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第152話 そして…… 帰還

 





「何かしら、彼方側で動きが有った事は、間違いないね」






 トーンを落とした国王陛下が、そう口にしたの。 ありありと私がミッドガルドへ帰る事への不満を顔に出してたりするの。 でもさぁ…… 私にだって色々と事情が有るんだ。 ここで、ヤッパ帰るのやめた! なんて、言えないよ。



        ミャーだって待ってるし。



 こっから、超長距離念話をしたらいいんだけど、ちょっと、距離が離れすぎてて、うまくつながらいなのよ。 せめて、カロンに帰ってから、連絡を取ろうと思ってたんだけど……、 この状況じゃぁねぇ……。





「カロンの街に戻り、状況を確認したい。 お許しいただけませんか」





 殿下が強く、国王陛下にお願いされてるの。 まぁ、本国に帰らないと、「百年条約」が履行されないもの、それはもう、必死でお願いされて居るのよ。 アレガード陛下はと言うと、 ” 帰るなら、お前らだけで帰れ ” くらいの勢いなのよ。





「かなり、切迫した状況では無いのか? そんな所に、ソフィアを連れて行くのか?」


「陛下、わたくしは、「使節団」の一員に御座いますの。 帰らねばなりませんの。 お許しください。 此処へは、必ず戻ります」


「…………」





 憮然とした表情で、私を見るアレガード陛下。 その眼が ” アーちゃんに、もし何事が有ったら、どうするの? ” って、語っているの。 私は、これでも、かなりの修羅場を生き抜いて来たんだよ。 このくらい、軽いって。


 予想はね、《ガンクート帝国》のお馬鹿さん達が、帝国至高教会の口車に乗って、王家墳墓の谷の、転移門を攻撃したって所。  まぁ、オブリビオンに進攻しようって、仕掛けたんじゃないかな? 


 でも、責任者無しじゃ、オブリビオンには来れないからね。 転移門自体に弾かれて、何層もの防御魔方陣を打ち抜いて、はずみで、門の魔方陣の一部を傷をつけた……。


 そんな感じだと思うよ。





「殿下……」


「何だろうか、ソフィア」


「殿下は、此方に参られる時に全ての手順を踏まれましたか?」


「――― 古の文書にある、転移門を開く手順なら、全てを実行した」


「ならば、問題は無いでしょう。 何にしても、カロンの街には行かなくては」





 せっかくの盛大な祝賀会だったけど、状況が状況だから急いで帰国準備に入ったんだよ。 「条約文書」は、キッチリと箱に納められ、手渡されたよ。 無くしたり、汚したりしたら、非常にまずいから、私の無限収納の中に納めたの。



     マーリンが目をむいて、私を見てたけど、説明はしないよ。 



 だって、面倒じゃん。 説明が。 ちゃっちゃと、準備を進めよう! 緊急帰国の為、アレガード陛下に移動手段をお願いしたんだ。 安全に迅速に私達五人を、カロンの街へ運んでもらえるようにね。





「う~ん、そうだね。 ……イレーネ、お願い出来るかい?」


「任せて! 超特急でカロンの街まで、行くわ!」





 えっ、えっ?! どういう事? お願いしたのは、前にドラキュリア公爵様が使ってた、ワイバーン便なんだけど……。 五体お願いしたら、迅速に帰れるじゃん。





「ワイバーンでは速さが足りない上、あれはあれで、結構乗りこなすが難しいの。 だからこそ、私の出番なのよ。 心配しないで、ソフィア。 準備が出来たのなら、外へ。 ―――陛下も行かれますか?」


「勿論だ。 アリュース、後は頼む。 何時もの通り、いい感じで頼む」


「ははっ、お任せを!」


「アレルア、精霊様にお願いを。 ちょっと、大変な事になりそうだ」


「承知いたしました。 全精霊様に、助力の嘆願を致します」


「ミラベルと、エリスネールは、他の魔王様達へ根回しを頼む」


「了解です」


「サリュート殿。 準備はいいか?」


「アレガード陛下……。 何と言ってお礼を申し上げるべきか……」


「後にしよう。 それよりも、時間だ。 イレーネ、頼む」




 バタバタと慌ただしく、謁見の間を出るの。 殆ど身一つで来てたし、陛下に拝謁する為に、皆、正装だし、問題無かったんだよ。 「条約文書」はちゃんと私が持った。 準備は整ったんだ。


 外に出ると、其処に見上げる様なデカい一頭の龍が居た。 赤銅色の鱗。 爛々と輝く金色の双眸。 口から漏れる、火炎の揺らぎ。 


 古代龍だ……。 図鑑で見た事有る……。





「さぁ、この中に」





 そう言って差出されたのは、鉄格子の嵌った箱だったんだ。 六畳一間くらいあるよ。 この中に入るの? マジ? それを掴むの? マジ? 大丈夫か?





「特別製だから、平気だよ、アーちゃん。 ちゃんと防御魔法と風系の魔法で、包み込んである。 さぁ、行こう」





 扉を開けて中にみんなで一緒に入ったの。 扉が閉まり、魔法が発動すると同時に、古代龍の強力な前足がガッチリその箱を掴んだのよ。 次の瞬間ね、大空に居たんだ。 加速感は無かった。 重力魔法で制御してるらしいんだけど、良く判らなかった。


 マーリンもキョトンとしてる。 鉄格子から、後ろを見ると、みるみる《 魔都ワーラウ 》が、遠ざかっているの。 跳躍門から、飛んで来た時の、何倍も速かったよ。 高度が上がり薄い雲の上に飛び出した。 もう地上は見えない。 


 雲海を飛び抜ける。 


 目の前には、紺碧色をした大空と、真っ白な雲。 飛び去る軌跡は一本の筋になる。 途中にある雲は、円形に穴を穿たれる。 ドン、ドン、って言う音も聞こえたりする。 そうね、「 音速 」、超えたね。 


 重力を強力に操ってる感、凄いよね。 こんな風景見た事無いよ……。 まてよ……? 重力魔法使えば、出来んじゃない? こんど、もうちょっと調べてみよ!



 跳躍門から飛んだ時の半分くらいの時間が経った頃、少し周囲の様子が変わったの。





――――――――





 最初は微々たる違和感。 その内ハッキリとわかるの。 段々と高度と速度が落ちるのよ。




 茫洋とした大空の中から、足下に見える風景に、なんだか懐かしさを覚えたんだ。 そう、見知った風景。 青緑色の水。 大きな輪っか。 色とりどりの屋根。 白い街路。 転移門詰所の建物…………。

 


     つまりは、カロンの街に着いちゃったって事。



 レテの大河が大きく見えて来たの。 それで、遠目から見ても、良く判るデカい輪っか。 そう、転移門が、見えて来たんだ。 レリーフが青白く点灯してるのが判るんだけど、揺らいでるのよ。


 近寄って来ると、輪っかの向こう側の景色が見えた。


 うはっ! 思ってた通りだ。 軍装から見て、《ガンクート帝国》に間違いなさそう。 手引きしたの……、 あぁ、マーリンのお父さんね。 わかんないモノとか、手に余るモノなら、壊しちゃえって所かな?


 何方にしても、あんたは有罪ね。 筆頭宮廷魔術師にあるまじき行動だよ。 奴は殲滅対象にしたよ。 カロンの街の大門外にイレーネ様が着地。 鉄の箱から飛び出した私達は、一気に大門を抜け、カロンの街に突入したの。


 白い大通りを抜けて、転移門のある岬に向かったのよ。


 道すがら、大勢の衛兵さんとか、南部審問軍団の兵士、軍団の指揮官の皆様が集まって居られたんだ。 転移門の輪っかの中に写り込む、彼方の様子は……、 どう見ても、今から攻撃しますよっ、感じにしか見えないよ。


 私達一行はね、ミッドガルド側から、見えない様に転移門の程近くまで……移動したんだ。





「《ガングート帝国》め! 狂ったのか?」




 悔しそうに、サリュート殿下がそう漏らされたの。 攻撃準備の、音が聞こえそうなくらい、彼方の方は、殺気立ってるのよ。 冷静に、彼方の様子を伺うの。 はぁ……見たくない人、見つけちゃったよ……。





「陰で糸を引いているのは、帝国至高教会でしょう。 高位神官が見えます。 エルガンルース側では…… 誰でしょうか?  ―――アレは!!!!  ハリーダンド=ボルガー=アルファード公爵閣下に御座で御座いませんか!!!  筆頭宮廷魔術師様が、手を貸して いらっしゃるなんて!」





 驚いた振りだけしておいたんだ。 まぁ、マーリンの手前、そうしか言いようが無いもん。 なんか……言葉、探さないと…… ん、ん、ん。 喉に何か引っかかったみたいだよ……。




 ゴメン、マーリン。  なんも言えないよ……。





「クソ親父殿か! ハッ! 馬脚を現したって所か! 勘当してもらって、最高だよ!!! 」





 政治的意味とか、親子の確執とか、そんな些末な事はどうでもいいんだ。 世界の理を破ろうとした、その行いこそが、問題なんだよ。 多分、自覚してないよなぁ…………。 でなきゃ、こんな事しないって。 でもまぁ、あれじゃぁ、転移門の結界は破れない。 


 こちらの風景を指くわえて見てる事しか出来ないよ。 そんじょそこらの、防御魔方陣とは、訳が違うもんね。 





「どうする、ソフィア。 いくらなんでも、あの中に飛び出すのは無謀だ。 なにか、策は有るのか?」


「ええ、殿下。 殿下がちゃんと手順を踏んで、転移門を開けていらしゃったならば、問題なく」


「どういった事をすればいいんだ」


「” 緊急事態宣言 ” を、なさいませ。 転移門に対し、そうお伝えすれば良いだけです。 さすれば、転移門が帰還場所を変更します。 エルガンルース王国の王家墳墓の谷にある魔方陣は、霧散しますので、気にする必要も御座いません。 事実誤認をさせる為、彼方が、何かしらの大きな魔法を使うか、吶喊攻撃を仕掛けて来た時に合わせて、宣言されるのが良いでしょう」


「……つまり、奴等が転移門を破壊したと……、そう思わせるんだな?」


「御意に。 さすれば幾許かの時を稼げます。 そして、その間に、私達五人が、ミッドガルドへ帰還し、此度の転移を完了してしまえば、あの方達には判りません」


「―――そして、俺達は「百年祭」まで、どこかに潜伏する…………ということで、いいのだな」


「御意に。 何処に門が開くかは、殿下がどんな準備をされていたのかで決まります故、今の時点では判りません」


「しかし、ミッドガルドへは帰還できると……」


「まさしく」





 向こうの様子を伺いながら、私の話を聴いて下さった殿下。 早速、準備を始めてた。 敵が ” 何か ” を、仕掛けて来た時、自分が真正面から受けて立つ ” 力 ” が、無いから、こうやって「搦め手」を考えるのよ。 それが、弱者の思考って奴よ。


 目的を達成すればいいの。 敵の目を欺けたら、更に万々歳。 べつに殲滅する必要も無いし、兵士さんは云われて来てるだけだものね。 彼等は悪くない……。 かれらは・・・・ね。




^^^^^^




 アルファード公爵閣下が、大魔法を使ったのよ。 門の防御魔方陣を突破しようとしてね。 その権限も無いのに、通ろうとして、失敗したからね。 何時もの通り、証拠隠滅に走ったんだろうね。





「今です」


「応! 我、エルガンルース王国、使節団責任者、サリュート=エルガン。 精霊様に宣言いたします。 母国、エルガンルース王国にて、変事あり。 緊急事態の宣言を行います! 伏し願い奉ります!」





 王家墳墓の谷の様子がボワンって揺れるの。 多分あっちじゃ、いきなり、魔方陣が崩壊を始めてるね。 コレね、こっちの文献に有った方法なの。 ミッドガルドの、転移門が有る場所で、天災が起こって、転移門の魔方陣が土石流で埋まっちゃったらしいの。 その国の使節団が、まだ、こっちの「試練の回廊」に居る時にね。


 その時の緊急回避が今の状態と同じなのよ。 門の魔方陣が攻撃を受けて、一部損壊したのも、自然災害で門の魔方陣が損壊したのも、壊れた事には変わりないからね。 


 繋がる先は、まぁ、門の気分次第。 って感じかな? サリュート殿下が、何処まで、準備を熟して居たかこれでわかるよ。 さぁ~て、何処に繋がるのかなぁ…‥




      円形の転移門の向こう側の風景が変わったの。




 緑深い洞穴の中、錬石製の棺が、整然と並ぶ。 棺の上には、悪霊除けの装飾剣が置かれている。 どこかの墳墓らしいね。 エルガンルース王国の剥き出しの墳墓とは、大違いだね。 


 紋章をよく見てみると、なんか、見た事有る様な紋章が色々とあったよ……。


 フンフン……。あれ? これって、もしかして……?





「エルヴィン様? これ、もしかして……」


「レーベンシュタイン。 私も今、思ったところだ。 この墳墓は、《ノルデン大王国》の王族の墳墓だ。 王城の地下にある。 中庭の王家専用の墓所から、入るらしい。 あっちの紋章と、こっちの紋章。 これは、先代ノルデン大王様の個人紋章だ。 ノルデンの学校で習ったよ…… 」


「つまり、この道は《ノルデン大王国》に通じたという訳ですね」


「あぁ……。 間違いないだろう」





            やっほい!!!!




 転移して、あそこに行けば、念話機を使わなくても、ミャーに連絡が付くよ!!! そんで、迎えに来てもらえるかもしれないよ!!! 物凄く手間が省けたよ!!!!


 どっかわかんない所に転移して、えっちらおっちら、人目を掻い潜って潜伏するより、はるかにマシだよ!!!





「サリュート殿下。 還りましょう。 懐かしいミッドガルドへ。 百年の安寧を手に入れに」


「あ、あぁ……、そうだな。 よし、帰ろう!」





 私達が気持ちを新たに、決意した時だったの。 わたしの側にアレガード陛下……、 いいえ、ユッ君がそっと近づいて来たの。





「行くのか?」


「ええ、約束を果たしに。 それが済んだら、帰ってきます。 必ずあなたの元に」


「待っていなくてはならないのか?」


「もしかしたら……、御力をお貸し願うかもしれません」


「出来るだけ、早く、帰って来て」





 そう口にする、ユッ君。 そんな、泣きそうな目で見ないでよ。 決心が揺らぐよ。 そうだ! 約束だ! 指切りなんて、子供っぽい事はしない。 やっぱり、おとな・・・ な、私達には相応しい、約束の交わし方が有ると思うの。




           でも、いきなりは……、




 いや、ダメ。 こういった事は、きちんと形にしないとダメ。


 不安そうなユッ君の首に抱き着き…………、





             唇を重ねるの。




           ゆっくりと、しっかりと。 





          甘い吐息と共に、唇が離れる。






「約束よ。 ちゃんと帰って来る。 もう二度とあんな思いはさせない。 だから、それまで、もう…ほんの少し……、 待ってて」





 眼を丸く開けて、驚きの表情を浮かべたユッ君。 それでも、事態を飲み込んだのか、頷く。





「あぁ、約束だよ。 破ったら、押し掛けるから。 いいね。 アーちゃん」


「ええ、分かってる。 それじゃ、行ってきます」


「帰りを、心待ちにしている」





               転移門に続く道。



             陛下を中心に、イレーネ様、



          そして、大勢の兵士さん達と、衛士さん達が、



              両の手を振り、見送りる中、






              私達はミッドガルドへ…………、









                  帰還したの。









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