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第140話 「 百年条約 」  6

 




 ちょっと、困った状況にある。




 ぶっ倒れたマーリンを介抱するのはいい。 魔力回復薬をぶちまけたのも、正解だと思う。 ダークエルフ姉妹にも、魔力回復薬を飲んでもらった。 彼女達は直ぐに魔力切れの症状から脱したら、いいよね。




 でも、コイツ……。 昏倒してから、目を覚ましやがりません。 




 そんで、頭を下げた状態で、横になると魔力切れの症状が重く出るので、枕代わりに、私の膝を貸して居るのですよ。 周りに仲間達(ヤロー共)が集まっているのですが、困った事に、こ奴等 ()()()  ()()()()()()()


 闇神官(ダークプリースト) ミラベル=アーデン様も、マーリンを動かす事が、重大事に発展するかもしれないと、この状態を維持させようとしやがり下さいます。 ダークエルフ姉妹の、ルカとルータも心配そうに覗き込んでいるんだよね。


 身体の傷は無いから、癒し系の魔法では、この症状は治まらない。 内部魔力の急激な消費による、魔力枯渇だもん。 マーリンの魔力回復回路が回っているのは、感じられるんだけど、いかんせんほぼ全部使いきった感じなんだ。


 無茶しやがる……。 少なくとも、全体の2~3パーセントは残しとかないと、魔力切れの症状が激しくて、昏倒しちゃうだろ……。 コンマレベルって、どう言う事? 死にたいの?


 膝の上のマーリンの頭。 眉間の皺が深い。 かなり苦しいんだろう事は想像に難くない。 もう一本、魔力回復薬を取り出して、飲まそうと思ったんだが、その手は、闇神官(ダークプリースト) ミラベル=アーデン様に、止められたの。





「聖女ソフィア様。 いけません。 今、この時点で、魔力回復薬を注ぐと、この方の魔力回復回路が暴走してしまいます。 ここは、待つしかありません。 いま、この方の魔力回復回路は全力で廻っておりますから……。 暫くは……このままで……」


「はい……判りました」





 額に汗で張り付いた藍色の髪をそっと払う。 無茶しやがって……。 矜持と誇りかぁ……。 お前、強くなったな。 本当に強くなった。 背後に居る、何千、何万の命を護る事を想定したって、言ってたよね。 その中には、きっと、フリュニエ様も居たんだろ。 


 最強の魔術師を足止めする。 進撃を止める。 その為には、その身を盾とする。 最強の盾として。 矜持と誇りを示した、マーリンに、ココの人達も敬意を払ってくれているんだ。 


 用意されていた、闘技場(コロッセアム)がこんなにボロボロになっても、誰も文句も付けない。 と言うより、感嘆の表情を浮かべているんだ。 ” 人族が、よくぞ、アノ攻撃に耐えられた! ” ってね。 


 その賞賛は、私にも向けられているんだ。





「聖女ソフィア様。 誠に申し訳なかった。 固いこの方の防御に、他の魔法を思いつかなかったんだ。 「審問」に集中するあまり、貴方達の事を失念していた……。 申し訳ない」





 ダークエルフのルカさんが、心底申し訳ないって表情で、私に言って来たんだ。 まぁ、私も、【絶対防御】使って、仲間達(ヤロー共)を庇ってたからね。 でも、そうでもしないと、隕石(メテオ)の直撃で、粉々に成ってたよ…… ほんと、あんな、極大広域魔法ぶっ放すなんて、思ってもみなかったよ。


 困惑と賞賛の光を目に浮かべていたルカさんに、苦笑いを差し出しながら、思わず問いかけたんだ。 貴女の相手は……、 人族、エルガンルース王国の使節団の一員―――。





「―――マーリン様は、強かったですか?」


「この方の紡ぎ出したのは、未知の防御魔法です。 強固でしなやかな。 魔方陣は見えましたが、古代魔法にも、極大魔法にも、その図式は存在しません。 固有魔法なのでしょうか……。 此方の攻撃で、ちゃんと抜けている感覚は有るんです。 ……けれど」





 眠そうな声が、私の膝の上から聞こえたんだ。





「アレは、耐魔法防御だ。 【絶対防御魔法】なんか、使えないからな。 あれは、魔力を喰い過ぎる」


「「えっ???」」 





 薄らボンヤリと目を開けているマーリン。 口元がニヤリって笑っていやがるんだ。 こいつ、何を言ってやがるんだ? アレが、【絶対防御魔法】じゃないって? ウッソだぁ~~~!





「レーベンシュタイン。 お前、想像力が魔法の強度や質を高めるって言ったな」


「ええ……お伝えしましたけれど……。 えっ、一体何を想像して付加されたんです?」


「……フリュニエの作ってくれた【ミルフィーユ】とか言うケーキだ。 何層にも何層にも重なって、形作ってあった。 アレは……良いものだ」





 くそっ! 惚気やがって!! そうか、わかった。 耐魔法防御と、耐物理障壁を何層も、何層も重ねてやがったんだ。 ごく薄い皮膜にまで、圧縮してね。 それを体にほぼ密着状態で…… そうか!!! 表面が抜かれたら、下にドンドン追加してたんだ…… 密着状態だから出来るワザだ!





「「耐魔法防御」や、「耐物理障壁」は、魔力を其処まで必要としない初級から中級の魔法だ。 幾枚でも張る事が出来る。 俺の少ない魔力でもな。 それに……」


「それに?」


「俺が賢者の称号を貰えたのは、魔力の【圧縮貯蔵法】を編み出したからだ」


「え? 圧縮貯蔵法?」


「あぁ、魔力の保留量が少なければ、魔力自体を圧縮すれば、保有量は増える。 半分に圧縮出来れば倍に、もう半分に圧縮出来れば四倍にな。 基本、長時間の錬成が必要だが、いざという時には、復元すれば良いだけだ」


「もしかして、あの時……」


「あぁ、【浸食】の魔法を使用してる時に、残余の圧縮魔力を全開放した。 余剰魔力が体から漏れたのは、想定外だったがね」





 マジか!!! スゲー!!!! 見直した。 ほんと、見直したよ、マーリン。 「魔術バカ」とか思っててスマン。 賢者の称号は、伊達じゃないんだ。 世紀の発明だよ。 これは、凄い。 


 闇神官(ダークプリースト) ミラベル=アーデン様も、マーリンの説明に、言葉を失ってるよ。 こと、魔術に関する事については、もうマーリンの右に出るモノはいないんじゃないか? 目を真ん丸にして、マーリンを見詰めていたんだ。





「レーベンシュタイン。 お前のお陰だ。 弛まぬよう努力する事、目標を定める事、何にその力を使うか思考し続ける事。 全て、お前が導いてくれた。 礼を言う。 ありがとう」





 いや、まて、それは、違う。 それは、マーリンがした事であって、マーリンが手に入れた物で有って……。 

 


   ……



      ……




         ……





     そっかぁ……。 切っ掛けは私だったね。





 うん、分かった。 その感謝は受け取るよ。 共に精霊様に感謝の祈りを捧げような。 高みに上れたのも、折れず、膿まずにいれたのも、御加護のお陰だよ……。


 ねぇ、マーリン。 お願いがあるんだ。


 脚が限界なんだ……。


 起きてくれないかなぁ……






 ====================






 第二の砦でも、三日ほど滞在したんだ。 まず、マーリンの魔力が完全枯渇してたからね。 あと、マクレガーもへばっていたし。 本当に「審問」って奴は、こっちの限界を要求するよね。 ちなみにこの砦のご飯は、物凄く美味かったよ。


 オブリビオンの魔術師は 「美食家(グルメ)」 だったよ。 珍味に旨いお酒と来れば、もう宴会だね。 マーリンの回復期間、何故かずっと宴会してたような気がする。 サリュート殿下が小首を傾げて、その様子を見てたくらいだ。


 あぁ、マーリンはダークエルフのルカ、ルータ姉妹に拉致されてた。 魔術談義が物凄く盛り上がってた。 そう言えば、アイツ、あんなに楽しそうに、魔術談義している処、見た事無かったなぁ……。 理論と魔方陣、詠唱と詩歌……。 話題は尽きないらしい。


 あの笑顔を覚えて置くよ。 マーリンも、マクレガーと同じく、魔族との友誼を結べたんだね。 良かったよ……。





       三日後の出発時。 





 第二の砦の皆が名残惜しそうに、手を振ってくれた。 一番大きく手を振ってたのが、闇神官(ダークプリースト) ミラベル=アーデン様だったんだよ……





「必ず、この「審問」の結果は、強く、強く、上に御報告申し上げす!!! 心配なさらないで!! 貴方達は、魔族と同等以上に魔法力に長けております。 最高の私の弟子達と、友誼を結べるほどに!!! 次の「審問」も頑張ってください! さようなら、我らが朋たちよ!!!」





 う、うわぁぁぁぁ、闇神官(ダークプリースト)様に、「朋」とか呼ばれちゃったよ。 どうしよう……。 手を振りつつも、ちょっと困惑したよ。 







^^^^^^^





「魔族……ですか。 此処に来る前に、書物で知ったと思っていましたが、まるで違いますね……」





 ボソリって感じで、エルヴィンが感想を漏らしやがった。 お前でも、そう思うのか。 まぁ、そうだろうな。 そうなるよな。 えっと、次の「審問」は、エルヴィンの番だったよな……。


 ガムデン伯爵から貰った羊皮紙に目を落とす。 次の「審問」は……、





       大協約への理解の「審問」





 次の砦は、今までの砦は違って、白い道を外れ、「試練の回廊」を横切る様に西へと走る。 目指すは、「試練の回廊」の ” 城壁 ” ……なんだ。


 ミラベル=アーデン様から、「魔方位盤(マジックコンパス)」が、手渡されてたんだ。 ” 真っ直ぐに西に向かう事 ” ってね。 荷馬車は道なき道を ” えっちら おっちら ” 行くんだ。 当然、速度はノロノロになるんだけど、仕方ないよね。





「私の相手は……、 魔人族の方でしたね」


「ええ、エルヴィン様。 高等弁務官様に在らせらるようです。 外務官の方なのでしょうか」


「法典、条約関連文書、大協約…… さて、何をどのように「審問」されるのでしょうか」


「詳細は、判りませんが…… 此処には肉体的戦闘では無いと在ります。 と言う事は、面接試験と言う事でしょうか」


「誠に有難くありませんね。 私の知る知識は、全てミッドガルドの法典に関してです。 大協約も読み理解しては居りますが……。 どうも、此方の様子が、ミッドガルドに伝えられているモノとは、大きく違う様です。 レーベンシュタイン。 どう思いますか?」


「ええ、確かに。 オブリビオンでは、種族の寿命が長く、そして文書の保管も重要視されております。 故に、軽く二、三千年前の記録すら閲覧する事が出来るのです。 従って、大協約も当初(オリジナル)のモノが、しっかりと伝わっております」


「……ミッドガルドのモノとは……違うという訳ですね」


「ええ、まさしく。 ミッドガルドでは、各国に伝わる大協約に違いが有ります。 それは、時の為政者が自身の不利益を隠蔽する為に、時に記録から削除し、時に捏造したようです」


「……不敬ですね、精霊様に対しましては」


「まさしく」


当初(オリジナル)文書は、私も見られるのでしょうか?」


「わたくしが、「証人官」として、精霊様にお願いすれば……、 叶うと」


「まさに付け焼刃となるでしょうが……。 しない後悔より、する苦悩の方が良いと思われます。 すみませんが、お願い出来ませんか? 」


「判りました。 次の休憩にでも……」





 荷馬車の進みは遅い。 だから、休憩も度々入るんだ。 かなり道が悪いし、迂回もしなきゃならないから、時間ばっかり掛かるんだよ。 そんな休憩時間。 私は、契約の精霊大神【コンラート】様にお願い申し上げたんだ。 エルヴィンに、大協約の原本の閲覧の許可を頂けないでしょうかって。


 御許可は貰えた。 今度は、【贈り物】で魂に刻み込まれるのではなく、数冊の本が具現化したんだ。 重厚な本だったよ。 感謝の祈りを捧げ、エルヴィンに大協約の文書を渡したんだ。





「コレが原本か……。 レーベンシュタイン。 貴女は一体何者なのです?」


「「証人官」です…… 正規の「証人官」として、お願い申し上げました。 この度の「審問」には、精霊様達も並々ならぬ興味を示されておられます。 戦闘力、魔法力の「審問」において、驚異的な事が立て続けに起こっております故、非常に協力的に対話させて頂きました」


「……そうか……。 責任は重大だな。 では、お借りする。 集中したいので、一人にして貰えませんか」


「はい…… 」





 荷馬車の後ろの方に行って、幌の中で【灯火】の魔法で明かり付け、ひたすら……、 ひたすら……、 大協約の原本と格闘を始めたエルヴィン。


 食事も、休憩も、寝る間も惜しんで、読込んでいるのよ……。 「審問」の前に身体を壊さなきゃいいんだけど…… 体力回復ポーション ―――用意しなきゃね。




 ゴトゴト進む荷馬車は、七日間の時間を要し、やっと城壁に到達したんだ。 




 城壁近くに、衛兵の巨人族の人が居てね。 私達の行くべき場所を教えて下さったの。 そこは、ココから半日ばかり北に上がった処。


 どうも、少しばかり、南にズレちゃってたようね。 言われるがまま、ゴトゴト荷馬車は走るの……。 




     ゴトゴト、




          ゴトゴト ってね。






    皆、無口になってるの。 ――― とっても、疲労の色は濃いのよ。






 カロンの街を出て、今日でもう20日…… もう直ぐ、【恵風月(ゼーディン)】も終わる…… 此方の【穀雨月(イヴァンタール)】も長雨が予想されるの。その前に何とか「審問」を終えなくては、荷馬車は泥に埋まる…… 気は逸るんだけど……




    でも、一歩一歩 ” 確実 ” に進まないと……。




        「審問」に耐えられなければ……、



          この旅も無駄になる……。



       エルガンルースは混沌に飲み込まれ……。



        多くの人の命が、危険に晒される。








           それだけは、絶対に嫌。





            皆で…… 皆で!








            幸せになるんだもの!








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