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第133話 故郷の闇、ソフィアの祈り

 

 魔人族の貴族であり、「試練の南城壁」の駐在武官である、南部審問軍団の司令官。



     ネクサリオ=ガムデン伯爵様。



 最初にお逢いしたのは、たしか、ハヌカの街。 【月の牙】だったと思うんだ。 ブリンクさんと一緒に、ルーケル様に逢いに来られた時が、” 初めまして ” だったよね。



      知らない人じゃ無いよ。


   うん、確かに、知らない人じゃない。 



 でもさぁ、こんなに近しい人では、無かったように思うんだよ。 ガムデン伯爵様は、南部審問軍団の最高司令官なんでしょ? カロンの街でもそう聞いてたよ? 泣く子も黙る審問官の中でも、権威と実力は右に出る者は居ないって……。 転移門詰所の人達も、口を揃えて、そう言ってたよ?




 そんな、偉い人が……。 なんで……。




 私の前で、甘い甘いパフェ食べながら寛いでんの?




 お気に入りの喫茶店の、レテの大河を一望できるテラスで、同席を求められて、散々恐縮した私のこと舐めてんの? 面白がってんの? なんなの? まったく!!





「 「聖女」にして、正規の「証人官」、さらには、「錬金術」を我等に教授される、偉大な「薬師法術士様」が、貴女の事だったとはねぇ 」




 巨大なパフェを頬張りながら、ニコニコと端正な御顔を綻ばせながら、私を見詰めてくるんだ。 【月の牙】でお逢いした時の様な、切羽詰まった殺気に満ちた表情とは真逆の、それこそ、春のお日様の様な、そんな表情なんだよ。



 きっと、オモテになるんだろうなぁ……。 老若男女、貴賤を問わずにね……。





「そのような、大それた敬称を頂いているとは、思いもよりませんわ。 単なる「半妖・・」のソフィアに御座います」


「どこへ行かれても、そう仰るようですね、貴女は! ハッハッハッ!」


「その通りですもの。 ミッドガルド、エルガンルース王国のレーベンシュタイン男爵が娘ですわ。 それ以外の何者でも……」





 キラリンって、ガムデン伯爵様の目が輝いた。 その言葉を待ってたんだよって、御顔に出ていらっしゃいますわよ? 何でしょうか?





「そう、君は良く、エルガンルース王国、レーベンシュタイン男爵の娘と、自称しているね。 時に、聞きたい事があるのだ。 いや、” 教えて欲しい ”か…… ―――エルガンルース王国の、使節団はいつ、どのような規模で、来るのだろうか?」





 大変……難しい事を聞かれるね……。 そりゃ、試練の回廊の南部審問軍団の司令官としては、聞きたい所だろうよ。 どんな規模の、どんな戦士達を帯同して来るのか。 知っておけばそれなりの準備が出来るし、予測を超えていたら、追加の部隊を申請せにゃならないしね。


 でもね……。 どう云ったらいいのかなぁ……? 大変 ” 微妙な問題” でもあるのよ。 多分、出張って来るのは、サリュート殿下だろうね。 いや、それ以外考えらないよ。  国王陛下は、荒事には不向きな性格と能力だしね。 いわゆる ” 恋愛脳 ” で、国王陛下としての評価は……、凡庸と言わざるを得ないんだよ。


 王妃アンネテーナ妃陛下の方が、覚悟が有るとあっちの宮殿の見解も一致している。 アンネテーナ妃陛下は、いい意味で、ディジェーレさんを目標に頑張っていらしたものね。 それが、周囲の皆様に認められていったって事なのよ。


 彼女にとっては、義理の息子に当たるサリュート殿下にも、分け隔てなく接しようと努力されてたし……。 君と何時までもの世界じゃ、サリュート殿下は屈折しまくって、誰とも仲良く無かったけど、私達の住む世界では、積極的に関りを持たれて、妃陛下とも良好な関係を保っていらっしゃるもんね。




 ……問題は、人間関係なのよ。




 アノ ” 恋愛脳 ” 国王陛下に置かれましては、銀箔の仮面を被り続ける、自分の罪の証拠である「サリュート第一王子」より、見目麗しく自分に似た容姿をしている、正妃の息子たる、「ダグラス第二王子」を、皇太子にしたいのよね。 その為には、サリュート殿下は、……どこかの時点で退場してほしいと思って居られるとかなんとか。


 でもさ、「百年条約」の件があるじゃん。 筆頭宮廷魔術のハリーダント=ボルガー=アルファード公爵が、勇者召喚に失敗しちゃったモノだから……、ねぇ……。 現在、成人してて、百年条約の使節団に抜擢できるのは……、 サリュート殿下しか居ない筈なんだよ。




 筈なんだけどねぇ……。 転移門のレリーフは未だ光らず……。




 つまりは、あっちの準備が整っておらず、転移門の魔方陣を展開できていないって事なのよねぇ……。 きっと、すったもんだの真っ最中って事でしょ? 下手すりゃ、来れないかもしれないし……。 時間切れで条約更新が出来なくなるかも……。 《ガングート帝国》辺りは、その辺も狙ってんのかもしれないし……。 


 あぁ、そうか、《エルステルダム》の勢力も、願っているかもね……。 エルガンルース王国の脱落を……。 人類至高とか、魔術師至高とか、そんな世界の理を無視した勢力がねぇ……。 サリュート殿下……、大丈夫かなぁ……。 遠い目をした私を、引きずり戻したのは、ガムデン伯ね。 ええ、微妙な笑顔と共にね。





「いったい、如何ほどの準備をされているのか? ソフィア殿が、彼方に居られた時の事でも良いので、教えて貰えないだろうか?」


「……わたくしも多くは存じ上げません。 ただ、ガムデン伯爵様がお気になさっている、勇猛な騎士団は……、 今のエルガンルース王国には居ないかもしれません」


「どういう事か?」


「はい……。 残念なことに、騎士の階位は其処まで高く無く、偽りでは御座いますが、エルガンルース王国は、ここ暫く大きな戦争事(いくさ事)は御座いませんでした。 綱紀はゆるみ、練度は落ち、志を持つ者は心無き有力者に阻まれ……。 敢えて言わせて貰えば、「骨抜き」に成っていました。 数年で覆るとは、思えません」


「なんと!!!」





 口の周りに、クリームをつけたまま、ビックリされてるよね。 そうさ、私もびっくりだよ。 実戦経験が薄いから、南からの非正規のゲリラ戦にはほとほと手を焼いて、冒険者ギルドにまで手助けを頼むしね。 きっと、マジェスタ大公辺りが南と手を組む為に、色々と横槍入れてんだと思うんだ……。 


 じゃ無かったら、盾の男爵家の御父様が、あんなに悩む必要ないじゃん!





「此度の使節団は、規模が小さいかもしれません。 戦闘、護衛の騎士は動員出来ない可能性すら御座います。 国王陛下がお許しに成らなければ、騎士団は動かせませんし、その陛下はとある一派に抑え込まれている様に見受けられます」





 うん、マジェスタ大公の言いなりの傀儡だもんね、陛下は。 抗っているのは、アンネテーナ妃陛下の方だよね…… ほんと、どうなってんのさ、うちの祖国は!! 





「つまり、動員できたとしても、第一王子直近の近衛のみ……。 それすらも許されないかもしれません」


「……「百年条約」をどう考えているのか?」


「わたくしが、故郷を離れる前ですら、条約離脱派の勢力が増しておりました。 今、どの様な状況に成っているのかは……、正直な所判りませんが、大きく情勢が変わる要素が御座いませんので……、 つまりは、極、少人数での派遣になるやもしれないと……、そう、お応えするしか御座いません」


「……審問に堪え得るか?」


「個人の能力……次第かと。 第一王子殿下がお連れになる方々がきちんと、世界のことわりを知り、勉強し、そして研鑽を積んで居れば、間違いなく審問には答えられましょう」


「……従来の方法での審問とは、行かぬな。 ソフィア殿の言……考慮に入れよう」


「あの……」


「何ですかな?」


「その、使節団にわたくしが参加した場合ですが……」


「ハッハッハッ! 御冗談を!! ソフィア様程の方が、そのような問題を抱えた者達の中に? 私としては、むしろ使節団の責任者と言われた方が、まだ現実味が御座いますな」


「……ですが、わたくしがミッドガルドへ帰還する為に、必要な事でもあるのです」


「なっ! まさか……本気で?」


「ええ、まさしく。 彼の使節団に正規の「証人官」として、参加する事を以前打診されておりました。 まだ、その御約束が生きているとしたら……。 わたくしの方からも是非お願いして、使節団に入れて貰いたく思っております……。 切実に……」


「……これは……しかし……前例が……。いや、困ったぞ……。貴女は、我等が聖女にして、オブリビオンの正規「証人官」として認められておられるし……。 いや、しかし、ミッドガルドの正規の証人官でもあらせられるとなると……、 審問……どうすれば……。 一度、お伺いを立てるしかないか……」





 口元にくっ付いたクリームそのままに、難しい顔をされているね。 威厳とか、そんなの吹っ飛んでるよ……。 まぁ、そんな心配も、サリュート殿下が来れたらの話。 実際、五分だと思うよの……。 だって、時間が掛かり過ぎてるもん。 サリュート殿下は、ご自身がご卒業されたら直ぐに、出発するって仰ってたのに……。


 なんや、かんやで、今はもう【紅染月(ルートリック)】。 王家墳墓の谷に入るには、遅すぎるんだ。 きっと、もう道が凍結を始めてる筈……。 あそこは、エルガンルース王国でも屈指の自然環境が厳しい場所。 雪がチラついてきたら、もう墳墓の谷には近寄れなくなるんだ……。 翌年の 【恵風月(ゼーディン)】に成らないと、谷には入れない。


 時間切れだよ……。 


 残余、一年半。 今から、来年の【恵風月(ゼーディン)】までの約半年の間に、何処まで準備が整うか……。 サリュート殿下の正念場だね。 それはつまり、私の生命線の一つでもあるんだ。 頑張っておくれよ、頼むよ、殿下……。





 ^^^^^^^^





 長距離念話機に噛り付いてる私。


 深夜、人気の無くなった、【カロンガロン】支店のロビーにある、長距離念話機の前に椅子を持ってきて占領してんの。



 一応、ローリー様には承諾を得てるよ。 使いますってね。 



 誰にとは言ってないから、多分、【カロンガロン】本店とか、【月の牙】に念話してると思ってるよね、きっと。 


 違うんだけど、敢えて言わない。 言っても信じて貰えないし、理解してもらえないからね。 余計な情報は教えたところで、無意味だもん……。 念話の先は、当然ミャー。



 定期的に、” お念話 ”してるんだ、ミャーと。



 まぁ、理力が溜まるの待って大放出するからね。 この頃ね、このやり方で、理力の絞り出ししてるから、私の「理力」の体内保有量が増大傾向にあるのよ。 なんでわかるかって言うと、ミャーと、お話する時間が伸びて来てるのよ……。


 込み入ったお話するのに、丁度いいの。


 でも、ぶっ倒れるのは、マズいから、こうやって、椅子を準備して、念には念を入れて……。 さて、深夜のお念話タイムだ!!





「ミャー、起きてる?」



 ”もちろん! 待ってた!!! 色々と、お話したい事、溜まってるの”



「私もよ、ミャー。 聴きたい事が沢山あるの。 でも、ミャーの声が聞こえるのが、一番うれしい」



 ”ソフィアに頼られるのは、ミャーの望み。今、最高に嬉しいよ! なんでも聞いて、聞いて!!”





 相変わらず、ミャーは優しい。 うん、ほんと彼女の声を聴くだけでも、この念話には価値が有るんだ。 とってもね。




   エルガンルース王国の、情勢が聞きたかったの。 


  ミャーも、心得たもので、しっかりと調べてくれたのよ。




 手元にメモを持つくらいに、濃密な情報を教えてくれた。 エルガンルース王国の危機的な状況は、手に取る様に判った。


 で、そんな情勢に、疑問が生まれたんだ。 なんか、強制されている様な、操られている様な、そんな気持ちが抜けないのよ……。 誰にって言うか……、強いて言えば……、アレね。


 「世界の意思(ゲームシナリオ)」が、強引にゲーム舞台を組み直した感じがする。 この意思(ゲームシナリオ)って奴、もしかしたら、異世界からの干渉なのかもしれない……。 ほら、沢山の勇者や聖女を他の世界から強引に召喚してるでしょ?


 そのペナルティみたいなモノかもしれない……。 そんな気がして来たんだよ。 だって、余りにも強い強制力なんだもの……。 まるで、歴史の流れを強引に決めるかのような……。 でもさぁ……、 この世界の意思(ゲームシナリオ)」の行き着く先って…… エルガンルース王国の滅亡と、《ガンクート帝国》の帝国至高教会が一人勝ちする世界線なんだよね……。




 ” 人族が世界を制し、全ての生きとし生ける者の上に立つのです。 その上に ” 神 ” が、おわします。 全ては、 ” 神 ” の御意思。 神は間違う事は無いのです。 悪いのは何時も人なのです。 そして、” 神 ” を崇めない者達は、魂の復活も無いのです! 永劫の闇に、汚濁と共に這いずり回るのです! ”




 帝国至高教会の枢機卿でもあった、ドニーチェ=フランシスコ卿が、【処女宮(ヴァルゴ宮)】での御茶会で必死に語っていた事、思い出しちゃったよ……。 この、目に見えない、顕現しない、” 神 ” とやらの、干渉かもしれないって、そう思いついたのは、私が黒の森に入った頃なんだよね。


 自分の写身うつしみを、強引に、聖賢者、ハイエローホのエロ爺に作られた時に、なんか強制力の頸木から、抜けだしたような感じがしたんだ。 要は、私の形が有ればいい……。 そう云われた様な気がしたんだ……。


 だから、決心したんだ……。 ” 報復には、時期がある ” 徒に暴れても、潰されるのが落ちよ。 だったら、根底からひっくり返すつもりで掛からないとね。 そう、私が生き残る為に 全てをひっくり返す事をね―――決心したんだ。 


 ミッドガルドへ戻ったら、色々と暗躍しようと思うの。 その ” 神 ” とやらの、強制力は、後、二年ほどだしね。 あの「君と何時までも」の世界を引きずっているのなら、私が十八歳になるまでだもの……


 それまでに、どれだけ力が付けられるか……、 何を成せるかが……。 問われていると思うのよ。


 だから、足掻くの……、 必死にね。 





 今は、祈らずにはいられない。





 世界を巡る、全ての精霊様……。


 私の故郷、エルガンルースの行く先に闇を置かないでください。


 私に差出せる物が有るのなら、全てを捧げます。





 だから……、





 だから……、






 我等の未来に光を……。








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