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第114話 「福音」と言う、贈り物

 




 最終目的地である、カロンの街は、まだ遠いのよ。 何度も何度も駅馬車を乗り換えて、一心に向かってたんだけど、そろそろ路銀も心もとなく なって来たんだ。 沢山、アレルア様に頂いたんだけどね。 贅沢は敵だし……、お財布は軽くなる……。分かってるんだ。


 でもさ、でもさ、こんなの見たら、我慢できなくなるよ!




 時は来たれり!!! 




鏡祭月(シュペーセテス)】の最大のお祭り!!




 そう、鏡祭りなのよ!!! ちょうど、お祭りのある日に、滅茶苦茶大きな街に到着してね。 街中が、お祭り一色なのよ。 雪も降ってるし、何より、寒いんだけど、そんな事忘れちゃいそうなくらいの熱気でね。


 その町の名前は、《ハヌカ》。 「聖なる光」って意味だって。 特にこの街では、精霊様への祈りが強い街だって、アレルア様に貰ったガイドブックに書いてあったのよ。 聖堂教会のでっかい神殿は、王城と見まがう位の大きさで、精緻な彫刻とか、ステンドグラスがこれでもかって使われてたんだ。


 魔族の人々が、陽気に騒ぐ姿も、見慣れて来たし、むしろ、彼等が凶暴な生き物って教えられてたのが、不思議に思う位になってんのよ。 色んな種族の魔物達が和気藹々と暮らして居る様を見せつけられると、いかに人族が疑心暗鬼に取らわれているか、よく理解出来たんだ。





 人族って…… 何だろうね。





 人混みに揉まれながら、神殿への道を歩くのよ。 綺麗に舗装された道の両脇には、美味しそうな食べ物を売る露店とか、小物を売るお店とかが犇めいてんの。 それを見るだけでも、なんか、楽しくなっちゃうよね。


 神殿に入って、聖堂への間、魔族の人が一心にお祈りを捧げながら歩いているの。 精霊様に平穏と安寧と幸せを祈り、加護を与えて頂いている歓びを満面の笑みに乗せ、歩いているのよ。 大きな種族も、小さな種族も、関係なくね。 


 祈りに満ちた聖堂への回廊は、精霊様の ” お喜びになる空気 ” で、充満してる。 判るのよ。 それを強く強く感じるのよ。 私も祈りを捧げるの。 お願い事はしない。 唯々感謝を捧げるの。


 だって、私がこのオブリビオンで生きているのは、奇跡に近いもの。 そして、私がオブリビオンの本当の姿に触れられたのは、幸運以外の何物でもないもの。


 回廊の先に、大きな大きな丸い鏡が見えて来たの。 精霊様が一人、また一人と、天空に上って行くのよ。 祈りと感謝を受け取り、彼等の集う天空の神殿にね。 大勢の人達が、その鏡の周りで跪拝してるの。


 私もその輪の中に入るのよ。 跪拝して、祈りを捧げるの。 ホンワカと体が温かくなるのよ。 周囲の人が何か私を見てびっくりしてるけど、何でだろ?





「ネェちゃん、なんか、あんた、光ってるよ? 愛されてるなぁ、精霊様に」


「そ、そうでしょうか?」


「判んねぇのか? あんた、暖かい光を出してるんだよ」





 ふんわりと発光してる自分が居るのが判った。 えっと…… 光の精霊神様? 大精霊のお一人の? 私の事を「愛し子」って呼んでくださった? えっと…… 対処に困るよねぇ。





 ” そうおぅ? 別に困らなくてもいいのよ? 闇も、また、貴女を気に入ったみたいだし。 その姿になるのに手を貸したんでしょ? あの子。 珍しいのよ? あの子が人の子に興味を示すなんて ”





 頭の中に、響き渡る声! 美声よ、とっても。 鈴を転がすような声って言うのかしら? でも、内容がとんでもないよね……





 ” あら、私達、「精霊神」に愛されているのに、何故困るのかしら? ……そうそう、ソフィア、貴女、何か願い事はないの? ”





 あるっちゃぁ、あるけど……。 ミッドガルドに帰るっていう願いはね。 ただ、これは、私がやるべき事で……。





 ” 欲のない事ね。 貴女らしいわ。 貴女からの祈りと感謝は、頂いたわ。 報いるのには、どうすればいいのかしらね。 「加護」は世界に……って、思ってるでしょ、貴女。 そうね、闇のあの子は、「うつわ」を授けたのよね……。 なら、私は貴方にその「うつわ」に値するものをあげる。 どう使うかは、あなた次第よ。 いい? ”





 えっ? 今でも、物凄い祝福を貰ってるんですけど?






 ” 貴女の身に降り掛かっている、あらゆる事柄は、とても人の子では耐えられない様なモノばかりよ。 貴女が祝福と感じる事も、他の人の子であれば、「呪い」と取るかも知れない。 そんな貴女が愛しいのよ。 特に気を揉んでいるのが、契約の精霊大神【コンラート】様。 この世界をお作りなった、御一人よ……。 世界のことわりに、こんなに幾度も関わる「証人官」は居ないわ。 特別なのよ、ソフィアは。 ……まるで「対」の様ね ”





 対? 何の事かしら?





 ” あら、貴女探しているんでしょ? 私達 精霊は、その魂を見知っています。 ……大丈夫。 もう直ぐですよ、ソフィア ”





 えっ? えっ? そ、それって、あの人の事? そうなの? この世界に居るの?





 ” ええ、ちゃんと。 本当はいけない事なんだけれど、貴女の献身と祈りに、ちょっとだけ、この福音を与えますね ”





 有難うございます!!!! 存在しているんだ。 あの人は、この世界に……。


 夢の中の話じゃ無くて、現実に…… 精霊神様は嘘は謂わない。 だから、あの人はいるんだ。 よっしゃぁぁぁ!!!! なんか「力」湧いて来た!!!





 ” 善き哉 では、わたくしは叱られに参りましょうか ”





 そう頭の中の声がすると、私の身体からスッと光が抜けて、大きな鏡の方に進み……鏡から太い光の柱が立ち上ったんだ……。 聖堂で跪拝している人達が、叩頭して精霊神様をお送りしている。 私も慌てて、同じように頭を床に付けて、お祈りを捧げたんだ。





「あれだけハッキリとした、顕現なんて、見た事ねぇ……! 来年はいい年になる。 うん、なるな!」





 さっき私に話しかけてくれた、魔物のおじさんが、晴れやかにそう言ったんだ。 そうだね。 うん、その通りだと思うよ。 ニッコリ笑って、そのおじさんに頷いたんだ。 聖堂内に、歓声が上がるの。 神官さんらしい人も、天に向かって大きく手を広げ、感謝の祈りを捧げているの。



          聖堂の中の熱気は物凄い事に成ったよ。 



 あぁ、精霊様。 この人達に恵みを! 精霊様の御加護を! 万人が持つ、純粋な祈りがこの聖堂に満ちております! 




 ^^^^^^^




 興奮冷めやらぬ表情の皆と一緒に聖堂を出て、夜の街を散策しつつ、お宿に戻るの。 あちこちで、飲めや歌えの大騒ぎになってるね。 お祭りだもんね。 一緒になって楽しんじゃったのよ。



           でも……、




 光の精霊神様が下さったって言う、贈り物って何だろうね。 「うつわ」に見合う中身って……良く判らないよ。 判らないけど、大切にするつもり。


 去年の鏡祭りとは、大違いよね。 精霊帰祭までの間、精霊様の御加護の薄い期間。 身を慎んで、この街に逗留する事にしたんだ。 ほら、今年ももう終わるし、ちょっと、旅も休憩する。 急ぎたいのは、山々だけど、ほんとこの時期だけは、動かない方が良い。


 これは経験則よ。 だって、去年はこの時期に移動して、えらい目にあったんだもの。 




     そう! 移動は厳禁よ。 




 お財布も軽くなって来たから、ここらで何とかしないとね。  精霊帰祭が終わるまで、私はこの街に滞在する事にしたんだ。




 それに、精霊様に貰った「福音」が、いつまでも、心の中を、温かくしてくれてるしね。




「あの人」は、この世界に存在する。







    その事で、





      私は、







            とても幸せな気持ちになれたんだ。
















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