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第132話 見出した光明



 




       【炎天月(ゼンゲダル)】の終わり。




    




       揺らめく熱気、湿ったレテの大河からの風。 








 すっかり、カロンの街にも慣れたね。 午前中は、【錬金術士養成講座】を開催して、魔兎族の人達と、錬金の高みを目指してる。 教科書的な物は無いけれど、銀級錬金術師の資格を持ってる私に出来る事は、なんでもする予定。


 今は、魔兎族の人達に、簡易錬金での錬成方法を教えてるんだ。 なに、事は簡単。 旅先とか、出先とかで、珍しい薬草を見つけた時の下拵えなんかする時に重宝する術式なんだ。 完全乾燥させたり、半凍結させて鮮度を保ったり、不純物の除去を施したり……。


 色んな器具を使う、従来の方法を魔法でやっつけちゃうって事なんだよ。 これ、錬金術士の基本的な魔方陣殆ど全部使うから、いい訓練になるんだっ! 手業の鍛錬ってさ、場数を踏めば踏むほど、完成度が高くなるし、一旦手を抜けば、腕は落ちるんだ。


 これを、呼吸()をするように出来れば、回復薬錬成とか、ポーション錬成とかも出来る様になるんだ。 現場の薬師的には十分だと思うよ。 薬師の知識は物凄く沢山持ってらっしゃるから、出来るお薬だって、当然高品質になるしね。





 私も、学ばせてもらっているんだ。

   調合前の薬草の配合とかをね。





 お昼ご飯までは、【カロンガロン】支店の中の調剤室で過ごし、午後からはお出かけする。 いい場所見つけたんだ。 カロンの街の喫茶店。 レテの大河を一望できるテラスが有ってね。 気持ちイイの。 晴れた日は、そのテラスで。 曇ってたり、雨が降ると店内の片隅で、納得のいくまで、過去の文献と記憶に刻み込まれた転移門の規定とを、照らし合わせているんだよ。


 文献は、ローリー様から借りた物とか、転移門詰所から借りた物を読んでいるの。 長い長い歴史の中にはトンデモナイ事例も沢山あった。





 ^^^^^^^^




 過去の大国の記録なんて、ほんとビックリする様な事が書いてあったんだ。 もう数百年も前の話なんだけど、「百年条約」を締結した人が、次代の王になるように取り決めた国があったのよ。 それで、お定まりの後継者争いが発生しててね……


 使節団として、第一王子が責任者でオブリビオンに来てる時に、第二王子がその国の墳墓にあった、ミッドガルド側の転移門を大規模魔法でぶっ壊したって事があったのよ。 当然、転移の道は崩壊するわよね……。 こっちに来てた第一王子の使節団は恐慌状態に陥ったんだって。


 何人もの発狂者が出て、諮問が継続出来ないって、オブリビオン側では、判断されたそうね。 武力による審問は、中止。 使節団の一行は、魔族の人達の見守る中、「試練の回廊」を進んで行ったんだって。 でもね、第一王子が連れて来た人員の八割方が、自滅して「試練の回廊」の土になったと、記録にはあるの。 その時帯同していた渡り人も、発狂した人の手によって……儚くなって……。 


 全責任を負う、第一王子はそれでも何とか、跳躍門に辿り着いたらしいんだけど、「百年条約」の延長に必要な人員が揃わなくて、結局条約更新は出来なかった。 跳躍門から先に進めなくなったんだって。 だって、諮問が途中で中止されたからね。 跳躍門に入った使節団が跳躍した先に見たのは……、




     カロンの街の転移門だったんだって……。




 その時になって、転移門の緊急事態対応の魔方陣が発動されてさ、オブリビオンと、ミッドガルドを繋いだんだって……。 きちんと、第一王子が手順を踏んで、あっちとこっちを繋いでたから、その魔方陣が発動したらしいのよ……。


 来た時の二割以下の人達の身元と、転移門を抜けてオブリビオンに来た事実があったから、転移門自体が反応してくれたって事ね。 ミッドガルドで修復中の転移門に強制的に道を繋いで、彼等を送り返したそうよ。


 彼方の転移門の魔方陣に、第一王子の魔力が宿っていたのが、出来た理由らしいわ。 転移門の規定に沿って、大規模災害時の送還手順が適用されたらしいのよ。 でもまぁ、「百年条約」は延長出来なかったけどね……。 


 その後、その国からの使節団は来なくなったって……。多分、国自体が滅亡したんじゃないかな? 後継者争いが、血で血を洗う結果になったのは、確かだろうしね。 こっちの記録では、その辺は書いてないから、分かんないよね。 


 ただ、一つ確かな事は、きちんと手順を踏んで居れば、ミッドガルド側の魔方陣が崩壊していても、復路は確保出来るって事と、人員に大きな差が出来ていても、帰る事が出来るって事。





 ^^^^^^^^





 別の事例にも、気になる事があったんだ。 ある国の使節団が、「百年条約」の締結後、オブリビオンで仲間割れしちゃった事があったんだって。 魔王様の所から跳躍門を通り抜けて、「試練の回廊」まで戻った時に、随分と険悪な雰囲気に成ってたんだって……。


 なにか、お気に召さない事があったんだろうね。 その時の、その国の使節団には、最高責任者が二人いたんだって…… 双子の王子様だったらしいんだけどね。 記録には正反対の性格だったって書いてあった。 で、大事な条約を更新締結する所までは、協力してたらしいんだけど、締結後、水面下であった後継者争いに火が付いたって事ね。




 締結に必要だった人達も、真っ二つに分かれてね……。




 跳躍門から、カロンの街に着くまでに、なにか決定的な事があったのかもしれないね。 カロンの街に着いた彼等は、違う宿に泊まって……。より、悪辣な方が、生き残るって事は、歴史が証明しているんだよ。


 二人いる王子の内の片割れとその仲間達が、夜半、闇に紛れて、転移門を抜けてミッドガルドに帰ってしまったんだって。 それだけならいいんだけど、正規の手順を踏んでて、ミッドガルド側の魔方陣が閉じちゃったんだって……。 コレで転移門は完全に道を閉ざし、残されたもう片方の王子とその仲間は、此方に残されちゃったんだ。


 もう、半狂乱に成ってたって記録に有るんだ。 いくら祈ろうが、魔力を提供しようが、転移門の魔方陣は一切を受け付けないんだもの。 きちんとした手順を護って、閉じちゃったもんだから、転移門としてはその回の転移は完結したって事ね。


 あぁ、因みに、全使節団員が全滅しちゃったときは、規定により、自動で道は閉ざされるんだよ。 コレは魔方陣の解析している時に判ったんだ。 【自動閉鎖(オートシャットダウン)】って言う魔方陣が組み込まれていたんだよ。 まぁ、特殊な条件下でしか発動しない様に成ってるけどね。


 残されちゃった王子様達は、幽鬼の様にフラフラして、目には憎悪と怨念の光が宿ったってたって記述にあるんだ。 傍迷惑よね……。 心の傷を癒すクスリなんか無いものね。


 事が解決したのは、別の国の次の使節団が到着した時。 あまり、間を開けずにこっちに来たんだ。 まともな国だったらしいの。 ついでに、その残され人の国とも、国交が有ったらしい。 大層気の毒がってね、その次の国の使節団の責任者が。


 転移門の往来は、本来は一往復が基本なんだけど、責任者に限り、何度でも往復できるんだってね。 人族側もそんな事知らなかった筈なんだけど、次の国の責任者さんが、転移門詰所の事務官さんとか、管理官様とお話になってね。 自分ひとりだったら、何度も往復する事が出来るって知ったんだって。


 で、その残された人々を臨時に雇い入れるという形にして……、 彼の指揮下に置く事によって、帰還の途に就く事が出来たんだって。 半分狂ってた残され王子達は、滂沱の涙を流しながら感謝してたって……。 だろうね……。


 この事例で、わかる事は、別の責任者が認めれば、こっちでもその責任者の庇護下に入る事が出来るって事。 それで、それが認められれば、転移門は別の責任者の責任の下、残され人をミッドガルドへ送り返す事が出来るって事ね。





         コレだ!!!!





 光明が見えた気がした……。 次の使節団が来た時に、御一緒させてもらうってのが、一番現実的ね。 過去の事例を見る限りはそう……。 こっちに来たっていう証明は……。 オブリビオンに来た時に詰所で発行される、「使節団滞在許可書」なんだよね。





       わたし……持ってないよ……。





 これは、詰所の事務官さんとか、管理官様にお尋ねした方が良いよね。 うん、この頃、仲良くなったから、気安く御声掛け出来る様になったんだ。 ちゃんと聞いておこう!


 私の持ってる、「特別滞在許可書」と、「使節団滞在許可書」とがどう違うのか。 そんで、「使節団滞在許可書」ってどうやったら申請できるのかをね。 うん、光明が見えたら、急にお腹がすいて来た。 


 今日は早めに帰って、ローリー様にお話ししながら、晩御飯を御一緒しよう!! 





 ^^^^^^^^





「―――と、言う訳ですの」


「なるほど、ミッドガルドから来る使節団に入れて貰うという事ですね」


「ええ、可能なようです」


「責任者に認めて貰えば、問題は無いと思いますが、あとは、その「滞在許可書」の件ですか」


「ええ、そうですの。 こればっかりは、分りませんし、たとえ、責任者様に御許可頂いて、使節団の一員になりましても、転移門がどう反応するか判りません。 一応、魔方陣の方は精査しておりますが、どうもあいまいな部分でもあるのです」


「たしかに、ミッドガルドから、オブリビオンに来られる方は、ほぼ転移門によるものでしょうし……」


「あら―― その他の方法で来られる方っていらっしゃるのですか?」


「ええ、まぁ……、昔は……」


「??????」


「魔王様が独自で転移魔方陣を構築されて、彼方に飛び、彼方の娘御を攫って来たと、記録に在ります……。 今は、中央会議においての承認が無ければ、たとえ魔王様であっても、転移魔方陣を展開する事は禁忌に成っておりますので……」


「あぁ…… そう言う事でしたの」





 夕飯をローリー様と一緒に食べながら、今日思いついた事を御報告してたんだ。 こっちに来る使節団に入れて貰うって案をね。 概ねいい感触。 あと、ちょっと詰めたい事柄もあるけどね。 





   ” 出来ない事も無い ”





 って、所かしら。 うん、大丈夫だと思う。 いや、思いたいね。 問題は、次の使節団がいつ来るかって事ね。





 ―――思い出したのが、エルガンルース王国の使節団がまだ来てないって事。





 もし、もしさ。 サリュート殿下が当初の計画通り、卒業後すぐこっちに向かわれるとしてたらさ……。 たぶん、もう直ぐ此処にやって来る。 私がソフィアだと認識さえしてくれれば、使節団に入れてくれるかもしんない。 




        でも、懸念は、あるんだよ。



 サリュート殿下の使節団の構成人員についてね。 予想通りなら……きっと、私の偽物が付いて来る筈だからねぇ……。 「百年条約」の使節団としては、何としてでも、” ミッドガルドの正規の「証人官」 ” が、必要だもんねぇ……。 



 となると、ソフィアが二人に成っちゃうよ……。 それに、サリュート殿下が、あっちがホンモノだと思い込んで居たら……。 仲間入りは……絶望的だ!





 問題はソコなんだよねぇ……。




 なんか、前途多難だなぁ……。





 ローリー様は、ニコニコしながら私の話をお聞きくださった。 出来るだけの手助けもして下さる。 でも、ローリー様も、ラミレース様も……、ルーケル様も、そして、アレルア様も、皆、私をオブリビオンに留めておきたいと、そう思われて居るのが、言葉の端々に出てるんだよねぇ……。





 ごめんなさい……。




 私には、帰るべき所があるんです。




 あとは、調べ物の詰めを行いつつ……、




 エルガンルース王国の使節団が……、




 転移門を潜って……、




 ここ、カロンの街に……、













 エルガンルース王国の使節団が、来るのを、待つだけなんだよ!!!









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