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第161話 全ては、未来の為に

 


    目の前に居る人の名前は―――、





   ブロイ=ホップ=レーベンシュタイン男爵




        私の大切な、御父様。




 初めて会った時のは、王都エルガムの娼館併設の孤児院だったね。 ママが唯一、種を受けた「人」。 最初は疑ってたけど、本当の御父様。 慈しみ、愛してくださっている、私の御父様。 流石、娼館ギルドの「 おかあさん 」の見る目は確かだったよ。




 ミャーの事もちゃんと大事にして下さってるのよ。




 小さな私の事を、後で折檻される事は勿論、首にあったチョーカーからの警告と言う名の「痛み」も無視して、「爪」を出そうとしていたミャーも一緒に、身受けを申し出てくれたんだものね。 


 二人して、王都エルガムのタウンハウスに引き取られて、いろんなお勉強をさせて貰った。 男爵領にも連れて来てもらった。 一人娘として、不自由のないように、レーベンシュタインの「お家」の事は心配するなって、言いながら…ずっと、気に掛けて下さったよね。


 太っちゃってた身体も、一緒に戦闘訓練する内に、かなり絞られて、今じゃぁナイスミドルな感じになっちゃって……、とっても素敵な、大人の男の人だよ……。 






      清んだ紺碧色の眼がしっかり私を捕らえているの。






 此処は、西北辺境モレ領と、本領の間にある小領フタイン。




              本宅の地下。




 闇の精霊神様を祀る、小間。 中に入る事の出来るのは、闇の精霊神様に認められているモノだけ。 エルガンルースの諜報防諜部門の実質的管理者だった、御父様は勿論、闇の精霊神様の加護は濃厚に戴いている。


 ミャーは暗殺者ギルドでも、「闇の右手」の二つ名を戴くほどの「剛の者」。 何より、闇の精霊神様の御加護は強く戴いている。


 そして、私……。 精霊様に「愛し子」と呼ばれ、闇の精霊神様によって、「半人半妖」と成ったくらいだもの、当然入る事は問題無いよ。


 三人が入ったこの小間の中ならば、どんな手段を取っても、「ただの人族」は、中の出来事を伺い知る事は出来ない。 


 まぁ、あっさり言えば、古くは拷問部屋に使われていた部屋なんだよ。 窓もなく、錬石で隙間なく囲まれた一室。 部屋の中には、テーブルと椅子だけがあって、魔法灯火がゆらゆらと照らし出されていたんだ。


 その椅子に腰を下ろし、ミャーの淹れてくれたお茶を三人で飲んでるのよ。 御父様は私から視線を外さずに、眩し気に、そして、とっても楽し気にされていたの。





「ディジェーレ様に、本当に良く似て来たな。 まさしく、アノ時の彼女の様だ。 いや、それ以上か……。 長く、会わなかったが……息災にしていると、そう信じていた。 ソフィア―――。 よく、帰って来てくれた」


「御父様、長らく家を空けまして、申し訳なく思います。 《ノルデン大王国》のユキーラ姫の近習を申し付かって以来で御座いますね……。 ただいま、戻りました」


「あぁ……。 そうだったな。 《ノルデン大王国》では、ユキーラ姫暗殺の容疑者として、投獄されたのは、彼方からの謝罪の使者がみえられたので知っている。 大変な目に会ったな。 その時受けた傷が原因で……、 闇の精霊神様より、ソフィアが「半妖」と成った事を聞いた。 ……《エルステルダム(森のエルフ共)》に目を付けられて、奴等の幽閉施設の「黒き森」に連れ込まれた事は、帰って来た、【自動人形(オートマタドール)】と、あの(・・)侍女を見れば、一目瞭然だったよ……。 その後の事が判らなかったが……ただ、生きていてくれと、願うしか無かった。 ミャーから届く、断片的な君の事……、 そして、闇の精霊神様からは、” 心配には及ばぬ ” と、御言葉を戴いてはいたが……」


「ご心配をおかけしました。 本当に色々とありました……。 ミャーにも、御父様にも、御心労をお掛けしました事、深くお詫び申し上げます」


「オブリビオンに飛ばされたそうだな……。 ミャーからの言付けで、知ったのだが、未だに信じられない。 あちらで、サリュート殿下と落ち合って、「百年条約」使節団に加わったとも……。 正「証人官」たる、ソフィアにいずれ要請が来るとは思っていたがね」


「信じられない事とは、存じ上げます。 ですから、これを証とします。ご覧ください」 





 無限収納の中から、「百年条約」の条約文の入った箱を取り出して、蓋を開けたの。 その中身をジッと見詰める御父様の口の中から唸り声が聞こえるの。 ミャーにしても同じようなモノね。 何重にも精霊様の御加護が張り巡らされた「それ」は、見る人が見れば、神聖なモノだっていうのが、ハッキリとわかるもの。





「すべては……、本当の事…………か」





 唸る声が、言葉に成って私の耳に届くの。 腕を組まれ、目を瞑り、何かに想いを馳せてられる……。 御父様にしても、ミャーにしても、私が経験した出来事は、理解の範疇を越えているモノね。





「では、サリュート殿下の仰られていた、この条約の締結の対価……。 ソフィアのオブリビオン行きもまた、本当の事なんだね」


「ええ、そうです。 御父様、勝手ばかりで、本当にごめんなさい。 私は……、 あちらに輿入れをする事に成りました。 ……唯一の方からのご要望で御座いました。 そして、なにより……、 わたくしも、そう、望んでおります。 お許しを……」





 深く息を吸い込み、そう答えたの。 腕を組んで、目を瞑る御父様。 その閉じられた双眸から、涙が滲んで零れ落ちたんだ。 





「……ソフィア、君自身がそう、望んだのか?」


「はい」


「理由を……聴かせてもらえないかい? ミャーも良く判らぬと言う、その理由をね」


「はい、御父様。 御父様におかれましては、大変奇妙に思われるかもしれませんが、とても、とても、大切なお話で御座います。 ミャーには、子供の頃からお話しはしておりましたが、信憑性に欠け、また事象も大きく変わる部分が多々あります。 しかし、これをお聞きしない事には、わたくしの心の中は、きっと理解しがたいと思いますので……、お話申し上げます」


「うむ、聴かせて貰おうか」





 私は、ミャーと御父様に、生まれ落ちてから、これまでの事を、お話しし始めた。 勿論、私が転生者であることも、この世界に酷似したゲーム世界の話も、そして、その【世界の意志(ゲームシナリオ)】と言う、強制力があった事も。





           全てね。




           ……全て。





 頷きつつも、余りにも奇妙な話に、御父様の理解が追いつかないの。 特に、【世界の意志(ゲームシナリオ)】って所はね。 ただ、思うのよ。 よその世界から召喚されてきた魂が ” 渡り人 ” で、その魂は、闇の精霊神様の眷属の三柱によって、送還されるんだから、此方の事を知る魂が元の世界に戻るって事も、ある筈なんだよ。


 薄い記憶を持ったまま、彼方で生まれ直して、その記憶か何かが、潜在意識として残ってて、ゲーム世界を作り出す時に反映しちゃってたとか……そんな事も考えられるよ。 だって、召喚送還には、時間が関係しないもの……。 


 強制力も、ある意味、次元の干渉(召喚の影響)なのかもしれない。 だって、あんまり強いんだもの。 バタフライ効果もあるけど、【世界の意志(ゲームシナリオ)】が定めた「未来」を引き寄せる為に干渉が有るのかも知れないんだよ。




           でも、未来は一定ではないの。




 次元の干渉を跳ねのけるのは、この世界の理。 私は、この世界に生きているし、大多数の人々も、そんなモノには関係が無いもの。 皆、幸せに生きていく権利を持っているのよ。 




           だから、私は足掻くの。




 もしかしたら、世界の理の、次元の干渉に対する反撃なのかもしれないよね。 私とあの人がこの世界に転生してきたのは……。 深く結びついた魂を、オブリビオンと、ミッドガルドに分けたのも……。 その強く引き合う力を利用して、世界の理をもう一度強く結び直す為にね。




            でも、それももう直ぐ終わる。




 次元の干渉の様な、【世界の意志(ゲームシナリオ)】の強制力も、もう直ぐね。 ゲームには、エンディングが有るの。 その先については、何も語られないの。 勿論、エンディングスチルには、幾通りもの未来が描き出されていたんだけど、私はどれも気に入らないの。 だから、エンディングスチルを書き換える事にしたんだよ。


 だってもう、【世界の意志(ゲームシナリオ)】は、干渉できない。 だって、ゲームは終了しちゃってるもの。 全てのイベントは収束して、踊る人達は舞台から降り、最後に残る主要登場人物達の云わば、茶番劇。




       最後にして、唯一の書き換えの機会が……、 



 そう。



           「百年祭」




^^^^^^^^





「ソフィアは……、 彼方に行ったあと、もう、戻ってこないつもりなのか?」


「いいえ、御父様。 未来は無限の可能性に溢れておりますの。 あちらと此方を結ぶ回廊もまた、可能性としては御座いますわ。 世界の理もきっと、お認めになると、そう信じております。 御父様……。 貴方は、私の大切な御父様。 決して、お一人になどにはしません。 それに、ミャーも一緒に行きます。 二人で有れば、どんな障害も跳ね除けられます」


「ソフィア、君の意志は確認した。 いずれは、どこかに嫁ぐと、そう思っていた。 それが……まさか、魔人王様とはな…………。 言葉にならんよ。 しかし、それが君の幸せならば、認めるしかない…………。 ソフィア、君の父親として、ブロイ=ホップ=レーベンシュタイン男爵として、この婚約を、婚姻を、認めよう。 幸せにな……」


「御父様……。  有難うございます」





 頬を伝う、熱い流れ。 私も、御父様も、ミャーも、みんなで幸せになろう! 設定された確定の未来では無く、私達の手で作られる未来を、この手に入れよう!




          ガッチリと手を握り合う私達。







             時は満ちた。


            踊らされる者達に、


           その行いの報いを携え、





              行くよ……。


               私は。






銀髪紅眼(シルヴェレッド)鬼姫(オーガレス)】 にして、正「証人官」 あちらでは、「聖女ソフィア」 





       何だっていいわ。



              ここ一番の大勝負。



         私達の、この世界の理の中で生きる人達の、



             そんな人達の未来を賭けて……







                 「百年祭」に、








                 出席するよ……。








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