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第111話 魔人族の王 王たちの盟主

 




 お別れって言うのは、何処に行っても、何時だって、誰とだって……切ないね。


 アレルア様のお屋敷に移動するって、そう皆に伝えのは、深夜にも関わらず、絶好調な宴の最中だったんだよ。 突然の私の言葉に、空気が固まった。 突然の沈黙。 みんな、私の顔を見詰めている。 村長さんが、溜息をつかれ、フレイヤさんは目を真っ赤にはらして……。





「そうじゃな、聖女様は行かねばらなんものな。 いつまでも、サブリン村に滞在して欲しいというのは、過ぎたる欲なのじゃ……。 フレイヤ、泣くな。 判って居った事であろう? 笑顔で、お送りしなければな」





 静かにそう言葉を紡ぐ、ブエルガーノ村長さん。 泣きながらも、必死に頷くフレイヤさん。 





 ゴメンね……。 でも、帰らなきゃならないの。 私の居るべき場所に。 私の偽物が居るから……。 どの位の時間がかかるか判らないけれど。 オブリビオンと、ミッドガルドは、とっても離れてるのよ……。




 ゴメンね、本当に、ゴメン。





「ではの、今宵の宴は、聖女ソフィア様の送別の宴でもあるという事じゃ。 ノール、サンダラ、祈りの聖殿の一番酒を持って来なさい。 お送りする聖女様に、飲んでもらおう。 祝福の酒じゃ」





 ノール君デカい体を小さくして、腕で目を擦りながら、祈りの聖殿に向かってった。




 ―――――― ややあって、帰って来た時、手には一本のボトルが有ったの。




 彼が取って来たのは、一本の果実酒。 とても神聖な物なんだって。 開栓したボトルから、グラスに注ぐ真っ赤な液体から、芳醇な香りが漂ったんだ。





「この地で出来る、一番の恵み。 聖女ソフィア様。 どうぞ、口をお付けください。 祝福が貴女に在らん事を!」





 持たされたグラスに満ちる、真っ赤な液体。 果実酒だよね、コレ。 ホントに、果実酒だよね……? 一口、口に含むと、甘く、蕩ける様な、色んな味わいが、芳醇で高貴な香りと共に、口の中で一気に弾けた。 この味……。 どっかで……。


 私の身体から、光の粒が湧き上がり、立ち昇る……。 魔力と理力が溢れかえって来る……。


 その様子を、目を細めて、村長さんが見詰めておられたんだ。





「ソフィア殿は、やはり聖女様です。 神聖な一番酒を飲まれて、溢れかえる魔力を発せられる……。 まさしく、言い伝えの通り……」


「そのお酒は、フエーノの実で醸したお酒……。 大切な人が、村を出る時に飲んでもらうお酒なの……。 グスッ……ソフィア様……お元気で……」





 ノール君が、涙をポロポロ零しながら、そう言ってくれた。 果実酒の味に思い出が有ったのは、当然の事……だったね。  オブリビオンで、一番初めに口にした食べ物……だったんだ。


 そっか……これがこの村の「お別れの儀式」なんだ……。 辺境の村で、遠くに旅立つ村人の、旅の安全と、目的が叶うようにとの祈りを込めた……、そんな「お別れの儀式」





「ありがとうございます……。 とても、美味しいです。 皆さんの想いに護られて……ソフィアは、旅立ちます。 今まで、本当に良くして貰くださって……ありがとうございました!」





 泣きべそは見せたくない。 だから、笑顔を……とびっきりの笑顔を……。





           本当に、ありがとう! 





 次の日の朝。 朝日が神殿を照らし出すころ、私はサブリン村を後にしたんだ。


 本当に色々と御世話になったサブリン村の人達。 ノール君、泣くんじゃない! サンダラ君、両手を一杯に振ってくれてる。 フレイヤさん、丁寧に丁寧に、頭を下げてくれているよ…。


 アレルア様が騎乗しているのは、スレイプニール。 彼の前に私の小さな体が有るんだ。 私も手を振って、別れを惜しんでるの。 みんなの心遣いがとても、とても、心に沁み込んだんだ。 





     《幸いあれ、サブリン村! とこしえに、安寧を!》





 聖句の一部を、「神代言葉」で唱え、行く道を見据える。 何処までも続く、森の中に道に。 ミッドガルドへの旅路には……、なにが待ってるのかは、判らない。 でも、行くしかないよ。 あの人を探す為には、この世界が平穏でないといけないからね。 


 帰ろう……。 ミャーの待つ、《ノルデン大王国》へ、きっと、彼女なら色々と調べて、行動の準備をしている筈。 ダーストラ様も、ナイデン大公も居る、そして、ミャーが居る《ノルデン大王国》に帰らなきゃ! 絶対にね。 ミッドガルドの、そしてオブリビオンの「安寧」を護る為に、何をしなければならないか……相談しなきゃ……。




 でも……。 遠いなぁ~~~。




 ******************************





 森を抜け、川を越え、穀倉地を過ぎ、遠くにアレルア=メジナスト辺境伯爵様が治める、メジナスト辺境領の領都、エクスワイヤが見えて来たのは、森のサブリン村を出て、三日目の事だったんだ。 


 多分、私に気を使って、ゆっくり移動してくれたんだと思うよ。 それでも、お尻は痛かったけどね。 アレルア様が連れて来た戦士の皆さんは、野営の準備も万全だったみたいね。 どれだけ被害が出ているか判らかなったから、きちんと準備してたって……。


 そのおかげで、途中の野営はかなり快適なものだったのよ。 ほんと、凄いよ。 ほら、アウトドアで使うような、キャンプ用品に近いものが、戦士さん達の装備に含まれてんだもの。 お食事だって、流石に辺境伯様にお出しするものって感じでね……。 


 なんで、野外なのに、カトラリー使ってんのか、今一理解出来なかったけど……。 出てくるお料理が、ハーフコースみたいな、豪華なお食事ってもの、解せないんだけど……。


 まぁ、そこは……流石と思って……、飲み込んだ。





「もう直ぐ着きます。 我が領の領都、「エクスワイヤ」です。 辺境領の街ですので、あまり開けてはいませんが、生活するのに十分な施設は揃っておりますから、ご心配なく」





 アレルア様が紳士的にそう教えてくださった。 でもさぁ……、 余り開けて無いって……、




       うっそだぁ~~~~!




 街に続く街道は、もうずいぶん前から、石畳舗装されてて、それも、綺麗に切り出されてるから、平坦で……。 轍なんかも無くて、草なんかも、綺麗に取り除かれてて……。 こんなに整備された街道……見た事無いよ。


 で、チラホラ建ってる、お家はエルガンルース王国の、レーベンシュタインのお家よりも清潔そうで、デカくて……思わず、聞いちゃったんだ。





「この辺りは、魔族の貴族様達のお屋敷でしょうか?」


「いいえ、普通の農家と、街で働く者達の家です」


「あれほど、豪華なお家なのに……ですか?」


「こじんまりとしている、いい家ですが、なにか?」





 そ、そうかぁ……?  デカいって思ってたけど、巨人族の人とか、オーク族の人とかだったら、普通サイズになるのかなぁ……。 でも、あれで、こじんまり? ちょっと、価値観が違うよ。 エルガンルース王国の辺境領辺りの農家だったら、土と藁と石で出来た、簡素なお家が主体で、こっちの、錬石で作った、カッチリしたお家なんて、見なかったよ……。





「清潔に暮らさなければ、疫病が発生した時に、病の温床となりかねません。 街道の基準も、オブリビオン全土で決められておりますし、今代の魔人王様が盟主様の席に着かれてから、魔族は……暮らしやすくなりました」


「そ、それは、素晴らしいですわね。 ……それらは、全て、魔人族の盟主様の御通達なのでしょうか?」


「ええ、その通りです。 かつて我等魔族は、各地に王国を築いておりました。 各、魔人王様達が、それぞれに統治されておられました。 現在の盟主様も、かつては魔人王のお一人だったのです。 かの魔人王様は、その手腕で国を栄えさせ、争いごとを治め、やがて、周囲の魔人王様達へ働きかけをされました」


「というと?」


「かつては各種族毎の王国があり、それぞれ、大層矜持をお持ちだったと記録に在ります。 が、それでは弱き者達が、安寧に暮らせないと……盟主様が各魔人王様達と御話し合いになり……、 様々な御取り決めをなさったのです。 度量衡の統一、魔族の人種間の偏見の是正。 暴力と、軍事力に頼らない、話し合いの場所を作られたのです」


「まぁ……」


「かつては敵視していた、他種族が、今では曲りなりも同じ国に住めるようになりました。 ことわりを説く、盟主様の御姿は、私の脳裏にも刻まれております。 膨大な魔力を持ち、力でねじ伏せる事が出来る所でも、必ず話し合いをし、相互理解に勤められました」


「可能なのでしょうか? そのような事……」


「魔族の寿命は長いのです。 取り決められた事柄は、大協約の元、遵守されるべき大法典として運用されております」


「……それは……。 法治連合国家と言う訳ですか?」


「そう、ご理解頂いても、間違いはありません。 緩やかな連合と言う事です。 各魔人王様達は、ご自身の国の統治権をお持ちですし、オブリビオンにはまだまだ人の住んでいない場所も広大に御座いますから」


「盟主様の御名前は……、 何とおしゃるのでしょうか?」


「はい、盟主様は、アレガード様と御名乗りになっておられます。 ……聖名は決して明かされませんが……」


「魔人王様達の盟主アレガード様……。きっと素晴らしい御人なのでしょうね」


「ええ、私は素直に尊敬しております。 かく言う私を辺境伯に任じられたのも、アレガード様に御座います故」


「なるほど……」





 すっげ~~~!!! 何それ!!! ミッドガルドじゃ、まだ中世真っ盛りなのに、連合国家として、曲がりなりにも成立してるって? 魔族って……魔族って……一体どうなってるのよ? それに、度量衡の統一とか……。 




 ほんと、一度、アレガード様とやらに、お会いしたいわ!




 はぁ……でもなぁ……。 なんか、人族の世界が酷く遅れてる気がして来た……。 




 文明の差ってやつなのかなぁ……。




 立場が逆転しちゃったような……。







 漠然とした不安が、湧き上がって来たんだよ。










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