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第149話 準備

 




 アパートの前にめっちゃ場違いな豪華な馬車が来た~~~~!





 デカいかぼちゃをくり抜いたような馬車だったんだよ。 もうね、なんていうのかな。 そんで、それ、白色に塗装されててさ、更に金具が全部 ” 金 ” 何だよ。  窓ガラスに嵌っているのは、妖精結晶の凄くいい奴。 こんなの、ミッドガルドでは、まずお目に掛かれない様な高級品。 多分、あの窓ガラス一枚で……王都エルガムにお屋敷が買えるかも……。 車輪がまた、か細い蔓で構成された、華奢な車輪でね。


 ゴムの代用になるモノが見つかってないから、車輪自体にバネ性持たせてみたんだって。 じゃぁ、サスペンションで如何にかしろよ! えっ? 優雅じゃない? 見た目がゴツくなるから、ヤダ? 


 その上、その馬車を引くのが、ユニコーンときたもんだ……。 一体なんの夢見たんだ? ニヨニヨ笑う、ユッ君……。 キモイよ……。 





「あ、あの、コレは?」


「王族の乗る馬車はこうでなくちゃいけませんよね?」





 完全に引いている殿下を前に、爽やかな笑顔で答えるユッ君。 あ、あのね……? こんな、豪華な、高級な馬車……。 今の「人族」のじゃぁ、開発出来ないよ。 なに技術の無駄遣いしてんの? 


 このままじゃ、あんまり恥ずかしいってんで、サッサと乗り込み行こうって事になったんだ。 用意された馬車は三台。 殿下とエルヴィン。 マーリンとマクレガー、そんで、私と、魔人王様…… って感じに振り分けられた。


 なんでか、殿下は ” もう無理ですから、ソフィアにお任せします状態 ” に、なってんのよ……。  ほら、私と陛下はまぁ、こ、こ、婚約状態じゃない。 べ、別に、ず、ずっとくっ付いてる訳じゃ……ないのよ? で、でも、おことばに甘えても、いいかなって……。





       結局、陛下と同じ馬車に乗ったんだ。





 まぁ、中身も滅茶苦茶上等なんだ。 身体を包み込む様なクッション。 見たことも無いような、滑らか手触りの生地。 天窓までついて、周囲の様子はバッチリみれるし……。 それでもって、中の様子は判んない様に成ってるんだ。



 半分寝転がった様な姿勢で座るの。 これ、立ち上がる時大変じゃない? 



 迎賓館とやらに着くまで、そうは時間が掛からなかった。 あのお家から、大通りまででたら、後はほぼ一本道。 車だったら、渋滞に閉ざされて、時間ばっかり食ったよね。 でも、ここはオブリビオン。 いくら、日本に似てるって――― 私達の住んでた街に似てるって言っても、それは、それ。



 彼は王様なんだよ。 そして、乗っかってるのは、王族専用の馬車なんだよ。 



 詰まる訳がないよ。 乗り心地は、それはそれはいいモノだったよ。 馬車の中でお話したんだ。 オブリビオンに飛ばされてから、色々な人に助けて貰ったって。 ホント感謝の言葉だけでは言い表せないくらいの恩を感じているんだ。


 一生懸命話す私の言葉を、これまた一生懸命に聴いてくれている、ユッ君。 そうだったよね、何時も、私の話はじっくりと聞いてくれてたよね。 また、記憶が溢れだしそうだよ。





「アーちゃんを助けてくれた人達には、きちんと報いる事にするよ。 しかし、アーちゃんが噂の「聖女」様とはね……」


「それなんだけど、私、何にもして無いよ? 出来る事を……困ってた人に、やれることしかしてないよ。 お薬作ったり、ポーション作ったり、精霊様にお願いしたりしただけなんだよ?」


「普通の人は、そうはいかないんだよ。 「半妖」になったからって、風景が【妖魔の目】できちんと認識できるからって、それまで教えられて来た、「魔族」に対する見方なんかは、簡単に変わりはしないんだよ。 それでも、君は、困っている「魔族」の者達に手を差し伸べた。 そこにみんなが「聖女」を、見たんじゃ無いのかな? 僕はそう思うよ」


「……でも」


「うん、君が嫌ならその尊称は公式には記録しない。 でも、言わせてあげて。 彼等にとって、苦しい時に助けて貰った事に違いは無いんだから。 それに……」


「それに?」


「そんなに美しい姿をしているんだ。 彼等の心に、深く印象が刻まれちゃったんだよ」





 いや、あのね。 面と向かって、そんな事を言われたら、どうしていいか判んないよ。 この体は、ソフィアの身体なんだ。 それに……。 |半妖になったからってこと《原因》も……有るし……。





「君が「人族」から、「半妖」に成ったという事は、身体の中に、” 渡り人 ”の、血液を撃ち込まれたって事だよね。 秘すべき事柄なんだけど、誰にやられたの?」


「……判らない。 当たりは付いてるんだけど、正確に教えては貰えなかったんだ」


「君を傷つけ、「半妖」に成らしめた者達は、【大慈母神(アレーガス)】様の加護を失うよ。 それが、君の生まれ育った国でない事を祈るよ」


「そう……なの?」


「大協約の付則に有るんだよ。 禁止事項としてね。 長い時間を僕はこの世界で生きて来たんだ。 本当に長い時間をね。 だから、詳細に学び、正確に、この世界のことわりを、知っているんだ。そして、 武では無く、知で魔人王として即位したんだよ。 ゲーム以外の戦争は嫌いだからね。 親しい者達が傷つくのは、許せないんだ」


「うん、昔からそうだよね。 知ってた」


「変わりようが無いよ。 君と出逢えるまで、僕が僕で有る為にもね」


「これからは?」


「多分変わるね」


「えっ?」





 ちょっと驚いてしまった。 平和主義者で、中庸を旨とするユッ君が変わる? 穏やかで、優しい人が変わってしまうのは、嫌だなぁ……。





「君を守る為には、「悪鬼」にでも、「羅刹」にでもなるよ。 今度こそ、君を護るから。 それだけの力は手に入れたんだ。 もう二度と、あんな思いはごめんだ。 だから、これを……」





 差出されたのは、一本のネックレス。 小振りの宝玉がぶら下がってたの。 宝玉には祈りと、膨大な魔方陣が折りたたまれる様に、刻み込まれていたんだ。 





「君がこの世界に生まれる事を願って、大精霊様に祈りを捧げ、研鑽を積んで作り上げた、君への贈り物。 これを首に掛けて、僕を呼んでくれれば、何処にだって飛んでいける。 ははは、大協約の隙を突きまくって作り上げたんだ。 精霊様達もお許しを下さったものだから。 受け取ってくれるかな?」


「うん、分かった。 貴方の気持ち、大切にするね。 ありがとう。 本当にありがとう。 私からは……、 今は何も上げられないね。 何にも持ってないもの」


「一緒に探そう。 一緒にね」


「うん」





 ユッ君は私の首に、そのネックレスを下げてくれた。 ボワンって光ったんだよ。 何だこれ? あぁ、【失せ物除け】かぁ。 これで、私とくっ付いて、何処に置いても、ただ、「来い」って念じるだけで、この胸に戻って来るんだっけ。 凄く高度な魔法だよ? 




         出来るんだ……。




 スゲー ドンダケ魔法の研鑽を積んだのよ。 この宝玉にどれだけのモノを注ぎ込んだのよ……! もう! 大好きなんだから!!!






 ―――――






 迎賓館に到着して、歓待を受けたんだ。 私は使節団の一員だから、皆と行動を共にするって、言ったのよ。 その間は、ユッ君の事は ” 国王陛下 ” って呼ぶ事に、したんだ。  納得してもらった。 だって、「百年条約」は、魔人王と、「人族」の契約でしょ? 私が、魔人王様の伴侶としてだと、契約が結べないんだもん。


 条約発効後、時が満ちたら、貴方の隣に来るから、それまでちょっとだけ、我儘言わせてほしいって……お願いしたんだ。 シブシブだけど、そのことわりは、理解してもらったよ。


 迎賓館について、皆と同じ部屋に入って、「百年条約」の文言について、エルヴィンとかと、語り合ったんだ。 彼、「文章官」でしょ? それに「法務官」でもあるの。 前回の条約の文言もきちんと記憶してた。




      不備の無いように、正確に、大協約に則って……、 ね。




 来ました、交しましたでは、済まないのよ。 百年の間に色んな事が在るし、それに対応した条文の作成とか、すり合わせとか……。 あるじゃんか。 ガチガチの法治国家である、《ノルデン大王国》で、必死に勉強してきたエルヴィンは、そこん所は全く付け入るスキの無いモノを作り上げてくれたんだ。


 歓待の中、夜遅くまで、エルヴィンの部屋の明かりは落ちなかったよ。 私も出来るだけ手伝ったんだ。 だって、私も一応だけど、《ノルデン大王国》で勉強したもん。 サリュート殿下も一緒に成って、隙の無い条約文を作っていったのよ。





「しかし……、 まさか、レーベンシュタインを御所望になるとはな」


「エルヴィン、言うな。 此方の要求を全て飲むと仰られたんだ。 受け入れなければ、ならんのだ。 それに、ソフィアも受け入れている」


「…………レーベンシュタイン。 いいのか?」





 おいおい、聞いてたろ? 私が探し求めていた人だよ? いいも悪いもあるか!





「勿論に御座いますわ。 国王陛下と共に在れるならば、望外の喜びに御座います」





 満面の笑みを浮かべたんだ。 嬉しいんだよ。 本当に嬉しいんだよ! きっと、こいつらの頭の中では、私を「魔族」に差し出して、「条約」を結ぶって言うイメージが出来上がってるんだろうなぁ。




        違うよね。



     これは、私も望んだ事。



      だから、貴方達は




   心を痛めなくても、いいんだよ。




    恙なく、条約は結べるよ。 









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