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第157話 思惑の狭間に有る、光明

 





葉採月(ブレタール)】の空気は澄んでいるの。






 長雨が上がり、空気に湿り気が残る空気。 でも、まだそこまで暑くないし、すごしやすいの。



 サラーム妃陛下に呼び出しくらったよ。 



 まぁ、居候だからね。 ミャーは一応、ユキーラ姫の護衛侍女って役職持ちだから、堂々とこの御城に住んでて構わないんだけど、私の場合はねぇ。


 王族の墳墓に至るまでは、エルガンルース王国「使節団」の一員って事だったけど、殿下との約束で、それも、解消されちゃったしね。 公式には、ソフィアはエルガンルース王国に居るし…… つまりは、私がこの御城に滞在する理由が無いのよ。 





            幽霊なのよ、私は。





 そんなあやふやな存在の私を、普段は滅多に表に出ないサラーム妃陛下が呼び出したんだもの、周りは慌てるわよね。 私がこの御城に滞在している事すら知らない方の方が多いのにね。 


 一応、きちんとした身形をって思ったけど、中々と難しいの。 ほら、此処においてあったドレスはどれも小さくなってしまっていたし、今、着られる、正装は……、 アノ「証人官」の正装くらいだし……。 なぁ……。




       でも、「魔族」の正装は、ダメよね。




 ミャーにきいてみたんだ、前に此処であつらえて貰った、《ノルデン大王国》の「法務官」の正装がまだあるのかってね。 あってくれれば、なんとかなるかも知れない。 あれ、男女兼用だから、大きさに余裕があるのよ。





「あるよ? どうする?」


「アレしか……着れそうな、「人族」の正装は無いしなぁ……。 アレにするよ」


「そう、良いよ。 用意する」





 ワードローブから、一式が直ぐに出て来たんだ。 きちんと保管しててくれたんだ。 嬉しかったよ。 《ノルデン大王国》の法衣をね。 スラックスにブラウスを合わせて、上から腰をウエストニッパーで締め上げるスタイル。 その上に法衣の外套を着るの。 外套は詰襟でね、濃紺に赤い縁取りと、燻銀のボタンが沢山ついてるの。


 男の子に見えないかな?





「ソフィアが着るとね…… ちょっと妖しげな雰囲気になるね、それ。 なんていうのかな、背徳的? みたいな」


「どういう意味よ、ミャー」


「ソフィアに 「女」 を、妙に感じるって事かな? ……胸周りの感じとかね。 特に、外套を脱いでいたら、お尻の形なんかが はっきりしてるし……。  色っぽいって言うか、なんていうのかなぁ……。 そそる。 狙ってる?」


「無いよ! 無いない! そんなつもり、全くないよ? ダメかな? このくらいしか、身にあうモノ無いんだけど……」


「いいと思うよ、冷たい雰囲気、出して置けば多分…… 問題無いと思うよ」





 含み笑いを堪えながら、ミャーはそう言ってプイって向こうを向いてしまったの。 こんな時のミャーはとってもイジワルだよ。 どうしろって言うのよ。 妃陛下の前だから、外套は脱ぐべきだし……。 この国の法務官じゃないから特に、外套はね……。


 でも、そんな事言われたら気になるじゃん。 何度も、後姿を確認しちゃったよ。





 ***********





 呼出しは、極内密にって事で、そんなに人には会わなかった。 良かったんだけど、良くなかった。 ダーストラ様がガッチリガードなんだよ。 なんか、目が怖いし。 どうしたのかなぁって思ってたら、ボソリと言われたの。





「ソフィア殿……。 ご存知でしょうが、エルガンルースに貴女の偽物が居ります。 貴方の存在が彼等に知られれば、どの様な仕儀に相成るか判りません」


「存じ上げております。 この国から……、 少なくとも王城からは、近々のうちにに去ろうと思っております」





 ダーストラ様の表情がやや柔らかくなったの。 そりゃ、外交的な爆弾を抱えた事と、同義だものね、私の存在は。 でもね、その前に言っておくことが有るの。





「ダーストラ様、一つ確認いたしますね」


「何なりと」


「ミャーの事です。 わたくしが此処から、退去致しましたら、ミャーも居なくなります。 《ナイデン王国》の方々には、ご了承頂いております故、もし、彼方から何か云われる事が有れば、全て、ソフィア=レーベンシュタインが受けると、そうお伝えくださいませ。 ミャーはわたくしの姉妹であり、片羽。 彼女が望まない限り、彼女の手を放す事はあり得ません」


「……それは……難しいかと……。 《ナイデン王国》ナイデン大公様も、ツナイデン陛下も、もうそのおつもりです。 先だって、正式に要請が参りました。 今も、ナイデン大公が国使として、見えられておられます」


「それは、そちらの御都合です。 最初の取り決めは、 ” 遠くから見守るとの事 ” わたくしに帯同して、この国を去るのは、残念ですが、決定事項です。 《ナイデン王国》の方々がどう振る舞おうが、わたくし達を止める事は出来ませんわ。 アノ時の口約束は、正「証人官」として、精霊様に誓約として立てておりますのよ。 反故にする事は出来ませんわ」


「な、なんと!?」


「もう一度、言います。 ” 精霊様との誓約 ”が、御座いますの。 そして、ミャーとは姉妹の盟約も立てておりましてよ。 そこに余人が、いわんや「国の意志」が、介在する事は御座いませんわ。 ……どうぞ、よしなに」





 連れだって歩く私の周囲から、冷たい何かが漏れ出して居るのが判る。 ダーストラ様は、息を詰められたのが判った。 私の言葉を理解されたのか、――――小さく頭を振られると、私を見詰められて、そっと言葉を紡ぎ出されたの。 そこには、強者(つわもの)を見る様な響きが含まれていたのよ。





「オブリビオン帰りは何かと強くなると、そう記録に在りました。 ソフィア殿もそうであるようですな」


「御冗談を。 強くなど、御座いませんわ。 震えながらの奏上に御座いますのよ?」


「ソフィア殿……。 いや、貴女はまさしく強く御成りに成られた。 確固たる自分をお持ちだ。 国や人に縛られず、我が道を征く姿は、何にもまして美しいですな。 誠に貴女と言う人は……」





 何を言っているんだ? このおっさんは。 強くも美しくも無いよ。 単に意固地なだけだよ。 そんな会話をしながら、長い廊下を歩くの。 やっと目的のお部屋に到着したんだ。 


 サラーム妃陛下の待つ、彼女のお部屋には、ユキーラ姫もいらしたの。 なんだかとっても困った顔をされていたんだ。 どうも、ダーストラ様から、ミャーを《ナイデン王国》に、お渡しするとかなんとか、言われてたんだろうね。 ついに折れざるを得ない所まで、詰められたんだよね、これって。 ” 外交案件にするぞ ” ってな感じでね。




      馬鹿が、折れてなんかやらないから! 




 にこやかに、丁寧に、お招きのお礼を申し上げた後、ユキーラ姫にミャーを返してもらう事にしたんだ。





「長らく、お世話になりました、ミャーの事でございますが、わたくしがミッドガルドに帰還致しましたからには、わたくしの侍女としての役割に復帰させたいと思います。 彼女もまたそれを望んでおります。 彼女の庇護、本当に有難うございました、わたくしの朋、ユキーラ姫。 感謝を捧げます」


「あ、あのね、ソフィア。  そ、その事なんだけど、ミャーの身柄は……」


「ユキーラ姫、大丈夫ですわよ? 決して、《ノルデン大王国》には、悪いようにはなりません。 わたくしは、ミャーの手を放すつもりはありません。 たとえ、ミャーが隠された王族であろうと、わたくしが一介の娼婦の娘で在ったとしても、わたくしの行動に掣肘する事が出来るモノが居るとすれば、それは、精霊様達以外には御座いません。 彼女が望むかぎり彼女と共に在る事は、精霊様との誓約。 その誓約を反故とする事は、大協約、ひいては世界のことわりに反します。 ……ナイデン大公様がいらっしゃってると聞き及びますが、内々にお会いする事は、出来ますでしょうか?」





 私の頑として言う事を聞かない、頑なな態度と言葉に、ユキーラ姫はちょっと引いてた。 でも、少し、嬉しそうだったよ。 サラーム妃陛下が、私をニコニコと見ながら、言葉を紡ぎ出されたの。





「良き覚悟です。 ミャー、貴女の護衛侍女としての任を今この場で解きます」


「御義母様!!!」


「ユキーラ、いいのです。 男共の馬鹿な権力争いに巻き込まれる必要もないでしょう。 そうでなくても、貴女のことだってあるのですよ? これ以上、《ノルデン大王国》の権威に傷をつけるのは、得策ではないですね。 ダー、 ナイデン大公をお呼びなさい。 何も言わなくていいわ、ミャーの主人である、ソフィアがきっと、全てを正してくれます」


「はっ、御意に」





 ダーストラ様が、お部屋を出て行ったの。 そりゃもう、慌ててね。 タイミング的には、かなりヤバかったみたいね。 下手こきゃ、《ナイデン王国》まで、ミャーを迎えに行かないといけなかった所だよ。 


 今のミャーは、私の知ってる、侍女服を着込んでいるの。 そう、アノ武器庫みたいな侍女服ね。 目は半眼。 片耳はピンって立ってて、全周囲警戒状態。 完全に私の知ってるミャーだよ。





「あ、あのね、ソフィア。 わたし、止めてたの。 ホントよ。 貴女が生きてるって、何度も連絡をしてきてるって、ミャーが言ってくれてたから。 わたくしは、貴女が生きてるって、信じて……」


「判っております。 我が朋、ユキーラ。 貴女の朋に対する信義は、痛い程感じております。 わたくしは、その信義にお応えいたしたくあります。 ミャーを護って下さって、本当にありがとう。 ミャーは、我が姉妹にして片羽。 彼女無くして、今のわたくしは居りません。 彼女もまた、わたくしと共に歩みたいと、そう望んでおります。 彼女とわたくしの、願望で在り、誓約でもあります。 御心配には及びませんわ」





 にこやかに笑いながら、私が言うと、少し眉を寄せたサラーム妃陛下が尋ねて来られたんだ。





「ソフィア、これより、どういたしますか?」


「《ノルデン大王国》に滞在すると、御国に多大なご迷惑になると、思われます。 よって、早々に、御国より退去致します。 お許しを頂けませんか? 行く当てならば、沢山御座います。 御心配には及びませんわ」





 二人が、溜息をつく。 やっぱりそうなるか、って感じね。 だって、そうでしょ? 《ナイデン王国》って言う、大国の面子メンツ丸潰しするんだからね。 私達が此処に居ても、碌な事に成らないよ。 だから、飛び出すの。 なに、色んな所を、知ってるから、大丈夫だよ! 


 それに、ミャーだって、伊達に 「 闇の右手 」 なんて呼ばれちゃいないよ。 もう、その気だし。 繋ぎも付け始めているし。 まぁね、後は、色々な思惑を吹っ飛ばすだけだよ。 特に「 国 」 絡みの案件についてはね。


 一見、何の力もないようだけど、私とミャーには、ちゃんと後ろ盾は有るんだよ。 私には、盾の男爵家の皆様方。 ミャーには、「暗殺者ギルド」の面々がね。  セーフハウスの一つや二つはいつでも用意できるんだ。 だから、何処に行くかは云わなくてもいいし、言う必要すらない。


 今までの御礼と、何かしらの協力を約束しすれば、明日にも御城を出立できるんだ。 




    何時までも、振り回される様な真似は、コリゴリだ。 


       これからは、私達の為に動く事にするんだ。


          そして、あの人の元に帰るんだ。



        そう、あの人が待ってる、あの街にね。









                絶対だよ。







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