさんが為、その権能、権益振る事、証し給えんが事、伏し願奉らん》




 滔々と流れ出る、事上げ。 私の請願、なにとぞ精霊様達、聞し召せ。 この世界の「 理 」を護らんが為、精霊様達への真摯な祈りを捧げつつ、顕現を待っていたの。 玉座に座る、ガルフ国王陛下の足元に、何重にも呪印が浮かび上がる。 




 光、闇、大地、聖水、火炎、疾風、豊穣、灯、土、鍛、水…… 



 人と関わる、ありとあらゆる精霊様の呪印が重なり、眩しい一枚の光の円盤になる。 室内にも関わらず、明らかに天井以上の高さから光が降り注ぎ、ガルフ国王陛下の周囲に光の羽根が舞い散ったんだ。


 ふぅ…… 届いたよ。 そして、お認め下さったんだ。 光の中を立ち上がるガルフ国王陛下。 両手を胸の前に組み、感謝を捧げられていた。




―――――――




 ゆっくりと光が収斂し、ガルフ陛下はしっかりと前を向く。





「サリュート、「百年条約」が条文を」


「はっ!」





 私は素早く、無限収納から、条約文の入った箱を取り出し、サリュート殿下に渡したの。 軽く頷かれて、箱のふたを外し、ガルフ陛下にお渡しになったの。 高々とその箱を掲げられる、ガルフ陛下。


 箱の中から、強烈な光が発せられて、大広間に掲げられていた、旧条約が燃え上がったの。 激しい炎が上がる。 でも、その下から、あの条約文が浮かび上がって来たんだ。





「「百年条約」は締結されり。 此処に古の取り決め、大協約の理を、エルガンルース王国は遵守せり。 ――― サリュート、よくやった」


「勿体なき御言葉」





 その大広間の中の一連の出来事。 一番早く、回復したのは、枢機卿ドニーチェ=フランシスコ。 今まさに、配下に収めたはずのエルガンルース王国がその両手からハラハラと流れて落ちた、そんな表情だった。





「み、認めませぬ! エルガンルースが国王は、アーレバースト! 断じてあなたではない!!」


「お前は……。あぁ、帝国至高教会の犬か。 別にお前に認めてもらう必要など無いな。 これは、エルガンルース王国の政。 国外の者にとやかく言われる筋合いはない」


「なんです!! エルガンルースは、我が「帝国至高教会」に……」


「戯言を言うなよ。 その辺に歩いている、子供が、” 王国あげます ” って言ってるのと同じだぞ? 愚弟が何を言ったとしても、奴には、国権も権能も無い。 俺が保持していたんだからな。 その証が、この宝剣だ。 聞いた事ねぇのか?」


「し、しかし!!!」


「おい、衛兵、ガングート帝国の使節団の方々がお帰りだ。 あぁ、軍兵も一緒にな。 もし抵抗するなら、殲滅排除して構わん。 勅命だ。 それとな、お前、ドニーチェとか言ったな」


「な、なんだ! 狼藉者!」


「あっ、それ、不敬罪に問うわ。 あぁ違った、お前、国事犯な。 外交特権は停止する。 色々とやらかしてくれたな、調べは上がっている。 脅迫、贈収賄、人身売買、麻薬の密輸、まだまだあるぞ。 まぁ、最大のモノは、第一級犯罪として、《ノルデン大王国》ユキーラ姫略取、及び 暴行、奴隷売買の罪だな。 無期限の重犯罪人収容施設に収容って所だな。 連れて行け」


「お、おのれ~~~。 ガングート帝国の皇帝が黙っておらぬぞ!!!」


「知るか!! 掛かってこいよ。 受けて立ってやるよ」





 ニヤリと凄みの有る笑顔を髭面に浮かべ、戦争も辞さずの強い意志を両眼にみなぎらせているんだ。 顔面を蒼白にした、「帝国至高教会」枢機卿の元外務官は、「重犯罪者」として拘束され、大広間から連れ出されて行ったんだ。 



 この事に、非難の眼を向けたのは言うまでも無く、マジェスタ公爵。





「何の権限が……」


「黙れ、狸! 発言を許した覚えは無い。 それよりも、早く領地に帰った方が良いじゃないか? 俺が《ガングート帝国》と一戦交えるのも視野に入れてるんだ、あの国と隣接する領はお前の所だったよな。 大丈夫なのか? あぁ、国軍の投入はしねぇぜ。 お前が勝手にやれ」


「なっ! なにを!!」


「あぁ、これは、俺に対する暗殺計画を立てた事への報復処置だ。 お前と、お前に同調したモノで、取り敢えず戦線を保て。 まぁ、死んで来いって事だ。 ―――何を驚いている? お前が常々、他人に強要してた事だろ? ほら、早く行かねぇか! 《ガングート帝国》の兵が、国境を超える前になんとかしねぇと、おまえの領は蹂躙されっぞ?」





 不敵に笑う、ガルフ陛下。 ドニーチェと同じように真っ青な顔をしたマジェスタ公爵と、アルファード公爵。 今までの優位が一気に覆り、相互に利益を約束していた、《ガングート帝国》が一瞬にして、態度を反転させて、彼等の牙が切り裂こうとしているのが、アリアリと理解出来たようだったの。 


 そりゃね、大広間に居る、《ガングート帝国》の軍人さんとか、教会関係者が、最大級の殺意をみなぎらせて、睨みつけてんだもん。 そうなるよね。


 ガルフ陛下は手を振って、そいつらを衛兵に連れ出させたんだ。 後は、勝手にやれって事だろうね。 きっとマジェスタ大公の領地のある南部諸領域と、本領、東部領域、西部領域の間には、防衛用の軍勢のが、こっそり配備されている事なんだろうね。


 鮮やかな手並みだよ。 大広間の人口密度が一気に下がったよ。 今いるのは、マジェスタ大公に与しなかった貴族と、不安げに玉座を見詰めている、若きエルフ達だけに成ったよ。





 ^^^^^^




 玉座の横に茫然と立ち竦んでいるダグラス王子。 ガルフ陛下の興味は、全く彼には注がれて居なかったんだけど、やっと、順番が巡ってきたようね。 サリュート殿下に視線を投げかけてから、おもむろに言葉を口に出されたの。






「サリュート、側に。 ―――そうそう、ダグラス、お前、その娘と本当に結婚するのか? そっちにいる、偽「聖女」に認めて貰ったって言ってたよな。 まぁ、本当にしたいんなら、してもいいが、後悔するぞ?」





 事も無げに、そんな事を言ったの。 でも、ダグラス王子の視線は、何故か私に固定されて居るの。 いろんな魔術にずっと晒されてはいたけど、基本的に聡明な王子様だからね。 頭の中で、いろんな推論が組み立てられていたんじゃないかな。


 ゆっくりと、吐き出すように、言葉を紡いだんだ。 そう、ダグラス王子がね。





「き、君は……。 せ、正「証人官」……。 う、噂では聴いていた……。 しかし、何故……」





 混乱しているね。 ガルフ陛下に、手サインと視線で、お許しを乞うたの。 陛下も、手サインで、簡潔に伝えて来てくれた。





       ” やれ ”





 ってさ。  それじゃぁ、存分にさせて貰おうかね。 つかつかと、ダグラス王子に近寄るの。 まぁ、目的は彼じゃ無いの。 隣で、ダグラス王子のぶら下がっている、私の偽者が、目標。


 偽ソフィアの額に、指を当てる。





「我の許しを得ず、我を写した、その身体。 魔術が縛り解き成す、そは深淵の闇の中。 大魔法【分解還元】発動……」





 静かにそう口ずさんだんだ。 マリ力使ってね。 魔力二割、理力八割。 制御はまぁ、それなり、力を前面に押し出して、仮初の生を繋いでいた、魔石とその魔方陣を、物理的に、【分解還元】して上げたの。


 数舜で、偽ソフィアが土塊に戻ったんだ。 崩れ落ちる偽ソフィア。 崩れ落ちたモノの後ろで、同じように倒れ込んだ、彼女の侍女のエルフ。 唖然とした表情で、その様子を見ている、ダグラス王子。


 そんな二人を、アッサリと無視して、ちょっと後ろに立ってた、まぁ、神聖な方の前に向ったんだよ。 ほら、聖女バルッコロ様。 彼女を護っていた者達が、次々と居なくなった大広間で、どうすればいいのか判んないって顔をして、突っ立ってたの。 だから、身の振り方、教えてあげようと思ってね。





「「人」と、「魔法生物」の違いすら判らない人が、「聖女」なのですか? 本当におかしい事! ―――あら、お胸に飾られていらっしゃる、宝飾品と、ティアラ、それに、耳飾り、それは魔道具ですわね。 エルガンルース王国では、王宮内での魔道具の使用は禁じられております。 発見し次第、破壊せよとの、規則が御座います故、ゴメンナサイね」





 にこやかに笑うの。 楽しそうって感じじゃ無いよ? 周囲の温度が二、三度落ちる様な、氷の微笑だよ。 



     ヒッ



 って、言って、「聖女」バルッコロ様が 二、三歩後ろに下がったの。 残念でした、そこは私の射程圏内なんだよ。 理力を制限なしで、バルッコロさんの魔道具の宝飾品に叩き込んであげたんだ。 




 メシッ!


           バキッ!


     ゴリッ!





 いい感じの音がしてね、粉々になった、彼女の宝飾品が、床に散らばったんだ。 彼女の仕掛けた術に引っかかってた人達が、同時に倒れ込んだの。 まぁ、そうよね。 術者敗れる時、仕掛けた魔法も破られるのは、基本中の基本。





「結構、大胆に魔法を掛けられていたのですね、聖女バルッコロ。 貴女の自力じゃ、此処までの術は不可能だったんでしょ? もう、お判りで御座いましょうけれども、お伝え申し上げます。 お国にお帰りなさいませ。 わたくし達は追いません事よ。 ちょうど、導師様達がお帰りに成られるようですので、御同行されるのが宜しいかと」





 ブルブル震えながら、彼女は頷いたのよ。 そうよね、当たり前。 陛下は《ガングート帝国》との交流を一切お止めになるつもりなんだもの。 お帰りに成るのが筋よね。 この方は、単に使われていた ” 駒 ” 余りにも不憫なので、お帰り頂くように取り計らったのよ。



 私の言葉に、もう彼女ったら、後も見ずに駆け出して退出して行ったの。 あぁ、ダグラス殿下も床で昏倒してる。 こっちはほっとくね。 関係ないもの。




 さぁ、仕上げだ。




 コイツだけは、何が何でも許さないからね。


 砂山に成ってる、偽ソフィアの後ろでひっくり返っている侍女の元に向ったの。 理力を細く放出しながらね。 さぁ、見たくないけど、その【変化(モーフィング)】解かせてもらうよ。 床の上で大きく息をしている人に、理力を当てる。 





     バリバリバリバリバリバリ





 って、身体に巻き付いてる魔方陣が崩壊していくの。 ホホホ、無様ね。 苦悶の表情を浮かべなら、侍女さん仰向けに成ったよ。 消耗して立てないらしいよ。 まぁ、知ったこっちゃないけどね。





「お久しぶりね、聖賢者ハイエローホ。 黒き森以来かしら?」


「ば、化け物め!」


「あら、わたくしの事? そうね、貴方から見たら、そうなのかもしれない。 「半妖」の私は、化け物かも知れないわ。 でも、世界の理を知って、護っているの。 貴方の様に、すべき義務を放棄して自らの矜持と野望を追い求めはしないわ」


「ど、どうやって帰って来た」


「ええ、全ては精霊神様の思召し。 少々時間はかかりましたが、ちゃんと成すべき事をしてまいりましたので、帰って来れましたの。 何度も死にかけましたのよ? 御存知でしょ?」


「忌々しい、妖魔め! 「至高の神」の断罪を受けて、煉獄に落ちろ!!」


「あら、貴方も帝国至高教会の教えに帰依しておられますの? まぁ、どうでも宜しいけれど。 至高の神……と、御口にされましたね。 それこそ、貴方が忌み嫌う、 ” 渡り人 ” の持ち込んだモノですのに。 ご存じなかったの?」


「な、なに?!」


「はぁ……。 聖賢者とまで呼ばれる方なのに、ほんと、森の外の事には途轍もなく疎いのですね。 貴方が手を組んでいらした方々こそ、この世界に大量に ” 渡り人 ” の魂の断片を召喚して、妖魔の元になるモノを引き込んだ張本人なのに……。 そんな事もご存じなかったの? 森の長老様達がお嘆きになるの、良く判りますわ」


「く、クソッ!!」


「御口に、お気を付けなさいませ。 貴方は、このエルガンルース王国を攻撃した事に変わりありません。 王家の血筋からエルガン家の血を排除しようとした事……。 万死に値します。 外国の方ですが、容認できませんね。 ―――国王陛下、どうで御座いましょう、この方の魔力を抜いてしまうのは」





 事の成り行きをジッと見詰めて居たガルフ陛下。 ちょっと面白そうな表情を浮かべてから、口をお開きに成ったの。





「出来るのか?」


「ええ、そんなに難しくありません。 【魔法封じ】を最大強度でこの方に仕掛け、その魔力供給源をご自身に設定すれば、ずっと魔力が使えず、そしていずれ、魔力は枯渇します。 あぁ【魔法封じ】の魔方陣は御身に内包される、魔力により、強度を変えますから……。 聖賢者様程の方ですと……、 史上最高の魔方陣が完成するかと思いますの。 如何でしょうか?」


「良いのではないか。 殺されかけたお前が断罪する。 そして、命は奪わない。 確かに、公平だな。 やっていいぞ」


「有り難き御言葉。 では」




 両手を上げて、複雑な古代魔法の魔方陣を編み上げるの。 コレ、オブリビオンの文献の中にあったんだ。 失われし古代の魔法ってかんじでね。 色々試してみたら、面白い魔方陣が出来ちゃってね。 コレ、多分私も解除出来ないと思う。 魔法って言うより、もう呪いだよ。


 組み上がった魔方陣に適当な理力を流して、起動させて、寝転がってる、聖賢者様に焼き付けてあげたの。 いい感じに定着してくれた。 身体から、魔力を吸い上げ、強固な魔方陣にドンドン書き換わっていくのよ……。


 もう、これで、聖賢者様、何にも魔法は使えなくなったよ。 そう、ただの【灯火】の魔法すらね。





「こ、殺せ! このような状態、屈辱以外にない! 早く、殺せ!!」


「嫌ですわよ、私も生きています。 だったら、貴方も殺しませんわ。 それが公平と云う物。 扇動された、若きエルフの皆様に助けて貰えば如何かしら? フフフ、きっと、大切・・にして貰えるのではないのでしょうか? 貴方が今まで、してきた通り(・・・・・・)に」





 口の中で、ハイエローホ様が、ヒィって言ってた。 まぁ、こんな人なんだから、どんな事してたか、大体想像がつくでしょ? 後は、若きエルフに任せましょうか。





「貴方達、聖賢者様が、《エルステルダム》にお帰りよ? 連れて帰ってあげてね。 途中で、投げ出さないで。 迷惑だから。 それと、彼方の森の長老さん達にちゃんと頭を下げなさいよ。大変、御心を痛めてらしたそうよ。 外の世界にと遣り合うには、貴方達には まだ早いのでは、無いでしょうか。 まずは、大協約から読み直されては、如何? 世界の「 理 」 を理解すれば、この先どう動けばよいか 判る筈ですわよね」





    私の言葉に、何人かのエルフの人達が、飛びあがって反応した。




 寿命の長い彼等は、色んなしがらみが、行動を縛り付けるんだ。 でもさ、その縛りを抜けて、飛び出したからって、何も変わらない。 他種族の話も聞き、極端な排他性をなくせば、この先ちゃんと、ミッドガルドの「人族」の一員になる事が出来るよ。 そう、思いたいよ……。


 ボロボロの聖賢者様が、若い侍女の服きてんだもの、ちょっとシュールな光景よね。 ひとしきり心の中で大笑いしてから、ガルフ陛下にガッツリと臣下の礼を取ったんだ。





「これにて、「百年祭」、恙なく終了と逢い成しました。 善きにしろ、悪しきにしろ、すべて報いが訪れました」


「うむ、新しき「百年期」の到来と言う事だな」


「―――つきましては、条約施行が確認されましたので、彼方とのお約束・・・である、わたくしの出国のお許しを」


「……聴いているよ、その事は。 ソフィア……。  許可しよう。 ―――ソフィア=レーベンシュタイン。 エルガンルース王国の、” 全ての者 ” に、成り代わり伝える事がある。 よいか?」


「はい、陛下」


「―――ありがとう、感謝している」


「勿体なく」






 茶番は終わり、ゲームのエンドロールはこの世界には流れない。 私達には、私達の未来が有るんだ。 




              掴み取ったよ。




           うん、ちゃんと、掴み取った。




      皆の力でね。 だから、私は胸を張って、お嫁に行けるの。




               あの人の元へ!









              ユッ君の元へね!!!













さて、本編最大のイベントが終了致しました。


物語も残すは二話。


長いお話でした。



エンドロールは、幸せに…… 



お楽しみいただけましたでしょうか?



そうであればよいな、心から思います。




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