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第138話 「 百年条約 」  4




 

 大門が背後で閉まる。 カロンの街とはこれで暫くはお別れになるんだ。 「試練の回廊」の中に入ると、審問が終わるまでは出てこれない。 だからね……。 街の皆とは、暫く逢えなくなるのよ。 


 そんなもんだから、大門のカロンの街側では、半分お祭り騒ぎに成っちゃたんだ。 【カロンガロン】の人達、詰所のお役人さん、喫茶店「ポエム」のマスター、その他本当にたくさんの人が、見送りに出て来てくれたんだ。



 衛兵さん……。 そんなに泣くなよ……。



 ローリーさん、心配なのはわかるけど、そんなにポーション瓶持てないし、お店の分だってあるでしょ。 大丈夫だから。




 ブリンクさん、お昼にって、そんな大量のサンドイッチ、困るよ……。




 ほんとに、ほんとにありがとう!! みんなのお陰で、カロンの街の素敵な思い出一杯出来たよ。 





「ソフィアは、人気者だな。 エルガンルースで、あれほど高位貴族達から睨まれていたとは思えんほどに」


「市井の人達とは、仲良くしてましたよ? 冒険者ギルドとか、娼館ギルドとかでは。 あぁ、暗殺者ギルドでも」


「いや、まぁ……、 なんだ。 君には、陽光の下が似合うと思ってな」


「サリュート殿下、どうなさったの? 何処に居ても、ソフィアはソフィアですわ」


「うむ…… 確かにな。 確かに。 では、行こうか、皆」


「「「 応! 」」」





 荷馬車に荷物を満載して、皆で乗っかると、北の端っこにある跳躍門を目指すの。 周囲は荒野。 多少の草とか、灌木とかは有るんだけど……。 まぁ、荒野だよ。 赤茶けた凸凹がずっと続いているの。


 彼方此方に凹んだ穴とか、焦げた樹とかが有るんだけど、過去の使節団の戦闘の跡だろうね。 大門を抜けて一刻もすると、魔力濃度が跳ね上がるの。 





「【妖魔の目】は、大丈夫ですか?」


「ああ、問題ない。 きちんと風景が見える。 しかし、本当に荒野だな」





 一番最初に応えてくれたのは、マクレガー。 魔力が一番少なくって、常時展開している、【妖魔の目】に流れるご自身の魔力の割合が一番大きい人だからね。 気を使ってくれたんだ。 指標になるって、マーリンが言ってたから、それでかも知れないよね。


 最初の関門までは、野営を含んで二日の旅程に成る筈。 その間に色々と打ち合わせするの。 まずはマクレガー。





「マクレガー様のお相手は、高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)とあります。 通常の百手族(ヘカトンケイル族)には、十対の手が有りますが、高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)は五対に減ります。 しかし、能力的には、十倍以上。 手に手に、近接、中距離、長距離の武器を携え、体躯に至っては、通常種の三倍以上です」


「まともにぶち当たったら、数分も持たないな」


「えぇ。 まさしく。 力押しでは、どうにもならない位の対格差、戦闘能力の差が有ります。 大人に、幼児が掛かって行くようなもうのです」


「なにか策はあるのか?」


「纏う魔力にもよりますが……。 【身体強化】魔法は使えますか?」


「あぁ、練習した。 使えるよ」


「要はスピードなんです。 百手族(ヘカトンケイル族)に対しては。 繰り出される攻撃は凄まじいモノが有りますが、巨人系の魔族特有の動きの遅さが有るのです。 ゆっくりでは御座いませんよ? 通常種に比べて遅いと言うだけで」


「強化を脚に集中させるか?」


「不十分です。 出来れば、【反射速度向上】、【予見】を配しないと」


「ふむ……。 力では絶対に勝てないという事か?」


「ええ。 マクレガー様の衝撃力は、地のままで、その他は支援系の魔法に振るのが適切だと思われます」


「固くはないのか?」


「固いですよ? とても。 でも、マクレガー様の攻撃は通ります。 浅手ですが。 一発を狙っても、相手は巨人系。 とても、とても、一発では無理に御座いますわ」


「魔法攻撃は?」


「マーリン様程の魔力を撃てると?」


「無理だな」


「では、魔法攻撃は諦めて下さい。 地道に小傷を与え、体力を奪って下さい。 マクレガー様の力は温存しつつ」


「言ってくれる…… 要求が高いな」


「無理は承知です。 でも、出来ますでしょ? 闘気を出し入れできる貴方ならば」





 サリュート殿下が、薄く笑いながら、口を開かれた。





「マクレガー、一本取られたな。 ” エルパンテ ” を倒す、 ”アント” の様に戦えと言う事だ。 期待している。 長時間の戦いになる、十分に休養を取れ。 なんなら、横に成っていても良いぞ。 出来るだけ楽にしろ。 お前が一番手だ。 しっかり頼む」


「承知! しかし……、こんなに静かに進めるとは思っていなかった」


「精霊様の御加護でしょう。 魔族の皆様も、まさか四人でいらっしゃるとは、思って居られなかったようですし」


「レーベンシュタインが居なかったらと思うと、ゾッとするな。 まぁ、任せろ! 戦闘能力は磨いて来た。 遅れをとる事に成らん様に努力する」


「お願い申し上げます」





 マクレガーは、サリュート殿下に云われた通り、馬車の奥で横に成られた。 眠ろうとしてらっしゃるのね。 そうね、一番の体力温存方法ね。 判ってらっしゃるわ。 そんなマクレガーをマーリンは、ジッと見てたの。 何だろうね。





「レーベンシュタイン。 こいつがこんなに素直に言う事をきくとは思わなかった。 俺の知ってるマクレガーは、自分が一番のやんちゃ坊主だったんだ。 何時の間に、こんなに……」


「きっと、スザック砦で辛い目に会われたのでしょう。 一人では何も出来ない。 いくら自負しようと、それはあくまで個人の力。 情報戦、諜報戦、戦いには搦め手と云う物が存在します故。 そのせいで、大事な戦友の御命が……」


「成長したという事か?」


「戦場は、人を強制的に大人にします。 ――――――でも、マクレガー様は膿まなかった。 腐らなかった。 全てを護ろうと、高みを目指された。 そうなのではないでしょうか?」


「……高みか……。 なるほどな。 ならば、俺もやらねばならんな」


「ええ、エルガンルース王国でお待ちのフリュニエ様の為にも」


「なっ!!!」





 慌てて、私の顔を凝視するマーリン。 あなた、分ってる? ずっと一緒に居た、フリュニエ様がどんな気持ちで、貴方を送り出したのか。 その愛に。 その想いに。 真正面から見据えて、ジッと目を見たの。 マーリン、その視線を受けて、考え込んだんだ。 





「俺にも……、 護るべき者が居るんだ」


「当然です」


「愛しているんだ。 こんな俺を、ずっと支えてくれたんだ」


「知っております」


「俺で、いいのか?」


「貴方で無くては、成らないのでしょう、フリュニエ様は。 護るべきは、誰なのかを御心に」


「そうか……。 俺の想いでいいのか……」


「オブリビオンでは、物事を素直に捉えた方が、良いですよ? 権謀術策は、この地には御座いません。 一心に御心のままに。 審問は、そう言った事も見ておられます故」





 黙り込んじゃったよ……。 まぁ、いいか。 悩め、悩め!! 私達は、高々十七歳の子供だ。 子供は子供らしく、真っ直ぐと前を見ていたらいいんだ。 「百年条約」を更新し、締結するのは、世界の理なんだから、胸を張って前だけ見据えて進むべきなんだ。




      本当なら、大人たちの仕事だ。




 それを、子供の私達がしなきゃならないんだ。 末期的だよね。 でもさ、反対に考えるんだよ。 老人バッカリで、条約結んでも、未来は判らない。 でも、子供の私達が頑張る所を記録出来れば、次代にはしっかりと受け継げるんだよ。 


 エルガンルース王国は、一度リセットされるかもしれない。 


 でも、きちんとリセットしたら、次に繋がるんだ。 滅亡なんかしない。 絶対にね。





 ====================




 旅程三日目。 ついに最初の関所が見えて来た。 荒野に続く、白い道も暫くはお別れ。 関所には、巨人族の皆さんがお待ちに成ってた。 一様に険しい表情をしているの。 まぁ、そうだよね。 砦の近くまで、荷馬車で行く。 馬車をみんなで降りて、サリュート殿下が来意を告げる。


 真正面から、闘気がブチ当てられるの。


 でも、五人とも、それを難なくいなすの。


 歓声が上がる。 審問にたる人物がやって来たとね。 ほんと、何処までも試されてるわ。 





「此処での審問は、戦闘能力を計る。 一対一の戦闘を行う。 対戦者は前に!」





 魔人族の中級指揮官が、声を張り上げ、口上を述べる。 魔族からは羊皮紙に書かれていた通り、 高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)が一人出て来たんだ。 精悍な顔つきの、まさに戦士って御姿。 威圧感半端ねぇな。 五対十本の腕には、それぞれ近接、中距離、遠距離の武器が持たれている。




     漲る闘志。




 軽鎧から覗く薄緑色の肌が、うっすらと汗をかいているんだ。 臨戦態勢万全って感じだね。 マクレガーがのっそりと、前に出る。 コッチも負けない位の闘気を孕んでるよ。




「どちらかが、膝を付くまで。 制限時間は無し。 武器は自由使用。 では、己の名誉を掛けて、審問を開始する!」




 円形に巨人族の人達が、その場を大きく開ける。 中央に二人睨み合う。 審問の開始だ。 ビリビリとした殺気と闘気が、その場を埋め尽くした。 よくまぁ、あれほどの中、立っていられるよ。 


 先に動いたのは、高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)。 持てる力の全てを出して、攻撃に移るの。 マクレガー大丈夫かな。 ハラハラ、ドキドキの時間の始まりだったんだ……。





 ^^^^^^^




 まだ日は高い時間から始まった 「審問」は、夕暮れ時を越え、夜の帳が降りた頃も続いていた。 力の高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)に対し、動きのマクレガー。  一発当てれば、重傷間違いない、高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)の攻撃を、今の所、マクレガーは躱し切っている。


 攻撃は……、 通るって言ったけど、ほんと、些細な傷を与えるだけなんだよ。 軽鎧と思っていたけど、ありゃ、私達が使う重装鎧と変わんないね。 それでもさ、度重なるダメージに、高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)の鎧はその機能を失い始め、いたるところに、血が噴き出しているんだ。 


 五対ある腕も、その内三対……。 六本がだらりと落ちている。 マクレガーの奴が、健を切り飛ばしたからね。 あっちも本気でやっているのは、その余裕の無さでわかる。 始めの頃は、ヤンヤと囃し立てていた、巨人族の兵達も、今は沈黙と共に、「審問」の行方を凝視している。


 魔人族の中級指揮官さんも腕を組んで、成り行きをジッと見詰めていた。 マクレガーは、口元に笑みを浮かべ、舞うように、飛ぶように、躱し、いなし、そして、斬撃を加えているんだ。 




    コイツ、やりおる……。




 滅多に見ない、本物の騎士になりやがった。 絶対に諦めない、体力の続く限り、気力の持つ限り、どんな事が有っても諦めない、強い心を見せつけられた。 マクレガーの方も、ボロボロになっている。 確かに良い防具を着けては居るんだよ。 でも、ちょっと掠っただけでも、何かしら壊れるんだよ。




    見てらんないよ……。




 でも、目を逸らす事は出来ない。 本当にギリギリの戦いが、自身の誇りを掛けた戦いが、今、目の前で繰り広げられているんだもん。 


 いつの間にか、巨人族の兵隊さん達が、デカい松明を掲げて、明かりをともしてくれていた。 満天の星空の元、斬撃が火花を散らす。 両者全く引かない。 お互いの体力が限界に近づいてきているのは、誰の目にも明らかなのに、誰も止めない。 いや、止められない。


 高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)の手にはもう、遠距離武器は無い。 中距離武器も、先程壊れた。 両者、近距離の戦いに移行する。 残っていた四本の腕の内、二本がダラリと下がっている。 巨体を生かした高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)の攻撃も、機動力を生かし切ったマクレガーの攻撃も、自然と遅くなる。





       満月が……、


      天空に掛かる。





 松明と、月明かりの元、彼等の死闘は続く。 討ち、払い、躱し、いなし……。 飛び散る汗と血。 ついに耐えかねた、高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)の軽鎧。 ガシャリと大きな音を立てて、胸鎧(チェストプロテクター)が、地に落ちる。


 無傷の胸板から、激しく湯気が上がっているの。 重量が軽くなったのか、それまでにない速さで、高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)が攻撃を始める。 残りの体力を全て注ぎ込むかのような攻撃。 動きが遅くなりつつあるマクレガー……。




 捌ききれるかどうか……。




 でも、アイツは、私の助言をしっかりと聞いてくれていた。 対応できるギリギリのスピードを維持して、躱し、いなす。 体力を極力温存する事。 コレが唯一の方策だったから。 


 もし……、 もしさ、スザック砦で実戦を経験してなかったら。 もし、護るべき者を理解して居なかったら。 もし、己が力に酔っていたら……。 この時点で、彼の審問は終わっていた。 でも、そうならなかった。




 彼は、理解していた。




 彼の後ろに、何百、何千、いや、何万と言う命が有るという事を。 倒れる訳には行かない。 矜持と誇りが、彼の脚を動かしていた。 何も言えない。 ただ、ただ、見守るだけに成ってしまった。 




 だから、目を離さないんだ。 




 これは、「証人官」としてのお仕事でも有るんだ。 「証人官」として、彼が嘘偽りなく、正々堂々と、己が力だけで 「審問」を受けていると……、 証しないといけないから。




 月が傾き、東の空が青く染まる頃……。




 傷だらけになった高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)の一撃が、マクレガーの左腕を捕らえた。 クルクル回りながら、飛ばされる彼。 でも……、 膝は付かなかった。 【身体強化】された彼の脚は、しっかりと大地を踏みしめ、左腕はだらりと下がったままだけど、その場に立っていた。





     声も上げられない……。 駆け寄る事も出来ない。




             だって……、




  マクレガー 嬉しそうに、本当に、嬉しそうに笑っているんだもん……。





 一気に加速した、マクレガーは、高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)の内懐に入り、旋風(つむじ風)の様に右手の長剣を振るうの。 


 飛び散る高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)の血潮。 驚愕の目を大きく開けて、内懐にいるマクレガ―に残った腕を振り下ろす……。





            それは、一瞬の出来事。





 振るわれた腕を寸前で躱し、その肘を流れる方向に拳を叩き付けたんだ。 左腕で(・・・)。 バランスを崩し、高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)はその巨体を大きく傾ける。 そこに、追撃がはいる……。 二回……。


 まるで、武術大会の日の様に……。


 膝が顎元に入り、更に右手の長剣が首を真面に捉える、ひっくり返った高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)の胸の上に乗り、切っ先を喉の急所に浅く潜り込ませた。 呻くような声で、高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)は声を漏らしたんだ。





「参った」





 会心の笑みを浮かべ、マクレガーはその場に崩れ落ちたんだ。




^^^^^^



 その場に居る誰もが、惨状に言葉を失い立ちすくむ中、私は二人に駆け寄り、手持ちのポーションをバンバン振りかけた。 体力も、魔力も限界になるまで削れ込んだ二人の命はアブナイ。 非情にアブナイ。 「審問」とは言え、此処までする必要があるのか。


 単なる殺し合いでは無いのかという疑問と怒りが、心中に浮かび上がる中、徐々に回復する二人を見て、ホッと胸をなでおろす……。 


 背後に「審問」の責任者である、魔人族の中級指揮官が私の肩に手を置いたんだ。





「見事、戦闘力を示された。 審問は成された。 回復するまでは、この砦に泊まられよ」


「……指揮官殿、一つ質問が」


「何なりと」





 私は、かなり不穏な空気を撒き散らしつつ、中級指揮官に問うたんだ。 いや、問い質したと言ってもいい。 暗く妖しく、疑念の光が私の瞳に揺らぐのが判る。 その眼でしっかりと中級指揮官を見詰めて、言葉を紡ぎ出すの。




「此処までの審問を「 必要(・・) 」とされたのですか?」




 大きく息を吸い込んで、彼は私の問いに答えた。 いや応えるように脅したんだよ。 納得いかないから。 人族の命、魔族の命をどう考えているのかを、問い質したかったんだ。




「……正直言うと、人族の力に驚かされている。 此処に倒れた者は、砦でも一番の戦士。 ならば、この者に一太刀でも浴びせられれば、審問は終わっていたのだ。 だが、どちらかが膝を付くまでと言う規則(誓約)を両者は守った。 誇りに掛けてな。 止められんよ、「証人官」殿。 まさに、勇気と矜持のぶつかり合いだった。 私は、強く進言する。 あぁ、強くな。 エルガンルース王国の使節団の戦闘力は、魔族を上回るとな。 ゆっくりと休んでくれ」


「……御意に…… 」





 釈然としねぇ……! 納得も行かねぇ……! 倒れるまで止めねぇって……。 「審問」は、命を何だと思ってやがる!!! 怒りと、「証人官」としての「お仕事」の間で揺れ動く、私の注意を引いたのは、誰あろう、今、命を揺らめかした、マクレガー本人だったんだ。


 意識を繋ぎ止めていた マクレガーは、苦しいはずなのに、笑っているんだよ。 そう、とてもいい笑顔で。 それで、私に云うんだよ。 ボソリと呟くように、それでもって、嬉しくて仕方ないってかんじで―――。





「満足だよ、俺は。 可能な限り戦えた。 「審問」にも、応えられた。 それにしても強いなぁ……。 流石に魔族は違う」


「マクレガー様……」


「正直に言うとな……。 途中から、審問って事忘れてた。 戦士に対し、正々堂々と、何処までも何処までも、真正面からぶつかれる。 強大な好敵手は……、いいなぁ」





 倒れている高位(ハイ)百手族(ヘカトンケイル族)が、上体を起こし、マクレガーに生き残っている手を差し伸べるんだ。





「素晴らしい戦いだった。 人族は弱く脆いと思っていた。 お前……、 名前は何というのだ?」


「マクレガー……。   エルガンルース王国が民、マクレガーだ」


「そうか、俺はミミッデアン。 高位種百手族のミミッデアンだ。 もう直ぐ、俺の子供が生まれる。 敬意を表し、男であれば、お前の名をつけたい。 人族マクレガー。 良いか」


「構わない。 強く誇り高い漢に成れば、更に嬉しい」


「ははは、分っている。 その名を戴くモノは、強く誇り高く無くてはならんからな! いい戦いだった」





 お、お前ら……。 何だよ、何なんだよ! まるで……、 まるで、私が、馬鹿みたいじゃないか!! し、心配して、そ、損したじゃないか! も、もう知らん!! か、勝手に盛り上がりやがれ!!


 残ってたポーションをバシャバシャかけて、その場を離れたんだ。 中級指揮官は、困った顔をして、周囲の巨人族に命じ、二人を救護施設に運ばせたんだ。 丁重に私達は砦に案内され、歓待を受けた。 もう、何も言えんよ。


 サリュート殿下も、エルヴィンも、マーリンも、呆れて物が言えなくなってたよ。 マクレガーの傷は深く、その砦に三日間、「治療の為の逗留」を、余儀なくされたんだよ。





 悔しい事に、その間中、マクレガーの奴は、楽しそうに、ミミッデアンと語り合ってやがったんだ……。 それは、それは、楽しそうにね! 



 見事、魔族と友誼を結びやがった……。





 いい事なんだ……。 大協約的に見て……、とても、良い事なんだよ……。 魔族と人族の友誼って……。 でも……釈然としない想いが有るんだけど……。







         ……それでも、いいか。 






         あの笑顔が有るんなら……。






             皆、無事に、






      ――― 第一関門を、突破したんだから ―――








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