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第166話 「百年祭」 その3

 

 エルガンルースの貴族がざわめき、帝国至高教会の枢機卿がドヤ顔をしている。

エルフ達は我関せずだし、マジェスタ公爵は我が意を得たりってな感じ。



 アーレバースト=エルガン国王陛下の宣下からそれは始まったんだ。






「ガングート帝国、帝国至高教会の者達に便宜を図り、国教となす」






 その事がどれ程の事か、判らない人は、この会場に居る者の中には居ない。 つまりは、エルガンルース王国は、ガングート帝国に恭順の意を表すってことだよ。 貴族議会では、慎重論が多数派だった筈。 推進者は勿論マジェスタ大公閣下。 美味しい汁が手に入る筈だもんね。





「陛下、それでは、既存の精霊教会については如何されるのですか!」


「民草の信仰は、精霊様に在ります。 帝国至高教会の教義とは相反する、如何されるのか!」





 何人かの有力貴族、主に、帝国至高教会に権益を犯される者達だけど、陛下に奏上されていた。 軽く睨みつける国王陛下。





「お前達に、発言を許した覚えは無い。 無礼である」





 はあぁぁ………… やっちまったよ。 これで、穏健派、反マジェスタ大公派は完全に陛下を見限った。 口を噤み、睨みつける発言した貴族達。 まぁ、あいつ等も、別に国を想って発言した訳じゃないんだけど、まだ、マシだね。


 一応は、精霊様を深く信仰してるもんね。 俯き肩を怒りに肩を震わす彼等に、冷たい一瞥をくれていた人が居たよ―――。



     マジェスタ大公だね。大きく頷いている。



 もう、完全に我が世の春だもんね。 貴族議会の意味が全くないよ。 広く臣下の意見を聞く場、朝議とも呼ばれているその場の意志をまるっと無視したんだ。もう、高位貴族達は、国王陛下の言葉には耳を傾けないよ。


 代わりにマジェスタ大公の言葉や行動に注目するね。 力を持つ者って認識が今、出来上がったんだ。 まぁ、表向きだけどね。 マジェスタ大公に甘い汁を吸わせて、その実際は、帝国至高教会の思うが儘ってところだろうね。


 つまりは、経済、軍事、財務が奴等の手に落ちたって事。 反マジェスタ派は事の重大さに慄き、言葉を失っているんだよ。 それは、国王陛下の藩屏である、国防担当のレクサス公爵、財務担当のエルグランド公爵なんかは、とっても良く判っているらしいんだ。 





      だって、顔色が、真っ青なんだもの……。





 一人我関せずな態度を取っているのが、アルファード公爵。 マーリンの父ちゃん。 魔術バカの総本山。 でもさぁ、あの人あんまり能力無いのよね。 それを糊塗するのに、政治力使って来たから、今回もマジェスタ大公が勝馬になると思って、早々に乗ってやがるからね。


 だってそうでしょ、王家墳墓の谷にガングート帝国軍を入れたのって、アイツじゃん。 そんで、サリュート殿下の死亡報告したのもね。 だって、帰還の為に開いていた、転移門を閉じちゃったんだよ? 一部魔方陣を破壊してね。 




 自分の家系の者と、係累門下だけは、大丈夫だと思ってやがるのかもしれないなぁ……。




 にこやかに笑みを浮かべていた帝国至高教会の女性枢機卿が、悪びれもせず礼典則にも乗っ取らず、国王陛下にお礼というか、上から目線でなんか言ってるよ。 言祝ぎと言うよりも、許可って感じ。 ―――めっちゃ感じ悪いよ。





「「至高の神」の御威光を、エルガンルース王国にも与えられる事、誠にお慶び申し上げる。 これより、国王陛下は敬虔なる信徒として、帝国至高教会の祀る、「至高の神」のしもべとなる事を我が・・代理人として認めます」





 たしか、ドニーチェ=フランシスコ帝国至高教会の枢機卿だったよね、あの女。 尊大で高慢。 精霊様の事なんとも思っていないって判るよ。 その上、魔力がほとんど感じられないってんだから、ほんと、どうかしてる。


 キラキラ感出すのに、また、魔道具使ってんの。 一回叩き割ったの覚えてないのか? 御茶会の席だし、限られた人達だけだったから、糊塗しちゃったんだろうね。 





 それにあいつは、ユキーラ姫を、” 売り飛ばした ” 張本人だ。





 何が枢機卿だ。  奴の「人族」の認識は狭義のモノ。 そう「人間族」しかいないんだ。 居もしない、異界の神を崇めるその姿は、狂信者に見えるし、私を罵った言葉は今も忘れないよ。


 そんな奴等が、大協約を無視して、無理矢理異世界との扉を開き、「渡り人」の魂の欠片を召喚して、作り上げた・・・・・のが、偽 ” 聖女 ” と、偽 ” 勇者 ”。 


 この世界に生まれた人に無理矢理、召喚した魂の欠片を混ぜるらしいの。 理力を僅かしか持たない彼らを、ことさら持ち上げて、聖人に列するんだ。 「渡り人」の事を完全に無視してね。 


 異界の魂を此方の人に混ぜるのに、大量の魔力を使うんだ。 奴等にはその魔力が無いから大量の魔石を使う。 使うのが、ダンジョン最深部から持って来た、ダンジョンコア。


 ドンドン魔力を吸い上げるもんだから、オブリビオンで、魔力の極端に薄いダンジョンが生成されちゃったんだよ。




      馬鹿野郎か?




 この世界の《 ことわり 》を、ほんとなんだと思っているんだ? 魔力ってのは、自分達の権威をあげる為に使うようなもんじゃないんだ。 おかげで、ガングート帝国の土地は痩せ、農作物は育たず、荒れ地が広がり、人が住めなくなってしまっている。 自分で自分の首を絞めている様なもんだ。




 それすら、理解していない。




 しかし、なんで、《エルステルダム》の若いエルフ達が、奴等に手を貸すんだ? そこが判らんよ。 奴らにとって、理力を持つ者は忌むべきモノじゃ無いのか?


 玉座に座す、国王陛下の隣に立ってたダグラス王子がなんか言い始めたよ。





「この「百年祭」において、王室から重要な発表がある。 先程、国王陛下よりの宣下により、我が国は「至高の神」の御許に護られた。 よって、暴虐なる「魔族」を恐れる必要は無くなった。 ここに「百年条約」を破棄し、人族の、人族による、人族の治世を始める事を皆に伝えたい」





 大きな拍手をするのは《ガンクート帝国》の者達と、マジェスタ大公一派。 パラパラと拍手をするのは、そのあまりにも愚かな決定に茫然としている他の貴族たち。


 続けて、彼は云うんだ。





「この良き日に、もう一つ歓び事を発表したい。 私、ダグラス王太子・・・は、幾人もの妃候補から、一人の女性を我が伴侶に選んだ。 それは、此処にいる、「聖女」バルッコロ様にも、認められ、そして、「祝福」をお与え下さった。   ―――「至高の神」にも、お認め頂いた、最高の女性なのだ」





 優し気に、バルッコロって聖女様を見てらしたんだ。 彼女の清楚な立ち姿。 出るとこ出て、引っ込んでるとこ引っ込んで、身体のラインを強調した、純白のドレス。 南の出身者らしく、燃える様な赤い髪。 愛らしい大きな目の御顔。 そんでもって、ゴテゴテくっ付けている、いろんな宝飾品。



 あれ、魔石だ…… 理力も持ってる筈なのに ” その力 ” は、使ってないのか?



 使えないのか? 知らないのか? ……あぁ、そういうことか。 ” 渡り人 ” の魂の欠片をこっちの人に乗せるから、基本理力を使えないんだ……。 そうか、だから、強くないんだ……。 魂の外側だけが、” 渡り人 ” と、同じになるだけなのかぁ……。


 だから、《エルステルダム》の若きエルフ共が、忌む事は無いのか。 妖魔になる事は無いって事で。 その辺も、きっと《ガングート帝国》帝国至高教会の奴等が、保証でもしたんだろうよ! ちょっと、魔法を使える位の者なら、奴等には絶対に敵わないからなぁ……。


 そんで、ゴテゴテの宝飾品……。 魔道具だよね、あれ。 何が付与されてんだ?  聖女様っていうか、あの子が纏っているは、【誘惑】【魅了】 まぁ、そうだよね。


 あれは……篭絡されたなぁ。 短期間にダグラス王子に取り入るんだから、そのくらいはするよね。 もし、私が密命受けてても、その位はする。 まぁ、魔道具は使わんけどな。


 で、ダグラス王子、今、なんつった? ” 王太子・・・ ” だと? 何時の間に決まったんだ? そんな話、聴いてないぞ? 周囲の高位貴族の方々も、目を白黒させているじゃないか。 マジェスタ公爵と、アルファード公爵は平然と笑顔だ……。 つうことは、こいつらか……。


 で、やっぱりそうなのか。ダグラス王子、貴方の相手ってのは―――、






  「私の隣に立つ者は、ソフィア=エレクトア=マジェスタ公爵令嬢である!」






 嬉し気に、偽ソフィアが頭を一度下げたんだ。 そして、ダグラス王子の隣に歩み寄り、身体を彼にこすりつけるように、腕を絡めて隣に立ったんだよ。 見詰め合う目と目。 偽ソフィアの眼が軽く瞑られると、吸い寄せられるように、ダグラス王子が彼女の唇にキスを落としたんだ。



 頭の中にエンディングBGMが流れ始めた。 そうだね、この構図、見たよ。 最高難易度の、「君と何時までも」の「ソフィア エンド」。 あとは、エンディングロールが流れて、FINマークが出て、暗転。 物語はこれにて、終了となるんだ。


 文字通り、「君と何時までも」暮らしましたとさ、ってね……。





















         んな訳あるかい!!!












 こんだけ、問題抱え込んで、なにが ” 君と何時までも ” だ!!  自分の欲望に負けやがって! 民を見ろ! 大地を見ろ! 嘆く精霊様の声を聴いてみろ! そんな幸せそうな顔出来る訳がねぇだろ!!! 



 それになんだ! ……やらねぇよ、普通、そんな事。 こんな沢山の高位貴族やら、外国の賓客の前で、なんでそんな濃密なキスできるんだ? 



 それじゃぁ、まるで、 ” おかあさん ” の所の、一番安いお姐さんと同じじゃん! ふぅぅぅ……! 何だあれ? あれが、私を写したモノなの? わたし、あんなのなの? その様子を見て、不快に思ったの、私だけじゃ無かったよ。 ” 念話 ” が、頭の中に ねじ込まれる様に、響いたんだ。  





 ” ソフィアと違う。 ソフィアはあんな事しない ”


 ” ミャー…… ”


 ” 見てられない……。 私の大切なソフィアが、汚された気分になる。 殲滅したい…… ”


 ” まだよ、サリュート殿下の指示を待ちましょう。 この茶番を終わらせるのは、あの方なんだものね ”


 ” カルカルカルカル ”


 ” 威嚇音出さない! 気付かれちゃうよ! ”





 そう、言いながらも、私はサリュート殿下の方を伺うの。 言質は取ったみたいね。 サリュート殿下が、ガルフ王兄殿下に 耳打ちをしているのが、私の目に写った。




   ガルフ王兄殿下が ” すっ ” と、一歩を踏み出されたんだ。





           白色の王族の正装。



         先王様の色帯を肩から掛け、



       腰には王家の宝剣が下げられているの。



            うん、そうね




        まさしく国王陛下・・・・のいでたちだよ。







      シッカリと前を向いた、髭面の精悍な偉丈夫。





      獰猛な光が、その瞳に浮かび上がっていた。



 


      【世界の意志(ゲームシナリオ)】の強制力は消え去った。





       此処からは、世界の理が力を取り戻すんだ。













           さぁ、現実・・を始めようか。









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