第104話 初日の微睡、次の日の……
気が付いた。
倒れてた。
起き上がって、周囲を見回した。
そこはアノ依代があった、広場と同じ位の広場だった。
周囲に樹々が、鬱蒼と茂っている。 転移できなかったのか? でも、【妖魔の目】も切れてる私の目から見ても、普通の森だった。 あぁ、そっか。 浄化されて、召喚者の魂の欠片も送還されて、満ち溢れてた魔力も霧散したのか……。
なら、ココはまだ、「黒き森」の最奥なのかなぁ?
ん? 何だコレ?
こんな葉っぱの樹……見た事ねぇよ……、 日本じゃ有るけどねぇ……。 ソテツだっけか? 会社の玄関に生えてたのと、似てるよ……。 でもさぁ……見た事ねぇよ……「黒き森」の中じゃ。
周りを伺うと、闇の精霊神様の眷属、三柱の精霊神様の依代である、磐座が、で~んと、鎮座ましましておりましたよ。 まぁ、私の理力ももう尽きていたのでしょうかね。 それとも時間切れ? 磐座は発光せずに黒曜石の艶やかな肌を晒して居ただけだったのよ。
と言う事は………、
やっほ~~~~!!!!!
黒き森を抜けられたよ。 早くミャーの元に行って、色々と行動しなきゃって、思ったのよ。 そこでね、思い出したの。 私、三柱の精霊神になんつったけ? 何処に転移してほしいって頼んだっけ?
ウリューネ陛下が仰ったんだよね…… 磐座の鎮座まします地については……。
” 極大転移魔方陣を使って、オブリビオンへ ”
ってね。 それを鵜呑みにして…… お願いしちゃったよね、私……。
《三柱の精霊神様が依代である磐座、この地においては禍事と見なされます。 よって、大転移魔法にて、はるかオブリビオンの闇の精霊神様を祀る神殿近くに転移されます事、伏して願奉らん》
って…… つまり、今、私が居る場所って…… えぇぇぇぇぇ! 魔人族が闊歩する、オブリビオンに居る訳なのぉぉぉぉ! 全身に震えが走ったよ。
慌てながら、サクっと自分の装備を確認。
鋼線と菱玉……。 有るけど、全弾合わせて、二百発。
その他の武器……無し。 黒の森に入る時に、取り上げられてた。
魔法の杖……無し。 あの拠点にホッポリ出して来たから。
魔力と理力……結構無理して色んな魔法使ったから、ほぼ枯渇状態……。
いま、全力で魔力回復回路が回ってる……けどね。
今の服装……、 エルフの見習い魔法使いが着る奴。見習い魔法使いのローブ。
簡素な貫頭衣と、下履き、丈の短いローブ(フード付き)。
薬品、薬草、ポーション……。 何にも持ってない……。
あ……ダメだ……。 戦闘力ねぇ……。 防御力も皆無だ…。 こりゃ、早々に拠点見つけないと、死ぬぞ?
洞穴? 魔物の巣だよね……。
神殿の近くに飛んだはずだから……。
って、相手は闇神官だぞ? 問答無用で攻撃されて、黒焦げ……。 それに、ココはオブリビオンだぞ? 低レベルの魔物なんざいやしねぇぞ?
さらに、魔人族なんかが出てきたら……、 瞬殺……。
ヤベーよ マジ ヤベーよ。
燦々と降り注ぐ陽光が、なんか現実感を失わして居るんだけどねぇ…… ショリショリ下生えを踏みしめて、魔物に会いません様にって祈りながら、身を隠せる場所をさがして、ちょこっとうろついたんだ。 まだ、魔力は回復してないけど、近距離周囲探索は出来るようになったから、周りを確認してみるんだ。
ほっ……。 敵性の勢力は居ないね。 まずは一安心。 ちょっと大きめの樹が見つかったから、両手両足を使って登ったのよ。 傷だらけに成りながらも、何とか樹上に移動出来た。
ふ~~~~。 ここで、出来るだけ体力を温存しよう。 ん? 何だコレ? 目の前に赤い果物がぶら下がっとるね……。 一応、調べてみた。 毒は検知されない……。 捥いで、よく見る。 なんか、美味しそうね。 何か食べないと……。 削り込まれた魔力じゃぁ【MP-HP変換】が使えるほど、残っちゃいないしね。
よし、女は度胸だ!! 三十路近くの女の根性だ!
一口齧り付いて、余りのおいしさに、我を忘れて貪り食ったよ! 旨いよ! これ、マジで!! そんで、梢の方には、まだまだ沢山、生ってるから、暫くは喰うに困らんよね! よっしゃ! 行けるかも!!
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オブリビオン領域。 燦々と降り注ぐ陽光。 【葉採月】の筈だもんね。 そりゃ、陽光も力を持ってるよ……。 樹の葉裏を抜けて来る光は気持ちよくってね。 果物も美味しいし……。 大分回復してきた。
よく考えたら、大転移魔法で、此処に来た時、精霊様だけでなく、私の魔力とか理力とかも使ってたらしいんだよね。 そうで無きゃ、魔力と理力の枯渇の理由が付かない。 あのデカい依代ごと、大転移したんだもん、有るもの全部使ったって感じだもんね。 腑に落ちた。
この樹上から、良く見えるんだよ、あの黒曜石の磐座。 あれと一緒に、来ちゃったんだよねぇ……。 あの重結界を抜ける為に……。 にしても、オブリビオンとはねぇ……。
樹の上に座って、ぼ~~~っと、黒曜石の磐座を見てたのよ。
半分眠ってた? そうね、そんな感じ。 どの位微睡んでいたのかなぁ……。 忍び寄る夜気に、目が覚めて来たんだ。 すっかり日は落ちて、木々の梢も夜の帳に溶け込んでね……。 辺りはすっかり夜の闇に沈んでた。
磐座の辺りも、もう、真っ暗。
魔力と理力はかなり回復してたんだよ。 眠ったからかな、いい感じだよ。 周囲を広範囲【探索】出来たんだ。 う~ん、何にも反応しない。 ずっと、平穏な感じだねぇ。 魔物達は、種族が違うと、殺し合ってるって、言われて居るんだけど、そんな気配、一つも無いんだ。
野生生物の捕食? みたいなモノばっかり。 害意とか悪意のある反応が無いんだよ。
おかしい……。 なんか、とっても変だ。 闇に眼が慣れるに従ってね、周囲の状況も判る様になったんだ。 磐座の向こう側に光が漏れてるんだ。 何だろう? 【探索】で見てみるたんだ。 神殿らしい。 はぁ……近いよ……。
でも……、 なんか、祈りを感じるんだよね。 捧げられる、大きな祈りをね。 いや、マジで。 魔物が祈り? 闇神官って、誰に? 精霊様? どの? 闇の精霊神様? いや、でも……、 まさかね……。 こっちの気配は出来るだけ消してと。
ぶら下がってる果物を、ちぎっては食べ、ちぎっては食べて、まんじりともせずに、その夜は樹上で過ごしたんだ。 周囲を監視しながらね。 月がとても素敵。 降り注ぐような星空の星座は、何時も見てたものと、ちょっと違うけど、まぁ、それは、違う領域だしね。
なんと、月の光を全身に浴びてたら、理力の溜まりが良いんだよ。 ほんと、マジびっくりだよ。 魔力だって順調に溜まってるし……。 半妖だからか? この身体……すげぇ~。
月が傾いて、お空に青みが差し始めたんだ。 夜の間中、ずっと神殿を監視してたんだけどねぇ……。 物騒な動きは無いんだよ。 敬虔な祈りが流れて来るんだ。 ブワッてね。 何かを懸命に祈ってた……。 なんか、判らんけどね……。
すっかり夜が明けた。 天空は抜ける様な青空。 お日様は、燦々と地平から昇って来たよ。 一日の始まりって感じだよ。 神殿から、いくつもの気配が出ていったんだ。 でも、変わらない祈りは続いている。 ……闇神官かなぁ。
何時までも、此処にいちゃ、ミャーの所に帰れないし、根性決めて降りたんだよ。 今なら、【隠形】使って脱出出来るかもしれないし、いくらオブリビオンってたって、ミッドガルドとの境界線のレテの大河には、人族領域から来る者達が上陸する地点だって有る筈だからね。 取り敢えず、そこを目指して行こう!
するする、樹を降りて、精霊様の磐座に旅の安全を祈ろうと思って……ね。 広場に向かったんだよ。
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磐座の前に跪拝して、精霊様達に祈りを捧げるの。 ボワンって、磐座が発光する。 まぁ、私はこれで、ココには戻らないつもりだから、精一杯お祈りを捧げるんだ。 言祝ぎもする。 出て来なくていいよ。 この祈りは、精霊様に捧げるものだ。
理力を含んだ私の声が、広場に広がる。
《そは磐座に神留坐す、闇の精霊神が眷属三柱の命以て、禊祓給ふ時に 生坐せる 祓戸の大精霊神等。諸々禍事罪穢を 祓へ給ひ 清め給ふと 申す事の由を、天津精霊神 地津精霊神 八百万精霊神等と共に 聞こし食せと 畏み畏みも奏上いたします》
磐座が強く発光するけど、精霊三神様、顕現はされなかった。 存分にお休みください。 お疲れでしょ? 遠くオブリビオンまで依代である磐座を転移されたんだから。 リリン様、ヒョウド様、トーワ様……。 本当に、本当に、有難うございました。
これからも、古の定めを護り、祈りを捧げます。 魂の回帰に御力と、加護を、お願い申し上げます。
頭を、撫でられた様な気がしたんだよ。 歓びの感情と共にね。
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「君……誰? それに、コレはなに? 聖堂の人? ……じゃ無いよね……」
突然、声を掛けられたんだ。 ビビった。 跪拝を解いて、振り返ると、そこにオークが居た。 デカい…… マジ! どう見ても、ジェネラルクラス……! ヤバイ…ヤバいよ!!
「言葉が喋れないの?」
い、いや、恐怖で言葉が出ないんだよ。 と言うか、なんでオークが、そんなに流暢に言葉喋ってんの? 私の知ってるオークは、こう、もっと……知能が低くて、片言で、”コロス”とか ”犯ス”とかしか喋んないじゃん!!
「ちょっと待ってて! おーい、サンダラ!! メジナスト様、呼んで来て!! お祈りが通じたかもしれないって!!」
オークの後ろに居た、これまたデカい蛇の魔物のゴーゴンが、それに応えて言ったんだよ。
「ノール何があったの? これ何?」
「わかんないけど、なんか神聖な物だよ。 光ってるし……。 それに、女の子も居る。 メジナスト様が祈って居られたろ? 精霊様がお応えしてくださったのかもしれないから! 早く!!」
「わ、判った!!! 急いで行って来る!!!」
恐怖に身体が固まったまま、目の前の魔物達の会話を聞いてたんだ。 今、なんつったの? 精霊様に祈ってるの? マジで? どうして? 魔物でしょ? 私……めちゃめちゃに犯されて、苗床になって、殺されるんじゃないの?
「怖く無いよ? 君から比べてら、こんな大きな身体だけど、オーク族の中じゃ、小さい方だからね。 それにしても、ちっさいなぁ……。 どっから来たの? 後ろの大きな岩、何で光ってるの? 昨日まで、そんなの無かったよね。 ねぇ… ねぇってば!!」
「……あ、貴方は……襲わないんですか?」
「誰を? 何の為に?」
「で、でも……貴方は……、オークでしょ?」
「そうだよ、僕は、オーク族のノール。 サブリン村のノール。 ブェーノを収穫するんで、来たんだよ。 あそこの、赤い奴ね。 甘くて、美味しいんだよ? 採ってこようか?」
オークのノールがそのデカい指で指差しのは、昨日私が寝てた樹。 ……マジか!! な、なんも言えねぇ……。 ど、どうしよう!! 甘い言葉で、洞窟とかに連れ込まれて、ヤラレチャウのか? いやいやいや、まてまて、そんなことしなくても、ココでこのまま…… デカいんだよ……。 恐ろしいんだよ……。 こんな魔物を間近で見た事なんて、初めてなんだよ!!!
「もう直ぐ、来るよ。 御領主様が。 ちょっと病人が出ちゃって、お願いして来てもらったんだよね。 魔人族の偉くて、優しい人なんだ♪ みんな頼りにしてるんだ♪」
あぁぁぁぁ……、死んだ。 私、死亡確定だ……。 高位魔人族に私一人で、どうしろって云うのよ。 攻撃魔法? 結構強い魔法放てるけど……。
「御領主様、神官様だから、お祈りで病気を打ち払ってくれるんだ! 凄いんだよ!!!」
あ、あかん! 高位の闇神官 だ……。 回復魔法を使える闇神官って、魔人王側近クラスだよ……。 至高騎士が束になって掛かって行く奴だ……。 魔法障壁だって、そこら辺のモノとはわけが違う筈……。
ダメだ~~~~~。
無理だ~~~~~。
いきなりの、死亡フラグだ~~~~。
オブリビオン生活 始めました。