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第156話 ソフィアの望み、ミャーの決心




    殿下達には……、

 


        放り出された……。



    そして、ミャーを含む、この国の人達に……、



        捕まって、軟禁された……。 





 現状、そんな感じだ。 サリュート殿下は、まぁ、話し合った通り、市井に潜り込まれて、消息を消したの。 あの方の事だから、事前にこんな事も想定されていたのね。 それはもう、綺麗さっぱりと、足跡を消されたのよ。 


 ミャーが持つ、色んな手でも、中々に掴めない位ね。 でも、まぁ、用心深いのは悪い事じゃない。 それに、死んじゃった事にしておけば、動きが取りやすい事も事実。 今のエルガンルース王国においては、その方が良かったとも言える。




 今の私は、とっても目立つらしいの。




 銀髪、紅眼 瞳に妖紋印を持つ 「半妖」 だしね。 その上、あっちの食事が体に合っていたのか、身体つきもとっても健康的に、ボンキュッボン! な訳よ。 つまり……。着れる服が無いの。 ほら、《ノルデン大王国》で、色んな服を作ってもらってたでしょ? 




    大森林に向かう前に……。




 ミャーのお部屋に保管してあったんだ。 でね、何時までも、魔族の「証人官」の正装じゃいけないって、サラーム妃陛下に指摘されてね。 そんなら、前に作ってもらった、服でも着ていようかって、ミャーのお部屋に潜り込んだのよ。




     その結果……。 ほぼ、軟禁状態。




 はははは、いやね、服がどれもこれも、パッツンパッツンなのよ。 コルセットで締め上げても、胸と腰が入らないの。 もともとギリギリのサイズだったし、その方が綺麗に見えるって、言われてね。 もうちょっと余裕を持たして作って欲しいって、何度言っても聞いて貰えなかった結果、


 ほら、こんな事に成っちゃったよ。


 ミャーが困惑しているんだ。





「ソフィア、娼館の売れっ子お姐さん以上の見た目に成っちゃったよ。 ミャーは羨ましい通り越して、心配になって来た」


「あっちの食事が合ったのかな? 美味しかったし……、 結構、動き回っていたし……。 常になんかの【魔法】使い倒してたから、魔力の通りもいいし……。 そんな所かな?」


「ソフィアってば、もう!! …………身体、大丈夫? 何処も痛くない?」


「大丈夫よ。 肩ももう、すっかり良くなったし、まぁ、身体の傷は……そうね、あるにはあるんだけど、あんまり気にならなくなったよ。 慣れちゃったのかな?」





 また、ミャーの瞳に涙が浮かぶ。 だから、大丈夫だって。 それよりも、こうやって二人っきりになれたんだから色々と聞かないと。 それと、報告もあるし。





「ミャー、貴女の言っていた、” 大事に成り始めてる ” って何?」


「うん、それ なんだけど……」





 ミャーの口は重い。 深夜の王城はとても静かで、テーブルの上に乗ってる、ミャーの淹れてくれたお茶がユックタリとした湯気を上げているんだ。 耳が痛くなるような、沈黙。 なんか、ミャーの身辺に本当に大変な事が起こっている様ね。


 ポツポツ話始めた内容に絶句しちゃったよ。


 《ナイデン王国》……。 ここにきて、内紛の芽が出始めてるんだと。 ミャーと出会った、ツナイデン国王陛下が、姪であるミャーを何とか手に入れたいと、願った事に端を発するらしいの。 あの国は、実力至上主義な所有るじゃない。 



 弱みを見せたが最後、権力を狙う人達が、ゴソゴソ動くのよ。



 で、強大な力を持つ、ツナイデン国王様が見せた弱み。 それが姪のミャーなんだよ。 ミャーを手に入れ、手懐けた者が王宮での発言力が増すと考えたのも、無理はないんだ。


 秘密だって言ってたのに、事有るごとに、ツナイデン国王陛下はミャーの事、あちこちで喋りくさりやがりなさいまして、いわば、公然の秘密みたいになってしまったらしいだ。 私が居れば、潰したんだけど、ほら、私、オブリビオンに居たでしょ? 手が無いもん。


 更に言えば、ミャーはエルガンルース王国の情報収集に余念が無くてね、自分の事は後回しに成ってて……。 気が付いたら、そんな状況。 状況に憂慮した、ムリュ=イーデス=ナイデン大公様が、他に利用される前に、ミャーの身柄を抑えようって動いてるらしいのよ。


 最初はユキーラ姫の専属侍女を外して、侍女待遇から何処かの貴族の養女にして、そんで、友好国だから特待生として留学させて……。 なんて考えていたらしいのよ。 なのに、ユキーラ姫は、頑としてミャーを専属侍女から外さない。


 それは、私との約束だって言い切っちゃててね。 お転婆姫様の強い要求にエスタブレッド大王陛下も手を焼いていたらしいの。 ほら、共通認識で、今、エルガンルースに居るソフィアは偽物で、本物は「黒き森」で死ぬまで幽閉されているか、もしくは、もう死んでるかって、思われていたからね。


 ミャーは、私が ” 超長距離念話 ” で、お話してたけど、信じてくれたのって、ユキーラ姫様だけだったらしいの。 あぁ、希望的観測で、サラーム妃陛下もちょびっとは信じてたらしいけどね。 そんな訳だから、ミャーがかなり追い込まれていたんだ。


 フフフフ、私、言ったよね。 ミャーの望まない事に関しては、断固とした処置を施すって……。 





「ミャーは、私と一緒じゃ嫌?」


「ソフィアは、何を言っているのかな? 待ち続けて居たミャーに其れを聞くのかな?」


「そうよね。……ミャー、私の姉妹。 私の片羽。 貴方が望まない事は、絶対に認めはしないからね」


「ミャーはその言葉が嬉しいよ。 ……ソフィア、なんか…… 感じ変わった?」





 やっぱり気が付いたか。 うん、確かに変わったかもしれない。 シナリオの頸木から、完全に離脱した気がする。 だから、素で居られるのかも。 そして……、ユッ君の事も有る。 私が私で居られるのよ……。 伝えなきゃ……ね。





「あのね、ミャー」


「うん、なに?」


「”あの人”に、逢えた」


「えっ? ど、何処で?」


「オブリビオン」


「……ちゃんと、おはなしできたの?」


「うん、ミャーの事も伝えてある」


「…………オブリビオン…………。 魔族の国…………」


「うん、そう。 でも、大丈夫。 ミッドガルドより、暮らしやすいよ?」


「……その、” あの人 ” ソフィアの知ってる、 ” あの人 ” だった? ちゃんと、ソフィアの事大事にしてくれそう? でも、ソフィア…… 魔族の人だよね、その…… ” あの人 ” って……」


「うんそうだよ。 ミャー。 魔人王の盟主 やってた……」


「えっ!?」





 やっぱり絶句したか。 そりゃそうだよね。 いわゆる魔王様だもんね。 はぁ…………。 どうしようか……。





「ソフィアぁ……。 行っちゃうの?」


「行くよ、あの人の元に。 でも、もし、私の望みを言ってもいいなら、ミャー、私は貴方とも一緒に居たいのよ? 貴方が望めばだけど…………」


「……考えさせて。 ミャーには、時間が必要だよ」


「ゴメンね、判ってる。 突然こんな事言われても、困るよね。 でもね、私は、貴方と一緒に居たい。 あっちでは、かなり強く、引き留められたけど、でも、その為に帰って来たんだもん」


「…………うん」





 色々と御世話をして貰いつつ、着られる服を探しつつ、その日は、一緒のベットに潜り込んだの。 暖かなミャーの隣。 孤児院のベッドから、変わらないその温かさは、緊張で張り詰めていた私の心を穏やかに解きほぐしてくれたんだ。


 ミャーの事については、色々と思う所もあるのよ。


 でも、ミャーの意志を尊重したいし、もし、ミャーが一緒に居たいって望めば、私は全力をもって、障害を排除するよ。 真面目にそう思う。 彼女が居なかったら、私はゲームシナリオに絡めとられて、碌な事にはならなかった。 あの人にも逢えなかった。 魂は虚空を彷徨い、この世界を恨んでいたかもしれない。


 だからこそ……、 ミャーには幸せになってもらいたいの……。


 彼女が望む通りね。


 寝息が心地いいの。 安心できるの。 暖かになれるの。 手を、放したくないなぁ――


 微睡に、飲み込まれて…… 意識を眠りが刈り取るの。 こんなに穏やかに眠れるのは、何時以来だっただろうね。 


 おやすみなさい。





 ***********






「決めた!!! ミャーは何処までも、ソフィアについて行くよ。 魔族がなんだ。 オブリビオンがなんだ。 ミャーは、ミャーの意志で、ソフィアについていくよ!!」





 次の日の朝、一緒に朝食を取っていると、ミャーが興奮してそう言ったのよ。 彼女なりに悩んだ、彼女の懸念は判るし、そうだろうと思っていた。 でも、その決心はとても、とても、嬉しいの。





「ミャーがそう決めてくれたのなら――― 私は、全力で貴女を護る。 心配はいらないわ。 あの人が、私を伴侶として、望んでくれているのだもの」


「えっ、其処まで話が進んでるの?」


「うん、そうだよ。 それに、もう精霊様とお約束したし」


「どういう事? なんか、また、やらかしてるの?」


「うん、エルガンルースとの百年条約を結ぶ対価に私を要求されて、承諾した」





 ジッと私を見るミャー。 まぁ、普通は人身御供って、感じるわね。 でも、これは私が望んだ事でもあるの。 彼女の視線を受けて、そのまま、見つめ返していたの。





「大協約に誓約する婚約なんて、前代未聞だね。 もう、「人族」とか、「魔族」とか、色んな事とび越えちゃってるよ……。 なんか、向こうに行ってから……、 やらかし方に半端無くなってるよね」


「うん、まぁ、そうなんだ。 ついでに言えば、公式では無いしろ、あっちでは、「聖女ソフィア」って呼称されてるの……」


「はぁ? 何ですって? 「聖女」の称号を? マジで?」


「マジで……。 錬金術とか、回復系、癒し系の「魔法」を多用してたら、そんな事に成ってたの……。 べ、別に、そう呼んでくれって言った訳じゃ無いのよ? 単に目の前に傷つき病んでいる人が居たから……」


「だと思った……。 ほんと、ソフィアの病気は治らないね……」


「私の持病だもの…… フフフフ、ハハッハ!」


「アハハハ! ソフィアらしいよ!!! うん、私が居ないとダメだよね! ついて行く!! 絶対について行くよ!!!」





 ミャー、ありがとう。 これで、私の最大の懸念は無くなったよ。 お嫁に行ける。 後は、御父様に許可をもらうだけだ。 御父様、許してくれるかなぁ……。






           だって、私のお相手は……、






            魔王様だもんねぇ……。











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