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第163話 ソフィアの覚悟

 




葉採月(ブレタール)】の空は澄み渡り、青々と茂った若葉が、空に思いっきり手を伸ばすように広がっているの。





 レーベンシュタイン領から、タウンハウスに帰って来たわ。 ええ、本当に帰って来たのよ。 エルガンルース王国、本領、王都エルガムにね。


 御父様の侍女に身をやつして、王都の城壁の城門を通り抜ける時に思ったの。 これが、「試練の回廊」の城門なら、一発で見破られたろうなぁ―――ってね。 まぁ、ザルみたいなモノよ、人族の都市の城門なんてね。


 だれだって入れるし、出てもいける。 それに、私はもう死んだと思われているし、私が帰還した痕跡も無いのよ。 ミャーを追いかけている人達は居るけど、そうおいそれとは、レーベンシュタイン男爵に手を出す事は出来ないしね。



 王都を行く馬車からの眺めは、何も変わっていなかった。 



 いや、少し寂れているかな? 活気が無いというか、荒んでいるというか……。 そうね、精霊様の御加護が少ないって言うのが正解かも知れない。 何となくだけど、衰退の足音が聞こえるもの。 


 道行く人達の顔も、なにか冴えない。 あちこちに、帝国至高教会の導師たちの姿も見える。 それに、《ガングート帝国》の兵の姿もね。 なんか、戦争に負けた国みたいな気がするよ。





「あながち、ソフィアの思う事は間違いではない」





 私の視線と暗い表情から、御父様が私の考えを読んだみたいね。 そう言う所も、やはり御父様らしいわ。





「大通りがこのような有様だと、裏通りはさぞや酷い事に成っているのでしょうね」


「そうだな……。 各種ギルドのギルド長達も必死になっては居るのだが、いかんせん陛下の宣下が有るのでな」


「それは……何でしょうか?」


「ソフィアは知らなかったのか……。 陛下ご自身が、「帝国至高教会」に帰依された。 今、国教とされようと、計っておいでだ」


「無体な……。 この国をどうされるおつもりでしょうか?」


「さぁな。 もう、あの方に統治能力は無い。 理想に燃えてはいても実力が無く、浅はかで空虚な理想では、誰も付いてこなかったという訳だ。 潔癖にして清廉、汚れを知らぬ温室の花の様に育てられた第二王子では、この国を取り巻く悪逆非道にして、有能な者達の手の上で踊る事しか出来なかった。 先王も危惧しておられた。 マジェスタ大公の専横を抑えつける為に用意された、現マジェスタ大公の妹様で在られる、ディジェーレ様との婚約を破棄された時に、先王は現国王陛下に見切りを付けられていたのだ……」





 あぁ、やっぱりね。 だろうと思ったよ。 





「ガルフ殿下が行方不明になられて……、 歯車が大きく狂い始めた。 残る王子は現国王だけだった。 陛下の選ばれた妃……アンネテーナ殿を何とか王妃として、陛下の御側に立てるようにと、先代様と先代御妃様が心を砕かれ、ディジェーレ様ほどではないが、何とかその御役目を全うできそうに成ったというのに、陛下がこれでは……。今は亡き両陛下が何と思われるか……」





 アンネテーナ妃陛下、頑張ってらしたもんなぁ……。 外交も、内務も……。 手を汚される事をとことん嫌う国王陛下だから、そのしわ寄せが王妃陛下に来てたんだもんなぁ……。 海外の外務官と遣り合って、国内の有力貴族を抑え込んでたもんなぁ……。 いろいろとやらかしてたけれど、それも、ワザとかもしれないし……。





「ソフィア、今、アンネテーナ殿は【処女宮(ヴァルゴ宮)】に抑え込まれている。 もう、あの宮から出る事も出来ないらしい。 御命すら脅かされていると聞く。 全ては、マジェスタ大公に歯向かわれてからだ。 今、この国では、かの大公に逆らうモノは、誰であってもそうなる……。 覚悟はできているか?」


「はい、御父様。 精霊様の御加護無き者達に、遅れを取るような事は御座いません。 そして、彼等を助けて来た力も、もう終わるんです。 それから先は、世界の理が力を取り戻します。 いえ、取り戻すのです、この世界に生きとし生ける者の為に」





 覚悟を見せ、しっかりと視線を御父様に合わせる。 大きく頷く御父様。 もう、何も言わない、存分にやれと、その瞳は語るの。 そうね、ここまで大きくして貰った、その感謝を胸に、私は戦うのよ。 世界の理を乱す輩とね……。





 ^^^^^^




 タウンハウスに入ると、マーレさんの歓待が待っていたの。 至れり尽くせりの、本当に久しぶりのお嬢様生活。 以前使っていたお部屋も、そのままになってたのよ。 それでね、お部屋にはちゃんとドレスもあったの……。


 思わず、うっとりしちゃったよ。 


 もう、コルセットの付け方も忘れちゃったよ……。 ニコニコ顔のマーレさんがやって来てね、言うのよ。





「「百年祭」のお衣装は如何なされますか? 此方にも用意して御座いますが?」


「あ、あの……、 ほ、本当にとてもありがたいのですが、殿下に……サリュート殿下におかれましては、「百年祭」には、正「証人官」として、参加するようにとの、お達しがあります。 わたくしが持っております、正「証人官」の正装はただ一つで御座います故、そちらを着用したいと……。 そう思います」





 ホントは、ドレス着たいんだよ。 私だって女の子だし……。 綺麗なお衣装は、とっても魅力が有るんだよ。 でもね……、今回は無理……。 正「証人官」の正装しか、着用できないものね。



 一度、マーレさんに見て貰わないといけないよね。 



 私は無限収納から、魔族の正「証人官」の盛装を取り出したの。  そうよ、正規の「証人官」の正装。 深い緑色のスラックスに、赤い帯。 ブラウスは、シンプルなハイカラ―のモノ。 深紅のアスコットタイは、私の目と同じ色。 シルバーのタイリングには、上質の魔石が埋め込まれていたんだ。 ベストは、スラックスと同色。 織地に防御魔方陣が織り込まれているの……。 


 その上に羽織る、フロックコート。 手触りのいい、途轍もなく上質な物だと、分かる。 アスコットタイと同色の、ポケットチーフ、 そして、「証人官」を示す紋章を織り込んだ色帯ストラ。 深紅の生地に、金糸での刺繍……。 


 全てを取り出して、ベッドに並べるの。 マーレさんの声に成らない叫び声が聞こえた様な気がするんだ。 そうよね、込められている魔力とか、威厳とか……。 普通の正装にはない、神聖で重々しい空気がそれを取り巻いているものね。





「これを、着用します。 あちらで頂いた、正規の「証人官」の正装です。 これに会う、髪型をお願いしたいの……。 よろしくお願いします」


「お嬢様……。 これを、着用されるのですか?」


「ええ、一度、きちんと着用してみない事には、いけませんよね」





 そう言ってから、ミャーに手伝ってもらいながら、全部を付けて行ったのよ。 あちらでの「審問」の間中ずっと着てたから、私だけでも着られるんだけど、まぁ、其処はね。 一応、「お嬢様」って事で……。


 流石に灰色飛竜のコートは、出さないよ。 あれは、ちょっとね。 流石にね……。 こっちじゃ出せないよ。 あんなもの着てたら、こっちの魔術師達が眼の色変える「モノ」だものね。 



 全てを着終わって、マーレさんの前に立つの。





「この正装で、出席致します。 マーレさん、如何かしら?」


「お嬢様……! なんて、凛々しい……」





 絶句しながら、マーレさんは、うっとりと、私を見るのよ。 まぁ、男の子っていっても、そうかなって思われる様なカッコだしね。 ミャー迄驚いてるよ。 そうか、この姿を知ってるのって、サリュート殿下達だけだものね。 にこやかに微笑んでみるの。 この姿ではいけないのかしら?





「お嬢様、わたくし、全力を持ちましてやらせて頂きます。 ええ、誰よりも美しいお嬢様ですもの。 やり遂げて見せます。 お任せください!」


「お願いしますね。 ミャーには、お化粧を。 もう、全力でやっちゃって!」


「ミャーは……。 うん、分かった!! 頑張る! お店のお姐さんが気合い入れた時にした、傾国仕様で行く! 絶対、美人にする!!」





 ニッコリと笑っておいたよ。 なにせ、一世一代の大勝負だしね。 やるよ、やるからには、相応のモノでないとね。


 タウンハウスでの残りの日々は、主にエステ三昧だったよ。 お家に居る侍女さん総出で頑張ってくれたよ。 そうだよね、わたし、もう直ぐお嫁に行くんだし、ブライダルエステも大事だもん。






    前世で出来なかった事、全部やり切るよ!





        大勝負に勝って、




         大手を振って、




      あの人の元にいくんだもん!




           だから、








        わたしも、頑張るよ!!








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