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第127話 レテの大河の畔  カロンの街

 



 レテの大河の畔。 




 魔族と、たまに人族とが居る街。






       【カロン】






 ついに、到着したんだ……。 ミッドガルドへ帰還する為の手掛かりを追い、ついに……。


 人族がこのオブリビオンの大地にその足を踏み出す、最初の街。 唯一、オブリビオンでは、魔力濃度の薄い場所。 此処に在する魔族は巨大な内包魔力を持つ、魔人族か、もしくは、薄い魔力に耐性を持つ特殊な魔物しかいない。


 魔力濃度の薄い土地ならではの、特殊事情による、人選があると、ローリー様は仰られていた。 この街に入って、その事は実感できたんだ。 なんか、懐かしい匂いがするんだ。 魔力濃度が薄いと、土の匂いが、樹々の匂いが、そして、風の匂い迄、違うように感じるんだよ。


「試練の城壁」から、「カロンの街」まで、馬車で三日。 途中野宿で過ごして、街が見えた時に、ローリー様が、街での注意事項をお話下さったのよ。 人族とは極力距離を置く事。 あまり建物の外には出ない事。 人族が何を言っても、聞かない事。


 争いを避けるために、これらの約束事が有るんだって。 ミッドガルドの伝承と、彼方(ミッドガルド)での魔物達の暴れっぷりから、此処(オブリビオン)に来る人族の使節団は、最初から魔物に対して恐怖と憎悪を持っているからって……。 こんなに親切な人達なのにね……。 


 ちょっと考えて見たんだけど、もし、あのままエルガンルース王国に留まってたままだったらさぁ……、 サリュート殿下は、きっと私を百年条約の使節団に加えてたでしょ。 私は、正規の「証人官」だからねぇ。 


 サリュート殿下の命でカロンに一緒に ―――なんの予備知識も、此方の真実も知らず――― 来たとすると……。 まぁ、身の危険をずっと感じるだろうねぇ…… 魔力はミッドガルドよりも濃いし……。 遠目に見える試練の回廊は、更に危険なほどの魔力の濃度だし……。





「現在「カロン」には、人族は居りません。 「百年条約」の更新は、ほぼ終わっています。 あの者達が来るまでならば――― つまりは……今ならば、ご自由に街を出歩けます。 勿論、転移門も含めてです」


「あの者達とは……、 エルガンルース王国の使節団の者達の事でしょうか」


「ええ、エルガンルース王国の態度が決まっておりませんので…… あちらの精霊様になんの報告もされて、いませんので、継続か失効か判らないのです。 それゆえ、備えて待つという判断を致しております」


「「百年条約」の時間切れ失効まで、待つと?」


「はい、その手筈になっております。 あの国は、「勇者」抜きで、試練の回廊を力押しで抜けた唯一の国。 それ故に、準備にも時間がかかっているのかもしれません。 彼等を諮問する南部諮問軍団の被害も甚大となるでしょう。 用心に用心を重ねなければ、十分な諮問を行えません。 しかし、ここ数年、条約の更新を願う国々の使節団が相次いで見えられて……。  つい先日までは、何もかもが不足しておりました。 特に薬品関係が、酷いありさまで……。 しかし、今は十分な量も手に入れられましたし、ポーション類まで在庫が出来ました。 これで、南部諮問軍団への供給も目途が立ちました」


「それは、ようございました」


「あくまでも、備えで有るのですよ」


「エルガンルース王国は、それほどまでに高く評価されて居るのですね」


「ええ、初代ウリューネ=エルガン殿より、全ての代表の方が、一騎当千の強者。 南部諮問軍団、現司令官のネクサリオ=ガムデン伯爵様も、気を張っておいでで御座います」


「わたくしは……。 エルガンルース王国の使節団が見えられるまでは、自由に帰還方法を探してもよい……と?」


「はい、ソフィア様。 存分に。 宿は、私が差配する魔法薬局【カロンガロン】カロン支店をお使い下さい。 部屋は用意させております」


「ありがとうございます。 助かります」


「なんの!」





 渋い執事スタイルの、ローリー様が、素敵な笑顔でお答えくださった。 なんて、親切なんだろう……。 得体の知れない私を受け入れてくれたばかりでなく、きちんと遇してくれるだなんて。 有難いし、感謝しかないね。


 そして、私は、ローリー様と一緒に、カロンの街、 魔法薬局【カロンガロン】の支店に、到着したんだ。






 ^^^^^^






 カロンの街の、魔法薬局【カロンガロン】支店は、対人族向けの品物も数多く手がけていたんだよ。 清浄な水とか、包帯、通常の病気に対する薬……。 なんと、アルコールの類まで置いてあったんだ。 デカいカウンターにいた数人の人が私を見て、なんか言ってるよ。


 ローリー様の一睨みで、口を閉じたけどね。 


 そのまま、ローリー様の執務室に通されて……、 全従業員が集められたのよ……。 うわぁぁぁぁぁ、なによ、私、「なにか」やらかしたの?


 強張った表情の私を横に、ローリー様が、従業員の皆さんに云われたんだ。 





「この度、本店より、「聖女ソフィア」様を我が支店にお迎えする事になった。 皆の者、失礼の無き様に。 ソフィア様は、聖女様と呼ばれる事を本意とされていない。 聖女ソフィア様への呼称は、ソフィア様と統一する。 以後、注意する事。 また、ソフィア様は調剤に関しては、錬金術を使用される。 もし、お前たちの中で聞きたい事が有るのならば、私に申し出よ。 ……お前達も、本店の噂位は聞いておるであろう。 しかし、ソフィア様にはやらねばならない事がある。 全て、私を通す事。 以上だ」


「「「「御意に」」」」





 一人のレプラカン族の男の人が、挙手をしたんだ。 その手を認めると、ローリー様が発言を許された。





「支配人様、聖っ! いえ、すみません。 ソフィア様の寝室で御座いますが、従業員寮と御一緒でも構わないのですか?」


「あぁ、構わぬ。 本店、御店主ラミレース様よりの通達だ。 ” 極力、特別扱いはしないように ” とのな」


「「聖女様」なのにですか?」


「そうだ。 ソフィア様は、ご自身が聖女様では無いと仰るのだ。 一介の「半妖」であると。 その成した行い、なされた成果は、全て精霊様の思し召しであると、そう断言されるのだ。 ならば、我らがとれる対応は、我等と共に歩む「聖なる方」ではなかろうか」


「……まさしく……。 ソフィア様、私の名は、ビリン……。 お店の仕事の許す限り、お世話させて頂きますので、どうぞよろしくお願いいたします」


「こちらこそ、どうぞよしなに。 ソフィア=レーベンシュタインに御座います。 ビリン様」




 わたしの顔をじっと見ている、ビリンさん。 ボソリと呟くように口に出た言葉に、私を大切にしてくれていた人の名前が混じっていたんだ。




「……ブリンクが手紙で云ってた通りの人だ……」


「あの、ブリンク様をご存知なのですか?」


「はい、ブリンクは私の弟に御座います。 きっと、数々のご無礼を働いたと思いますが、何卒お許しを」


「まぁ!! ブリンク様の、兄様ですか! ブリンク様には、一方ならぬお世話をして頂きました。 感謝こそすれ……」


「誠に、有難き御言葉。 ビリン、嬉しく思います」





 喜色を満面に湛え、そのレプラカン族の男の人はそう答えてくれた。 嬉しいだなんて……、ブリンク様には、ターミナーエンデの街から、試練の城塞まで、メッチャクチャお世話になったんだよ? 感謝しか無いよ? その後も、試練の城塞でもずっとお世話してくれてんだんよ? ホントに頭上がらないよ? 


 お兄さんが居たなんて、ちっとも話してくれなかったけどね。 ちぇ~~ にこやかに微笑んで、手を差し出す。 これからよろしくね、の ご挨拶だよ。


 なんか、オロオロしてる。 なんでだ?





「わ、私に御手を?」


「ええ、宜しくお願いしますのご挨拶ですが、いけませんでしたか?」


「私は、レプラカン族……。 汚らわしいと、お思いにならないのですか?」


「何故?」





 小首を傾げて、真面目に聞く。 せっかくお友達に成れそうなのに? おかしいじゃん。 レプラカン族の人の性質は、ブリンクさんで知ってるよ。 だから、大丈夫よ? 


 嘘をつかれたと思うのは、長い目で見ないから。 レプラカン族の人は、やっぱり妖精族だけに、物事の本質を見る目を持ってるんだよ。 なにか、おかしいと感じても、おかしいのは、自分の方だったって、後から気が付くんだよ……。


 だから、お願いよ。 きっと、ココでの生活に、ビリン様の御力は絶対に必要なモノなんだから! お友達に成ってよ!!!





「このなりです…… 人族の方には受けが悪いのは知っております」


「でも、ブリンク様の御兄さまで御座いましょ? なにか、問題でも?」





 後ろで、色んな種族の従業員の方が、爆笑されてたの。 困惑の表情を浮かべる、ビリン様。 なんか、おかしい事、言ったの、私?





「ビリンは、レプラカン族。 その見た目と、目付きで、人族の使節団の者達には遠巻きにされていたのです。 陰で、関わるなとも……。 深く傷ついておりましたが……、 ソフィア様のお言葉で、救われたようですね」





 ローリー様のお言葉に、ビリン様はちょっと涙目になっていたんだ。 そうなんだ…… まぁ、ミッドガルドでのレプラカン族の評判は最悪だものね。 伝承でも、あっちのレプラカンも…… 巧緻に長けた悪巧みと、人族の背面を常に突く厭らしい攻撃をかます、邪悪な妖精…… だったっけな……。





      ミッドガルドではなっ!!! 





 でも、ココはオブリビオン。 皆正気を保ち、強き力を優しき心で包む、誇り高い魔族の人達なんだよ……。


 彼にもう一度、手を差し伸べて、握手を求めるんだ。 本当に、これからよろしくねって。 オズオズとその手を握り返すビリン様。 優しく、力強く握る手に、温かみを感じたんだ。





「宜しくお願いします。 ビリン様」


「こちらこそ、どうぞ、宜しく ” 聖女ソフィア様 ” 」





 ん―――― その呼称は……。 決して、おちゃらけては居ない、真剣な目で見詰められちゃったよ。 ……判ったよ。 貴方の気持ちは。 その誇りを受けます。 本当に宜しくね。





 ^^^^^^





 顔見世を終えて、一応、お部屋にビリン様の案内で下がったの。 【カロンガロン】本店と同じ、清潔なお部屋だったよ。 もう、凄いよねぇ……。 有難いよねぇ……。 ちょっと疲れちゃったんで、調べ物は明日以降としようか。 晩御飯までは、ゆっくりさせてもらうよ。


 部屋にいる間に、カロンの概要について、貰っていた地図を見詰めていた。 東西3リーグ、南北2リーグのこじんまりとした街、カロン。


 街には、防具屋、武器屋、鍛冶屋、魔法薬局、宿屋なんかが整然と並んでいる。 基本市場とか、食べ物を売るお店は無いんだ。 専門職バッカリって聞いていたけど、ここまでとはね。 此処での食事は、宿屋か自宅兼店舗で済ませせるんだ。 食料は、日に一度、ワイバーンの「お届け屋さん」が、運んでくるんだ、町役場にね。


 役場の一番偉い人が、届いた食料を各戸へ分配し、宿屋には注文品が届けられるんだ。 東と西の両「試練の城塞」からの生命線なんだよね。 備蓄は五日分。 水は、各人が【水玉】の魔法を使って出すんだ。 レテの大河の水は、ちょっと飲めないらしい。 どんなに浄化しても、汚染が凄いんだって。 


 なんの汚染か知らんけど、ココの常識じゃ、そうなってるんだ。 絶対ダメ、飲んだら死ぬよって。 人族にも通達がされてるけど、どうもオブリビオン全体がそうだと思われる節が有るんだよ。 私も聴いた事が有るんだ。 ” 命あるモノの生ける土地では無く、その地のモノは決して食べてはならない ” ってね。




 ここ以外は、そんな事無いんだけどねぇ……。 人族がオブリビオンに進攻しない訳だ……。




 街は岬の中程に有るんだ。 そして、問題の転移門が有るのが、岬の先端。 デカい、本当にデカい錬石製の輪っかが岬の先に浮かんでるんだ。 岬の先がその輪っかの下の方にくっ付いてて、ミッドガルドから転移門を開くと、錬石の輪っかにあるレリーフが緑の光を灯すんだって。



 で、魔力の火が ともされた場所から、何処の国からの使節団か判る様に成ってるんだって。



 成る程ね、それでどこに向かう使節団か判るって寸法なんだ。 転移門固定の為に、一度に一国しか転移門に繋がらないらしいの。 あちら側から、魔力を投入して、繋ぐ…… かなりの量の魔力を消費するから、光始めてから、何日も開門するまで掛かるんだって。


 その門を潜り抜けて、使節団が軍を率いてこのカロンの街に到着するって寸法なんだよ。 街には、多くの宿が有るんだ。 でも、人族用のモノで。魔族用の街は本当に こじんまりしてる。 この岬一帯は、精霊様の御加護で、魔力濃度はオブリビオンにしては極端に薄いんだ。 


 だから、人族は正気を保っていられる。 魔族は薄い魔力濃度でも大丈夫な種族とかを厳選して、任務として此処に配属されるらしいのよ。 いわばエリート集団な訳よ。 【認識阻害】の魔法をかけているから、人族には“顔色の悪い人族 ” にしか、見えないんだって……。 超高位の魔法使いには、見破られるらしいけど……。


 そんな場合でも、その人を隔離して、この世界のことわりを説くんだって。 ご納得いただけない場合は、お帰り頂くと。 岬と反対側には、試練の回廊に続くデカい扉があってね。 その向こう側には、跳躍門に続く白い道が延々と続くの。 その道を辿る間に色んな審問が行われる訳なんだけど……、




     主に戦闘でね。




 体力、魔法、意志力、判断力、洞察力、仲間を思いやる気持ち……。 多岐に渡る審問を潜り抜けて、試練の回廊の先にある跳躍門に到着するんだ。 


 でも、人族には大変な試練だよ。 濃い魔力濃度で、周囲の情景は歪み、魔族は恐ろしい姿に見える。 見るモノ全てが、襲い掛かる敵に見える。 発狂する人族が続出するくらいね……。




 視界さえまともなら、単に口頭試問と、命を懸けない試合だけで、試練が終わるんだけどねぇ……。




 私には、【妖魔の目】があるから、問題は全くないし、普通に見える。 ご飯だって、こっちのものを美味しく頂ける。 魔族の人達は皆さん親切だし、こうやって快適な宿さえ用意してもらえている……。




 なんか、本格的に、「魔族」になった気分だよ……。 でも、「半妖」なんだよねぇ……私って。




 ミッドガルドに帰ったら、私は人族ではないから……、 やっぱり、石持って追われるのかなぁ……。 嫌だなぁ……。 「ノルデン大王国」のサラーム=ノイエ=ノルデン大王妃様は、私が「半妖」になった事を御存知だし、妖紋印の対策として、魔法を付与した眼鏡までご用意してくださったんだよ。




 でも……あれ、こっちに飛ばされる前に、黒の森の入り口の小屋で取り上げられてたんだ……。 まぁ、ソフィアの記号みたいに成ってたからねぇ……。




 やっぱり、ミッドガルドに帰ったら、直接故郷に帰らず、ミャーの元に行く。 そんで、多分、ミャーが持ってる筈の予備の眼鏡を出してもらおう……。 何だったら、大王妃様に作り方教えて貰ってもいい。




 このままじゃ……多分、私が討伐対象に成っちゃうよ……。




   帰っても、大変な事になりそうね。




          こなくそぉ~~~!




              やってられるかぁ~~~~~!







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