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第124話 進まない足取り

 





 城壁都市、「試練の城壁」。 石畳の街。 巨大空洞の中にある街。 



 そんな街に、早く馴染めるようにと、街を歩いたの。





 城壁内にある街なのよ。 城壁自体が変形ゴーレムで作り上げられている、ぶっ飛んだ場所なんだ。 何もかもが、私の知ってる街じゃないのよ。 ゴーレムさんに囲まれた巨大空洞の中に、街が有るんだもの。 天井まで、有るんだよ……。


 耐衝撃、耐魔法においては、万全の安全性を保持していると言っても、過言ではないわ。 中に住んでる人も、道徳心と、穏やかな心根の人達ばかりみたいなのよ。 大通りで、喧嘩してる人も居ないし、衛士さんも極めて少数しかいない……。 って言うかいないんじゃないの?


 案内役を務めてくれた、ブリンクさんが言うには……。





「魔人領、南辺の辺境ですが、治安は随一だと思います。 此処に住む人は、全員、南部諮問軍団のお世話に必要な ”特別な資格 ” を、持っている人ばかりですから」


「そうなんですか……? 酒場も、その……し、娼館も?」


「ええ。 真面目な話、ココより厳しい任務地は有りませんから、兵士、指揮官の方々の生活面を支えるのが役目ですからね。 「試練の城塞」の街は、彼等が唯一心休まる場所と言えます。 そんな場所で、騒ぎなんて起こせませんよ」


「左様でございましたか……。 人族領域の最前線とはずいぶんと趣が異なりますね」


「と、いうと?」


「ええ、人族の領域での、最前線近くの街は、もっとこう……殺伐としておりまして、決して治安も良くありません。 無許可の商店が立ち並び、スラム街と化しております。 当然、犯罪の温床となりますので、定期的に排除するのですが、根絶出来る様なモノではございませんね」


「……それは、また……厄介な」


「人族の性分なのでしょう」





 なんだか、とっても恥ずかしくなったよ。 この街の人達は押し並べて親切だし、困った事が有っても、直ぐに手を貸してくれる。 その辺りをうろついてる、兵士の人達も粗野な感じは全くしないし、指揮官の人に至っては、気品すら感じるんだ。


 一通り、街を案内されて必要なモノを何処で手に入れるかも、教えてもらった後、魔法薬局【カロンガロン】に戻ったんだよ。





 ^^^^^^





 到着してから、【カロンガロン】にお部屋が借りられるように、【月の牙】のルーケル様が話を通してくださっててね、ほんとに快適。 シャワーも有るし、ご飯も美味しいし、皆親切だし。 こんなにして貰って、本当に有難かったんだ。




 「お礼」を、しようと思ってね、ラミレース様に聴いてみたんだ。




 店長のお部屋。 デカい執務机に、書類が山に成ってた。 その向こう側に、書類と格闘している店主様が座って居られたよ。 あぁ、勿論、この部屋に入るのには、ラミーレス様の許可が居るんだけど、私にはフリーパスって事に成ってた。 


 何でだ? まぁ、いいか。 きっとそれも、何かの特典なんだろうしね。 あちこちでやらかした、賜物? みたいな? 【信義には信義を】って事で、なにかお手伝いする事は無いなかなぁ って思ってね。





「ラミレース様、御邪魔します」


「ソフィア様……。 済まないが、もうちょっと後にして貰えないか? 執務が滞っていてね。 ……手が足りないんだ」


「何でしたら、お手伝い致しましょうか? 資料まとめとか、記帳などの事務仕事は、メジナスト辺境伯のお屋敷でも、お手伝いさせて貰いましたし……、 可能かと」


「!!! それは、有難いお申し出!!! た、対価には何を?」


「はい、オブリビオンから、ミッドガルドへ戻る方法、もしくは、その情報をお教えいただければ、有難いのですが……」


「判りました。 私も良く知りませんが、伝手を辿って、調べてみます。 ……でも、そんな事で良いのですか?」


「勿論!! わたくしが、カロンの街を目指しましたのも、その為に御座います。 どうぞ、お願い申し上げます!!」





 ちょっと食い気味に、お願いしたんだ。 ヘラリって笑われた。 いい笑顔ね。 直ぐに事務机と椅子が用意されて、ラミレース様の執務机の書類の半分を押し付けられたよ。 あぁ……、 帳簿ね。 貯めると、思いっきり大変になる奴……。 


 いいよ、やるよ。 さぁ、掛かって来いよ! 三十路手前の、「ベテラン OL(お局様)」の底力を、見せてあげるよ! 大体の事は出来るからね! さてと!!!


 腕まくりして、計算と台帳作り、記帳、確認、まぁやってる事は、経理事務だよね。 ウフフフ、懐かしいって感覚が浮かび上がって来る。 そう言えば、決算期は増援によく狩り出されてたもんね。 夜遅くまで、終電間際まで、残業代なしでねっ! 


 とんだブラックだよね。 まぁ、あの人と一緒に帰れたのが、嬉しかったけどね。





 ^^^^^^^




 一週間もすれば、あらかた片付いたんだ。 しっちゃかめっちゃかだった、経理関連、すっきりしたよ。 なんか、ラミレース様の視線が痛い。 と言うより、なにこの熱視線。 なんか、子犬みたいにキラキラした目で見て来るんだよ。





「ソフィア様は、救世主です。 【カロンガロン】の救いの手です!!!」


「ふ、普通にしていれば、こんなには溜まらない筈ですが?」


「い、忙しくって……。 つ、ついでと言っては、おかしな話ですが、ここに来られた初日に見せて頂いた、「錬金術」に関してなのですが……」


「はい?」


「配下の者が、是非、教えを受けたいと申しておりまして……。 あの時、仰って下さってたでしょ? ” 魔力を練る事が出来る方がいらっしゃれば、お教えする事も可能です ”って。 何時に成ったら許可を出すのかと、突き上げられておりまして……」


「え、ええ……。 わたくしは、何時でも宜しいですが?」


「まぁ! 嬉しい!! 午後からの一時、手解きをお願いしたいわ!!」


「承知いたしました。 この前の所で?」


「ええ、希望するモノを集めておきますわ!!! ありがとう、本当にありがとう!!」





 つまりは、ここでも 『錬金士養成教室』を、開催する運びになったんだよ。 いいけどさぁ…… 私のお願い忘れてないよねぇ…… 頼むよ、ほんとに! 【カロンガロン】の教室希望者の多くが、何故か魔兎族なんだよね。 それも、男性の。 なんでも、お薬作りにとても、才能が有るんだって。


 その上、色々と向上心もあるらしくってね。 いろんな試行錯誤をするんだって。 いいよね、向上心。 既存の知識を元に、色々と変形していくっていう作業は、中々と出来ないもんだし。 通り一辺倒でも、問題ないちゃぁ、問題ない。


 特に、こんな最前線の魔法薬局では、「創造して作り出す」って事より、間違いないモノを作る事に重点が置かれる筈だしねぇ……。 そんな彼等は大変珍しい存在であり、【カロンガロン】では、無くてはならない人材ってことよね。 


 在庫が乏しくなって、作れるお薬の種類が減って、それでも効果の出来るだけ高いモノをって……。 だからさぁ、出来るだけの事をしようと思ったんだよ。


 それから、暫く……。 午前中は、ラミレース様のお仕事のお手伝い。 午後からは、【錬金士養成講座】の先生として、生活してたんだ。 うん、感謝の印としては、働きすぎだと思うけど、ラミレース様の懇願と、魔兎族の人の熱心さに押し流されたのだと思うの。




    後悔はないわ!




^^^^^^^




 そうそう、そう言えば、この【カロンガロン】にも、「念話機」があったんだよ! もっぱら、カロンの街の支店とお話する為に使っているらしいんだけど、お願いして、使ってない時に、私も使わせてもらったんだ。




     そう、ミャーとお話する為にね!!!




 深夜って時間に、ミャーに連絡を取ったの。 今度はお花摘みの最中じゃ無かったよ。 ちゃんと寝室に居たよ。 ほら、ユキーラ姫の専属侍女に成ってるって言ってたじゃん。 だったら、この時間でも、起きてる筈だからね。 





「ミャー、今 大丈夫?」


 ”勿論! ソフィアは、まだ、オブリビオンに居るの?”


「そうなのよ。 頑張って帰る方法探しているんだけど……。 まだ、見つかっていないの。 ゴメンね。 私は……、 ミャーが側に居ないのが寂しいの」


 ”ミャーもそうだよ……。 無茶ばっかりするソフィアが……、 居ないんだもの”


「頑張るよ。 頑張って探すよ。 こっちでは皆に親切にして貰ってるし、身体も強くなったよ……。 魔法も強くなったし……。 ミャーは?」


 ”ミャーは、ユキーラ姫の護衛だよ…… ソフィアと全然違くって、大人しいし、ちゃんと言う事聞いてくれるし……。 こっちの後宮の人達に、色々と教えて貰ってるから、御妃様の侍女にどうかって、話も出てるんだ”


「凄い凄い!! よく頑張ってるねぇ!! 流石だよ、ミャー!!」


 ”褒めて貰うのは、ソフィアからだけで良いんだ、ミャーは。 ……どんな役職貰ったって、ソフィアの側に居る方が良いんだよ…… ”


「ミャー……」


 ”ソフィアが何時帰って来ても良いように、色々と情報の収集はしてる。 偽物の事も含めてね。 アイツ、とうとう、レーベンシュタインから抜け出した”


「どういう事?」


 ” うん、実は…… ”





 ミャーから驚くべき事が知らされたんだ。 私をかたどった、あの自動人形オートマタドール、マジェスタ大公の手に乗せられて、レーベンシュタイン男爵家から、マジェスタ大公家に養女に迎えられたんだって。


 で、名前もちょこっと変わって……




      『 ソフィア=エレクトア=マジェスタ 』




 だってさ。 『君と何時までも』の、” 悪役令嬢 ” が、ここで、まさかの復活。 「世界の意思(シナリオ)」が、さぞかし、喜んだろうね。 でもさぁ、本来の役割じゃないよ。 だって、ダグラス王子の私以外の婚約者候補って……。 ほら、殆どいないじゃん。 


 本筋じゃぁ、側近たちの失態で婚約を白紙化されて、フリーになっている筈の人達が、ダグラス王子の婚約者候補になる筈でしょ。 でも、失態なんかしてないし、ラブラブだし。 つまりは……、 偽物ルート一直線って訳よね……。 でも、そこに南の《ガンクート帝国》の聖女様が、絡んでるでしょ?


 判んないモノねぇ……。 状況は混沌の一途をたどっているんだよねぇ。


 それにさぁ、偽物ソフィアの隣には、何故かいつも「森の民(エルフ族)」の侍女が控えてるんだって。 ミャー曰く、なんか色んな魔法を纏ってるらしいんだって。 


 あぁ…… それは、きっと、アレね。 自動人形オートマタドールに指示出してんだよ。 いくら ” 自動(オート) ” って言っても、完全に私をコピー出来た訳じゃない。 突発的な出来事に対しては、対処できないもの……。 


 状況に対応する為に、術者が側に居るって事よ。 つまり、その侍女は、【変化(モーフィング)】を使っている、あの方って事。 ふーん、何だかねぇ……。



      キナ臭いねぇ……。



「人類至高」と、「魔術至高」かぁ…… 手を組む要素って有るのかなぁ……。 まぁ、尊大で自分の事しか考えなくて、他者を利用しようとする考えは、大体共通してるね。 大協約より、自分達が上だって考えてる所も……。


    帰ったら、一波乱ある感じだねぇ……。 


 それとあと、大森林《 エルステルダム 》 の最奥聖域の「黒の森」だけど…… 完全封鎖されたみたいなのよ。 それはもう、蟻んこ一匹、通さないように、幾重にも幾重にも厳重な結界を結んでね。


 そりゃそうさ、滅茶苦茶魔力が濃いって喧伝してたけど、精霊の御座所が無くなったんだもの、薄らぐさ。 でも、解放したら、露見するじゃん、今までやって来たアレコレがね。 


 はぁ……、 嘘の上塗りしまくりだ事……。 もう、《エルステルダム》も長くないね……。 


 長話ししてるけど……。 コレも、増大した ”理力”のお陰。 でも無尽蔵じゃないから、そろそろ切れる。 名残惜しいけどね。





「ミャー、ありがとう。 色々と教えてくれて……」


 ”ソフィアの為……。 ミャーの為……。 情報の収集は怠らないよ”


「うん、でも気を付けて。 あちらに付け込まれないようにね。」


 ”判った。 ……あと一つ”


「なに?」


 ”サリュート殿下が動き始めた。 今年、卒業だし……百年条約の更新を願い出るみたい ”


「そう……なんだ」


 ” 大勢は、延長なしなんだけど、殿下が躍起になってる ”


「判った、頭に入れて置くよ」


 ” ソフィア…… ”


「なに?」


 ”逢いたい……”


「私もよ、ミャー。 頑張るから。 待ってて」


 ”うん…… ミャーも頑張る。 待ってる”


「また、連絡するわ。 時間は今くらいでいい?」


 ”助かるよ。 その方が”


「判った。 じゃぁ……また……ね」


 ”うん……。 また……ね”





「念話機」を切断したあと……。 暫く、その場に立ち竦んでいたよ……。 


 ミャーは、頑張ってる。 そして、私を待っていてくれている。 私も、頑張るよ。 ちゃんと帰る方法を見つけ出すよ……。 寂しくて……、




    両腕で、身体をしっかりと、抱き締めて……、





    喉から出そうになる、嗚咽を堪えるのに……、










          必死だった。









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