表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/171

第145話 跳躍門 

 




 聖壇の程近く、私達を待っているらしい人影が有ったんだ。 荷馬車を降り、広い広場にある、馬車を止める為の杭に手綱を絡めてから、その人の所に向かったの。 皆程よく疲れてたから、割とゆっくりめなのよ。 待っている人の気配と、遠くから見た感じは、見知った人だったからね。





「お久しぶりです、ネクサリオ=ガムデン伯爵様。 「試練の回廊」にて特別な試練を潜り抜けて、本日只今、跳躍門に一人も欠けず・・・・・・、到着いたしました」


「見事、果たされたようだな。 報告は受けている。 聖壇に、結果は奉納してある。 さらに、貴方達が向かうべき場所、そして、対応される魔人王の盟主様にも報告書はお送りしてある」


「有り難き幸せ」


「よくぞ、無事に……」





 ガムデン伯の目に光るモノが有ったんだよ。 心配をおかけしたようだね。 僅か五人の訳アリ使節団。 国を代表するというには、余りにも異常な使節団。 しかし、その志は高く、民を想う気持ちは気高く、伯爵様の御心に強く残っておられるのよね。 


 ガムデン伯爵様に各審問官から届いた報告……、それぞれの報告は…………。



 〇「戦闘力」の審問官 高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族) ミミッデアン様が、「人族」マクレガーの武勇を褒め称え、友誼を結んだ事。



 〇「魔法力」の審問官 闇神官(ダークプリースト) ミラベル=アーデン様、及び、直接「審問」を実施した、ダークエルフ 姉妹 ルカ ルータ が、マーリンの特別な能力を絶賛し、友誼を結んだ事。



 〇「大協約への理解」の審問官 魔人族 高等弁務官  マルキド=エム=ドラキュリア公爵閣下は、エルヴィンの類い稀な能力に、一緒に仕事をしたかったとの特別付帯事項を付けて報告された事。



 〇「強き意思の審問」の審問官 エルダー=サキュバス  エリスネール=アフレシア伯爵夫人は、サリュート殿下の驚くべき胆力と、強き意思を見出し、魔族が決して持ち得ぬ力だと称した事。





 それらの報告を受けた事を、ガムデン伯爵は自分の事の様に喜んでくださったんだ。 ホントに嬉しそうね。 伯爵様は報告を全てまとめて、魔人族の盟主様に御報告したって言ったわよね。 じゃぁ、その魔人族の盟主様にお会いできるのかしら?





「「審問」は潜り抜けました。 魔王様の元に御目通りできますのでしょうか?」


「聖女ソフィア様。 貴方様の問い掛けには、わたくしでは無く、跳躍門がお応えいたします」


「えっ?」


「跳躍門は、「試練の回廊」を抜けて此処に辿り着いた者達を、それぞれが行くべき場所に ” 飛ばす ” 為の門に御座います。 「審問」については、潜り抜けられました。 わたくしも、それを証します。 きっと、精霊様もご照覧されている事でしょう。 手順をお話いたします」


「はい」


「皆様は、この聖壇に御手を御置きください。 ご本人であることを、この聖壇が認め、「審問」の結果で跳躍する先が決定いたします。 聖壇の向こう側に魔方陣が現れますので、お進みください。 「審問」が成され、ご本人様と認められた場合、行くべき場所へと、そうでない場合は、カロンの街へと跳躍致します。 ちなみに、皆様エルガンルース王国に対応される魔王様は、魔人王の盟主である、アレガード様……。 わたくしが主と仰ぐ方でも御座います」





 成る程ね。 偽物対策と、セキュリティだね。 大勢の軍勢を引き連れては「百年条約」の締結の場には行けない様に、基幹要員のみでの訪問になる様に、ここで選別するんだ。 こんなにも広い場所が、出発地点ってのは、此処に随伴してきた人員を留置く為なんだ…………。


 よく考えられてるよね。 もし、基幹要員の資格が足りず、カロンの街へ戻されたら、此処に残された軍勢は、そのまま来た道を帰ってもらうって事よね。 今しがた抜けた、苦難の道を只で帰るとなると…………、 気持ちの上じゃ、” もう死んだ ” くらいにはなるよね。


 撤退時の損耗が一番激しいってのは………… 軍事行動の基本じゃないか。 まさしく、基本通り。 撤退か帰還か…………か。 百年条約を恙なく結び終えて、此処に戻れる基幹要員が入れば、それは凱旋行軍だもんな。 いやはや、よく考えられているよ。





「よくわかりました。 サリュート殿下、宜しいですか?」


「あぁ……行くか。 魔人王様の元へ。 我等の想いを伝えに。 皆、準備は良いか?」 


「「「 応!!! 」」」





 私達は心を落ち着かせ、聖壇に向かったんだよ。 それぞれに、このオブリビオンで起こった出来事を胸に、聖壇に手を載せる。 ボンヤリと青白く光が手を包み込むの。 


 頭の中に、重々しい鐘の音が鳴り響く。




            “ゴ~~ン



                ゴ~~ン



         ゴ~~~ン”





 聖壇の向こう側に、魔方陣が展開された。 なんだろう? 魔方陣は、さっきまで、私とマーリンが紡ぎ出していた物に似てた。 重力魔法の床に、防御系のドーム。 承認された人しか踏めない様に、調整されて居るのよ。 なかなかに精緻な魔方陣ね。 


 促されるまま、その魔方陣を踏む。 五人が中央に一塊になったあと、ガムデン伯爵様が口を開かれた。





「そのまま、お待ちください。 魔方陣が移動します。 跳躍塔から、行くべき場所に跳躍致します。 「百年条約」の更新締結が出来る事をお祈りいたしております」





 ゆっくりと滑る様に、魔方陣は動き出したんだ。 防御魔方陣のお陰か、頬に当たる風すら感じない。 いくつも並んだ扉の一つが開き、その中に導かれる様に、私達が踏む魔方陣は進んでいく。


 扉を過ぎ、内側に入ると、長い廊下の様な場所だった。 洞穴かと思ったら、突然眩い光が溢れかえり、真っ白な筒の中に居ると判ったんだ。 重力魔法の床は平坦だよ、でもね、防御結界が球状に私達を取り囲んでいるから、こんな形状の道なんだ…………。


 万が一、許可なく扉を抉じ開けて、入ったとしても、これじゃ進めないよね……。 何処までガッチリしたセキュリティなんだよ、全く。 光は私達の両側。 ずっと向こうまで続いていたんだ。





「レーベンシュタイン、これから何が起こるんだ? 「転移」じゃ無く、「跳躍」と、ガムデン伯爵は言っていたよな」


「ええ、転移は対象者によっては、失敗する場合もありますし、その対策なのでしょう……。 しかし、「跳躍」が、何を意味するかは、存じ上げませんわ」 


「そうなのか……。 この空恐ろしさすら感じさせる魔法の数々……。 魔族とは此処まで、魔法を使う事に長けた者達だったのだな」


「まさしく、長命で魔術に長け、個々の能力も高い。 人族と交わり暮らすには、難しいモノが有ると思います。 しかし、同じ世界に居るのです。 精霊様が二つの民族を分けてそれぞれの領域に留める理由で御座いましょうか?」


「…………そうだな。 なるほど、そうだ」





 マーリンが私の耳元で、囁くように、そんな事を言ってた。 高位の魔術師としては、これだけ大規模な魔法を見せられたら、そりゃ驚くよ。 どっからこれだけの魔力を供給してんのかとか、誰が魔法を紡ぎ出して居るのかとか…………。 興味は尽きないよね。


 私達のコソコソ話を聞いてか、殿下が口を開かれたんだ。





「世界のことわりか…………。 感覚でモノを言うのは、いけない事だが、我々の生きているこの世界は、全く別の世界が無理に一つに成っている感じがする。 これだけ違う環境と、生きている者達。 精霊様の御加護が無ければ、荒廃した、殺伐とした世界に成る事しか予見できない」


「その為の「百年条約」なのでは? 世界の有るべき姿を、生きとし生ける者に、定期的に認識させるための、精霊様達からの贈り物と………… わたくしはそう思います」


「そうだな…………。 皆が平和に安寧に生を謳歌出来る様にとの……思召しか」


「御意に」





 マクレガーはキョトンとしながらも、エルヴィンは深く頷きながらも、マーリンは思考の海に沈みながらも…………、 殿下のお言葉に同意されたんだよ。 勿論私もね。 


 導かれる先に、また扉があったんだ。 円形の扉……と、いえるのか?  ピザを切り分ける様に、円形の壁が八等分に割れたんだ。 そこを通り抜けた。 背後では、今しがた通り抜けた場所が閉じられるんだ。


 入って来た場所は、光が無いんだよ。 シンと静まり返った小部屋。 斜め上の方に、光が見える。





「煙突を覗き込んだみたいだな……。 なんの施設だ?」





 マーリンがぼそりと呟くの。 私も判んないよ。 突然人工音声みたいな、感情を全く伴わない声が響くの。





 ”魔素注入開始…… 重量計測完了…… 射角補正完了…… 耐閃光、耐衝撃防御展開完了…… 魔素内圧上昇中…… 内部魔法回路正常に進行中…… 小胞魔方陣、着弾時展開魔法の確認終了…… 発射可能圧力到達 ”






” 《跳躍》 開始 テェー  ”





^^^^^^^^^^




 軽く押し出される感覚が有ったんだけど、それもすぐ収まるの。 衝撃とかそんなの、全く気にならなかった。 何故なら、私達が現状をよく理解する間もなく、大空に居たから…………。


 まさしく、《 跳躍 》だったよ。 あの煙突みたいな中をアッと言う間に通り抜けちゃったんだもん。 そう、蹴り出されたって感じね。 いや……まぁ……そうね、これ知ってる。 




       ははっ! 私達、鉄砲の弾だったんだ……。




 この世界に鉄砲の概念は無いし、軍事レベルだって、剣と魔法だもの……。 火縄銃はおろか、重火器なんてもの、この世界の人が知る訳がないよ。 それに、そんな物騒なモノは、力無き者達の牙であり、爪になる。 それを魔族が開発してたとか、なんの冗談なの?


 そんで、この規模。 ライフリング無しの砲身に、私達五人がすっぽり入るくらいの、大きな空間をそのまま打ち出すなんて。 形状とかやってる事を考えると、重迫撃砲の拡大延長バージョンだと思うのよ……


 ファンタジックな世界でいきなり、超高度な兵器の登場……。 完全に混乱したわよ。 一体誰が、何の目的で、こんなの作ったんだよ!!!


 打ち出された、私達。 めっちゃくちゃ高い所を文字通り飛んでいたんだ。 うん、跳躍ってこういう事なんだ。 眼下に見える景色は……。 そうね、実物の鳥観図。 森が有り、畑があり、街が見え、村が点在し、それを繋ぐ、よく整備された道……。


 サリュート殿下が呟かれる様に、言葉を紡ぎ出されたんだ。



「…………なにも、言えんな。 ここまでの差を見せつけられると、人族がどのくらい遅れているのか……。 よくわかる。 しかし、これを見る事が出来るのは、ごく限られた者達でしかない。 更に言えば、国の高位な者達だけだ……。 いくら、そんな者達が現実に目にした事を周囲に伝えても、寝物語と思われるのが落ちだな」




「お言葉ですが、殿下…………。 我等には、レーベンシュタインが掛けてくれている【妖魔の目】が御座います。 本来で有れば、この風景は、あくまでも濃い魔力濃度の元にあり、「人族の目」では、見る事すら叶いますまい。 到底この風景を本国に伝える事は、出来かねると思います」





 マーリンが殿下の呟きに答えるように言うと、エルヴィンが、続けて言うんだ。





「さらに言えば、ここまでの行政能力を感じ取るには、きちんとした会話が成立する必要が有ります。 その為には、彼等の人となりを知る必要があり、その為にはよほど深く会話を交わす必要が有ります。 通常の「審問」は、大規模戦闘においてその力量を計ると……文献に在り、狂った視界と狂乱の中ではそのような事は不可能かと察せられます」




 青く澄み切った天空を仰ぎ見ながら、マクレガーがふと漏らした言葉は、私の胸に沁みるのよ。




「力と力のぶつかり合いは、軋轢を生みます。 通常の「審問」で有れば、ミミッデアン殿と分かり合える様な僥倖はあり得ないでしょう。 もし、レーベンシュタインから【妖魔の目】を掛けて貰っていなかったら……。 考えるだけでもゾッとしますね。 眼下に広がる風景もきっと目に入らなかったでしょうね」





 サリュート殿下の言葉に三人がそれぞれの想いをぶつけるんだ。 特別な「審問」と言う事をよく理解しているし、それが、全くの偶然の産物だって事も、分っている。 だからこそ、この幸せを感じ取る事が出来て魔族の事をこれまでのどんな使節団よりも理解していると、そう思うのよ。


 転移の魔法はこの世界にも存在するんだけど、なんでこんな物理的な方法をとったのかって所はね、きっと安全保障だと思うの。 勿論、転移しにくい種族が居るのは確かよ、エルフ族なんかは最たるものよ。 でもね、出来ない事は無いよね。 これだけの事を成せる魔力を有し、精緻な魔法が描き出せる魔族だから不可能じゃない筈。




     これは、総合安全保障の一環なんだって、思い当たったんだよ。 




 領域内の転移門なら魔力の跡を辿って行けるし、高位の魔術師ならその能力もある。 だから、物理的な方法を取ったんだ。 たとえ、「人族」が邪な考えから、魔族の領域を犯そうと思っても、自分達の知らない技術体系のモノは、理解するだけで膨大な時間が掛かるの。 その上此処は、魔族の領域。 長くは留まれないしね。 つまりは、万が一に備えたもの。


 飛びさる風景を見詰めながら、そんな事を考えてたんだ。 ほんと、魔族って……何処までも用心深く、思慮深い人達なんだよねぇ。


 段々と高度が落ちて来た。 ゴマ粒みたいに見えていた眼下の景色も大分大きくなって来たんだ。 行く手に大きな丘と言うか連山って言うか、そんなものがあったんだ。 着地点はきっとあそこ。 





 だって、ひときわ大きな街が見えているんだもの。





 でも、このまま着地したら、バラバラになるんじゃない?  心配になって来たよ。 このスピードとこの高度。 地面と激突したら只では済まないよ。 でもさ、漢達は慌てた様子すらないんだ。 全面的に信用してると言うか、任せきってるって言うか、観念しているって感じ。


 ……私は、覚悟が足りて無いのかな?





「レーベンシュタイン。 ここまで来たんだ。 腹をくくれ。 今までの使節団もきちんと魔王様達と御会いで来たんだ。 なる様になる。 その為の移動手段だろ? 心配しすぎると、禿げるぞ?」





 くそっ! マーリンめ!! 何が禿げるだ!!! こっちの身にもなりやがれ!!!! 





「御心配には、及びませんわ。 よくわかっております。 ただ……、 怖かっただけですから」






 強がって見せても、きっと、嘲笑さ(わらわ)れるのが落ちだ。 だったら、素直に恐怖を感じているのを伝えて方がいいんだ。 「普通」に考えたら、そうだろ? まったく、こいつ等と来たら…………。   さて、最終突入の時間だ。 大きな街は直ぐそこまで来ているんだ。 大体の着地点も何となくわかった。


 大きな広場が有る。 そこも白亜の大理石が広がっている広場だったんだ。 私達が近寄ると、綺麗な魔方陣が浮かび上がるの。 それに私達の乗ってきている、重力魔方陣もいい感じで反応しているのが判るよ。


 スピードが落ち始め、高度がグングン下がる。 やがて行足が止まって、垂直に落下を始めるのよ……。 そう、その大理石の広場にね。 待ち受けるのは、大きな魔方陣。 落下の速度はほぼ一定なのよ……。 





 やっぱり、物理法則無視してるみたいなのは魔法の力よね…………。 地面に着く直前には、完全に停止したようなものだった。





 ふわりと降り立ち、障壁が虹色の光と共に、空に消えて行ったの。 足元の重力魔方陣も同じにね。 気が付けば、其処は広い広い白い大理石の床が広がる広場の真ん中だったのよ。





             風が気持ちイイの。





 ついに着いたわ。 魔人王の盟主 アレガード様の御座所に。 「百年条約」の更新のテーブルに着く事が出来たのよ……



               長かった……





             本当に、長かった……





 出迎えの方だろうか、一人の魔人が此方に向いて歩いてきている。 その方の方を向いて、私達は待つの。 これからの厳しいであろう折衝を考えると、ちょっと憂鬱になるけど…………、







           それでも、此処まで来たんだ。






             やるだけは、やるよ。






              私の能力の限りね。







ミッドガルドへ帰る希望は、此処に有るんだもの。 待っていてね、ミャー。 私は帰るよ、必ずね。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ