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第110話 月夜の告白

 



 ダンジョンコアの浄化はすんなり、さっくり終わらしたのよ。 だって、例の魔法使えるからねぇ~~。 汚いのは嫌いなのよ。 何だって、するとなれば、徹底的にね。 ほら、新しい機械とか職場に導入されたら、マニュアル読込むタイプだったし……ねぇ。


 綺麗になったダンジョンコアの間に相対してアレルア様と立つのよ。 ダンジョンコアの台座に色々とレリーフが嵌めこまれていて、ダンジョンコアを停止する場合の取説みたいなモノもあったのよ。 


 台座を取り囲んで嵌め込まれているレリーフってね、殆ど、このダンジョンコアの取説なんだよ。 出力調整とか、一対に成ってるダンジョンコアのリモートとかね。 ほんと、《神代言葉(日本語)》で良かったよ。 一発で理解でしたし、入力方法が音声入力だからねぇ。


 正規の「証人官」を要求されてるのは、この為なんだよね。 いくら読めても、音読出来なかったら、入力できないもの。 そんで、二人いるのは、掛け合いになってるから。 まぁ、そうね、ダンジョンコアは一対で、オブリビオンとミッドガルドに有るんだからね。 そりゃ、必要だわね。


 そんな訳で、始めちゃったよ。 最初は、アレルア様からね。





 《(いにしえ)の誓約に則り、世界の均衡を司る英知の結晶に申す》


 《それは、違い難き神聖な誓約成れど、大協約に違いしモノ在りき》


 《故に、誓約の則り》


 《その英知の加護を》


 《この場、この時、我等、証人官が事実を認め》


 《大協約に記録を残し、精霊と証人官の聖名によりて》





 大きく息を吸って、声にちゃんと理力を載せて。 高らかに宣言するのよ。 そう、あいつ等の魔力の不正使用を止める為にね!





 《《 その大いなる加護を、停廃せしめんとする 》》





 薄らボンヤリと発光してた、ダンジョンコアが、徐々に色を失い、魔力の吸収を穏やかに止め始めたんだ。 聞き届けて下さったんだね。 いきなりは止まらないんだよ。 レリーフにも書いてあった。 かなり複雑な魔方陣を展開して、圧縮して、その上、多重化してあるんで、そう易々とは止まらないって。


 反対に云えば、こうやって止めたら最後、完全に止まるまで、再始動は不可能なんだよ。 手間のかかる英知の結晶だよね。 まぁ、再始動はずっと先になるだろうし、奴等も日々魔力の出力が落ちて来て、焦りまくるんだろうなって、思っちゃったよ。





「このダンジョンコアは、封印されました。 これで、この洞穴の異常は収まるでしょう。 いやはや、貴女が「証人官」で在らせられたとは……。 それも正規の……精霊神様の御加護でしょうか。 辺境において、このような奇跡が起こるとは、精霊神様に祈りを捧げるとしましょう」


「そうですわね。 わたくしも、わたくしの 「力」や「知識」、「役職」をここまで望まれるとは、思ってもみませんでした。 これも精霊神様の御加護かと思います。 わたくしも祈りを捧げとう御座います」


「ふふふ、左様に御座いますか。 では、神殿に帰ると致しましょうか。 聖堂にて、祈りを捧げに」


「はい、アレルア様」





 洞穴のダンジョンコアのある部屋は、アレルア様が封印を施し、資格を持った人しか入れない様に閉じた。 再稼働させるときには、ミッドガルドで、対応するダンジョンにダンジョンコアを持ち帰って、あっちで再稼働手順を踏む必要が有るんだよね。 まぁ、オブリビオンの魔人族の、それも正規の「証人官」資格保持した人が、ミッドガルドに行くとは思えないけどねぇ。


 つまりは、あの辺りは荒れ果てたままになるって事だよ。 空間魔力量の乏しい、強力な魔物がウロウロうろつく、危険な荒野になり果てたって事。 人族の領域が少し凹んだ訳だね。 自業自得って奴さ。 こうならない様に、大協約って有るのにねぇ……。 




 ほんと、馬鹿みたい。




 その日のうちに、神殿まで帰り着いたんだ。 戦士の皆さん、やっぱり不満気。戦闘らしい戦闘も、危険らしい危険も無かったもんね。 みんなで、聖堂に行って、村の無事と、人的被害の出なかったお礼と、死んじゃった野盗の人の魂の安寧を、精霊様に真摯に祈ったの。 もう真剣にね。





 お祈りの後は、ご飯よね!





 ノール君とフレイヤさんにお願いして、村の食糧庫に連れてってもらったのよ。 いつも美味しいごはんを頂いていたんだけど、どんなモノ使ってるのかなぁって興味もあってね。




 いいもの一杯あったよ。 お肉とか お肉とか お肉!




 そんでね、調理してくれてる人に手伝ってもらって、みんなでお祝いをしましょうって事になったんだよ。 私だって、少しくらいは料理は出来る。 なにせ、前世の記憶持ちだよ? あの人にも、いっぱい作ったよ? パーティー料理だって、勉強したよ? ほら、彼が突然、同僚 連れて来るかもしれないじゃん!




 たとえ、妄想であっても……準備はしてたんだよ。




 ワイワイ言いながら、大量の 「お肉」 料理を作ったの。 なんか、呆れられたけれど、味見をさせて見たら、めっちゃ喜ばれて……、 




 嬉しかったよ。




 次々とお皿を食堂に出してね、みんなで頂いたのよ。 そう、みんなでね。 不機嫌そうだった戦士の方々も、やっぱり美味しいもの食べたら、機嫌が直ったの。 胃袋は正直だよね。 もちろん、アレルア様もお喜びになったよ。 食糧庫の食材、かなり使ったけど、村長さんも喜んでた。 その村長さん、ぽろっと本音が漏れだしたんだよ。





「精霊様への感謝の祈りと、美味しいお料理。 ……あぁ……奴等にも食べさせてやりたかった……」


「残念です。 運が悪かったとしか……言えません」


「……手厚く葬るとします。好きでああなったのでは無いと、そう思いたい」


「誠に……誠に……」





 盛大にお祭りをする事で、この事件を昇華させようと思うの。 元はと言えば、ミッドガルドの不穏な動きが原因でしょ? なんか申し訳なさが先に立っちゃってね。 しんみりしちゃったよ。


 宴は夜まで続いて……お酒も入り、みんな陽気に歌ったり飲んだりしてた。 私は夜風を浴びに、ちょっとお外に出たんだ。




 ^^^^^^^^^




     月がね……冴え冴えとして綺麗だったよ。





          風がね……優しく頬を撫でてくれてね。





 月の光を浴びて、思い出すのは ミッドガルドに置いて来た人達の事。 私……何やってんのかなぁ……。 あれやこれや あったけど、もう【授雲月(ヴァルコール)】も過ぎ去り、【炎天月(ゼンゲダル)】も半ばを過ぎ去っていた。 




 エルガンルース王国をユキーラ姫と一緒に出てから、かれこれ一年近く経ってるんだよね。 ホントに、色んな事が有ったよね。 二回ほど死にかけたし……。 魔族の真実も知る事ができた。 近寄りがたいくらい、神聖な人達だとおもってた「森の人(エルフ族)」が、あんな人達だったって知る事が出来た。


 ミッドガルドのあれやこれやは、オブリビオンにも繋がってて、善良な人達に大迷惑かけている事も判った……。





 この世界のことわりが、なんか見えて来たよ。





 そうさ、みんな繋がってるんだよ……。






 ******************************







         とっても静かな夜ね。 





     宴の喧騒が、漣の様に聞こえるくらいなの。




 月を見上げている私の側に、アレルア様がいらっしゃったの。 つって、隣に立たれると、おもむろに口を開かれたの。





「ソフィア殿、「特別滞在許可証」の申請を致しました。 保証人として、私が立ちましたので、受理されます。 なにぶんと、辺境な事も有って、ソフィア殿の許可証がこの地に来るまでには、一ヶ月はかかるかと……思われます」


「お手間を取らせました事、誠に申し訳なく……感謝いたします」


「なんの、この辺境に貴女の様な方が御降臨された事が、いわば奇跡。 貴女が成された事は、この辺境には何よりの福音。 高々、申請をしたくらいでは、この感謝には足りません。 ……ソフィア殿……」


「はい」


「貴女は、これから如何されますか?」


「……そうですね……。 可能な限り、ミッドガルドへ戻る道を……辿りたく存じます」


「なるほど…… 許可証が降りさえすれば、貴方はこのオブリビオンでは、何処へでも行く事が出来る様になります。 ミッドガルドへの道をと望まれるのであれば、カロンの街へお行きなさい。 レテの大河のほとりにある、大きな町です。 いわば、オブリビオンとミッドガルドの中間の街。 彼の地のより来る者達は、皆、あの街に到着し、出発します。 ……気持ちよく送り出したいのですが……」


「ええ……何でしょうか?」


「私は……」


「はい……」


「……貴女に強く惹かれていると……申し上げたい」





 えっ? 何? はぁ? ちょ、ちょっと…… 何言ってんのよ!!!! あなたは、辺境伯でしょ!! こっちの貴族様でしょ!!! 領民の皆様に慕われ、敬われて、尊敬されている、偉大な御領主様でしょ!!! 大きく目を見開いて、アレルア様の顔をマジマジと見詰めちゃったよ。





「その笑顔。 その瞳に輝く知性の光。 愛らしくも美しい、そんな貴女に強く惹かれている私が居る……。 民の為に存分に力を示し、未来の為に子供達に教えを授け、動揺する民を抑え、導き……。 貴女こそ、長き間、探し求めていた方かもしれません」






 い、いや いや いや……、 なにを言い出すのよ……。 こんな熱烈な告白を受けたのって……初めてかもしんない……。でも、 嬉しい! 大好き! なんて……言えないよ。

 




     だって……、




           だって……、







      私には、あの人以外の伴侶は要らないんだもの……。





 月の光が、冴え冴えと二人を照らし出しているんだ。 答えは出てるんだけど……言い出しにくい……。 でも、ちゃんと言わないと……  ノルデン大王国の人達の座右の銘。 「信には信を。」 いい言葉だよね。 うん。 ちゃんと、お断りしなきゃね。





「アレルア様のお気持ちを聞かせて頂き、ソフィア、誠に嬉しく思います。 しかし、誠に申し訳ございませんが、我が心には、すでに伴侶が居ります。 大変心苦しくは御座いますが、何卒、ご容赦頂きたく存じ上げます」





 頭を思いっきり下げたの。 ペコってね。 





「貴女の瞳に映る人に、酷く嫉妬を覚えます。 ……そうですね。 不躾でした。 しかし、貴方への信には、変わりありません。 「許可証」の来るまでの間ですが……、 我が屋敷にお迎えしたい。 無理強いは致しません。 ただ……ただ、感謝を示したいのです」


「信には信を。 わたくしの朋がそう申しておりました。 お屋敷へのご招待のお申し出、受けさせていただきます。 ソブリン村の皆様には大変良くして貰え、わたくしも感謝申し上げておりますが、どの様に報いればよいかわかりません」


「村の者は、皆、貴女の事が好きなのです。 優しく強く、彼等と共にあった貴女を。 十分です。 十分なのです。 貴女と一緒に暮らした日々は、彼等にとって、何物にも代えがたい、幸せな記憶なのです。 貴女はただ、皆に、「別れの時が来た」と、告げるだけで良いのです。 それだけで、彼等は理解します……」


「……左様で御座いましょうか?」


「確かに、まさしく」


「信じます」





 二人して、もう一度月を見上げ……、 ガッチリと握手を交わした。











 強く握りしめられている手に、仄かな愛情を感じたんだよ。









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