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第108話 サブリン村の救いの手

 




 なんか私……。




 サブリン村の有名人になってたよ。 まぁ、やらかしたからね。 鋼線と菱玉。 そして、付与魔法と、理力。 全てが揃ったおかげで、あの固いオーガの表皮をあっさり抜く事が出来た。 それも単発で……。


 自分でも信じられなかったけど、その威力は、有難かったのよ。 あの野盗達は、間違い無く「この神殿・・・・」を目指してたんだしね。 改めて検証して、驚いたよ。 使い処を、間違えないようにしなきゃね。



 野盗の惨殺死体を、村に運んできた人たちの表情は、どことなく暗かったのよ。 襲撃される人達の、表情じゃ無かったのよね。 なんていうかな…… 友人を失くした人の表情ってのかな? なんか、悪い事したかもしれない。 


 手向けとして、並べられた死体に、祈りを捧げ、彼等の魂の安寧を祈ったのよ。 ソブリン村の人達も、頭を垂れて、同じように祈られていたわ。 まるで、仲間を弔うようにね……。





      ちょっと、理由が判らなかったの。




 それが判ったのは、フレイヤの御爺さん…… 村長のお話を聴けたからね。 あの野盗達は、何度も、このサブリン村を襲って来てたらしいの。 それは、フレイヤさんに聞いてたから、知ってた。 フレイヤさんのお爺ちゃんが、神殿にいらっしゃってね、とってもお礼を言われたんだ。 そん時に、深い事情と、これまでの被害(こと)を教えて貰ったんだ。



ーーーーーーー



 あの野盗が近くの洞穴に住み着いたのは、ニ、三年前。 元はどっかの村の村人だったんだってね。 その村が天災の被害にあって、喰うに困って、村を放棄した人なんだと。 最初は困ってた人を助けるつもりで、ご飯やら、モノやらを渡してたんだけど、住み着いた場所が悪かった。


 洞穴の中には魔力溜まりと逆の、魔力が極端に薄い場所が有ったんだ。 その近くに寄ると、村人の身体から魔力が吸い出されるんだって。 段々と、保留魔力量、曝露魔力量が減って来て、精神に変調をきたしてね……。 つまりは、狂って行ったって事なのよ。 


 ちょうど、ミッドガルドの魔物達の様にね。 段々と理性を失っていったみたいなのよ。 残念ながら、気が付いた時には、彼等を洞穴から出す事が出来なくなってしまって、さらに、あの人達が共食い初めて、強い個体が…… 生き残ったんだって。 あのリーダー格のオーガを筆頭に、十二人の人達が生き残ったって事ね。 




 その説明を聞いて、嫌な事思い出した。




 其れって、蟲毒と同じじゃないの?





 生き残った洞穴に住み着いた村人達は、完全に狂って行って、生存本能と生殖本能だけが残る様な状態だったんだって。 洞穴を深く掘り進み、砦の様に堅固に固めてね。 中心に有るのは、きっと、その魔力を吸うモノの様だと……そう、村長さんは仰ってたの。


 食べ物が無くなり、魔物の本能のみでの行動するから、近くのこのソブリン村を強襲するようになったんだって。 元は知り合いみたいなものだから、最初の頃は被害は大きくなかったんだってね。 でも、彼等を説得も出来ず、さりとて討伐してしまうには、同情心から……二の足を踏んでたんだって。 




 最初の頃に、領都にお願いした事も、あの人達(オーガ達)を保護して、治療してほしいって事だったんだって。




 でも……何度も襲われるうちに、だんだんと情も薄らいできて、何人ものソブリン村の人達が犠牲になると同時に、本格的に討伐を依頼しようって事になってたんだって。 その矢先に、村に伝染病が発生して、御領主様に連絡したんだって。


 本当なら、十分な戦力を用意して、討伐に当たる筈だったんだけど、結構な数の村人が、伝染病に罹っちゃってね……。 十分な戦力を用意することも出来ず、さりとて、御領主様にお願いに領都に行こうにも、村長が倒れちゃってるから、それも叶わず……。 先に伝染病の事を御領主様に伝える事になったんだって。



 御領主様の腰は軽くて、早速 「治療」 にみえられたんだけど、運悪く、その時、私がここに転移しちゃったもんだから、討伐の話をする前に、御領主さま、早々に帰られてしまったのよ……。




 そんな中で、あの人達(狂った十二人)が村を襲う準備に入ったのよ。 今回の彼等の目標は、私が今いる神殿。 村の大部分の収穫物とか、モノとかは、襲われても大丈夫な様に、この神殿に保管してたんだって。 それに、女性と子供達も避難先として、この神殿を指定してたんだって。 それを目指して、進攻を始めてたのよ。 


 従来、ソブリン村を襲ってくるのは、二、三人だったから、十分に対応出来たらしいね。 でも、今回は洞穴に残る全員が一斉に出て来たらしいの。 よっぽど喰い詰めたらしいのよね。 予防警戒線に十人以上の反応があって、それが一斉に神殿に向かっているのが判って……、 慌てたのよね。





「神殿にはソフィア様が居られて……、そこに あ奴等が来ると判って……。 肝が冷えましたぞ」


「それは…… ブエルガーノ様、すみませんでした」


「いやいや、なんの! 御領主様に、くれぐれもと、頼まれて居ったからの。 ……それにしても、精霊様が護って下さるとは!」





 うん、嘘ついた。 精霊様にお願いして撃退……というか、殲滅した事にした。 百手族(ヘカトンケイル族)のおっさんと、フレイヤには口止めした。 だって、これ以上変に崇められるの、嫌じゃん。 それでなくとも、”聖女”様とか、言われてるし……。





「精霊様への祈りのお陰で御座いましょう…… 今後も、一層の信心を御守り下さい」


「有り難い事です……」





 なんとか、誤魔化せたよ。 でも、その洞穴って……、 どうするんだろう? 封鎖かな? 調査かな? 





「あの洞穴は、封印致します。 御領主様にもご連絡致しました。 誰も入れない様に、結界を張ります。 ……領都からか……それとも、王都からか、専門家が調査に来られるまでは」


「左様に御座いますか。 被害が広がる様子は御座いませんか?」


「幸いな事に、まだその兆候は見られませぬ。 お気遣い有難く」


「いいえ、心配になったものですから……」





 まぁ、そうなるわよね。 封印して、様子見。 辺境ではいつも何かしら有るもの。 それはミッドガルドでも同じよ。 レーベンシュタイン領でも、細々とした問題は有ったものね。 さて、アレルア様が来られるまで、何してようかなぁ……。


 そうだ、良い事思いついた!! 村長さんに聞いてみよう!!





「あのブエルガーノ様、一つご提案が御座いますの」


「何で御座いましょうか?」


「御領主様が来られるまで、わたくしは 此方に御厄介になる様、申し伝えられました。 それならば、誰かに……薬草を良く知る方に、わたくしの知る、錬金術をお教えし、簡単では有りますが、有効なお薬を作る事が出来るようにされては如何でしょうか?」


「おおおおお!!! 何という申し出でしょうか!!! 聖女様、手づから錬金術をお教え願えるのですか!!! 薬師殿も来られぬような辺境で、薬は貴重品。 もし、我らが手で作り出せるとなれば、幸いに御座います」


「では、宜しいのですね」


「願っても無い事です!!」





 前のめりに成りながら、村長さんは許可してくださったのよ。 よかった……。






 ******************************






 差し当たり、手解きするのは、第一村人のノール君と、サンダラ君。 ノール君は、よく森での採取をしてるだけあって、薬草の知識はバッチリだったからね。 それに、二人とも、魔法もちょっとだけだけど、使えるしね。 魔力さえ練れれば、錬金術は使えるから。 銅級錬金士くらいなら大丈夫だよ。 うん。


 銅級っても、ちゃんとポーション作れるし、保存瓶だって作れちゃうから、問題無いよ。 彼等は一応文字も読めるから、一通りの手順を書いて渡してみた。





     結果、判った事。





 ノール君は、薬草の知識は物凄く有るんだけど、錬金士の素質はあんまり無かった。 下準備の【乾燥】と、【粉砕】は使えたけど、【調合】、【錬金】は無理だったみたい。 長い事やれば、そこそこには成ると思うけど、短時間じゃ覚えられないみたいなの。


 反対にサンダラ君は、薬草の知識はイマイチなんだ。 薬草と毒草、間違っちゃりするしね。 でも、手業の覚えは凄かった。 きちんと【調合】、【錬金】使えたからね。 それも、銀級クラスなのよ。 錬金魔方陣を手に描き出せたしね。 


 この村と言うか、辺境で必要なお薬の錬金魔方陣を出来るだけ思い出して、羊皮紙に描いたの。 風土病の特効薬とか、熱さましとか、喉の痛み止めとか、頭痛薬とかね。 あと、回復系のポーション類のも描いといたよ。


 何回か練習したら、出来るようになった。 材料は、ノール君が用意して、錬金はサンダラ君。 いいコンビね。 彼等は小さい時から一緒だったから、二人で一人って感じだったんだって。 良かったよ。





「ソフィアは、何処でこれを覚えたの?」


「学校でね、教えて貰ったの」


「学校って、字を覚えたり、計算の仕方を覚えたりする所?」


「そうよ、私が行ってた学校は、魔法も、錬金も、教えてくれる学校だったからね」


「ふ~~~ん、王都の学校みたいだね」


「村には……無いのね」


「うん、神殿で教えてくれるのは、字と数字と計算だよ? 魔法も錬金も、教えて無いよ」


「そうなのね。 ミッドガルドの人族の所でも同じよ。 御領主様によっては、そういう学校も作られているみたいなんだけど、王都にある学校が一番一杯教えてくれるわ」


「そっかぁ……人族も、魔族も変わんないね」


「そうね。 本当にそうね」





 素直な少年達の笑顔が眩しいよ。 だからさ、出来るだけ、教えてあげたかったんだ。 この力は、村の人の為になる。 絶対に人を不幸にする力じゃないと……思いたいよ。 だから、毒物の魔方陣は一切描かなかったんだ。 そんなモノ失くったって、ココの人達は強いから……。




 毒矢にはいい思い出は無いんだよ……。




 ちょっと、肩が疼いた気がしたんだ。 





 フレイヤさんにも、教えたんだよ。 サンダラ君程では無いけど、フレイヤさんも色々と出来るようになったんだ。 羊皮紙には、訓練の方法とかも書いておいたんだよ。 私がいつまでもここに居る事は無いから。 私が居なくなっても、彼等が独自で高みを目指せるように……。





 頑張って……、





 貴方達の手は、この地に安寧をもたらす手になる。





 きっとなるから。





 保証するよ。





 未来の薬師さん達!!







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