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第136話 「 百年条約 」  2

 




 初期登録は、スムーズに終わって、「簡易滞在許可書」も貰って、何時でも「試練の回廊」に向かえる準備は出来た。 でもさぁ、まだやんなきゃならない事が有るんだよ。 そう、この人達の視界の問題。





「サリュート殿下、周囲をご覧に成って何かお気づきの点は御座いますか?」





 カロンの町中を、歩く私達。 待ちゆく人が、好奇の目を向けてるよね。 さてはて、皆がどう言った感じで、この情景を見てるのか、それが知りたいのよ。 「人族」の視界は、高濃度魔力の中では、歪む。 酷く歪む。 色彩さえ、まともに認識できなくなる。 


 いわんや、魔族の人達の姿は、それはそれは、「オドロオドロシイ物」に、その眼に移り込む。 さらに、そんな彼らが常に襲い掛かって来るように、感じてしまう。 緊張しっぱなしになって、精神が削られ、限界を迎えると…… 発狂する。


 まぁ、パターンなんだよね。 文献からも、この経緯を辿って、「人族」は『狂死』しちゃうって、あったもの。 きちんと限界を見極めて、そうなる前に、転移門から送り返す事を、義務付けられているんだよ、審問軍団の人達は。 


 全ての原因は、視界の歪みからなんだよ。 正常に見えていたら、何てことないんだ。 サイケデリックな情景のみを常に見せられてるのと、樹々の緑の中を渡る風を感じつつ、落ち着いた街並みの中を散策するのと、どちらが心の癒しになると思う? まぁ、当然だよね。





「すべてが……歪んでいるな。 まだ、色彩は‥‥、いや、なにかおかしい」


「左様で御座いますか。 マーリン様、如何でしょうか?」





 高位魔術師に成った、マーリンなら、どう答えるのか。 ちょっと興味が湧いたんだ。




「魔力濃度が濃い。 大変に濃いな……。 あの大きな門は、なんだろうか」


「「試練の回廊」への入り口になります」


「……更に強い魔力を感じる……。 あの門の内側は、《エステルダム》の森よりも、はるかに濃密な魔力を感じるな……。 アレは……堪えるぞ」


「そうで、御座いましょうね。 御二方は?」





 マクレガーは目を瞬かせて、エルヴィンは目頭押さえながら、それぞれに苦し気に、感想を漏らす。





「覚悟はしていたが……、強い闘気をそこかしこから向けられている。 目を向けると、魔物が俺達を狙うように伺っている……。 こんな中に四六時中居るとなると、身体よりも、精神的に堪えるな。 レーベンシュタイン、本当に此処は安全地帯なのか?」


「ええ、左様に」


「行動は、整然としているし、先程の係官もきちんと仕事をしていた……。 あれは、此処に住む、人族なのか? 顔色は悪かったのは、そう言う場所だからか?」


「いえ、あの方は、魔族の方に御座いますよ? オブリビオンには「人族」の方は、基本的に居られませんから」


「えっ?」





 なんで、そこで驚くんだ? あぁ、そうっか。 知らないんだもんな。 世界の理の事も、大協約の全文も。 ミッドガルドに伝えられる大協約にも本来ならば、記載されている筈だったのに、いつの間にか欠落しちゃって、伝えきれてないもんね……。 この世界の成り立ちとか、人族と、魔族の関係とか……。



    まぁ、そんな事、今、言う事じゃない。



 使節団の視界に関して、対処しなきゃならないもの。 私は皆を連れて、魔法薬局【カロンガロン】に向かったんだ。 まぁ、私の ” ホーム ” だしね。






 ^^^^^^





 ロビーのテーブルに取り敢えず座ってもらった。 この遠征の荷物は、荷馬車に一台分。 御者の人は帰っちゃったよ。 ” わ、わたしは、し、使節団の者では有りません。 け、契約で、荷をここまで運ぶだけです!! ” って、叫びなら、転移門を抜けて帰ってちゃったよ。


 まぁ、そう言う契約だったんだろうね。 転移門の魔方陣も許容したらしいから、簡単に戻してもらってたよ……。 荷馬車は、詰所前においてあるんだ。 後で取りに行かなきゃね。


 マッタリと御茶……。 なんて、気分じゃないから、早速始めようか。 私の目のコピーを、皆の目に魔方陣として張り付けるの。 常時展開出来る様にね。 皆さん、魔力はお持ちだから、其処から展開用の魔力を使うって事で、了承してもらったんだ。 そうしないと狂うよ? って、ちょっと脅したんだよね。


【妖魔の目】は、付与魔法化に出来たんだ。 きっと必要になると思って、空いた時間とかを見繕って、魔方陣をいじり倒したんたよ。 皆の目に、【妖魔の目】を直接付与するんだよ。 結構高度な魔法だけど、魔方陣としてはごく小さいモノに、仕上げたんだ。


 マーリンが、その魔方陣をじっと見つめてるの。





「それは……、” 妖魔 ” の、「特異魔法」かなにかなのか?  その雰囲気、見た事が有る。 エスカフローネ師匠に ” 秘密だけれど、知っておくべきだと思うから、教えるね ” と、なにか、思いつめた眼で言われた事を思い出した」


「マーリン様、エルフ族にとって、妖魔は唾棄すべき魔物であり、殲滅対象ですわ。 何故だかご存知?」


「……魔力以外の力を操り、魔法を穢す者……。たしか、そんな事を言われたような……」


「そう言うでしょうね、あの人達は。 では、妖魔とは何でしょう?」


「この世ならざる者達。 世界の歪みから生まれ出流(いずる)、汚濁の命……。 ハイエローホ様が、そう言われた」


「ふふふふ……。違いますわよ。 妖魔は、この世界に召喚されし、異世界の魂の欠片。 確かにこの世界のことわりとの関りは薄いモノですが、別に汚濁と言う訳では御座いません。 魔族の前に、力を示さねばならぬ、人族の救済なんですよ。 世界の理の許しを得て、世界の外からの魂での助力。 それが、召喚者……。 渡り人とも言います。 使命を終え、役目を果たしし後、此方の魔力によって、異形のモノとなる。 妖魔と呼ばれるものに変化するという事です」


「……おかしいと思ってたんだ。 妖魔には、魔法が効かないって……。 だから、隔離するんだって、仰ってたんだけど、その隔離用の重防御障壁だって、魔力だろ? 納得いかなかったんだよ」


「魔法は効きますよ? 妖魔にも。 ただ、妖魔には、「魔法が効きづらい」 という特質が有るんですよ。 この世以外から、召喚されて来た時に付与される、特典の一つなんだそうです。 生きて元の世界に帰れない彼等に対する、謝罪の一つでしょうか」





 瓜生さんに教えて貰った事なんだ。 ちょっと、あの人の「とってもいい笑顔」を、思い出したよ。 帰り着いたかなぁ……。 そして、生まれ直したかなぁ……。 だったら……嬉しいなぁ……。 みんなの目に、【妖魔の目】を付与しながら、マーリンとお話したんだ。 他の人も、神妙に聴いてくれている。





「ソフィアは、何故、そんなに妖魔について詳しいんだ?」


「だって、わたくし、「半妖」と成りましたでしょ? そりゃ調べますよ、自分の事ですから」


「ハウッ! そ、そうだった……。 そんな事を言っていたな……。 す、済まない……。 で、でも、ソフィアは、そのなんだ、”渡り人”では、無いのだろ? なぜ、「半妖」に?」


「……《ガンクート帝国》の使っていた、矢毒と、短剣に塗り付けた毒……。 アレ……、渡り人の血液なんです。 相いれない魂の欠片を人に注ぎ込むことによって、治癒不可能な病を作り出したんですよ……。 幸い、わたくしは、闇の精霊様の御加護で、こうやって生きている事が出来ては居るのですが、代償に「半妖」となった訳です。 これも、此方で調べました……」





 解析した判った事なんだよ。 私の身に刻まれた、痣をね。 【月の牙】でも、【カロンガロン】本店でも、色んな資料があったから、貸してもらってね。 自分の事だから、妖魔についても色々と調べたの。 


 その過程で分かったんだ、私の身体に何が起こったのか。 何が原因で、半妖とならざるを得なかったのか。 傷が原因で、妖魔が体に住み着くなんて、おかしいと思ったんだよ。 普通あり得ないじゃん。 で、理由を調べてね、判明したのが、「渡り人の血毒」の事。


 本当に《ガンクート帝国》の奴等は、碌な事しやしねぇな。 理を無視した、連続召喚と言い、連れて来た渡り人をトンデモナイ扱いしてたり……。 もうね、本気で亡ぼしたくなって来たよ……。 マジで……。




^^^^^^



 さぁ、出来た。 これで、視界は確保できたはず。 周りを見回してもらった。 ちゃんと見える? 魔法薬局の中だから、あんまり変わり映えしないけど……。 大丈夫?



 眼をしばしばさせながら、皆、周りを伺ってるよ。




 と、其処にブリンクさんがやって来たんだ。 ニコニコしながら、手紙を以てね。





「聖女ソフィア様、ネクサリオ=ガムデン伯爵様より、面談のお願いが参りました。 此方に書状が」


「ありがとう、ブリンクさん。 そうそう、此方の方々が、今回 エルガンルース王国から見えられた、「百年条約」更新の為の使節団の方達です。 何かとお願いする事が有ると思いますが、宜しくお願いしますね」


「はい、ソフィア様! 喜んで!  わたくし、魔法薬局、【カロンガロン】カロン支店のブリンクと申します。 薬品、薬剤、物資でお困りであれば、何なりとお申し出ください。 正当な対価で御売りいたします。 ご用命の際には、” ブリンク ” の名前をお出しいただければ、幸いに御座います」





 レプラカン族のブリンクさんの流暢なエルガンルース王国語。 ほら、彼等は必要だと思ったら、必死に勉強するもん。 会話がきちんと成立する事が、正当な商売の第一歩だと、知ってるし。 


 丁寧に頭を下げるブリンクさん。 目を丸くしながら、応えようとするも、言葉が出ない皆さん。 まぁ、仕方ないよね。 魔物が理性ある言葉をしゃべってんの、初めて見ると、そうなるって。 私だってそうだったもん。 【妖魔の目】で見たら、彼等はそのまま、種族の特徴を曝け出してるからね。 きっと、外に出たら、驚くぞぉ~~~。 


 私が、一番最初に、この地に来て、いきなり、死を覚悟した時みたいねぇ~~~~。


 ブリンクさんからの手紙を受け取り、差出人を確認する。


 ブリンクさんの云った通り、ガムデン伯爵からだった。 封蝋を切り、手紙を取り出す。 正式なお願いだった。 何時もの喫茶店に来てほしいんだって。 使節団の方々も一緒にってさ。 


 さて、忙しくなって来たよ。


 ブリンクさんにお願いして、詰所前の荷馬車を一番いい宿に回してもらう事にしたの。 みんなのお宿は、其処にする。 高いけど、白金貨一枚を渡して、予約と前払いに当てて貰うよ。 ほら、王子様と、高位貴族の面々だから、木賃宿って訳に行かないでしょ?


 あとで、行くから宜しくねって、言ってから、皆を連れて ガムデン伯爵の元に向かったんだ。



            きっと審問方法の確認だよ。


               間違いない。


            私をいれて、五人しかいなもん。


           なんか、きっと考えてくれたんだよ。






              春の温かい日差しと、






             爽やかな風が頬を撫でる中。






              何時もの喫茶店まで、






           ガムデン伯爵様にお逢いしに行ったんだ。









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