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第109話 「証人官」のお仕事

 





 御領主様が帰ってきたよ。 今度はお供の人もたくさん連れてたんだ。 なんでも、野盗討伐用にって、手練れの戦士を編成して来てくれたんだって。 あぁぁぁ…… ごめんなさい、終わってた。


 村長さんと、御領主様が神殿でお話合いしてた。 埋葬済みの野盗の方々のお話ね。 彼等が残した魔石をジャラって、大テーブルの上に並べてさ、お話されてたのよ。 私は、黙って、座ってたの。 当事者なんだけど、そうならない様に、気を引かない様に、うん、オトナシクしてたんだ。




 釈然としない表情の手練れの戦士さん達。 そりゃ、そうさ。 何度も陳情に行ってたもん、村長さん。 時間と都合がつかなくて、やっとすり合わせて、やってきたら終わってたんだものね。


 まぁ、なんだ、その洞穴の調査ってのもあるから、無駄じゃないしね。 でもまぁ、その洞穴は、魔族の人達にとっては、とってもアブナイ場所だからね。 村の人達が総出で、封印作業をしてた。 でもさぁ、洞穴の中って、いい薬草が取れるのよ。 ノール君が残念そうな顔してたんだ。


 でね、お願いしてみたんだ。 洞穴の探索をするんなら連れてってほしいってね。 ほら、私、半妖に成っちゃってるけど、半分は人族でしょ? 魔力が薄くたって、精神に異常をきたすような事は無いし、ちょっぴり、興味もあるしね。


 アレルア様は、洞穴の奥にある《モノ》に関して、なんか、予想付いてるみたい。 早めに処置したいらしいんだけど、今回連れて来た、戦士さんは生粋の魔族の人達だから、洞穴の魔力の薄い場所に行くと、異常をきたす恐れがあったんだよ。 御領主さまは、高位の魔族だから自分の周りにかなりの強度の結界を張れるから、入れるんだけどね。





「ソフィア殿のお申し出……有難いと思いますが其処まで、こちら側が甘えても宜しいのでしょうか?」


「勿論に御座います。 わたくしは、この村の方々に大変お世話になっております。 少しでも、御恩返しができるのであればと、思っております。 幸いな事に、わたくしは、「半妖」。 魔力濃度が薄き場所でも、問題が起こる事は、御座いますまい。 さらに、今回、襲って来られた方々は、アレで全員だと、ブエルガーノ村長様にお教えいただきました。 洞穴内は安全かと?」


「うむ…… 確かにその通りだが……」





 頷きつつも、困惑の表情を浮かべていたアレルア様に、フレイヤが口添えしてくれたんだ。 引き攣った笑いを頬に浮かべてね。





「御領主様に置かれましては、ご機嫌麗しく。 一言、言上致しましても宜しいでしょうか?」


「うむ、許す。 なんだね、フレイヤ」


「はい、聖女様に置かれましては、いささかと言いますか、かなり……護身術の心得も持っておられます。 並みのモノでは、太刀打ち出来ないかと。 精霊様の加護も強くお持ちですので……ご希望されるのであれば、御同行されても問題は無いかと」


「そうなのか! ソフィア殿、ご自身でも戦われるのか!」




 いや、まぁね…… ククリが有れば、もっと行けるよ? 「腕」、動くようになって来たもの。 まぁ、短剣でもいいや。 頷いておいたよ。 それにさ、フレイヤさんには、鋼線使ってるの見られてるし……。 まぁなんだ、いいじゃん。 なんか、エルガンルースで呼ばれてた、「二つ名」が真実の姿みたいになってきちゃってるよ……。


 やっぱ、オブリビオンって、なんか変よね。 


 か弱い・・・、女の子の筈なのにねぇ……。


 翌日、調査隊の一人として、着いて行く事に決まったのよ。






 ^^^^^^^^^





 洞穴は、村から八リーグ、北西に進んだ所にあったのよ。 近いわ! 村の人がガッチリと封印呪かけてたんだ。 まぁ、あそこまでやれば、中に何が居ても出て来れんよね。 ほんと、こっちの人って、なんでこんなに魔法が得意なんだろうね。 エルガンルース王国じゃ、宮廷魔術師並よ、ほんとに。 それが、村人「A」 だもんね……。




     やっぱ、魔族って半端ねぇよ。




 屈強な戦士さん達の間で、ちっちゃく成りながら、アレルア様と一緒に行ったのよ。 下手に刺激するといけないから、歩いてね。 道なき林の中は、木漏れ日でキラキラしてるし、あっちこっちに、薬草やら、果物やらが、生えてたり、茂ってたりしてる。 豊かな土地だねぇ…… 羨ましいよ。 村の人達が穏やかなのも、なんか納得できるよ。


 えっちら、おっちら、歩いて行って、丘の斜面にある洞穴の入り繰りに着いたんだ。 戦士の皆さんは、周囲の警戒をする。 そんで、中に入るは、アレルア様と、私の二人。





「辺境伯様が、自ら調査されるのですか?」


「あぁ、そうだね。 こういう事は、他人に任せたら、後悔するんだよ。 大事な人達が怪我でもしたら、一大事だからね」


「でも、御領主様で御座いましょ、アレルア様は。 御身が一番大事なのでは?」


「ん? いやいや、そうでは無いよ。 この領を任されている私は、この領で最も強いんだよ。 だから、危険が有ると判断された場合は、私自らが行くんだよ。 魔人族貴族としての、矜持さ。 権能を持つという事は、義務を課せられているという事なんだよ。 魔人族で爵位を戴いて居る者達は、皆、胸にその志を刻んでいる」


「……どっかの馬鹿に聴かせてやりたい……」


「ん、何か?」


「何でも御座いません。 素晴らしい志に御座いますね」


「あぁ、民の安寧を護るのは、領主の役目だからな」





 清々とした表情で、言ってのけられたよ。 もうね、ほんとにね、なんで、魔族の方が、人族より倫理観が高いのよ。 負けちゃってるよ……。 マジで……。 ほんと、私の中の価値観が、ガラガラ崩壊していくよね……。


 洞穴の入り口に入ると、物凄く薄暗かった。 二人して【灯火】 って、魔法を紡いだんだよ。 同時にね。 指先に、まあるい光の珠が出て、辺りを照らし出したんだ。 まぁ、きったねぇ~~~所だったよ。 顔を見合わせて、思わずプッと吹き出しちゃった。





「中は……文化的とは……言えませんね」


「たしかに……、ちょっと、臭いますね……」


「……腐った肉……か……」





 足元に気を付け乍ら、先に進むの。 どこもかしこも、ほんと酷いありさまね。 奥へ奥へと、足を進めるの。 分かれ道に差し掛かったら、魔力の薄い方を選んでね。 洞穴に入って二刻くらいたったんだよ。 かなり、奥深くまで来たんだけど……、 洞穴特有の生き物の姿が見られないんだよ……。不気味な沈黙がずっと続いているの。 そんで、ずっと臭い。





「野盗となり果てた者達が、洞穴の獣たちを全て喰いつくしたと……そう考えていいのだろう。 食べる物が無くなり、村を襲ったとね……。 それにしても……酷く、魔力が薄い」





 そうなんだよ、ほんと、魔力が薄くなってきてるんだよ。 ミッドガルドに比べたら、まだまだ濃いんだけどね。 でも、こんなんじゃ、魔族の人達は辛いだろうね……。 私は平気だけど。 


 ズンズン進んでいくと、小部屋に出たんだ。 きったねぇ小部屋でね……。 大きさは、そうね、神殿のお祈りする場所くらいかな。 中心部に、台座があって、その上に、平べったい、水晶で出来た楕円の円盤みたいなものが鎮座してたんだ。





 

        何だコレ?






 アレルア様が、それをマジマジと見詰めて、ポロリって感じで言葉を零されたたんだよ。





「やはりな…… ダンジョンコアの暴走か……」





 ほえ? ダンジョンコア? つう事は何かい? この水晶で出来た、楕円の円盤ってのが、ダンジョンコアなのかい? 初めて見たよ……。





「しかし、これは……、 かなり異常だ。 こんなに魔力を吸い込んでいる、ダンジョンコアなど、聞いた事が無い」





 目の前のダンジョンコアは、確かに周囲の魔力を吸い込んでいるのよね。 それも、かなりの勢いでね。 ここに、居た魔物達は、この小部屋に居なくても、ずっと体の中にある保留魔力を吸い取られてたって事になるんだよ。 つまりは、魔力濃度の薄い、ミッドガルドに住んでんのと同じね。


 ダンジョンコアの台座には、なんか文字が刻み込まれたレリーフが、嵌め込まれてたの。 えっと…… 汚れちゃってて、よく読めないね。 ダンジョンコアについて、アレルア様に聴いてみたんだよ。





      驚くべき、スンゴイ事実を教えて貰ったんだよ。 





 ダンジョンコアってね、二つで一組なんだって。 でね、役割が丸っと反対なんだって。 


 オブリビオンでは、野生の魔物が強い空間魔力を嫌って、洞穴の奥深くに潜り込んで、生きてるんだって。 つまり、入り口付近が強い魔物で、奥に行くほど弱っちく成るんだよ。それは、ダンジョンコアが、空間魔力をジンワリ吸って、もう一方のダンジョンコアに送ってるからなんだって。 


 私の良く知ってる、ミッドガルドのダンジョンは、ダンジョンコアの周辺の空間魔力が強くって、その周辺の魔物達が馬鹿みたいに強いんだよ。 知能っていうか、人族と同じ位の策略使って来るし、罠だって張って来るんだ。 オブリビオンから送られた魔力が、ミッドガルドのダンジョンコアの周辺に放出されてたんだって。 


 大協約絡みの、いにしえの技術なんだって。 この世界に、魔獣、魔物って、何処にだって、発生するんだ。 まぁ、子供も作るしね。 で、魔族の住んでる、オブリビオンでは、空間魔力が濃いから、魔獣でも、魔物でも、十分な魔力を浴びられるから、正気で居られるし、狩ったり、狩られたりするんだ。


 ミッドガルドでの空間魔力ってそんなに多くないから、問題なのよね。 希薄な魔力の中では、魔獣や魔物は精神に異常をきたすんだよ。 眼が回るって感じ? 極彩色の縦横ぐんにゃり歪んだようにしか見えない中に居ると、やっぱり、精神に来るんだよね。 ちょうど私が、濃い魔力の中に居て、「妖魔の目」を使わずにいる様なもんだよ。 


 そこで、大協約が絡むんだ。 人族と魔族の間に交わされる、相互不可侵条約。 人族と、魔族が平穏に暮らす為に、相互の世界の状況に弱い者達を護る為の装置だったんだよ。 作ったのは両方の世界の高位魔術師及び、錬金術師なんだって。 今じゃロストテクノロジーに成ってるらしいんだけどね。


 其々の世界において、その世界の異物である者達を集め保管する為の装置なんだと。 ミッドガルドのダンジョンを知ってるから、何となくわかるんだ。 なんで、あんなものが有るんだろうって、疑問にも思ってたしね。 アレが無いと、そこらへんに狂った魔物や魔獣が跋扈して、人族の生活を脅かすんだ。 で、アレがそいつらを集めて、洞穴の奥深くの魔力溜まりに集めるようにしてあるんだ……。


 オブリビオンでも同じ事……。 余りにも多い空間魔力に酔った弱い魔物や魔獣が生きて行く為に、洞穴の奥深くに潜る……命を繋ぐためにね。 あの村人達は、運が悪かったんだよ。 まさか、自分達が避難場所として使用したのが、そんなダンジョンだったとは、気が付かなかったんだ。


 蝕まれた精神は、狂気を生み、やがて理性を失わせる。 出来上がったものは、ミッドガルドの荒野を彷徨う、はぐれモンスター。それと同じになってしまったって事なのよ……。


 アレルア様のお話を聴いて、何だか悲しくなって来たよ。 あの村人達……。 ホントに……運が無かったんだよ……。




 アレルア様、この話をしながらもじっくりとダンジョンコアを見分しててね、首をかしげてらしたの。





「あまりにも……吸入量が多すぎる。 これでは、洞穴入口で生活しても影響が出る。 何故だ? 今まで、このような事は無かったはず……」


「あの、アレルア様?」


「ん? 如何された?」


「このダンジョンコアの相手側は、何処に御座いますのでしょうか?」


「うん、ちょっと待ってくれ……。 有った……。 座標が此処に。 このレリーフにある」





 きったねぇ、レリーフに、座標が示されて居たんだけれど、これじゃぁ判らんよ。 これって、どのあたりになるんだろう? うーん、判らん。





「コレが大体の地図になりますよ」





 レリーフの側に、ミッドガルド全域の地図があって、その地図に星がついてたんだ。 ……何となくわかる。 古地図だから、今の国境を思い浮かべてみると……


 星がついてんのって…… アレじゃん! ほら、【処女宮(ヴァルゴ宮)】の御茶会で、外交官さん達が言ってた、ガングート帝国による、ダンジョン制圧が有った場所!!ダンジョンコア持ち去って、あの辺りが酷く荒れ果てたって……。


 アレかぁ…… いま、ガングート帝国は深刻な魔石不足だから、ダンジョンコアから、魔力を供給していると言われてるのよ。 つまりは、強制的に、あっちで吸い上げてるってことね。





 ……ろくな事しやがらねぇな……。






「わかりました。 これは捨て置けませんね」


「なにか、思い当たる節があるのだろうか?」


「はい……。 お恥ずかしい話なのですが、人族の一国が、大協約を無視しております。 ダンジョンコアを持ち去り、そこから発せられる魔力を使用している可能性が御座います。 ……強制的に吸い上げている……と言えば、お判りになるでしょう」


「なんと、無益な……。 世界のバランスが崩れ去るぞ、そんな事をすれば」


「はい……。 他の国々は、嫌悪感を抱いております。 が、彼方の国では、百年条約の更新も取りやめたとも……」


「無体な……。 百年という条約期間は、百年ごとに記憶を刷新する為。 世界のバランスを忘れぬようにと、大協約で決まった事……。 それを……」


「はい……。 しかし、その事については、今ここでは、どうにも出来ません。 出来る事をしなくては」


「うむ、そうだな」


「差し当たり、このダンジョンコアの稼働を止めなければ、被害が拡大するかもしれません。 稼働を止めなければ」


「しかし、ソフィア殿。 そうは言っても、このダンジョンコアは、大協約の誓約の元、稼働している。 停止するとなると、「証人官」権限で大協約に書き込まねばならない。 今直ぐと言う訳には……」


「「証人官」が居れば宜しいのですか?」


「その通りだ。 最低二人。 オブリビオン領域から一人と、ミッドガルド領域から一人。 オブリビオン領域の「証人官」は…… いるのだが…… かく言う私も、正規の「証人官」として、任じられているんですよ。 ですが…… ミッドガルドの「証人官」の当てが、全くありません」





 は……ははは……! 正規の「証人官」だってさ……。 このダンジョンコアの稼働を止める為に必要なんだとさ……。 まったく、なんの因果なのさ……。





 エルガンルースで学んで、鍛えて、そして任じられた物が、ここオブリビオンでは、全部、全部、必要とされているんだよ……。 エルガンルースでは、陽の目をあまり見なかった「モノ」がね。





 いいか……、




 言っちゃうか……、




 それで、お世話になった人達が助かるのなら……、




 大丈夫だよね。 アレルア様なら、きっと……、




 悪い様にはしない……。 





 そう信じよう。 うん。 信じるよ。





 さぁ、気合を入れて云うのよ、ソフィア。






 皆を助けるために。



 世界のバランスを護る為に。



 なにより、あの人が居るかもしれない、「世界」を護る為に。










「アレルア様、ミッドガルドの正規の「証人官」ならば、此処に居りますわ」







オブリビオンで、ソフィアは随分と「お仕事」しております。


それは、それは、生き生きと。 


人族の世界への道は、まだまだ、遠そうです。

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