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第112話 旅立ちは、秋の風と共に




 

 領都、「エクスワイヤ」の感想は、



      この世界で、「見知った街」の姿では無かったって事。





 街の中は全域で舗装されていたし、話によるとスラム街みたいな場所も無いんだ。 繁華街は有るんだけど、ほら、日本で言ったら商店街(アーケード)? みたいな感じでね。 道路の両側にズラ~~~ってお店が有って、活気が凄いのよ。


 お店に出されてる商品も、これまたエルガンルースじゃ見た事無い様な物ばっかりでね。 そうそう、着るものが安いのよ! 白パンと同じで値段で、チュニックが買えるのよ!!! 画期的(激安)通り越して、不思議に思ったんだ……。





「あの…… アレルア様」


「何ですかな?」


「街の様子をお見せいただいておりますが、とても物価が安定していると思うのです。 特に布物の値段がお安く感じますが、何故なのでしょう? エルガンルースで取引されている、極上物の布が、百分の一もしない価格なのです……。 不思議です」


「あぁ、その布は、アラクネ族の物です。 彼等は自分で糸を作り出せますし、大きな個体だと、布を専門に作り出す者も居りますよ。 染色にはエンティアン族がかかわっておりますから、自然な味わいが特色ですね」





 えっ? 魔族が作り出す? アラクネ族って、下半身が蜘蛛で上半身が人のアレでしょ? そんで、エンティアン族って、樹の魔物だよね……。 自分達の特色とか特技とか使って、これ作ってんの? 





         す、スゲー~~~~。





 他にも、まだまだ、有るんだけどね……。 可笑しくなるくらい、私の知っている街と、かけ離れてるんだ。 上下水道もあるし、公的病院、薬局もあった。 小さい魔族も、大きな魔族も、秩序をもって、ちゃんと社会生活してるんだ……。




 もう私の価値観は ――― デングリガエッタヨ ―――― 何だよ、これ。 文明が段違いすぎるよ。 ミッドガルドの書物に書いてある事って―――――― 何だったんだ?




 凄く綺麗な街並み。 温和で、優し気な表情をしている魔物、魔人達。 穏やかな昼下がり…… 街の「カフェ」のテラスの席に座って、美味しい飲み物を頂いていたの。 周囲を見回してたら、驚きに声も出ないんだよ。 そんな私の様子をみて、面白げに微笑むアレルア様。


 あ、あのね、そんなに見詰めないで欲しいなぁ……。


 ちょと、照れるし……。





「こうやって、《エクスワイヤ》の街をご案内して頂いておりますが、お時間は大丈夫でしょうか? ご厚意は有り難いのですが……。 その、気が引けます。 御領主様自らのご案内ですので……」


「なにかあれば、大変な事になりますからね。 貴女は、まだ滞在許可書を持っておられない。 街の衛士が身元を確認する事も出来ないのですよ? だから、私が一緒に居ます。 私と共に歩かれるのであれば、なんら問題は御座いませんからね」


「は…はぁ。 左様に御座いますか。 でも、それではアレルア様のお時間を……」


「なんの! こうやって、美しいお嬢さんと散策できるのであれば、時間などいくらでも割きますよ。 ハハハハ!」





 い、いや……あ、あのね……。 お、お断りしたよね。 確かに、お断りしたよ。 私。 ご厚意は有り難いんだけどね。 それに、ご招待して頂いた、お屋敷でも、なんか滅茶滅茶歓待されてんだよねぇ…… 執事さんらしき魔人族の方なんか……、





「坊ちゃまが、女性をお連れになった! こんな事はここ数十年は無かった……。 あな、嬉しや!」





 なんて、涙ぐんでんだよ……。 ちょっ! 待って! だから、ち~が~う~!!! 変な期待を周囲に振りまくんだもの、アレルヤ様。 



 ハッ! これって、外堀埋めるつもりか!!! 


 や、ヤベ~~~。 ヤベーよ!! 流石は魔人族だ…… ちょっと私じゃ太刀打ちできないかもしんないよ……。 ミャー、どうしよう。 絆されそうだよ!!! 冷汗ダラダラだよ。


 でも、ほんとに色んな事が進んでるよねぇ。 魔族のデカい種族の人がちっちゃい種族の人に、手助けしてるのとかを見ると、なんか和んじゃうよ。 大き目の籠に車輪を付けて、ちっちゃい種族の人達をデカい種族の人が押して、移動してんの見ると、なんか前世で見た幼稚園とか保育所の散歩を思い出しちゃったよ。





 なんか、優しい世界だよねぇ。





 ニコニコしながら、そんな光景を見てたんだ。 そう、”カフェ”でね。 でも、ミッドガルドでは、魔族の領域があんな風に伝わっているのは……なんでなんだろう?





「ソフィア殿。 貴女の目は、今、魔族と同様の「視界」で見えている。 我等魔族には通常で有る空間魔力の量は、人族にとっては害悪にしかなりません。 私は魔術の探知も出来ます。 ……ソフィア殿…… 「妖魔の目」をお使いでは御座いませんか?」





 ハッとしたんだ。 そう言えば、依然、どんなんかなぁ って思って、常時発動してる、【妖魔の目】を外した事有ったんだっけ……。 あんときは、瞬刻でめまいがする位、クラクラしたんだっけ。 極彩色の歪んでいた風景……。 あの時の事を思い出したんだ。





「人族の目では、我らの真実は感知できません。 常に歪んだ風景にしか、見えぬのです。 反対に云えば、我等魔族の大半のモノも、ミッドガルドでは、まともではいられません。 上位種族……というより、ソフィア殿と同じように視界を補正出来るモノしか、あちらの世界で正気を保つことは叶いますまい……。 哀しい事ではあるのですが、相容れぬ存在なのです。 それが故の、大協約なのです」


「……よくわかります。 自然環境が此処まで違うと、自ずと住むモノの違いは出て来てしまうのですね」


「その通りです。 そして、両方の世界を知る者は……、 多くは無いのです」


「半妖の私の様な者でも無い限り?」


「……私は、貴女に、可能性を見ているのですよ。 ミッドガルドから来られる人族の方々は、百年条約更新の為に来られる。 そして、彼等は必ず「試練の回廊」を通られる事になっている。 その力を試す為に。 魔族と人族が同等の物であることを証する為に。 その為に多くの人族が、「試練の回廊」の荒野で命の危機に見舞われます。 決して殺戮を目的としたモノでは無いのですが……」


「……百年条約の約定なのですね」


「まさしく。 双方が同等でなければ、条約は結べないと…… そう、大協約に在ります。 ミッドガルドでの試練が無いのは、魔族の方が空間魔力の変化に弱いから。 理性的に振る舞う事が出来るのは、ここオブリビオンの大地でしか出来ないからです。 故に、人族の方々に間違ったイメージを与え続ける事になっていると、 ……そう考えております」





 だよねぇ……。 エルガンルースの騎士団が擦り潰された事も聴いてみたんだよ。 そしたら、アレルア様が笑って答えてくれた。 あの時は、エルガンルース王国が召喚した者が逃げ出したんだって。 でも、与力していた、正規の騎士団が試練の矢面に立って、ちょっとずつ進んだんだって。 あんまりな状況だったから、一切の戦闘を取りやめて、彼等が「試練の回廊」を抜けるのを見守ったんだって。


 それでも、精神に異常をきたす人たちが続出して、騎士団の多くの人が魔人王の盟主様の前に辿りつけなかったんだって……。 最後まで頑張ったのが、王族の王子と、その取り巻き。 辛うじてだけどね。 直ぐに手当てをされて、条約を更新出来たんだよ。 


 あぁ、逃げ出した召喚者は、丁重に狩り出して、ミッドガルドに送り返したんだってさ。 後の事は人族に任せますってね。 ……歴史書にはその事、書いてなかったよね。 闇に葬られたって所かねぇ……。


 そうそう、何か知らんけど、お屋敷での歓待に着るものもあったんだよ。 サマードレスって言うのか、ノースリーブの純白のワンピースなんだ。 綺麗だよこれ。 渡された時、ちょっとビビったくらいにね。 執事さんは ” 日差しが強いこの時期ですので、普段着としてお使い下さい ” って、そう仰ったんだ。 


 ちゃんとしたサマードレスでね。 背中の傷も見えない様に、襟ぐりも広く取ってない、清楚な感じに纏まってね……。 有難かったよ。 まぁ、純白って事で、最初はウエディングドレスかと思っちゃた位、綺麗なんだよね。 髪留めも用意してもらって……。


 お屋敷のメイド長さん自ら、お世話してくださったし……。 こうやって、アレルア様に街を案内してもらうって決まった時には、渾身のメイクまで……ね。 いやいやいや、ミャーと変わんない位の腕だったよ。 鏡に映る私を見て、やっぱり思ったのよ。





       ” 誰、コレ? ”





 ってね。 メイド長さんもやり切った感、凄い出してたんだ。 で、アレルヤ様と街に出て見れば、街の人達……、 と言うか、アレルヤ様に近い人達……。 文官さんとか、護衛の人達ね、 そういった人達が、ニヨニヨ笑いながら、私達を見てるんだよ……。 




       まぁ、なんだ……。 




 ヤべーぞ、ほんとに ヤベーぞ。 精一杯、愛想笑いを浮かべてね、やり過ごそうと努力したんだ。 そしたら、反対にアレルア様に云われてしまったんだ。





「笑顔が素敵ですね。 ……決心が揺らぎます」





 だって……どうすりゃいいのよ!!!





   ^^^^^^^





 オブリビオンの事を知る為に、積極的に色々と聞いて回っていたら、あっという間に時間は過ぎ去っていたんだ。 たまに、アレルア様の執務室で、お仕事のお手伝いとかもあったけどね。 ……書類仕事多そうで大変そうだったし……文官さんのお仕着せを貸してもらって、部屋の隅で帳簿付けしてたりしたんだ。


 あぁ……入って来る文官さん達、ギョッとしてたけどね。 私の容姿にじゃ無くて、処理した物の多さにね……。





「貴女の御心を手に入れる事は叶わないですが、是非とも文官としてお勤め願いたいものです」


「お上手ですね。 わたくし‥がですか? 御買被りに御座いますわ」





 なんか、真剣に私を見て、やれやれって感じで溜息をおつきに成られたんだよ、アレルア様。 なんかマズかった? この位の書類仕事は、レーベンシュタインのお家でもやってたよ? ほら、御父様、色々と忙しいじゃん。 お手伝いしなきゃ、領地の仕事、廻んないしね!





「貴方と言う人は……。 こうやって、御一緒できる時間は、大切にしたいものです」





 呟くように、そう口にされるのよ。 まぁ、一宿一飯の恩義もあるし、出来る事はやるよ。 ほんと、それだけだよ! ほ、絆されて無いよ!!!


 予測よりも随分と時間が経ってから、私に与えられる、「特別滞在許可」が下りたんだ。 許可証も一緒に来たんだよ。 まあ、パスポートみたいなもんだよね。 これで、やっと、動けるよ。


 手渡される時に、アレルヤ様は、しこたま残念そうな顔されてたのは、知らんぷりしとくね。 旅装の準備もして貰って、色々と良くして貰ったんだよ。 そうそう、「半妖」になって、新しい魔法を手に入れたんだ。




      いわゆる、【無限収納】




 重さゼロ、容積ゼロで、大量のモノが運べる奴。 今まで、見た事無かったんだけど、妖魔(転移者)には、標準装備らしいんだ。 そう言えば、記録にあった、「召喚者」達は、みんな持ってたよね、この魔法。 理力側の魔法らしいんだよね。 アレルヤ様もびっくりしてた。


 そこに色々と放り込んで、旅支度は整って行ったんだ。 アレルア様が、お屋敷の人達に、私の出発が近いってお話になった後ね…… 執事さんとか、メイドさんとかにめっちゃ引き留められた。 


 執事さんなんて、





「何がご不満だったのです? 何故に行かれるのです? わたくし達の何がお気に召さなかったのです?」





 って、めっちゃ詰め寄られた。 仕方ないから、私の事を一から丁寧に説明したんだよ。 そんな大それた身分のモノでも無い事とか、ミッドガルドに帰らないといけない事とか。 待っている人達が居る事とか……。 心の中に、伴侶が居る事とか……。





         三日かかったよ。





 納得はして貰えなかったけど、理解してもらった。 長い長い話し合いだった。 ヒシヒシと伝わったよ、この領地の方々がいかにアレルア様に心酔し、敬い、敬愛しているかって事をね。 余計に申し訳なくなったよ。 そんな偉大な人に、心を寄せて頂いたなんてね。 


 涙ながらに手を握られてね。 言われたんだよ。





「もし、ソフィア様が、ミッドガルドで身の置き場に困ったときは、思い出していただきたい。 メジナスト辺境領の事を。 貴女を受け入れる場所が有る事を。 行かれてしまうのは、仕方がないものと、諦めます。 しかし、心の片隅にはこの領、御領主様の事を御留め置き下さい」


「勿体なく。 ソフィア、大変うれしく思います。 皆様のお心遣い、有難く……誠に有難く思います。 「半妖」となったわたくしの第二の故郷と思いたく存じます。 本当にありがとうございました」





 感謝を述べると同時に、大粒の涙が零れ落ちたんだ。 その涙を見て、執事さんも理解してくれたんじゃないかな。 私の気持ちを。 感謝を。 祈りを。







 ^^^^^^^






 領都エクスワイヤを出発する日になったんだ。 




      【紅染月(ルートリック)】に、成ってたんだよ。 




 日差しも秋。 色付く樹々から、葉も落ち始めている。 街路のあちこちに、色鮮やかな落ち葉がとても美しくてね。 馬車を用意するって言われたけど、丁重にお断りして、乗合馬車の旅にしたんだ。 路銀は……、お手伝いのお駄賃だって、かなりの金額を戴いたから、それを当てる事にしたの。


 お屋敷の皆さんが、お見送りしてくれた。 





        アレルア様もね。





 目指す先は、カロンの街。 レテの大河のほとりにある、大きな街。 オブリビオンとミッドガルドを結ぶ、唯一の街。


 寒くなり始めるからって、買ってもらった、厚手のワンピースを着て、手には小さな旅行鞄が一つ。 色々なカロンの街までの情報が詰まってるの。 乗合馬車の中で読みなさいって、アレルア様が用意してくださったの。






 皆に手を振って、お屋敷を出るの。





 秋の涼やかな風が、頬を撫でる。





 旅の道行きを、精霊様にお祈りして……、





 さぁ…… 帰るとするか!







 ミャーの待つ、ミッドガルドへ!!!













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