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第123話 不信と、驚愕と……

 




 凛とした声が、馬車溜まりに響く。美しも、綺麗な御声だった。 





「皆は、薬品と薬草を倉庫に。 貴女…… ソフィアさんでしたね。 魔法薬局【カロンガロン】の店主、ラミレースです。 此方に……」





 ラミレース様は冷たい熱視線を、綺麗な赤い目からビームの様に出しながら、私を直視してそう仰ったのよ。 口調も、【火炎の魔女】って言うには、氷点下の温度しか感じられないねぇ。 ふぁぁぁ……、 やっぱり、コレあかん奴だよ……。 


 【月の牙】のルーケル師匠と「何が有った」のかは、知らないけど……。 (まぁ、大体想像つくけど……)初対面の印象、最悪だよねぇ……。 あちらも……私も。





「ラミレース様、お初に御目にかかります。 ” 半妖  ” ソフィア=レーベンシュタインと申します。 どうぞ、よしなに」





 私の「ご挨拶」は サクっと無視して、裏口から【カロンガロン】へと入るのよ。 ブリンクさんの嘘つきめぇ……! な~にが、大丈夫なんだ。 恐る恐る、彼女の後を付いて行く。 その大きな建物の中はしんと静まってて、なんか寒々しいの。 いや、ほら、なんか怖い人と一緒だしね。 あちこちに、製薬用の器具が置かれててね。 魔法草をここで粉にしたり、製薬したりしてんだなぁ‥‥って、ね。 


 とっとこ、ラミーレス様の後を付いて更に、奥へ……、と言うより、表の方に向かって歩いて行ったのよ。 デカいカウンターの前をくるりと回って、横にある大階段を上る。 へぇ、絨毯敷きなんだ。 錬石の階段でも、足音を吸収して静かなもんだよ。


 階段を上り切って、左へ。 重厚な扉があるんだ。 彼女が手を差し伸べるだけで、両開きの扉はサッと開き、私が入った後ろで、音も無く閉まるのよ。 もうね……、 何処のダンジョンのトラップ部屋よ! 




^^^^^^^^



 書類が乱雑に放り投げられている執務机の向こう側に、いつの間にかどっしりと腰を下ろして、極めて冷たい目で私を見詰めている、火炎の魔女 ラミレースさん。


 髪が燃えるように沸き立って、キラキラしてるね。 感情が零れているよ、そう、なんか不機嫌な感情がね。 不機嫌さを隠そうともせずに、彼女が口を開き声を紡ぐ……。





「で、貴女、我が師、薬師ルーケル様の何なの?」


「はい、” 学び子 ” に、御座いますわ。 ルーケル様からは薬学を、私からは錬金を」


「はっ? 錬金? 貴女って、人族が使うという、” 錬金術 ” を、使えるの? 見えないわぁ……」






 僅かかに蔑みの表情を浮かべて、そう言い放つ、ラミレースさん。 細められる目が、何とも言えない色を醸しているんだ。 う~~ん、どうしよう? まぁ、こんな(なり)だし、見た目で言っちゃぁ、小娘も良い所だしね。 





「信じられないのは、無理も御座いませんわね……。 あぁ、今回 お持ちした薬品の全てに、” 私 ” の、手が入っておりますのって言っても、お信じには、成られませんわよね」


「なにを、馬鹿な事を言うのかしら? ザックリ見ただけでも、高品質のモノばかりよ? 貴女に、高品質の調薬が出来るのかしら。 信じられないわ」


「では、なにかお見せしましょうか?」


「ふん、出来もしない事を! それに、ブリンクの連絡では、ポーション類もあるって言ってたけれど、どうやって品質を保持してるのよ。 考えられないわ」





 この人も知らんのか……。





「【大慈母神(アレーガス )】様の御加護を付与したポーション瓶を使用しております。 封を切るまでは、中身を劣化無しに保存できておりますわ。 御懸念には及びません」


「はっ! そんな瓶、有る訳……えっ。 もしかして、人族の持ち込んで来るポーションの瓶って……」


「ええ、ミッドガルドでは規格瓶として流通しております。 人は傷つきやすく、容易く死にますから」





 なんか、考え込んでるよ……。 相変わらず、冷たい目をしてるんだけどね。 もうちょっと、どうにかならんもんかね。 ルーケル様から連絡来てないのかなぁ……。





「貴方は半妖と自己紹介したけど……。 妖魔と、人族の半妖なの?」


「ええ。 左様に御座いますわ。 故あって、この姿には成りましたが、元は人族に御座います」





 増々、胡散臭げに私を見詰めるんだ。 そうだよね、このカロンの地では、人族は審問を受ける側だもんね。 そんで、魔族が審問を行うんだもんね。 その時、どえらい被害が出る事も有るんだよもんね。 うん、マジ……ヤバイ。




 トン

    トン

       トン




 ノックの音がするんだ。 深く考えを纏めるように、思考の海に沈んでいたラミレースさんが、そのままの体勢で、問うたんだよ。 扉に向かって。





「誰か? 今、忙しい」


「ブリンクに御座います。 【月の牙】店主様、薬師ルーケル様より、『書状』を預かっております。 如何致しましょう?」


「……入れ」





 扉が音も無く開き、多少焦った表情を浮かべているブリンクさんが私の隣を通り過ぎて、執務机の前に座るラミレース様に書状を差し出したんだ。 かなり緊張してるね。 うん、この嘘つき……! だから、レプラカンって信用ならないのよ。


 手渡された手紙をラミレースさんは読み進めるの。 途中から手を口元に当て、目を大きく見開き、時々、私を見るのよ。 何かしたかしら? なんか疲れて来ちゃったよ。 面倒だぁな……。





「そ、ソフィアと言ったわね」


「ええ」





 もう、どうでもよくなった。 いいよね、信義には信義を。 そうでないモノには、相応の態度で。





「彼が聖女様と……言ったのよね」


「そんな高貴な方では、有りませんが、そう言われましたわ。 それが?」


「……メジナスト辺境伯の割り符もお持ちなの?」


「ええ、彼の地で「特別滞在許可書」を頂きました折に一緒に。 それが?」


「……メジナスト辺境伯より通達が有ったの……よ……。 辺境伯様の大切な御友人の「証人官」様が、カロンの街に向かい、人族の領域に向かう手段をお探しになると。 全面的に協力するように、「証人官」として……通達を出された。 ま、まさか、あなた……」


「彼の地で、「証人官」として少しお仕事を致しましたが、なにか?」





 ガックリと首を折るラミレース様。 なんか、心が折れたみたいだね。 絞り出すような声がしたんだ。





「【月の牙】において、薬師以外の方法を以て……調剤を為し……志を持つ子供達にその方法を伝授した……。 それが、貴女の云う、錬金だと?」


「はい、錬金術は魔術の一種ですが、生産系魔術です。 初級魔術の魔方陣を組み合わせ、簡略化し、目的に沿った魔方陣を形成する、いわゆる手業になります。 此方の方々でも、魔力を練る事が出来れば、容易い所業に御座いますわよ? 現にミッドガルドでは、大々的に使われておりますし、錬金術士と云う資格も御座います」





 今度は、執務机に頭を打ち付けたんだ、ラミレースさん。 ゴン! って音がしてた。 ブリンクさんが私の方を見て、肩を竦めたよ。 ほらね、って顔して。 なんか、凄まじい誤解をしてたらしいんだ。 結局、先入観と、自分の考えから、変な話を頭の中で組み立てて、それを信じちゃったって所かね。 まぁ、違和感あるからね、私の存在自体がね。





「ひ、非礼の数々……申し訳ございません!!!」





 ガバッと頭を上げてた。私を見る目にさっき迄の冷たさは無いよ。 はぁ……、 大体想像のつく勘違いをしてたんだね。 大丈夫だよ、ルーケル様と私は、なんも無いよ。 単に知ってる事、教え合っただけだし、ルーケル様の御依頼で、子供達に錬金術教えただけだよ。 なに勘違いしてんだか……。





「し、しかし、この薬師ルーケル様のお手紙の内容は、俄かには信じられない内容に御座います! な、なにか……その、錬金れんきんとやらで、調剤をして頂けないでしょうか?」





 ちょっと、挑みかかる様な目で私を見てる。 まぁ、そうなるだろう事は予想してた。 どうしようかな……。 いや、別にするのは構わないんだけど、ココじゃぁなぁ……。





「先程、通りました、調剤所のような場所で行うのであれば……やぶさかでは御座いませんわ」





 ニッコリと、最上級の笑顔でお応えしたの。 なんか、引いてるね。 オイコラ! どういう意味で、今、引いた!! なんで、なんで~~~? 笑顔を作ったのに!!!





「美人さんの満面の笑みって……、 迫力有るんだ……。 それでいて、目が笑ってないって……、ソフィア様……、怖ぇぇぇぇ」





 ボソリって感じで、ブリンクさんが呟いてた……。 オイコラ! 締めるぞ!! 





^^^^^^^




 調剤室みたいなところでさぁ、ラミレース様を含めて、【カロンガロン】の従業員の人達がほとんど集まってさぁ……。 その人達の前に一人で立ってるのよ。 何人かは胡散臭げに、何人かは面白げに、何人かは……そうね、詐欺師を見る様な目で見てるんだよね。



       まぁ、そうなるか……。



 じゃぁ始めるか。 ポーション瓶も無限収納から出したし、” 高品質の薬草 ” もあるし。 【超高濃度抽出魔方陣】も紡ぎだせるし、手順は何時も通りだし、別段特別な事をやる訳じゃないもんね。 じゃ、始めますか。


 重力魔法で、持って来たルーケル様のおススメ レシピの、高品質薬草を浮かび上がらせて、【超高濃度抽出魔方陣】を展開。 起動魔方陣も展開して、練った魔力を流し込んで……、 





「我、ソフィアが命ずる。 古の知恵の結晶、具現せよ。 錬成起動!」





 う~ん、久しぶりに詠唱したよ。 品質最高を狙ったからねぇ……。 起動魔方陣に満たされた練った魔力が、【超高濃度抽出魔方陣】を起動させる。 透明な紺碧色をした魔方陣が、高品質薬草の下に浮かび上がり、上昇するんだ。



       うん、いつも通り。



 吸い込まれるように、薬草が魔方陣に飲み込まれ、下から、液体の珠になるんだよね。 そんで、不純物とか、出し殻とかが、ぼたぼたと、落っこちるんだ。 いつ見ても、面白いよね。 重力魔法にちょっと細工がしてあって、水分を含まない固形物は透過するようにしてたんだ!


 つまり、落っこちた物は、カラカラに乾いてるって事。


 産業廃棄物の最小化を目指したんだよねぇ……。 だって、馬鹿にならない位出来るんだよ? ゴミが……。 こっちには多分、引き取ってくれる商業ギルドも無いだろうしね。 


 予測通りの分量の、ポーションの珠が出来上がった。 用意してある魔法付与してあるポーション瓶に詰め込んで……、 



         ハイ、出来上がり!!





「どうぞ、鑑定を。 良いモノが出来たとおもいます」





 魔方陣が消えて、手に持ったポーション瓶を差し出したの。 多分、イケてる筈。 ルーケル様のおススメレシピだもんね。 はっはっはっ! 調べて驚け!!


 手を出したのは、ラミレース様。 やっぱり、【鑑定】持ってたんだ。 そう言えばルーケル様も持ってたもんね。 薄暗い調剤室、その中に居た人達が固唾を飲んで、その様子を見てるんだ。


 私の方は、別段どうでも良かったんだ。 【月の牙】で同じ事が有ったしね。 ラミレース様が両手に【鑑定】の魔方陣を紡ぎ出して、まぁ一所懸命に鑑定してるよ。 真剣な目をしてるよ。


 そんで、ラミレース様の目が大きく広がったのよ……。 まぁ、予想の内だよ。





「なっ……なっ!! 何なのよ!!! これ、「エリクサー」じゃない!!! それも、最高品質!!!! どういう事よ!!!」





 やっぱりね、ルーケルさんの「おススメ レシピ」だもんねぇ……。





「ルーケル様の配合比率で、手順を錬金魔法で加速しました。 薬師様の方法では、約二ケ月かかり、時間がかかると薬効が薄らぎます。 薬師ルーケル様のお教えを忠実に守った結果で御座いますわ」


「そ……そんなぁ……馬鹿なぁ……。 なんで、あれだけの時間で、薬草から、エリクサーが調剤出来るのよ!!! 一体、私達何をやってたのよ!!」


「錬金術は魔術の一種です。 魔力を練る事が出来る方がいらっしゃれば、お教えする事も可能ですが?」





 私のこの申し出に、何人かのおっさんが、喰いつくように身を乗り出して来たんだけど、流石にラミレース様の手前、いきなり手をあげる事は出来なかったらしいのよ。 


 よく考えてね。 なんか疲れちゃった。 ブリンクさんに、目配せをしたら、なんか理解したような顔をされたのよ。 それで、まだ、驚きに自分を取り戻してない、ラミレース様に、語り掛けたの。





「御店主様、ソフィア様に置かれましては、お疲れの模様。 用意をお願い致しておりました お部屋にご案内差し上げたいと思うのですが、宜しいですね」


「え、……ええ。 ブリンクに任せる」


「御意に御座います。 ソフィア様、どうぞこちらに」





 そう言って、私を連れてまた表の方に向かったのよ。 階段を上がって、今度は右側へ。 いくつも並んでいる扉の一番奥の部屋に通された。 清潔感溢れる、良いお部屋よ。 それ程広く無いけど、かといって狭くもない。 ちょうどいい大きさ。 なんと、シャワーの設備も有ったんだ。 


 ベッドはフカフカしてそうだし、今日はこのまま眠りたいなぁ……。





「お疲れさまでした。 まだ、店主様はアノ状態でしょうが、明日に成れば大丈夫かと」


「ほんとうにそう思われます?」


「ええ、ラミレース様にとって、薬師ルーケル様はお師匠様であり、憧れの君で御座いましたから。 お手紙が間に合いまして、本当にようございました」


「……本当にね」


「今晩の「お食事」は、此方にお持ちします。 どうぞ、ごゆっくりお過ごしくださいね」


「ありがとう……。 少し、眠ります。 疲れました」


「長旅、お疲れさまでした。 明日以降であれば、色々と店主様がお教え下さると、思います。 また、カロンの街の支店にもお連れ致しますからね」


「宜しくお願いします。 ……本当にありがとう。 感謝いたしますわ」





 ニッコリと、今度は本当に笑顔を浮かべて、感謝を示したのよ。


 その私の顔を見たブリンクさん、ちょっと、焦った顔をしたんだ。


 慌てて、頭を下げて、部屋を出て行くときに、


 彼が呟いた言葉……、


 聞こえちゃったよ。





「マジ……聖女だ……」






 ってね。 








 誰がじゃぁぁぁ!!!!









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