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記憶の彼方から ” あの人に逢うために ”  作者: 龍槍 椀
ビューネルト王立学院 一年生
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第16話 とある決意と、依頼の「お仕事」

 



     入学から二ケ月経って、11月に成ったよ。




 まぁ、日本式に勘定したらね。 こっちでの名前は、「蒼天ノ月アジュエレー」  随分と寒くなって来たよ。 私が前世で学生だった頃、冬と言えば、校内マラソン大会なんてものがあった。 それも、小中高と、十二年間、毎年冬になると走ってた記憶があるのよ。



    なんで、寒い中、走らなきゃなんねぇんだ!



 なんて思いつつも、結構楽しんでた。 冷たくピンと張り詰めた空気の中を、汗だくになって走るのは、嫌じゃ無かったからね。 


 ビューネルト王立学院の冬……。 どんな世界に来ても、やっぱり、この時期は、身体を動かすのに適しているのかしらね。 有りましたよ、そんな()()が……。 マラソンじゃねぇよ。



        「武術大会」



 だってよ!!


 運動会みたいなモノかな、って思っていた。 予想に反して、これが、まぁ、結構本格的な競技大会でね。 試合形式の「武術大会」での順位が成績にも反映されるんだって。 出席してたら、「OK」とかって云うのとは違うらしい。



   また、掲示板前がにぎやかな事になっているよ。




「お嬢様は、どの武術を選択なさるんですか?」


「ええっと、……なんか、色々とあるの??」


「掲示板に掲示されております。 期限までに、指定された「何れか」の武術を選択されないといけません。 御令嬢様達には、相応の武術として、「小太刀」の部と、「小剣」の部が、推奨に御座います。 お早くその旨を登録されないと……「無制限」の部に……」


「そうね、あとで、掲示板確認しておくわ」


「はい……」




 ミャーの云った通り、各種武器の使用で競われる”試合形式”の大会なのよね。 武器の種類として、小太刀、小剣、剣、大剣、手槍、槍、大槍 と、その全部の使用が可能な無制限部門の8部門があるのよ。  お嬢様がたが、推奨されているのは、「小太刀」の部と、「小剣」の部。



 まぁ、アレよ。 懐剣が扱える程度の嗜みを、要求される訳ね。 そんなに皆様、力入って無いし!



 一部、武門の御家のお嬢様以外は、授業の成果を見せて終わりな筈。 まあ、武術の先生達も、刃物を扱うって事を、覚えさせるためって感じだから、全体的に緩い授業だったのよ、「武術の授業」自体は。




 だもんで、油断してた……。



 まさか、高位貴族と、その取り巻きの、中、低位貴族達が、やらかしてくれるとは思ってなかった。 掲示板の前がそれ程、混雑しなくなった頃を見計らって、詳細を確認しに行ったのよ。 そんで、ビックリした。 参加部門の登録者数が、魔法でリアルタイムに掲示されてたんだけどね……


「小太刀」の部 と、 「小剣」の部の定員が、埋まってた。 あり得ん……。 先生達の話では、自信の無い人やら、淑女として”ハシタナイ” ってな理由で、棄権する女生徒が、毎年多数出るんだ。 事前登録の段階でね。 当日も、体調不良とかなんとか、大義名分を付けて、殆どの女生徒が、棄権するって、話だったのに……。



 事前登録で、無制限部門以外が全部埋まってた……。 



 出遅れた……。 というより、嵌められた? 無制限部門の登録者って、みんな騎士を目指してる、ガチガチ脳筋。 戦闘向きの魔法使いも参加してる……。 行政官を目指している人は、この部門には参加しない。 こりゃ棄権だなって、思っていたら……。



 今年から、全生徒が必ず、一回は戦わなくちゃならなくなったみたい……。 生徒会実行委員からの強い要請だって。 



 まぁ、利には叶っているんだよ。 いわゆる、「運動会」みたいなモノだしね。 学院の生徒が全員参加が求められるのは。 でも、なんだよ、これ……。 突然のルール変更って……。 生徒会からの要望ってのも、裏がありそう……。 だって、ダグラス王子が、新入生から、生徒会に名を連ねているのよ……。


 たしか、『君と何時までも』の中でも、そう言う事、言ってたよね……




 くそ、意趣返し(しかえし)か……。





 ダグラス王子、新入生歓迎会で、制服で出席した事、根にもってやがる……。 仕組みやがったな! その証拠に、掲示板の前で茫然と立ちすくんでいる私を見て、クスクス笑っている奴等が、大勢いやがるんだ……。 ミャーがそっと後ろに立つ。




「やられましたね」


「ええ……。 まったく……。 他の方々は、どうされたのでしょうか? そちらが心配です」


「どうも、回状が回っていたらしく……。 お嬢様に知られない内にと、寮生の方々が、早々に取りまとめられていたそうです。  あちらの方々、お嬢様にも「お知らせ」していると、嘘ついて居られましたので……。 申し訳ございません、迂闊でした」


「いいのよ、ミャーのせいじゃないわ。 ……狙いは、私だけって事よね」


「はい、そうでもしないと、無制限部門以外の組が埋まりませんので」


「……何時から?」


「掲示当日だそうです」


「……そう……。 やってくれるわね」


「お嬢様、殺気が漏れておりますよ」




 ミャーに指摘されるまで、自覚してなかった。 怒りに、感情が漏れちゃったらしいの。 酷薄にうっすらと口元に笑みを浮かべ、紅い瞳が輝いて、銀髪が魔力で若干持ち上がっている。 ピリピリとした空気を纏わりついてたって。 後で、ミャーが教えてくれた。 



     ゴメン、精進が足りないよね。



 確かに、このままじゃ、「武術大会」で、コテンパンにされて、無様な姿をさらけ出す事になるね。 それでもいいんだけど、なんか、腹立って来た。 もし、物語の「ソフィア」なら、悪逆の限りを尽くして、事前に対戦相手の弱みを握って、対処すると思うのよ。 


 でも、それって、「世界の意思(シナリオ)」の、思惑じゃね? って考えてしまったのよ。 なら、どうするか……。 仕方ねぇな、ちょっと、本格的に鍛えようか。 無制限部門って、何使っても良いのよね。 御父様から、色々な()()()()()を、お教えいただいていたモノね、五歳の頃から……。 それに魔法だって、早々、負けるような事は無い筈だしね。 酷薄な笑みを口元に浮かべつつ、ミャーにお願いしたの。




「「お仕事」取って来て。 実戦が一番の訓練に成るから」




 ミャーがニヤリと笑うんだ。 そうなんだよ、前から、色々とギルドの方々から、「お願い」とか有ったんだよ。 そのお願い、「私は、ギルメンじゃ無い」って言って、断ってたのよ。 お願いされてたのは、冒険者崩れの強盗団とか、悪辣な商売をしてる組織とか、夜の闇に無差別に盗みに入る盗賊団とかの排除。


 そいつら、ギルド間でも問題に成ってるんだって。 そんな、素行の悪い人達が、王都エルガムの闇に住み着いていて、おいたを繰り返しているんだって。 衛兵さん達は、後手後手で、全く役に立たないらしいの。 表の人達(貴族の方)の援助を受けている様子も伺えるって…… 衛兵さん達の動きが漏れて居るらしいのよ。 



 ギルドを通さない ”働き ” に、いそしむ彼等。 ついに、痺れを切らした人達がいたって事よ。 



 依頼者は、冒険者ギルトのギルマス、商工ギルドのギルマス、盗賊ギルドのギルマス。 三大ギルドのギルマス直々の御依頼らしいの。 でね……問題は、その素行の悪い人達、何だかんだって、有能さんらしいのよ。 暗殺者ギルドメンバーでも手古摺る程ね。


 で、ミャーに白羽の矢が立ったんだけど……。 ほら、彼女、「闇の右手」って、名持ちのギルメンでしょ。 だからね。 でも、ミャーは私の命令が無ければ動かない。 だから暗殺者ギルドは私に、「お願い」をして来たって訳。 




「お嬢様。如何なさいます?」


「えっ? 何言ってるの。 お願いされていた事、するだけよ。 私も出るから。 というより、ミャーは私のバックアップね」


「……やはり、そうなりますよね」


「そうよ、これは、訓練よ。 訓練。 御父様に、お教えいただいた事を、役立てましょう」


「ご当主様には?」


「私から、許可を得ます。 心配しないで。 御父様には包み隠さず御報告と、ご相談をするから。 絶対よ。 だって、私、レーベンシュタインの娘よ。 そこは、外さないから」


「ご随意に」




 掲示板の前で、ミャーと私だけに聞こえる声で、話し合い結論を得た。 そうよ、訓練よ。 人の命の掛かった訓練。 一つ間違えば、私の命も散る。 でも、やらねばならない事。 苛烈過ぎる判断だとは、自分でも思うけれど、ここまでしないと、「世界の意思(シナリオ)」の意図は挫けないと思うのよ。 絶対に喰い破って見せる。 


 正々堂々とね!




    ――――――――――――――――――――



「武術大会」は、「蒼天ノ月アジュエレー」の末日。 つまりは三週間後。 そうよ、三週間しか無いのよ。 早速、御父様にこの旨を告げた。 物凄く怒られた。 でも、曲げなかった。 




「ソフィア、どうして君は、修羅の道を敢えて歩もうとするのか!」


「レーベンシュタインの娘の矜持です。 御父様。 私は、名実ともにレーベンシュタインの娘に成りたいのです」


「……」


「わたくしが、男児なれば、御父様はきっと許可をお与えに成ります。 いいえ、命じられもするでしょう。 それが、レーベンシュタイン男爵家の在り様なのです。 しかし、御父様はわたくしが、女児であるという事に、とても、とても、拘って居られます。 そして、ずっと、ママの影を重ねて居られます。 しかし、そのママはマジェスタ大公家の御息女。 土台が違います。 わたくしは、わたくしであり、ママでは御座いません。 なにより、わたくしは、レーベンシュタイン家の娘で在りたいのです」





 この言葉に、御父様は呻きながら、応えられた。





「ソフィア……。 其処まで覚悟して、この()()()()()となるか」


「はい。 大切な御父様と、レーベンシュタイン男爵家。 何としても、()()()()()()()()()を立てねば、御父様の御慈悲に報いる事は出来ません。 わたくしは、そう考えております」


「……。 【銀髪紅眼シルヴェレッド鬼姫オーガレス】の、異名は伊達では無い……。 そう言う事か。 ……判った。 其処まで言うのならば、仕方がない。 許可しよう。 ただし、三つ条件がある」


「なんなりと」


「ソフィアの「仕事」に、家の者を使え。 どんな形であっても、レーベンシュタインの「仕事」だ。 つまりは、君が統率する。 いいね」


「はい。 情報の収集、罠を張り巡らし、追い詰め、殲滅致します。 ()()()()()()()を、用いましても」


「ミャーは、君の側に置く事」


「はい。 わたくしの背中は、彼女に」


「最後に」


「はい」


「ソフィア、()()()が傷つく事を禁止する」


「御意」





 真剣で、慈愛に満ちた視線。 レーベンシュタイン家の御家の「仕事」は、エルガンルース王国を裏側から支え、予測可能な未来の危機を排除する事。 今回のお仕事は、その条件に合致する。 だから、きっと、言葉を尽くせば、お許し頂けると確信していた。 



 では、エルガンズの意地と矜持プライドを、お見せしましょう!!



 御父様から、暗殺者ギルドの、「お仕事」を受けた旨を伝えて貰った。 暗殺者ギルドのギルマスから、感謝の言葉を貰ったらしい。 例の事件のあと、ギルドメンバーを精査してみると、マジェスタ公爵の息の掛った者がまだ、何人もいたらしいの。 そいつら、地味に嫌がらせみたいな、サボタージュ噛ましててね、手練れの幾人かが、傷を負っていたって。


 内部を浄化するのに、手間取って、この仕事を安心して任せられる人が、居なかったみたい。 どうせ、素行の悪い人達だって、きっと、マジェスタ公爵家の息が掛かってる筈だって。 暗殺者ギルドが自分の手に入らないなら、新しく無頼の集団を作っちまえ!! って事らしかった。




    既存の各ギルドとも、調整も取らずにね。




 もちろん、そんな無茶したら、各ギルドのギルドマスターだって、黙っちゃいないよ。 様々な情報が、続々と集まって来るの。 御家の人達に、それを精査してもらって、そいつらを特定して、何処までるかを、決めたの。


 三つの組織の配下に居るのが五百人から、六百人だけど、統率してるのは、ニ十数人。 このニ十数人を排除すれば、あとは有象無象。 それこそ、各ギルドでも対処出来るってさ。 標的は幹部たち。 出来るだけ、有象無象の前でる事になった。




     見せしめと、心を折る為にね。




 この調整に、二週間を費やしたの。 標的をしっかりと見定める為にね。 それぞれのアジトで、何らかの会合が開かれている事も掴んだの。 実際、ほぼ同時に二十数人の幹部たちをらないと、上に居る「貴族の後援者」に連絡が行く。 それじゃマズいのよ。  速やかに、同時進行で。 それを実践する為には、こっちも相当無理する必要が有ったのよ。


 幸いな事に、この三つの組織、王都エルガンの闇に住んでいた。 つまりアジトの位置が近いのよ。 下町の薄汚れた地域に居た。 気に掛かっていたのは、娼館ギルドの事。 あのギルドには、繋ぎ取って無いもの。 あの人達の縄張りで、血みどろの戦いをしたら、何かしら、困った事になりそうだった。


 でね、近くに、娼館【レッドローゼス】もあったのよ。 だから ”おかあさん” に久しぶりに連絡を付けた。 ある意味、” 予感 ” がしたから。




「お久しぶりです」


「おやまぁ…… 立派な令嬢になったね、ソフィア」


「お陰様で。 ところで、おかあさん、この頃、悪い人達がこの辺を歩き回っているらしいですね」


「そうなんだよ! 色々と面倒な事になっているんだ」


「レーベンシュタインが「お仕事」を受けました。 少し騒がしくなりますが、ご容赦ください」




 おかあさんの瞳がギラリって光った。 やっぱ、知ってるよね。 あのデブッチョだった、お父様の素性くらい。 知らない方が可笑しいもの。 なんて、言うかな?




「……盾の男爵が動くのかい?」


「わたくしが」


「……」




 絶句してるよ。 はははは、こんな ” おかあさん ” 見るの初めてかもしれない。 ミャーが後ろで笑ってたよ。




「……もしかして、【銀髪紅眼シルヴェレッド鬼姫オーガレス】って、あんたの事かい?」


「さぁ、何の事でしょうか? 存じ上げませんわ」




 さらに、” おかあさん ” の目が光る。 ゆっくりと目を瞑り……言葉を紡ぎ出したの。




「娼館ギルドは、全面的に協力するよ。 この界隈での無制限行動を許可する。 いいね、しっかりやんな」


「はい…… 有難うございます」




 ほら、” 予感 ” 通りだ。 娼館ギルドのギルマスって、謎だったんだよ。 やっぱり、” おかあさん ” が、ギルマスか、物凄く近しい人だったんだ。 じゃないかと、ずっと疑ってたよ。 よし、仁義は通した。 これで、この界隈で、「お仕事」しても、邪魔はされない。 もしかしたら、お手伝いもしてくれるかもしれない。




「あんた達に、護衛……いや、協力者を一人付ける。 いいかい?」


「御意に。 監視ですか? 此方のギルドに迷惑が掛から居ない様に」


「……身も蓋も無いね。 そうだよ。 おい、カーザス! 出て来な。 「仕事」だよ!」




 のっそりと、いつぞやの監視役のおっさんが出て来た。 S級冒険者の元貴族のおっさん。 まだ、居たんだ。 バッチリとカテーシを決めて置く。




「ソフィア=レーベンシュタインで御座います。 カーザス様。 どうぞ、よしなに」




 噴き出しやがったな!




「あはははは! おい、ソフィア! いっぱしの令嬢に成ったな! お前は一流になるって言った事が有ったよな。 ミャーも居たか!! これは、面白そうな「仕事」だ。 おばば! 楽しそうな事になってんな!!」


「煩いよ。 ちっとは黙んな! いいかい、あんたの「仕事」は、この子達の護衛と監視。 あの馬鹿共を排除するんだとさ。 暗殺者ギルトが請け負ってる「仕事」を、レーベンシュタインが受けた。 この子達は、レーベンシュタインの闇の御子だ。 心して掛れ。 うかうかしてると、足元掬われるよ!」


「おうよ! 判ってるって! ソフィア、ミャー、そう言う事だ。 ここらで仕事する時は、同行する」


「よしなに。 明後日、「お仕事」に成ります。 三ヶ所ほぼ同時に急襲しますので」


「……わかった。 準備しておく」




 私の真剣な表情と静かな言葉に、それまでのニヤニヤ笑いを納めた、カーザスさんが真剣な瞳で応えてくれた。 これで、一安心。 まぁ、居なくてもいいんだけど、居てくれた方が、バックアップとして使えるしね。 さて、準備は整ったよ。




   さて、るか!




     ――――――――――――――――――――




 その日は風も無く、月も出ていなかった。 夜の闇は何処までも深く、私達の気配は何処までも薄かった。 ニャーにお願いして、《マーキング》は済ませてある。 標的はたとえ建物の中であろうと、どんな変装をしようと、違える事は無い。


 下町の屋根の上。 奴等のアジトのちょどう中間地点。 




「始めます」


「ミャーは、退路と進撃路の確保をする」


「俺は、ソフィアがしくじった場合の、後衛だ」


「よしなに」




 身体の張り付くような、私専用の服。 手には鋼線。 背中にはちょっと珍しい、短めの曲刀ククリ そのほか、暗器を色々。 標的は射線が通る、ちょっと離れた、ぼろい家の中。 マーキングを付けた頭が、チラチラ見えている。



   さぁ、始めるか! クルクルと鋼線に菱玉を載せて回す。 



 最初は、商工ギルドからの依頼。 下品な笑いを浮かべている、デブが六人、そのボロ屋の中の豪華な部屋にいた。 部屋の中央には、見目麗しい女性が数人。 その周りにも幾人かの男達も居た。 


 あぁ……味見かぁ……。 あの女の人達、娼館ギルド介さずに味見された事がバレると、もうどこの娼館でも雇ってもらえないよ……。 それに、そんな事して、自分達で娼館作っちゃったら、娼館ギルドを敵に回したって事だね。 何にしても、奴等に未来は無いね……。


 それにしても、あの女の人達……なんだろ、妙に大人しいなぁ。女性たちの顔に怯えと諦観が見えるよ。 あぁ、デブが、借金の証文もってやがる。嵌めたのか。 【遠目】は、こんな時、使えるなぁ……。 あれで、縛るつもりかぁ……。




 気を取り直して、連続して、六発、菱玉を打ち出す。 当然、デブ六人の、頭に向けて。 




 爆砕完了! 次! ニャーの作ってくれた 「道」をカーザスさんを伴い走り抜け、次の目標が屯っている、酒場の二階に侵入。 窓は開けてあったけど、奴等はちょっと奥まった部屋に居たから、菱玉の射線から外れてた。 だから、背中から曲刀ククリを抜く。 【消音】で足音と、【隠密】で気配を消して、突入。


 酔っ払いの頸動脈は、バターよりも簡単にぱっくりと斬れた。 噴き出す血潮に、身体を濡らす事も無く、そこに居た、七人の標的を無害化。 周囲に居た手下どもは、目の前で起こった惨劇に何の反応も出来ずにいた。 


 おまえら、それでも、元冒険者かよ。 だから、冒険者で生きて行けないんだよ! 酒盛りは、血潮の海に沈んだ。 一陣の風の様にその場を退避。 ミャーの退路の作り方は、ホント素敵。 あっという間に、その酒場から撤退できた。


 最後は盗賊団の奴等。 こいつら、すばしこい上に、やたらと警戒がキツイ。 普通に剣やら、魔法で攻撃したら、簡単に逃げ出して、追えなくなる。 だから、大きな網を張る。 そいつらのアジトは、地下水路の一角。 複雑に入り組んだ水路だから、逃げる道はいくらでもある。 でもさ……、水路って事は、水が大量に存在するんだよ。 


 打ち合わせた通り、ミャーには、地下水路への進撃路を確保してもらっておいた。 ここでも、カーザスさんを従えて、「道」を走り抜ける。 走りながら、召喚魔法陣を展開。 来てもらうのは水の精霊様。 お願いするのは、いま、標的のいる場所から下側の水路を水没してもらう事。 一分の隙も無く、詰め込んでもらうの。


 次に召喚したのは、氷の精霊様。 満水にした水を、カチンコチンに凍らせてもらった。 周囲に伸びる水路には、奴等の警戒柵を躱すように、【土壁】を魔法で紡ぎ出した。 上方に逃げる道は、レーベンシュタインの「お家の人達」に塞いでもらっている。 そう袋のネズミ。



 ネズミの駆除って奴は、やっぱり「毒殺」がテッパンよね。



 確実な致死性の毒を紡ぎ出す【毒の霧】の魔法は、ちょっと厄介な術式が必要なのよ。 時間が掛かるの。 そんなに長く無いんだけど、やっぱり、気付かれちゃうよね。 奴等、蝋燭を吹き消すと、辺りに散った。 まぁ、私にはマーキングがあるから、何処に行ったか判るんだけどね。 カーザスさん、【暗視】の魔法使ってる。


 さっすが~~!


 さて、魔方陣完成、毒の霧が奴等を襲い始めた。 四方に散った奴等、土壁に阻まれて、立ち往生。 下の水路に逃げようした奴等は、落とし扉を開けて飛び降りたら、そこには冷たい氷の床。 叩き付けられてやんの! 自分で落とし穴にはまったようなものだよね。 上に逃げようとした奴等は、扉が開かなくて、立ち往生。


【毒の霧】は容赦なく、奴等を襲い、手足の自由を奪い、やがて奴等は、紫色の泡を吹いた。【毒の霧】を納め、標的の一人一人の死亡を確認していくの。 全部終わったって思って、気が緩んだのかな……。 倒れてた男の一人が突然起き上がったのよ。 


カーザスさんが叫んだ。





「お嬢! そいつは、仮死の呪法を使っている!」





 そう叫ぶと同時に、冴えざえとした鍔鳴りが耳に届いた。 



      キン



 その男は、首を切り落とされ、致死の毒を塗り付けた短剣を片手に崩れ落ちた。 ヤバかった。 そうか……【毒の霧】は仮死の呪法で、捌けるんだった! ありがとね、カーザスさん。 詰めでやらかした……。 ほんと、ダメね……私は。




     ちょっと、しょげたよ。




 全部が終わって、地上に戻ったら……。 ミャーが心配そうに、私について来た。 とっても凹んでたからね。 ミャーにも私がやらかした事、見られてた。 それでも、心配してくれた。 たとえやられてたとしても、自業自得なのにね……。





「ソフィア……大丈夫?」


「うん……でも、ヤバかった。 カーザスさんのお陰…… まだまだ、ダメだね、私……」




 しょげかえっている私の頭を、カーザスさんがグリグリ撫でまわしたよ。




「ソフィア、そんなにしょげんな。 お前の手腕は、一流だよ。 最後はまぁ……ご愛嬌ってなもんだ。 その為に、俺は居たんだ。 これで、街も大分、すごしやすくなる。 お前のお陰さ。 レーベンシュタインの旦那にも礼を言っといてくれ。 おばばには、俺から報告しておく。 まぁ、最後の奴は……俺達の内緒だ」




 半分涙目に成りながら、カーザスさんを見た。 おっさん、にっこり笑ってくれた。 危ない橋を渡る事は、今後もあるだろうけど……今度の事は肝に銘じて忘れないようにするよ……。 最後の最後まで、気を緩めない事。 何事にも対処方法が存在するって事。 ごめん、ホントに助かったよ。




「有難うございました。 この「ご恩」は、忘れません。 善き教訓を頂きました。 精進いたします」


「はははは! かてぇ事、言いっこなしだ。 ソフィア、おめぇ、冒険者でもやっていけるぞ? どうだ、今度一緒に、迷宮に潜るか?」


「御冗談! 私なんかでは、S級冒険者の足手まといにしかなりませんよ! 私は弱い。 まだまだ精進しなくては……」


「はははは! その向上心、大事にな! お前さんは、ほんと、一流に成るよ!」




 手を挙げて、闇に沈む街路に消えていくカーザスさん。 その後ろ姿に、思わす頭を深く垂れて、敬意と感謝を捧げたよ。


 何にしても、「お仕事」は終了。 これで、素行の悪い方々は、壊滅した事になる。 あとは、モグラ叩き。 各ギルドで対処可能な状態になったよ。 フゥって大きな溜息が出た。 ミャーも同じように息をついている。




「ソフィア……。 心臓に悪いよ。 止まるかと思った。 ホントは、これっきりにして欲しいけど……、また、こんな事有るんだろうね」


「うん、ミャー ……私の歩む道は、きっとこんな事ばっかりだろうと思うのよ。 でも、乗り越えなきゃ、死んじゃうし……。 避けて通ると、行く先は死地に繋がっていると思うの。 だから、避けずにできる限りの事をするの……。 今回の事で、大事な教訓も得たし……。 ミャー、これからも宜しくね」


「……うん。 頑張るよ……。 お転婆さんと一緒に生きる事は、私が望んだ事だしね」


「ありがと」





 二人して、お屋敷に帰る。 月の無い闇夜。 闇の精霊様の息吹を感じながら、少し大人になったような気がしたんだ。



    実戦で養ったこのギリギリの感覚。 



  「武術大会」でも、役立ってくれるよね。



      教訓も、活かせるように。




   タウンハウス(お屋敷)に帰ったら、訓練を続けよう……





      あの人に逢うまでは、




      どんな手を使っても




       生き残るんだ。




       たとえ、この手が






      血みどろに成ってもね。









読んで下さり誠に誠に、ありがとございます。

ブックマークが100を越えました。 拙作を読んで下さること、この上なく幸せです。


さぁ、頑張って、自転車漕ぎます!!



それでは、また明晩、お逢いしましょう!!

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