第131話 強い気持ち。 折れない心。
夕日が差し込む部屋に、一人きり……。
至った結論に、力が抜けた。
希望を持って、此処まで来たのに……。
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転移門を構成する魔法陣を読み解くと、そこにあったのは、ミッドガルドから、オブリビオンに「百年条約」を、” 結びに来る人族の為だけの” 、魔法と言うのが、痛い程判ったんだ。
この魔方陣を、どうこうするつもりも無いし、自分単独で使おうとかも、思ってない。 やろうと思っても、出来ないんだけどね。 ほら、閲覧のみっていう誓約が掛かってるじゃん。 あれで、どうやったって、この魔方陣を自分のモノにする事は出来ないんだよ。
研鑽を続けて、試行錯誤を極めて、初めて「その端っこ」に、辿り着けるかどうかってのは、分るよ。 本当に、高度な魔方陣なんだよ……。 だから、無駄な事はしない……。
転移門は、その名の通り、門な訳なんだよ。 ミッドガルドの人族が、世界の理……。 精霊様の御意思を尊重し、魔族との相互不可侵条約を締結する為に、オブリビオンにやって来る。 魔王様達に会う前に、激烈な審問を受けるから、相当の戦力も帯同する事になるんだ。
まぁ、言ってみれば、一大国家プロジェクトだよ。 あちらの拠点……、多くは、―――王族の墳墓らしいけど―――、其処にあちらの転移門があるんだ。 壁に刻み込まれた、鍵みたいな感じでね。 リーダーっつうか、責任者が代表で、使節団が通りますって、宣言するんだ。
宣言後は、責任者自らが、その鍵に魔力を流し込んで、門の開門準備をするの。 鍵が目的通り、「百年条約」の締結って事なら、門の鍵は転移門の魔方陣を展開するの。 ただね、この魔方陣の起動には、莫大な魔力が必要なのよ。 到底一人の人間の魔力では、無理だから、幾人もの魔術師が魔力を起動魔方陣に注ぎ込むって、寸法ね。
エルガンルース王国じゃ、その役目は、宮廷魔術師さん達が担ってるんだけど……、記録によると、何人かは再起不能近くまで、自分の魔力を吸い出されるんだって。 だから、無茶苦茶高位の魔術師が、立ち会うって事なのよ。
お願いが通って、起動魔方陣に十分な魔力を注ぎ込めたら、一気に起動させるの。 それまで、支払った ” 魔力 ” の対価を受け取る様に、一気にね……。
そうしないと、魔方陣は発動しないんだよ。
” 人族の能力と、想いを見せよ ”
だもんね……。 審問の一環なんだ……。 だから、彼方側からしか、転移門は開かない様に……、そう、決められているんだよ。 門を潜り抜けらるのは、責任者が認めた者だけ。 そうね、いいかえれば、責任者が、” この人ならば、魔族の審問を潜り抜けられる ” と認めた者だけなんだよ……。
多くの国々で、今も渡り人を帯同させるのは、審問の完遂を目指す為。 渡り人もヒトククリでみれば、「人族」と見なされるからね。 ミッドガルドの召喚魔方陣では、人族以外のモノ、例えば、「魔族」は、召喚出来ない様に成っているらしいんだ。
魔族の ” 渡り人 ” の召喚は、オブリビオンでしか出来ない。 そう言う事に、世界の理は、成っているんだって。 彼方から来るのは、「人族」。 そして、用事を済ませれば、帰って行くのも、「人族」だけなんだよ。
私が、いくら 元人族の ” 半妖 ” だとしても、門を抜けてオブリビオンに来た事実が無ければ、転移門は絶対に反応してくれない。 残され人とは、認めてくんないんだよ……。 こればっかりは、どうにも出来ないんだ。 でもさ、諦めたくはない。 なにか、手が有る筈なんだよ……。 なにか……。
そうさ、絶対に、諦めない!
そうだよ、なにか……、 なにか、手はある筈なんだよ! と言うよりも、信じてる。 今は知られていない方法が、きっとどこかに存在するって、信じてるんだよ。 だから、”きっと、方法は有る ” って、信念をもって、調べ尽くす事にしたんだ。
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転移門の魔方陣は、そういう物だったけれどさぁ……。 なに事にも、運用方法とか、ある訳じゃん。 ハード面では無理っぽそうだったから、今度は、ソフト面で考えようね。 運用方法の抜け道探そうと思うんだ。
ほら、閲覧権限の中に、精霊様達が交わした誓約書が有るのよねぇ……。 私が全てを望んだから、契約の大精霊神様が、それも一緒に閲覧できるように、記憶に刻み付けてくれたんだ。 それは、転移門を運用するにあたっての「 方法 」 ――― つまりは、規定と、マニュアルみたいなモノね。
基本は、
『 あっちから、来る。 こっちは受け入れる。 用事が終わったら、送り返す。』
これだけなんだよ。
だけどね、変な状況になった時の、転移門魔方陣の対応が気になったんだ。 通常ではない事が起こった時の対応をね、知りたくなったの。 そう、例えば、何らかの事情で、使節団の「人族」が、オブリビオンに ” 取り残された ” 場合の対応とかをね。
事例があれば、最高なんだけど…‥
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体調も良くなり、歩き回れるようになった。 ローリー様をはじめ、【カロンガロン】支店の皆さんには、大変なご心配をかけてしまった。 お礼を言って、頭を下げ回ったよ。 特に、ローリー様にはね。
転移門の下でぶっ倒れてから、ずっと心配してくださったもの。
「ソフィア様に何かあれば、本店店主様はもちろんの事、【月の牙】のルーケル様や、メジナスト辺境伯爵様になんとお詫び申し上げてよいか……。 快癒なされて、胸をなでおろしました」
「ご心配おかけいたしました。 本当に、ごめんなさい。 大事になるとは、想いも致しませんでしたの。 転移門は、精霊様に強く護られておられます。 単に ” 魔方陣の閲覧 ” を、申し出ましただけですのに……。 暫くは、転移門には近寄りません。 あの、” 正装 ” も、着用致しませんので、ご安心を」
そう、正規の証人官の装束は、着ているだけで、周囲に圧力を掛けちゃうような代物なんだよ。 ちょっと、着れないよね。 今は、淡いラベンダー色の、ワンピースを着てる。 アレルヤ様が作って下さったモノだよ……。 ほんと、なにから、何まで……、 申し訳ないよ。
私は、是が非でも、ミッドガルドへの帰還方法を、探すつもりだし、なんか、転移門の側を離れてはいけないって、予感がするの。 虫の知らせかな? 結構、この勘は当たるのよ。ここで出来る事は、さっきお部屋で考えてた事。
古文献から、記録から、探し回って、特殊な状況になった場合の、転移門の動きを調べるって事。 幸い、そんな文書やら古文献は、ローリー様が持ってらっしゃるらしい。 いや、取り寄せる方法を、もってらっしゃるのかな? いずれにせよ、お願いすれば、見せていただける。 それと、転移門近くの役所にも、転移門に関する記録が大量に保管されているらしいの。
事実と、精霊様に頭に刻んで頂いた、運用マニュアルとを、比較して私が利用できるような、” 非常事態 ” が何処かにあるかどうかを……調べようと思ったんだ。
で、提案してみたんだ……
「お願いが御座います、ローリー=ベルクライス様」
「改まって、如何致しました?」
「はい……暫く……、 【カロンガロン】カロン支店に置いていただけませんか?」
「ええ……まぁ……。 それは、良いのですが、何故また?」
「お願いが御座います。 ローリー様のお手元にある、転移門に関しての古文献を見せて頂けないでしょうか? 対価は、ここで行っている、皆様への錬金士講座……。 初級では無く、銀級までお教えできます。 ……午前中は、講座を、午後からはわたくしの調べ物に、時間を当てたいと……、そう願う次第で御座います」
「なるほど、知識を対価に、知識を得ようと……。 よろしいですな。 非常に、嬉しいお申し出で御座います。 判りました。 このローリーが引き受けます。 私の持つ文献で有れば、如何なるものでも、お貸しいたしましょう。 また、転移門詰所の者にも、話を付けておきます。 存分になされよ」
「ありがとう! ほんとうに、ありがとう、 ローリー様!!」
交渉は成立したんだ。 そう――― 私は、カロンの【カロンガロン】の臨時職員として、働きながら、帰還への道を探す事が出来る様になったんだよ。
気合入れて、調べるぞ!!!
こんなに、執着したのには、理由があるんだ。 心に引っかかる、事例が一つあるんだ。 それを突っ込んで調べれば、どうにか出来るんじゃないか? ―――そう、思ったんだよ。
ほら、エルガンルース王国の前の使節団。 勇者召喚出来なくて、他の国に借りて、でも、その人逃げ出しちゃったってやつ。 あのあと、ちゃんとミッドガルドに送り返された筈なんだ……。 記録……あるかなぁ。 私と似てるっちゃぁ、似てるんだよね。 参考にならないかなぁ……
あとは、ミッドガルドの使節団を送り出した魔方陣が、なんかの事情でその効力を発揮できなかった場合とかさ……。
色々と考えられるでしょ?
だからさ、希望は捨てて無いんだ。
きっと、抜け穴はある。
そう信じてる。
ちょっと、帰るのが遅くなるかもしれないけれど……、
私は、絶対に帰るんだ!!!