第134話 転移門に灯る、希望の灯
理力を使った、超長距離 ” お念話 ”
理力の体内総量が上がったのか、かなり長話出来る様になって来たんだ。 ある意味鍛錬を積んでるって訳よね。 だって、毎回ほぼ、理力が限界まで削れ込むまで、お話してるんだもん。
理力の総量も膨らんできた事だし、行けるかと思って、御父様とか、サリュート殿下へ、お念話してみたんだけど、所在が漠然とし過ぎてて、念話機が、相手を発見できなかったの。
” ご指定のお相手の 『 所在 』 が、掴めません。 超長距離の為、ご指定のお相手の、『 正確な場所 』の特定が必要です。 また、ご指定の地域は、超長距離の為、お支払い頂く魔力総量は、現在の通話の使用履歴の約20倍以上必要となる事を、あらかじめご了承ください ”
だって……。
無理っすよ……、 場所の特定なんて……。 何処にいるか判んないもの。 ミャーは事前に《ノルデン大王国》のユキーラ姫の所に行って欲しいって、お願いしてたらか、なんとかなったけど……。
流石に……、それに、今の二十倍とか……無理よ……。 理力使ったって……無理だよ……。 なまじっか、繋がったっても、「こんばんは!」 で、通話終了だよ……。 だから、御父様にだけは、ミャーから伝言を頼んだの。
私が生きてオブリビオンに居るという事を、エロ爺には、伝えたくなかったしね。 それに、知ったら知ったで、また あのエロ爺が、何を企むか判ったもんじゃないからねぇ。
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ミャーとのお話は、回を追うごとに込み入って、複雑になっていくんだ。 でも、彼女なりによく整理して話してくれているから、エルガンルース王国の現状と、サリュート殿下のトンデモナイ状況が手に取る様に判るんだよ。
理力の回復に掛かる時間から、超長距離お念話は、月に一回のペースになるんだ。 この超長距離念話での情報収集の結果、集まった情報ってのが……、
〇 【蒼天月】 に、分かった事。
サリュート殿下の周囲から、文官武官を問わず、人員が大幅に削減されているって。 特に、「百年条約」更新の為の使節団をと、公式に国王陛下に願い出てから、完全に干されてしまった状態なんだって。 形ばかりは、サリュート殿下に、使節団の編成を御下命されてたけれどね。 実際に動く人が居ない様なのよ……。ミャーが大きな溜息と共に言ってた。
” 全ては、あの公爵様の、差し金です。 裏は取ってあります ”
ってさ……。
別の重大情報にさぁ、……第二王子ダグラス殿下が、婚約者をほぼ決めたんだって。
その栄誉ある方の御名前は……、
ソフィア=エレクトア=マジェスタ公爵令嬢。
だってさ。 まぁ、そうなるだろうよ。 で、傍らには、何時も「森の民」の侍女。 あのエロ爺が【変化】した奴ね。 ついでに、《ガンクート帝国》の帝国至高教会の「聖女」様もくっ付いてるってさ。 ミャーの見立てだと、本格的にダグラス殿下を『傀儡』にするつもりらしいんだ。 ダグラス殿下の周りも、マジェスタ公爵の手の者で固めたって。
偽物ソフィアは、「世界の意思」を、トレースするだけじゃなくって、マジェスタ公爵にも手の内を曝け出して、協力を得た様なのよ。 マジェスタ公爵の動きが、だんだんと派手になっていったんだって。 エルガンルースをいいように弄ぶつもりマンマンって所かしら。
〇 【鏡祭月】 に、分かった事。
サリュート殿下が願い出ていた、「百年条約」更新締結使節団に、近衛騎士団の投入が正式に拒否されたんだと。 申請を出したのが、【愛逢月】だったら、一、二、三…… そうね、三ヶ月。 熟考して、出した答えがこれじゃぁね……。
御答えを出されたのが、国王陛下様ってんだから、どうなのよ? 御自分ではオブリビオンには行かないくせに、人員すら出さないって……。 って怒ったら、全ての手配は、やっぱり、あの公爵様がしてたんだって。
今の国王陛下は、完全に傀儡に成り下がって、内務、外務を問わず 国政を取り仕切る事も出来ていないんだって。 一人、頑張っているのが、サリュート殿下。 使節団編成に手間取ってるんだけど、彼の ” お仕事 ” は、それだけじゃ無いんだよ。
何にもしない、国王陛下の代わりに持ち込まれる、細々とした国政に関する案件を、必死に捌いてるんだって……。 手廻りの人達も、相当疲弊してるってね。 相当な噂に成ってるんだって。 只でさえ、膨大な仕事量なのに、使える人員を引き抜かれてるんだって……。
で、ミャー曰く、盾の男爵家の面々が、陰からのサポートを始めたんだそうよ。 真摯な彼の態度と実績を、御父様を含め、盾の男爵家の人達が認めたという事ね。 ちょっとは、動けるかもしれないね、サリュート殿下。
〇 【精霊月】 に、分かった事。
ついに痺れを切らした、サリュート殿下が、使節団を公募したんだと。 ” 我と思わんものは、魔族領での試練を受け、百年の平穏をこの手に入れようではないか! ” ってね。 う~ん、無茶なさるね……
エルガンルース王国の現状は、あの公爵様が牛耳って居られるんでしょ? そんな中、敢えて「火中の栗を拾う」ような事、事なかれ主義の貴族様とか、骨抜きに成ってる「近衛騎士」の面々とかがすると思える? まず、無理っしょ……。
案の定、捗捗しくないんだと。 裏で、盾の男爵家の皆様が、色々と動いておられるんだけど、目立つと潰されるから、オモテだっては、動けないんだ。 残念なことにね。
で、サリュート殿下、偽物ソフィアにも、「証人官」として、使節団入りを要請したんだけど、あっさり断られたんだって。 あの公爵閣下に……。
” 我が家の大切な姫を、魔族の領域に連れて行かれると? 気は確かですかな? ”
大勢の貴族の居る前で、やられたらしいんだ。 前々からの約束が、有ったんだけどねぇ……。 勿論、あのエルフの侍女も、大反対したらしいよ? だって、偽物ソフィアが行くなら、侍女も付いて行かなきゃならんでしょ? 絶対に行かねぇよ、あのエロ爺は!
ミャーが小耳に挟んだんだけど……、 使節団入りした人が一人いるらしい。 表立っては、公言してはいなんだけど、たぶんって話。
――― マクレガー=エイダス=レクサス子爵 ―――
見習い騎士だけど、その戦闘力は折り紙付きだって……。 しっかし、その話が本当なら、良いのかなぁ……。 だって、マクレガーって、ダグラス王子の取巻きだったでしょ? その決断で、楯突く感じにならないのかなぁ……。
〇 【氷雪月】 に、分かった事。
いよいよ、サリュート殿下が腹括ったみたいね。 ミャーからのお話だと、必死に「証人官」探してるんだって。 もう、正規の「証人官」に拘らないらしいのよ。 それも、エルガンルース王国の人じゃ無くてもいいって感じ。 三大国の外交官の方々に、お願いしてるんだって……。
お返事は……、芳しくないね。 ほら、《ノルデン大王国》での、三大国の条約調印式有ったでしょ? あれが原因。 ” 独力で、「百年条約」を調印するのが、お約束の筈です ” ってね。
ダーストラ様が苦笑いと共に、ミャーにお話下さったんだって。 はぁ…… 孤立無援ってこの事よね。 言ってみれば、銀行団に売上げ上げたら、融資して上げるよって、言われてるみたいなモノよ。 実際、その融資が無けりゃ、新規事業も立ちあげられなくて、売り上げ上がんないっツウの! まぁ、無茶振りよね。
いかに、普段からのお付き合いがいかに大事かって事よね……。 噂によると、心労で アンネテーナ妃殿下の具合が悪いらしいの……。 苦労人だからねぇ……、あの方は……。
サリュート殿下は、時間との競争に成って来てるから、雪解けを以て、王家墳墓の谷に入られるらしいの。 ミャーが噂を拾ったって言ってたけど……、 「証人官」については、証人官補で行くらしいの……。 読めるだけってのが、ちょっと不安らしいけどね……。
” さて、だ~れだ! ”
って、ミャーに聴かれたのよ……。 証人官補になれて、豪胆で、国を想う人……。
” その人、文章官の資格も取ったよぉ ”
って、さらにヒントをミャーがくれた。 なんか、とっても、良く知ってるみたいな口振り……
ピンときた。
「エルヴィン=ヨーゼフ=エルグラント子爵……? まさかね」
” 当たり! ソフィアが居なくなってから、無茶苦茶 頑張ってたよ。 此処の学校でも一目を置かれる程にね。 ダーストラ様が、サリュート殿下から、「証人官」の貸し出しを打診された時に、エルグランド子爵に問われたのよ。『エルガンルースの民の為に、賭けて見ぬのか?』ってね。 それで、願い出て、「証人官試験」を受けたんだって。 結果が、「証人官補」合格だって…… やるよね、アイツ。 合格通知を受け取ったら、その足で、エルガンルース王国に帰国されたよ。 大慌てでね……。 あれは、行くね。 うん、絶対に行くよ。 ミャーはそう思う ”
そっかぁ……。 アイツ……、頑張ったんだ……。
〇 【献春月】 に、分かった事。
雪が解けて、王家墳墓の谷に入られたサリュート殿下。 一応、筆頭宮廷魔術師 ハリーダンド=ボルガー=アルファード公爵がくっ付いて、行かれたんだって。 色々と正式に手順を踏んで、鍵穴に魔力を突っ込んだんだけど……、
開門してくれなかったんだって……、 魔力総量が足りずに、転移門の魔方陣を展開出来なかったって所かしら……。 筆頭宮廷魔術師が居るのに? その他にも居たはずなのに? 変だよねぇ……。 通常の魔力を用意するだけなんだよ……。 まぁ、莫大な量が必要って事には変わりないけど……。 それでも、十分な筈だよ?
” アルファード公爵様が、身の危険を感じたらしいの、ソフィア。 かなりの量の魔力を吸われて、恐怖したらしいの……。 筆頭がそう言う状態だから、次席以下も倣っちゃって、結局扉は開かなかったんだって…… ”
うわぁぁぁ、ハリーダンド ” らしい” ちゃぁ ” らしい” ね。 乙女ゲーの、「瑠璃色の幸せ」の時も、今一、弱腰って言うか、……根性がないんだよ、あの人。 ここ一番! って時に限って、腰砕けになるんだ。 そのくせスンゴク、上から目線でね……、 『弱気を挫き、強気に靡く』、小物臭い人なんだよ……。
あぁ~、そうかぁ~~~。 マジェスタ公爵に 「 鼻薬 」 嗅がされてた可能性もあるよね。 サリュート殿下の、「 意地 」 を折れって、そう言う指示かもしれないもん。 まぁ、土壇場に来て、身内の裏切りだもんね。 心折れそうだろうね……。
” 筆頭達は、無理だと断じて、王都エルガムの帰途についたって……。 でも、諦めきれない殿下は、その場に残ったんだって ”
ふ~ん、結構、しぶといね。 鋼の 「心臓と心」の、持ち主だね。
” 王都に帰ったばかりの魔術師が一人、王家墳墓の谷に向かったそうよ。 周囲の制止を振り切って、 『子爵位を剥奪する』って、脅されても、それがどうしたくらいの勢いでね ”
「えっ? それって……まさか……。 マーリン=アレクサス=アルファード子爵?」
” 正解。 ソフィア、あの人と一緒に、賢者 エスカフローネ=ウッダート様が此方に来たんだ。 でね、言われたんだって、『精霊様の御意思と、貴方の信念の赴くままに』って ”
「……ミャー、その話は誰から?」
” 御当主様。 御当主様が、グラーフ=ネール=テラノ男爵令息と、クラベジーナ=ナスシズ=ファルクス伯爵令嬢のお家の方から、御聞きになった情報なんだって ”
グラーフ=ネール=テラノ男爵子息って言うと……、 ドロテアの御兄さまね。 それと、宮廷侍女さん達の元締めたる、ファルクス伯爵家からの情報かぁ……。 確度は高いね。 と、すると……、 あの方も一緒に付いて行っちゃったかな?
「ねぇ、ミャー……。 もしかして、フリュニエ=リリー=フォールション伯爵令嬢 も、御一緒に?」
” 外れ。 一人で、王家墳墓の谷に向かわれたそうよ。 フリュニエ様を危険にさらすわけには行かないって。 それに、「子爵位を剥奪」って事に成れば、当然貴族籍を抜かれるから、そんな自分に付いて来る必要は無いってさ。 ご婚約も解消されたって……。 フォールション伯爵は、フリュニエ様を、軟禁同様の状態にされているらしいよ……。 そうしないと、マーリン様の所に飛んでっちゃうかららしい…… ”
アイツも……行ったのか……。 何かしらの成果はあったんだ。 王家墳墓の谷に行く事の意味くらい、アイツなら、判る筈だし……。 そっか……、 賢者 エスカフローネ=ウッダート様が、お許しになるくらい……偉大な魔術師に成れたんだ……。 それにしても、フリュニエ様……、行動的になったもんだねぇ。 愛は…偉大だねぇ……。
つまりは……、
「君と何時までも」のシナリオでは、もうこの世には居ない筈の連中が、サリュート殿下の元に向かったって事だよね。 まるで、「世界の意思」に抗うかの様な人選だね。 この抗う人達の力が、ドンダケ強いか。 人を、国を、そして、世界の理を想う気持ちが、どれだけのモノか。 存分に見せつけようよ。 この世界を壊す人達に。 抗って、抗って、抗って……、 決められた未来なんかクソ喰らえだ!
見せ付けよう! この世界に生きる私達の力を!!
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そして、【恵風月】初日……、
転移門のレリーフに、光が灯ったの。
紛れも無く、それは……、
エルガンルース王国からの使節団が、
彼方の転移門を開く為の、
「 魔力 」 の注入に成功した、
証だったの……。