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第150話 愛すべき ” 人達 ” 




 

 条文の擦り合わせは佳境に入っていったんだ。 




 大体の形は整って、後は「魔族」側との折衝を残すのみになったんだ。 条文の構成なんかは、普通、本国でやっとくべきモノなんだけどできていなかったんだ。 時間が滅茶苦茶、押してたのと、殿下の配下の人で、こんなに法務とか、文書に明るい人が居なかったんだよ。


「魔族」との折衝だからって、みんな尻込みしちゃったんだって。 そう言えば、殿下の取巻きってどうしてんだろ?





「あいつ等、他の役割を振っておいた。 私が居ない間に、情報と証拠を掴めとな」


「殿下の執務室は何時も ” 閑散 ” と、しておりましたね、そう言えば」





 マクレガーが遠い目をしていたよ。 ガラガラの執務室に、山の様な書類、報告書、決裁待ちの指示書……。 事務官すら限られちゃってて、ほんとに第一王子の執務室かぁ? って、思ったんだって。 それをひたすら処理してのけた、サリュート殿下。


 その直向(ひたむ)きさに、盾の男爵家の面々が手を貸してくださったそうよ。 エルヴィンが王都エルガムに《ノルデン大王国》から帰還した時には、それ程ひどく無かったんだって。 まぁ、使節団の編成で頭抱えてた殿下が居たんだけどね。


 こいつ等三人は、そんな殿下を見ていられなかった。 別にサリュート殿下の側近って訳じゃ無いんだよ。 どちらかと言うと、ダグラス第二王子の側近だったんだよ……。 


 なぁ、いつから、こうなったんだ?  ちっと、興味が有るんだ。 ゲームシナリオだったら、あんたら、もうこの世には居ないか、没落して市井でゴミみたくなってたんだ。


 それが、サリュート殿下の側近以上に殿下に付き従ってる。 一体、何が有ったんだ?





「皆さんが、サリュート殿下と共にいらしたのは、なにか特別な事情でも?」


「……そうだなぁ、俺の場合は、スザック砦に入った辺りか。 スザック砦に行って、色んな奴等とつるんで、作戦をこなして、実戦を経験してた時かな。 まぁ、色んな事があったよ。 隣で戦っている奴が、いきなり狙撃されて死んじまったり、情報収集に行ってた奴が、次の日に青紫色の肌になって、水路に放り込まれていたり……。 正直、きつかった。 身体がじゃねぇ、心がな」





 マクレガーが腰にしている剣の柄を撫でさすりながら、遠くの記憶を、大切な想いを、思い出すように、語ってくれたんだ。 





「―――そんな時に限って、王都からの手紙が来るんだ。 心が弱る時にな。 ” 君達の献身と努力に感謝をしている ” ってな。 その手紙は、別に俺宛じゃ無いんだ。 部隊当てなんだよ。 ただ、手紙の封の紋章がな、” 双頭の龍(サリュート殿下の紋章) ” なんだよ。 殿下も、ダグラス殿下も同じ学生……。 サリュート殿下は辺境の砦の損耗までをもお気になさる方。 ダグラス殿下は……、まぁ、学生生活を満喫されているのだろうよ。 レーベンシュタイン、答えは、これでいいか?」 




 そうかぁ……。 そんな事してたんだぁ。 王国の民は何も、市井の民草ばかりではないんだよね。 貴族もまた、王国の民の一員なんだよ。 殿下はそれを判ってらっしゃる。 懸命に王国の為に献身と努力をしている者を、きちんと見ていらっしゃったんだ。



      たとえ、出来る事が少なくてもね。



 残りの二人も大体同じような答えだったよ。 ほんと、忠義心に厚いなぁ……。 参ったよ。 ほんと、参った。 魔人王アレガード様(愛しの君)にお逢いして、ちょっと浮かれすぎてた。 うん、これはいけない。 気合いを入れてマジに、「証人官」として、お仕事しよう。 




 緩み切った私は、気合を入れ直して、「魔族」の方々との折衝に備えたんだ。





^^^^^^





 魔族側からは、なんか見た事有る人達が、出席されたんだ。 




 〇 高等弁務官  マルキド=エム=ドラキュリア公爵

 〇 闇神官(ダークプリースト)    ミラベル=アーデン様

 〇 諜報担当官  エリスネール=アフレシア伯爵夫人

 〇 正「証人官」 アレルア=メジナスト 辺境伯爵

 〇 側用人    アリュース=デューヌ=バステト公爵




 そして……。  魔人王の盟主である、アレガード国王陛下。





 錚々たるメンバーだよ。 ぶっちゃけ、こっち側の重さが全然足りない。 でも、意気込みだけは、負けない様に頑張るつもりだよ。 それに、紹介された人がもう一方居られるんだ。





      イレーネ=ウヌ=ドラゴ=バステト公爵夫人 





 物凄い存在感でね。 見た所、魔人族の方の様なんだけど、纏う雰囲気が全く違うの。 そうね…… 高位種って言うか、高貴な人……何だよ。 で、バステト公爵夫人って名乗られたから、側用人のアリュース=(ストー)デューヌ(カー)バステト公爵(だった人)の奥様でしょ?


 そう言えば、バテスト公爵様(ストーカー)……。 凄くボロボロしてる。 片方の目の周りに青あざ作ってるし……。 色男が台無しだよ……。





「こんな可愛いお嬢さんに、貴方は何てことしたの! まだまだ、お説教は、足りない(・・・・)様ね」


「い、いや待て! わ、私はだな、陛下に万一の事が……」


「お黙りなさい! 聖女ソフィア様は、私達の民に慈しみをお与えに成ったのよ! 中央会議の席上でも、満場でその功績を認めておられたのよ! それを、貴方は踏みにじる様な事をしたの。 わかりますか? なにか有れば、エリスネールが報告している筈。 それを、独断で!!!」


「い、いや、待て! 私にも、私の役目と……」


「陛下の(つがい)と成られる御方と聞き及んでいますのよ、貴方? 貴方の役目は、御護りする事であって、試す事ではない!」


「そ、それは……、 か、確証が…… 後から……」


「お黙りなさい!!!!」





 こ、怖いよ……。 魔人を怒鳴りつけるって……、 物理的に強いのか?  国王陛下が、なぜか・・・爽やかな笑みを浮かべていらっしゃるよ。 私の側に来てね、耳元でそっと語って下さったの。





「イレーネはね、古代龍種なんだ。 人化変化出来るから、この場に来てもらったんだ。 彼女ほど、古い記録に精通した者は居ないからね。 ついでに、アリュースを〆めて貰ったよ。 君に手出ししたんだから、当然だね」


「でも、奥様なんでしょ? バステト公爵様の」


「そうだよ。 と言うより、婿様って所かな。 バステト公の名跡は、古代龍種にあるからね」


「そうなんだ……」


「アリュースは強いし、したたかだよ。 ただ、彼の弱点は、イレーネなんだ。 彼女にだけは頭が上がらない」


「では、私も……」


「君は大丈夫。 一目見て、お気に入りになったんだって。 最強の後ろ盾だよ」





 うへぇ……。 なんか、宮廷の事を、思い出した。 後ろ盾とか、権力構造とか……。 でも、貰えるモノは全部貰うのが私。 有難く、その気持ちを戴く事にしよう。 あぁ、勿論、きちんと弁えてね。 此処に集っている「魔族」の方々は、いずれ劣らず高位種の方々。 


 万が一、ミッドガルドであいまみえる様な事が有れば、一人で大国相手に大立ち回り出来るくらいの方々なんだよ。 気を付けよう……。 マジ、言葉と態度には、気を付けよう!






^^^^^





「大体見せて貰ったわ。 いいじゃない? 怪しげな要求とか、大協約に抵触する様な要求とか無いし。 この方向で詰めても問題は無いわ。 後は……、 そうね、ドラキュリア公と、アフレシア伯爵夫人のお二人で詰められるわよね」





 草案を手に、イレーネ様が軽く笑みを浮かべて、言葉を紡ぎ出されたの。 イレーネ様に指名された、御二人が手を胸に、頭を垂れられたんだ。 承諾されたって事ね。 スゲー威厳だこと。 彼女の言葉はその場を支配して、有無を言わせない、そんな迫力があったのよ。 



 そのイレーネ様が、振り返って私の手を取られたの。





「陛下、それと、使節団の……、そう! サリュート第一王子でしたわね。 ソフィアを借りますわよ」





 国王陛下が、やれやれって顔をされて、了承されたんだ。 殿下は……、拒否権無いよね。 うん、私も無いよ……。 手を引かれて、部屋を連れ出されたんだ。 長い廊下を二人して歩くの。





「ソフィア。 貴女、「聖女」の尊称は要らないんですって?」


「はい、バステト公爵夫人。 わたくしは、偉大な尊称を頂けるようなモノでは御座いません。 ただ、目の前の困っている方に手を差し伸べた……。 本当にそれだけなのです」


「イレーネ……」


「はい?」


「わたくしの事は、イレーネと呼んでちょうだい。 ね、ソフィア」





 ツィと、立ち止まり、私を見るの。 凄く綺麗な青い目で。 吸い込まれるような、そんな 「 青 」 い目。 キラキラしてるよ。





「他人を、それも艱難にあい、辛苦を舐めている者に、慈しみの手を差し伸べる。 それが、普通だと言う。 ソフィア……、 貴女こそ我が君の側に立つにふさわしい。 アレガード様のつがいに関しては、長い間ヤキモキしておりました。 ” 心に決めた者が居る。 その者以外、必要でない ” そう、仰られていたの。 ずっとよ」


「……左様で御座いますか」


「貴女で良かった。 本当に良かった。 報告はわたくしにも届いております。 此度の「審問」に置いて、全ての審問に立ち会い、証を……精霊様に証を立てられたと。 お疲れさまでした。 ソフィアの証。 正「証人官」である、貴女の 「証」 無くして、今回の「審問」は成立しませんでした。 よく頑張りましたね」


「あ、有難うございます、バステト公爵夫人……」


()  ()  ()  ()


「い、イレーネ様……」


「う~ん、まぁいいわ。 ソフィア、一緒に御茶しましょう! 色々と、お話したいの。 貴女の知らない事をね。 この国の事、「魔族」の事、何より、陛下の事。 そう……アレガード様の孤独とかも……ね。 時間はたっぷりとります。 ソフィア、貴女の事も聴きたいわ。 こっちに来てからの事だけじゃなく、エルガンスール王国に生まれてからの事も……。 いい?」


「はい、イレーネ様。 よろしくご指導、お願い申し上げます」


「あらあら、そんなに気負わなくてもいいのよ? ちょっとした御茶会よ~」





 雰囲気は柔らかだけど、どんな国の王妃様だって敵わないよ。 この威厳、この雰囲気。 気押されるのよ。 圧倒的な存在感って奴にね。


 通されたのは、広い中庭みたいな所。 庭園の中のちょっとした広場みたいな所。 促されるまま、御茶会に成りました。 後から、ちょっと凹んだ、バステト公爵様もいらっしゃったよ。 で、イレーネ様から、公爵様の事をアリュースと呼べと、命じられちゃったよ。 




 もう、困り顔がずっとだよ……。 





           でも……、





 いろんな「お話」を、聞かされた。 如何に ” あの人 ” が孤独で、でも信念をもって「魔族」を愛しんできたかをね。 言外に云われた様な気がしたんだ。 彼の側に居るという事は、「魔族」を愛してほしいって。 ミッドガルドの「人族」を愛するように、「魔族」を愛してほしいって。





            それは……、




          ――― 大丈夫 ―――






     こっちに来てから、皆さんに、本当に良くして貰った。


             愛してもらえた。


             報いるためにも、


            私だって、愛するわよ。





               だって、





        この世界の  ” 人達(・・) ”  なんだもの。









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