第125話 故郷の情勢、帰還への道標
毎日の忙しさに、時間を忘れていたんだ。
朝起きて、シャワーを浴びて、目を覚まし、朝食の後は、ラミレース様の執務室で経理業務。 お昼ご飯をラミレース様と ご一緒して、昼からは、【錬金術士養成教室】を、倉庫 兼 調剤室で開催。 夜ご飯を食べらた、疲れ切って、ベッドに倒れ込むように、眠る。
そんな毎日だったんだ。 ラミレース様は良く何処かに行って居なかったし、魔兎族の人達は、離してくれない。 ミッドガルドへの帰還方法を探ろうと思っても、その時間と心の余裕が無いんだよ……。
ついに、【授雲月】も今日で終わり……。
そう言えば、去年も、進級試験受けて無いよ……。 このままじゃぁ、卒業できないよね……。 まぁ、関係なくなってる感じだし、卒業資格貰っても、役に立たなさそうだし、いいよね。
みんな……五年生に進級できたかなぁ……。 そう言えば、サリュート殿下、ご卒業だったよねぇ……。 王族の方がご卒業される時には、デカいパーティが、王宮で行われるんだけど…… 有ったのかなぁ……。 まぁ、『君と何時までも』の本編開始の時だから、きっと、有ったんだろうねぇ……。
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『君と何時までも』では、サリュート殿下のご卒業記念パーティが、ゲームスタートだったんだよねぇ。 人物紹介とか、会話選択とかでルートが決まる、そんなパーティだったよね。 でも、状況は大分違う筈。 エルヴィンも、マクレガーも、マーリンもまだ、排除されてない。
多分、今頃は王都エルガムに帰還してる筈だし……。 それぞれの御婚約者さん達と仲良くやってる筈だもんね。
王宮に伺候できる、ダグラス王子の御婚約者候補は―――――
コローナ伯爵家に戻されちゃってる、
ソーニア = マルグレッド = コローナ 伯爵令嬢。
宮廷魔術師を父親に持つ、
キャメリア = デイジナ = フィランギ 侯爵令嬢 。
王族、及び、貴族の事情通な御家柄の、
クラベジーナ = ナスシズ = ファルクス 伯爵令嬢。
あと、私の偽物……、
ソフィア = エレクトア = マジェスタ 公爵令嬢。
の四人に絞られてる訳かぁ。 でもって、クラベジーナは、無いな……。 アレは無い。 ルート的にもかなり困難だし、第一、シナリオでは、ソフィアの策略を見破る立場だしねぇ……。 本人不在じゃ、あの方は寝てるね。 そんで、どの勢力が一番権力に近いかを、計っているんだ。 そうやって今日まで生き残って来た家系の人だからねぇ。
キャメリアも……無いな。 フィランギ侯爵が全く乗り気でなかったとのと、色恋沙汰を嫌う彼女が、ダグラス王子に自分から近寄るとは思えないし、よしんば近寄っても、『いいお友達』関係が関の山だもんね。
ソーニアは…… 確執が有り過ぎるだろ。 マジェスタ公爵に手駒にされて、使えないって判断されて、生家に逆戻り。 チョロインだけど、もう王家に関わるのこりごりだって、思っている筈。 翻弄され過ぎだよね。 私だったら、一切合切を白紙化するよ。
宰相府は体裁を整えるために、辞退は認めないだろうけどね……。 で、その取り巻きと言うか、お付きの侍女として、寄子家系の伯爵家令嬢、子爵家令嬢、男爵家令嬢がウジャウジャ取巻いてる筈。 彼女達の手前、そう簡単にはご辞退出来やしねぇしな……。
なんか、メンバーにパンチ力が無いね。 シナリオ通りだったら、此処に三人追加される筈だったもんね、強烈なのが。
エルヴィンの婚約者。
アマリリス = ローザ = カトラス 侯爵令嬢。
マクレガーの婚約者。
フローラ = フラン = バルゲル 伯爵令嬢。
マーリンの婚約者。
フリュニエ = リリー = フォールション 伯爵令嬢。
行動力が有って、頭良くって、貴族の矜持をたっぷり持っていて、困難な状況でも決してあきらめない忍耐力もある、強烈な個性の持ち主たち。 シナリオ通りなら、彼女達の婚約者は、ソフィアの策略でこの世には存在していない筈だったんだよね。 でも、今は違うもの。
そうなると、ルートはたった一人に絞られてくるんだよね……。 そう、私の偽物。 ダグラス王子の婚約者に一番近くなるのは、
” ソフィア = エレクトア = マジェスタ 公爵令嬢 ”
ソフィアが、ダグラス王子の婚約者となるルートは、シナリオの中にも存在する。 ただし、モチベーションの在りかとか、背後関係は全く異なるけどね。 偽物の背後に居るのは、森の賢者ことハイエローホ様。 だって、アノ偽物は、あの人が作り出した【自動人形】だもんね。
ん―― っと。
エルガンルース王国を支配しようとする勢力が二つって事かぁ。 正妃様の御子で在られる、ダグラス第二王子が、次代の王座に最も近いと、宮廷では噂されてたよね。 ダグラス王子は、側妃の御子で在らせられる、サリュート兄王子には、一目を置いておられたけど……。 周りが持ち上げてたもんなぁ……。 素直で扱いやすいし……。
傀儡には持って来いな、そんな人物なんだよねぇ、『ダグラス王子』って人は……。
彼は、自分で考えている様な顔して、周りの意見に滅茶苦茶流されるんだよ。 あっちへフラフラ、こっちへフラフラ……。 プレイヤーキャラだったらか、よくわかるんだよ。 まぁ、そんな選択肢しか出なかったんだけどね。
もう一人、居たね、そう言えば……、
” 聖女様 ”
ガングート帝国から…… 正確に言えば、帝国至高教会からの甘い毒が。 ダグラス王子は二重に利用されようとしているんだよねぇ。 本人はどうかと思うけど、アンネテーナ妃殿下様辺りは、気が付いてんじゃないかな? なにせ、この世界の現実に目覚めちゃってるしね。 サリュート殿下と手を組んだって事はそう言う事でしょ?
なんか、ハイエローホ様と、帝国至高教会が、一つの果実を狙って奪い合ってる様なそんな図式に見えるよね。 で、その両方に恩を売って、漁夫の利を得ようと画策してんのが、我が叔父様、
――― マジェスタ公爵閣下 ―――
なんだよねぇ……。
まぁ、どれも、似たり寄ったりの『同じ穴の狢』って感じなんだ、私にとってはね。
三つ巴戦、真ん中にダグラス王子を象徴とした、エルガンルース王国……。 内憂外患にして、崩壊寸前の均衡って所かしら? 外から見てる分には、良いとして、エルガンルース王国国民としては、どうにかならんもんかと、そう思うよ。
きっと、盾の男爵家の人達もヤキモキしてんじゃないかなぁ~~? まぁ、アノ御父様が何もしてない筈は無いんだけどね。 御父様はなんだかんだ言っても、やっぱり エルガンズの一員だし、ミャーから私が生きているって知らせも行ってる筈だから……。
多分、サリュート殿下に付くね。 で、機会を見計らってる……。 と、思いたいよ。
まぁ、何にせよ、オブリビオンに居る限り、私には何の手も打てないから……。 こればっかりは仕方ないよね。 うん、仕方ない。
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【炎天月】初日……
ついに、ラミレース様からお話があったのよ。 ついにね。
朝、何時ものように、執務室に向かうと、妙に神妙な顔をしているラミレース様が居られたんだ。 今日の仕事はしなくていいって言われて、応接室に促されたんだ。 お話が有るんだと。 それは、私がお願いした事だろうと、当たりを付けて、オトナシク、ラミレース様に続いたんだ。
「ソフィア様のお願いの件について、私自身が調べました。 此方に……」
応接セットのソファに腰を下ろして、お話を伺う準備をしたんだ。 なんか、深刻そうな顔をしているんだよ。 悪い予感がする……
「私よりも、この件について、詳細を知っている者を呼びました。 魔法薬局【カロンガロン】 カロン支店の責任者。 名をローリー=ベルクライス、魔人族の薬師です。 カロンの街と、転移門について彼より知る者は居ません。 私もある程度は、知っていますけど……、 不確かな事が多くて。 彼なら、きちんと教えてくれる筈なの」
「有難うございます。 その……ローリー=ベルクライス様と、言うのはどういった御方なのですか?」
「ええ、長く、カロン支店を差配している、魔法薬局【カロンガロン】の知恵袋みたいな方です……。 いらしたみたい」
トン
トン
トン
ミッドガルドへ帰還できる期待と、
何となく感じる悪い予感が綯交ぜになるなか、
応接の扉をノックする音が、
聞こえたんだ。




