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第107話 「銀髪紅眼鬼姫」 降臨

 




 アレルア様は流石に、辺境伯を任じられているだけあって、お忙しいんだ。 村の病人たちが快癒したからには、此処にそう長く留まっては居られない。 まして、良く判らない私が居るんだ、何らかの処置をしないとならないらしい。





「ソフィア殿には、この神殿に暫く滞在して頂きたい。 貴女は、正規の方法で入国されたわけでは無い。厳密にいえば密入国されて居るのです。 辺境伯である私が、ある程度、身分保障は出来ますが、十分では無いのです」


「どうすれば良いのでしょうか?」


「貴女のお作りになった薬で、大勢の村人の命が助かりました。 また、精霊様の依代とご一緒に此方に来られた事を、報告いたしまして、特別滞在許可を頂きます。 このような辺境ゆえに、手続きに若干の時間が必要ですので、その間、此方に滞在して頂きたいのです」


「特別滞在許可とは?」


「本来の目的は、魔人王様との謁見を希望される、人族の方々に発行される許可証です。 主に百年条約以外の目的で、このオブリビオンに入られる方々に発行されます」


「なるほど、左様に御座いますか。 どうぞ、よろしくお願い申し上げます」





 その、「特別滞在許可証」とやらを、アレルア辺境伯は私の為に用意してくださるらしいんだ。 このまま、オブリビオンをウロウロすると、誰かに身元を問われるたびに、かなり面倒な事になるらしいんだよ。 まだ、アレルア様の領内で有れば、何とかなるけど、違う領に行けば、自然と不審者扱い……。 いや、密入国者扱いで、ヘタすれば投獄されるらしい。


 もう、牢屋はこりごりだよ……。


 ご依頼の通り、この神殿でアレルア様のお越しをお待ちするって事になったんだ。 もうさ、ここまで来たんなら、何から何まで、お世話になるつもり。 サブリン村の中なら、自由に動いても構わないって言われたしね。 楽しみでも有るんだよ。


 本来なら、アレルア様が居なくなったら、フレイヤさんはメイドの任を解かれて、お家に帰るんだけど、私がここに不慣れだから、一緒に居ててくださいって、アレルア様の有難いお言葉で、今も一緒に居るのよ。


 迷惑だったかなぁって思ってたんだよね。 だって、得体の知れない《半妖》の私だもんね。 不安に思ったから、聞いてみたのよ。 





「フレイヤさん、あなた、いいの? 色々とする事が有るのでは無いのですか?」


「聖女ソフィア様にお仕えできるのです。 まったく問題御座いません」


「えっ? だ、だから、聖女って…なんのことでしょうか?」


「村の者達を、救ってくださいました。 辺境のこの地の降臨された、聖女です」


「……あ、あの……それは……、 事情が……有ったのですが……。 オブリビオンに来たのも、偶然というか、その方法しか無かったというか……」


「精霊様のお導きで御座います。 この神殿に聖女様をお招き出来た事を、精霊様に感謝申し上げます」





 いきなり、私の前で跪拝の姿勢を取っちゃったよ、この人……。 あぁ……なんていうのかな、場違い? 罰当たり? そんな単語が私の頭の中をぐるぐるしてたんだ。 いきなり喰われるって事もなさそうだし、これは、私も祈った方がいいね。 ほんと、精霊神様に感謝だわ。





 ありがとうございます!! 私、まだ、生きてます!!!!





 フレイヤさんと、同じように跪拝してたら、彼女に驚かれ……そんで、顔を見合わせて、微笑み合ったよ。






 ******************************






 フレイヤさんの案内で、神殿の中を歩き回って、礼拝堂とか食堂とか、色んな施設があったんだ。 デカいよ、この神殿。 





「フレイヤさん、辺境の神殿と仰っておられましたが……」


「ええ、領都に有る神殿は、この神殿の何倍も大きく、荘厳です。 小さくて、侘しい神殿ですので、聖女様には、申し訳なく……」





 いやいやいや……何を言っているの? この神殿って、エルガンスース王国の一番デカい精霊教会くらい有るんだよ? マジですか? 本当ですか? 目を丸くして、彼女の説明に驚いて居たら、反対に疑問に思われたみたい。





「聖女様の暮らされていた場所では、精霊様への祈りの場を、どうお考えだったのでしょうか? 神聖な場所が小さくては、祈りは届かないのでは?」


「わたくしの生まれ育った場所では、神殿を心に持てと、教えられます。 大きな神殿を建てる事も祈りに通じますが、その事によって、純粋な祈りが金銭に置き換えられもするのです。 こちらでは、皆様の浄財でこの神殿をお建てになったのですか?」


「ええ。 浄財と云うより、奉仕、祈りの形としてですが。 石も土も、装飾品も、一切の対価を戴かず、形にします」


「……素晴らしい信仰心ですわ。 思いもよりませんでした」


「現魔人王様が、そう通達をお出しになられましたの。 心ある者ならば、不満を覚える事は無い筈であると。 民一同、納得致しました」


「そうでしたの……」





 これじゃぁ、教会とか聖職者が権力を持たない筈だよ。 南のガングート帝国とは、大違いだよ。 あそこは、祈りと云うより権力欲渦巻く、邪で、薄汚い場所だもん。 はぁ……人族より、魔族の方が純粋な信仰心持ってるって…… どういう事よ……。


 神殿内を歩き回りながら、そんな事を言ってたの。 突然、なんか慌ただしくなった。 大きな男の人達が、走り回ってる。 あぁ……百手族(ヘカトンケイル族)の人ね。





「奴等が出た!! 野盗共だ!!! こっちに向かってくる!!!






 ******************************





         警鐘は、突然に……だ。





 緊張が走ってる。 どうも、こっちにも、村を襲う無頼の輩が居るらしい。 そんで、狙いは、伝染病で弱っているサブリン村って事ね。 大体が魔物なんだよ。 普通なら問題なく、撃退出来るんだそうなんだけど、今は戦闘力の高い人達が病み上がり。


 相手も魔物の野盗でしょ? 結構ヤバイらしい。 フレイヤさん顔色失くしてた。 うーん、どうしよう。 なんか避難させたいらしいんだけど、何処が安全か、判断できないらしいのよ。 


 なんか、燃えて来た……。





「あの、その夜盗の人達の撃退って、殲滅して良いものなのでしょうか?」


「聖女ソフィア!! 何を仰ってるの? あいつ等は、唾棄すべき者達。 捕まれば、刑死に値するのです。 ですが、強い……。 ど、どこか、安全な場所は……」


「こちらに向かって来るとなると、まだ、村の方々と接触していないのですよね」





 ヘカトンケイルのおっちゃんが、頷く。 





「予防警戒線に引っかかった。 神殿の西、三リーグ程に、集団が居る」


「何名くらいですか?」


「種族ごちゃまぜで、十人ほどだが、どいつも強い」


「魔法を使う人は?」


「今の所、居ないと思う。 予防警戒線に引っかかったのに気付いて居ない」


「そうですか……」





 焦ってるって事は、大脅威なんだよね。 一人でも倒した方が、この村の人にとっては、良い事なんだよね。 ……どの程度、回復してるかなぁ……私。 鋼線は使えると思うんだけど……。 狙っても、いいよね。 三リーグだったら、さっき案内してもらったバルコニーから、見えるんじゃ無いかな……。



 視線が通るんだったら……、



 殺れるよね。





「時間も無いようですので、手短に。 フレイヤさん、バルコニーに行きましょう」


「バルコニー? でも、そんな所に行けば……」


「狙撃します。 十人程でしたら、対処できると思います。 行きましょう!」





 ほんと、ついさっき案内してもらってたから、道順も覚えてたよ。 フレイヤさんビックリしながらも、着いて来てくれた。 ヘカトンケイルのおっさんもね。 まだ、陽は落ちて無いから、明るいんだ。 階段を駆け上がり、五階くらいの場所にある、バルコニーに飛び出したんだ。


 端っこまで言って、腰壁の下に身を潜めて、来襲方向に意識を向けるの。 【探知】魔法を、絞って、前方五リーグに展開すると、全部で十二の敵意を持った輝点が見えた。 こっちに向かって、移動して来るね。 


 ずいぶんと輝点が大きいし、ハッキリしてる。 つまりは、悪意の塊って事よね。 うん、敵だ。 髪の毛の中に仕込んである、鋼線を引っ張り出す。 部屋着に着替えた時に、ちゃんと下着も付けたから、ガーターに縫い付けてある菱玉もちゃんとある。


 よし、行ける! 手早く、裾をまくり上げて、ガーターから、菱玉を引き抜く。 一人当たり、何発必要かな? 取り敢えず、一発、様子見するか。


 菱玉を鋼線に引っ掛けてクルクル回し始める。 


 狙いは、一番大きな輝点。 腰壁から、頭を出して、目標を確認。 視線は通ってるね。 魔力じゃ無くて、理力を込める。 魔方陣は何時もの爆裂系。 パワーが欲しいからね。





      よく狙って……、 





              投擲!! 





 菱玉は、狙い違わず、すっ飛んでった。 風の精霊様のお陰で、弾道も安定しているし、三リーグなら、十分射程内だ!





           当たった!!! 






 うん、大丈夫!!! 腕は落ちてない! 当たった菱玉、目標の頭部にめり込んだらしいの。 判ったのは、爆裂したから。 血液に反応して、爆裂する魔方陣だもの。 込めたのが魔力じゃ無くて、理力だから、効果も絶大。





 ……上半身吹き飛ばしてた……。





 一発で、この威力……。 やっぱ、理力は、半端ねぇ……。 そうとわかれば、残りの奴等のヘッドショットにかかるんだ。 こっちは擁壁の影に隠れてるから、奴等は、どっから飛んできてるのか判らん筈だしね。 目標は、【探知】で特定済み。 さて、やりますか!!!


 菱玉、十二発で、終わったよ。 一番酷いのは、一発胸に当たった奴。 体中がぶっ飛んでた。 ちょっと、指先に引っかかった時ね。 全部が処理出来て、振り返ると、茫然とその惨劇に目を丸くする、フレイヤさんと、ヘカトンケイルのおっさんが居た。





「い、今の出来事は……、アレルア=メジナスト辺境伯には……、な…内緒に……して下さい!」





 何処まで出来るか、自信が無かったし……。 まさか、こんなにアッサリ終わっちゃうなんて、思ってなかった。 野盗とは言え、ぶっ殺しちゃったんだし……。 でもさぁ……、 これなら暗殺者ギルドのお仕事の方が、何倍も難しいよねぇ……。


 ヘカトンケイルのおっさん、声を震わせながら呟いてたんだ。



「……し、信じられん。 オーガ族だぞ、あいつ等……」





 フレイヤさん、目を疑ってる。 遠目に見ても、惨殺死体を遠距離から製造した私と、その惨殺死体を交互に見て、声を震わせているよ……。





「……せ、聖女……さま…‥? な、何をされ…たの……ですか?」


「え、えっと……。 ご、護身術? みたいな……もの・・ですわよ」





 フレイヤさん、おおきく見開いた目に涙が浮かんできた。 大粒の涙が、綺麗な赤い瞳から、零れ落ちた。





「せ、聖女ソフィア!!!! あ、有難うございます!!!!!」





 咽び泣きながら、抱きついて来た、綺麗で暖かい彼女。 一体何があったんだ? ヘカトンケイルのおっさんも、何本もの腕で、眼を擦ってるよ……。






 ^^^^^^






 フレイヤさんの説明で……、事情が分かった。



 あの襲撃掛けようとしてた、オーガ族の野盗。 サブリン村に何度も来てたんだって。 毎回、撃退するのがやっとだったんだって。 何人もの村人が奴等の手に掛かって、儚くなってたんだって……。


 殴り合いの防衛では、力に勝るオーガ族に押し負ける事もしばしばあったんだって……。 領都に討伐依頼を掛けても、なかなか実現してなかったんだって……。






 なんか、また……、






         やらかしたね。






         どうしよう……。








次々と、身に着けた能力を発揮する、ソフィア。


理力の力は、彼女の魔法を底上げしております!

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