第122話 魔法薬局 【カロンガロン】
つ い に!
到ぅ~~~~~~着!!!
来たよ、うん、来た。 ついたよ、着いた。 延々と連なる、城壁。 荒野にある錬石の壁。 そうだよ、ついに着いたんだよ。 「試練の回廊」に。 やっとだね。 微かに潮風の匂いも感じるんだ。
「あれが「試練の回廊」の城壁ですよね」
「そうです。 回廊の西側を護る大事な壁です」
「東側にも?」
「ええ、同じものが、東側に在ります。 壁の中も、広いですよぉ。 まぁ、景色は似た様なものですが。 中に入ると、反対側の壁がちょっとだけ見えます。 まぁ、我等はこの西側を拠点としておりますからねぇ、彼方側は彼方側で、別の魔法薬局が有るんですよ」
「東西に一軒づつ有るのですか?」
「全域を網羅する様な規模の魔法薬局は、在庫とか供給網とかの問題で難しいんですよ。 それに、盟主様のお言葉も有りますし」
「お言葉?」
「ええ、『独占は腐る』と。 最初は判りませんでしたが、この頃よくわかる様になりました。 自分達が何のために居るのか。 よりよい『商売』をする為には、『指標』が必要なのだと。 独占してしまえば、自分達の『商売』が本当に必要な物かどうかも、判断できなくなります。 そうですね…… 『好敵手』という関係ですね。 同じ目的を持った、別の方法を取る分身……みたいな感じでしょうか」
「分身……ですか……」
うわぁぁ、魔人族の盟主様って、競争原理まで導入してる。 それも、正しい意味での……。 なんなのよ、誰なのよ。 どうして、そんな事出来るのよ……。 一介の買付人にまで、こんな事を考えさせるような通達って……。 ほんと、一度会って、お話してみたいよ。
――――――
でもさぁ、こうやって、馬車でここまで来たけど、長かったよ。 《ターミナーエンデ》から、この場所まで。 距離的には、《ハヌカ》から、《ターミナーエンデ》の方が遠かったんだけど、かかった時間は、三倍以上。 九日間も野宿をしてたんだよ。
で、土地勘が無いから聞いてみたんだんだけど、どうも、緩衝地帯を斜めに走ったらしいんだ。 《ターミナーエンデ》は、内陸部に有るんだよ。 反対にカロンの街は、レテの大河の側。 だからかぁ……。 長かったもんねぇ……。
ついでにレテの大河の事も聴いてみたんだ。 気になるじゃない。 ほら、大河を越えないと、ミッドガルドに帰れないもんね。 レテの大河って言っても、内海みたいなモノなんだって。 だから流れてる水も塩水なんだって。 飲めない筈だよ。 で、川幅も広くって対岸が見えないんだって。
ついでに、海洋性の魔物の巣窟……。 デカい奴がウジャウジャ居るんだそうだ。 どうやって渡るんだよ……そんな所。
「船では、まず無理でしょうね。 話しに聞くと、レテの大河近くの村で、漁で使う鋼鉄製の漁船が、何隻も沿岸で沈んでますし、バカでかい魔方陣組んで、防御に徹しても、奴等アッサリ喰い破りますからねぇ……」
「じゃ、じゃぁ、使節団の人族の方々ってどうやってこちらに来るのですか?」
「ええ、専用の転移門を使われていますよ。 あちらと、カロンの街に一対で存在してるものが有るんです。 主に百年条約の更新の為だけに使うモノですよ。 人族の王族関係者ならば、ご存知ですが、使用する為の制限が数多く仕掛けられているらしいんですよねぇ」
「そ、そうなんですか」
「まぁ、その辺は、【カロンガロン】の御店主様にお尋ねくださいね。 しっかりと教えて下さると思いますよ。 だって、あのルーケル様のお墨付きがある方ですから」
「あの……。 ルーケル様は以前、【カロンガロン】に所属されていたと聞いておりますが、どの様な御方だったのですか?」
「はっ? はぁ……。 あの人、貴女に伝えてなかったんだ……。 ルーケル様は、前の【カロンガロン】の御店主様ですよ。 契約期間が終わって、ハヌカに帰られましたけれど、激動の時代の店主様で御座いました……。 今の店主様が唯一頭の上がらない人です。 まったくもう! なんで、『大事な事』を、言ってないのかなぁ!!!」
マジですか……! だったら、ルーケル様にお教えしてもらうんだった。 あんなに時間が有ったのに、何一つ聞いてなかったよ……。 凹むぅ……。
「あぁ……、 きっと、ルーケル様は、貴女を手放したくなかったんですよ。 だから、貴女にとって大事な情報を言わなかった……のかな? それとも、最新じゃぁ無い情報は、貴女には不要と思われたか……。 まぁ、どちらにせよ、【カロンガロン】に着けば、分りますって」
にこやかに笑いながら、ブリンクさんがそう言ったんだよ。 で、一番大事な事をお聞きしたんだ。
「あの、ブリンクさん」
「なんでしょう?」
「現在の【カロンガロン】の店主様はどなたなのでしょうか」
「あはははは、ごめんなさい。 すっかり忘れてました。 現在の御店主様は、【火炎の魔女 ラミレース 】様に御座います。 怒らせると、辺りが灰になりますからねぇ」
何それ!!! めっちゃ怖そうな人じゃん!!! どうしよう……。 若干顔色が青くなるよね。 そんな私を見て、ブリンクさん、ニッコリと微笑んで、ポンポンと手を叩いて下さったんだ。
「大丈夫ですよ、あの方、美しいモノが大好きですから。 ソフィア様を見たら、きっと抱き着いてきますよ。 保証します」
クスクス笑いながらそんな事言われても……、不安しか無いよ……。
^^^^^^
そんな事、喋っている内に、到着したんだ。 そのデカい壁にね。 万里の長城みたいな感じだよ。 アレよりも規模はデカいし、強固なんだろうけどね。 目の前には壁。 踏み固められた道がその壁でプツンって切られてるの。 どうやって入るんだろう?
「魔法薬局【カロンガロン】の買付人ブリンク。 【月の牙】よりのお客様、ソフィア様。 以上二名、「試練の回廊」内、魔法薬局【カロンガロン】に向かいます。 御許可を」
デカい声でブリンクさんが、口上を述べたんだ。 城壁の上から、光の束が降り注いてきてね……。
” 許可する ”
って、声が聞こえたんだ。 む~。 あれ、なんかのスキャニングだね。 こっちの名前とか、種族とか、そんなのを確認したんだ……。 なんか……近代的だねぇ……。 目の前の壁にスッと亀裂が入って、前にせり出して来たんだ。 そんで、そのまま横にズレるんだ。 よく見たら、足が生えてた……。
「あれ、形は変ですけど、ゴーレムの一種なんですよ。 意思の有る壁って奴ですね。 この城壁全部が、アレで出来てるんですよ……。 削られても、ゴーレムですから、翌日には直ってますしね……。 面白いでしょ?」
もう、口開いて見ちゃったよ……。 もうね……。 凄いよ……。 ゴーレムのこんな使い方と言うか生成方法って、ミッドガルドでは見ないよ。 何だコレ? ホントに……、 発想がぶっ飛んでるよ……。
馬車が、城壁に入ると、後ろでゴーレムが動いて閉じちゃったよ。 城壁の中はヒンヤリとしてて、それでもってかなり明るいんだ。 天井のあちこちに明かり窓が付いててね。 光を落としてくるんだよ。 だだっ広い空間だよね。 でね、その空間のあちこちに建物が建ってるんだ。 まぁ、街だね……。
「此処がカロンの街ですか?」
「違いますよ。 此処は、「試練の西城壁」と呼ばれている場所です。 まぁ、試練の回廊での審問をする部隊の駐屯場所みたいなものですよ。 空洞になっているのはココだけで、あとは、みっちりとゴーレムが詰まってますけど」
街一つ飲み込む城壁って……。 天井まで有るんだよ? ドンダケの建築技術能力なんだ? 柱無しで良くまぁこんな大空洞、もってるものだねぇ。 よく見ると、天上がアーチ状になってんだよねぇ……。 スゲー……。
馬車が止まったのは、この空洞の街の中でもひときわ大きな建物。 でかでかと看板が上がってた。
【 魔法薬局 カロンガロン 】
着いたんだ……。 着いちゃったよ……。 やっと……。
やっと……、
着いたんだよ……。
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デカい建物。 豪華さと対極にある様な武骨で、実用一点張りの建物。 窓も小さくて、まぁ、薬局って言うより、なんか要塞みたいな感じ。 ブリンクさんは荷馬車を裏手に回してたんだ。
何人かの人がブリンクさんに手を上げている。 陽気に返す彼は、にこやかだったんだ。 そんな彼を見て何人かは、驚きの声を上げてんのよ。
「仕入れが上手くいったのか!! このモノの無い時期に!! どこが、あんな量の注文を受けたんだ!!」
「あぁ、【月の牙】だよ」
「おい! あの方の所にそんな無茶言ったのか!?」
「ああ、他も当たっても、注文量の十分の一も手に入らなかった。 魔法草だけじゃ、どうにもならんだろ? ちゃんと製薬して貰わないと。 粘りに粘ったよ!」
荷馬車を所定の場所に入れたブリンクさんは、他の方に囲まれてるのよ。 何人かは荷馬車の荷台を覗き込んで、歓喜の雄叫びを上げているんだもん、ドンダケ厳しかったんだよぉ。
なんか、滅茶苦茶 妖艶な女の人が裏口から出て来たんだ。 真っ赤な髪が炎のように広がってるんだよぉ~。 それに、真っ赤な瞳。 嬉しそうに笑ってるよ。 なんか、露出の多い服でね……。 あれじゃ、見えちゃうよ……。 サキュバスさんかな?
「御店主様!!! 只今帰りました!!! 予定の分量のお薬と、なんとポーションも、仕入れられました!!! 【月の牙】のルーケル様の所です!!!」
「そう、師匠には、無理を言ってしまいました。 なにか……、 お礼をしなければなりませんね。 ……なんなら……私でも、貰って下さらないかしら」
あ~~~、これ、ダメな奴だ。 絶対、関わっちゃ、ダメな奴だ…… まだ、御者台に居る私。 そのゴージャスなお姉さんと、眼が合っちゃったよ……。
「あら、”可愛い人”が、一緒に来たのね。 どなた?」
「はい、薬師ルーケル様より、この方についての、ご伝言が御座います」
「なに?」
「 ”ソフィア様の手は、癒しの御手だ。 精霊様に愛された、「愛し子」の御手だ。” との事に御座います」
「えっ? る、ルーケル様が…… この方を、そうお呼びになったの?」
「はい、左様に御座います」
魔法薬局、【カロンガロン】の店主。 【火炎の魔女】 ラミレース様の真っ赤な瞳が、細くなって、私を見詰めて来たんだ……。
怖えぇぇぇぇ!!!!