第121話 星空の元
パッカッポッコ、パッカッポッコ、陽の光を浴びながら馬車は行く。 道が悪いっていってたけど、そうでも無いよ? 至って快適。 まぁ、速度は出ないけどね。 うん、遅いよ。 確かにね。 積んでるものが積んでるものだから、揺れるとまずいもんね。
だから、ゆっくりと進むの。
朝から動いて、お花摘み休憩したり、お食事休憩したり、何度も止まりながら、進むのよ。 まぁ、ミッドガルドでの馬車移動と変わんない速度なんだ。 でね、ココって云わば、緩衝地帯って事でしょ。 広いのよ……。
「こんなに広大な土地を緩衝地帯として、人が入らない様にするとは……。 なんとも、勿体ない事ですわね」
「いやいや、そうでも無いですよ。 この辺りには、豊富な水源が無いんですよ。 川も、湖も、地下水脈も……。 辛うじて、レテの河からの川風に乗って、湿気が入るくらいでね。 農業を営むのに不向きなんですよ。 「試練の回廊」を設営するにあたって、相当調べられたとか。 それに……」
「それに?」
「万が一、使節団の方達が、「試練の回廊」の外側に出てしまって、そこで大規模魔法を使用された場合、近くに人家とか農地とかあると、困るでしょ? 南部諮問軍団の主要な任務に、使節団の誘因ってのが有るんですよ。 間違っても、街の方に行かない様に、ちゃんと「試練の回廊」を進む様にって」
「難しい任務ですわね」
「ええ、その通りです。 人族の力量を計りつつ、北へ北へ、跳躍門まで誘因するんですよ。 人的被害が大きいのも、わかるでしょ?」
「ええ。 でも、兵士の皆さんはご納得されて居るのでしょうか?」
「勿論ですよ。 「試練の回廊」での任務を仰せつかるという事は、その兵士、指揮官に高い能力が有ると、国が認めたって事なんですよ。 つまりは、上級職に就きやすくなるんです。 みな挙って、この任務付きたがる訳ですよ。 特典が大きいという事は、危険も大きいと認識してますよ? でもね……」
「何か、他にも?」
「 「試練の回廊」での任務は、大協約の任務です。 この任務に就くという事は、精霊様達への祈りと同等なんです」
なんか、胸張って答えられたよ。 そっかぁ……。 一般の人達と違って、軍務に就く人達の「誇りの在り処」かぁ……。 まず、人族じゃ無理だね。 頑強な体と、強固な精神力を持たないと、そんな「誇り」は持てないよ……。 あぁ……「ノルデン大王国」の軍人さんは持ってそうだね。 あと、「ナイデン王国」の人達も……、 ね。
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夜の帳が下ろし始める頃、野営地に到着したんだよ。 ちょっとした広場なんだよね。 ブリンクさんが、野営の準備を始めてる。 何にも手伝う事ないんだ。 水玉出したり、テント張ったり、忙しく動き回っているけど、無駄のない動きでね。 手が出せないんだよ。
「あ、あの……、 なにかお手伝いする事は?」
「無いっすよ? 聖女様になんかさせたら、ルーケルの旦那にぶっ飛ばされますって!」
「えっ? いえ、わたくしは「聖女様」と呼ばれるような……」
「じゃなくっても、貴方の様な可愛い人に、お手伝いなんてさせられませんよ。 ほんと、俺、役得って感じ、ですかねぇ~~」
ほえ? どういう事?
「この何もない道を一人きりで、大事な荷物を運ぶのって、結構、来るモノが有るんですよ。 とても、大事な荷物なのはわかっているんですけど、一日中変わらない景色を見ながら、馬車を進めるのは……、 ある意味、拷問っす」
確かにね。 こうやって二人でお喋りしながらだと、時間も気にならなくなるしね。 焚火を熾して、夜気の寒さに備えながらブリンクさんは、めっちゃいい笑顔で、そう言ったんだ。
でもさぁ……、 なんか、申し訳ないね。 だったら、晩御飯でも作ろうかなぁ。
「ブリンクさん、晩御飯の支度は、如何しましょうか」
「えっ、干し肉と、パンと、ワインですよ?」
「それだけでは、身体が持ちませんわ。 わたくしも、何か作りましょう。 食材も持ってきております。 宜しいでしょうか?」
「願っても無い事です! どうしても、この道行きの所は、飯が貧しくなるんですよ。 有難いです!!!! でも、良いんですか? 聖女様自ら?」
「いいんですよ。 わたくしも、なにかお手伝いしたいのです。 よろしくて?」
「わぁ~~~~、本当に、嬉しい!!!」
小躍りしそうなブリンクさん。 そんなに喜ばれると思わなかったよ。 無限収納から、食材を取り出して、スープとサラダを作る事にしたんだ。 深鍋はお薬を作る時に使う奴だから、ちょっと、薬臭くなるかもねぇ。
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満天の星空の下、出来上がった料理を食べる。 なんか、キャンプしてるみたいね。 とっても、気分がいいのよ。 そう言えば、いつの間にか、【葉採月】に成ってた。 日本で言ったら、六月かぁ……。 雨季も終わって、これから空気が乾燥していくんだ。
この辺って、どうなのかなぁ……。 今は空気にたっぷり水気を含んでるけど、だんだんと乾燥して、暑くなるのかなぁ。 聞いてみよう!
「天候は、このまま安定していくのですか?」
「そうですね、「試練の回廊」の周辺は、かなり暑くなりますよ。 かなり乾燥しますし、人族の方々は、これからの季節には来られませんね。 だいたいの使節団は、 【愛逢月】から来られます。 今の季節が、私達、【カロンガロン】の外回りの従業員が、一番働く季節になるんですよ。 タハハハハ」
暑い中、外回りって……、 脱水しちゃうんじゃないの? 大丈夫? この辺りには大規模な水源となる様な場所も無いんでしょ? 魔法頼みなんだよね、水の確保は。
「レテの河の水を浄化して、使用する事も有りますが、飲用では無いんですよ。 まぁ、体拭いたり、洗ったりは出来ますけどね。 人族の皆さんの大きな荷物の三分の一は、水の入った樽だったりもするんですよ。 「試練」ですねぇ」
なんで、そんなに和やかに、笑えるんだ? 死活問題だぞ?
もう!
夜ご飯は、美味しく頂いて、後片付けも済んで、後は寝るだけ。 テントの中に寝袋が有ったんだ。 使い込んでるのがね。 でも、テントの中には、一つしか無いぞ? わたし、何処で寝るの? ん? なんで、ブリンクさんあっち行ってんの? テントは使って下さいって言ってたけど……
「ブリンクさんの寝袋ですよね、コレは。 わたくしは……」
「いや、アレ使って下さい。 寝心地は保証します。 一応【清浄】はしてあります。 どうぞ……」
「でも、寝袋が一つしか御座いませんわよ?」
「まぁ、なんです。 レプラカン族はそんなに眠らなくてもいいので……」
良く無いよ。
絶対良くない。 う~~~ん。 どうしようか。 この辺魔獣とか出なさそうだし、早期警戒用の、【探知】魔法は常時展開出来るし……。 うん、これ行ってみよう。
焚火の横っちょにね、【重力魔法】使って、ちょっとした、重さを感じない場所を作ったんだよ。 それでね、その上に無限収納から、いくつか魔法草を固めたブロックを並べて、毛布を掛けたのよ。 即席のベッドだよ。 もう一枚、毛布を出して、その上に掛けといた。
このベッドの上に横になると、自分の体重感じなくなるんだ。 めっちゃよく眠れるよ? まるで、水の中に居るみたいな感じで。 寝苦しい夜に使ってたんだ、レーベンシュタインのお屋敷でね!
「どうぞ、此方をお使い下さい」
「えっ? 何ですか、これ?」
「ベッドですけど? 簡単な干し草ベッドですよ」
「魔法草のブロック……ですよね」
「ええ、わたくしが作りましたから、問題は御座いませんわ」
「……えっと……」
「御者は大変だとお聞きしております。 ゆっくり眠って、道中の安全を」
「……有難うございます……。って……いいのか、俺?」
「どうぞ」
ニッコリと笑ってから、テントの中に入らせてもらったよ。 ほんとキャンプだね。 ブリンクさんの寝袋も気持ちよかったよ。 ほんと、何から何まで、有難いよ。 ゴソゴソ、音がするのは、やっと眠る事を決めてくれた証拠。 うん、大変な道程だから、本当に体休めてよ。 お願い!
意識が微睡んで……、ゆっくりと眠りに落ちていくの。
こんな風に、野外でキャンプみたいに眠るのって、なかなかできない事なのよ。 治安が良くって、魔物の心配の無い所って、そうは無いからね。 ミッドガルドではね。
魔族領って……、
なんか……、
不思議。